2話
「あっ、舞桜。舞桜の料理、相変わらずおいしいね!」
モグモグと私の作った朝食を美味しそうに食べる昧。
昧はほんとうに美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるというものだ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
きちんと手を合わせてそう言った後、食器を台所に置きにいった。
「舞桜の寮って広いね。いいなぁ」
リビングに戻ってくるなりそんなことを言う。
「四人用の部屋だしね。正直一人だと持て余してるよ」
でも満足している。誰にも邪魔されないし、何よりも実家にいなくていいのだから。
「今更だけど一人で寮を使えてるのって...」
チラリ、と申し訳無さそうに目を合わせてくる。
「そう。そっちの理由」
昧の言いたいことを察したのでそう答える
「そっかぁ。大変…だね」
しゅん、と落ち込む昧。
「大丈夫、慣れてるから」
…そう、慣れてる。何も感じなくなるくらいには。
「そういえば、舞桜は春休み何してたの?」
露骨に話を変えてくる。まあ、私的にもそっちのほうが助かるからいいけど。
「特に何もしてないよ。そっちは?」
「私は仕事で忙しかったよ単位がギリギリでだったから…」
うぅ、と苦しむ昧。
単位ギリギリって…この学校偏差値30切ってるから普通にしてたら大丈夫だと思うんだけどなぁ。
とある意味驚いてしまう。
「そういえばっ!ねぇ舞桜、天狐ちゃんは?天狐ちゃん」
急に目をキラキラとさせて聞いてくる。
「さぁ。その辺にいると思うけど…」
キョロキョロと周りを見回すと見覚えのないコップが目にはいる。
「天狐?出てこないとご飯あげないよ?」
脅すようにそういうと
「きゅきゅ!?」
慌てるような声と共にボフン、と白い小さな煙を上げながらコップが九つの尻尾を持った小さな狐に化ける。
「わ~い!もふもふだ~!」
すぐさま昧が天狐を捕まえて撫でまわす。
天狐、かなり嫌そう…。
天狐は見た目通り九尾きゅうびと呼ばれる妖怪。
九尾とは簡単に説明すると人や物に化けて人を驚かすのが好きなちょっと迷惑な妖怪だ。
身長は肩に乗れるくらいだが、本来なら2,3mくらいはある。化けることでこの大きさになっている。
全身は白い毛で覆われていて尻尾の先だけ赤くなっている。
妖怪と聞いてそんなのいない。という人もいるだろう。
確かに昔はいないとされていた。
しかし、近年急激に「見えてしまう人」の増加、悪霊と呼ばれる害になる霊や妖怪の増加によって正式に認められたのだ。
ただ、分からないことが多く、今も研究が進められている途中だ。
そして、害をなすと分かればそれに対しての対策を立てなければならない。
そんな理由で設立されたのが除霊師という職業。
今や国際資格にもなっていて除霊法という法律に準ずるなら何をしてもいい。
言わば除霊師という名の何でも屋だ。
金さえ貰えば対象の調査、護衛、犯罪者の逮捕など何でもする。勿論、本来の目的である悪霊の除霊や妖怪の退治などもしっかりとやる。まあ、お金はしっかり貰うんだけどね…。
何故何でも屋の様な事をしているのかというと、悪霊が増えたと言ってもそんなに頻繁に除霊が必要なほど凶悪な霊が出現しないからだ。
もし頻繁に現れていたとしたらもっと早く今のように認知されていただろうし…。とにかく、そういう仕事がない時は何でも屋の様な事をして生計を立てているのだ。
それに、霊が出始めた頃に何を血迷ったのか自分の身を守れるようにと銃刀法が改正され、審査を通せば誰でも簡単に武装できてしまうようになってしまった今、犯罪の抑止力のもなっている。
そして、そんな除霊師を育成する学校の一つが私の通っている東京除霊師育成高校、通称除霊高だ。
「天狐、はい。油揚げ」
天狐に好物である油揚げを上げると「きゅきゅ~!!」と喜んで食べ始めた。
相変わらず見ているだけで癒されるほど可愛い。
「ねぇ昧、阿津斗は?」
天狐を撫でられなくなって少しがっかりしていた昧にそう聞く。
ちなみに阿津斗はもう一人の幼馴染み。
「ん~と、一人で行くって言ってたよ」
人差し指を顎に当てながら答える昧。
「そう。分かった」
昔はとても元気な男の子というイメージだったがある事件以降は無口であまり喋らなくなった。表情もあまりなく、周りからは「ロボット」なんて言われている。
阿津斗が変わった理由は分かってる。私のせいだ。私が…。
「舞桜?」
「えっ、あ、ごめん。考え事してた」
昧の言葉で意識が現実に戻る。
「考え事?暗い顔してた気がするけど…大丈夫?」
「本当、鋭いなぁ…」
小声でぼそり、と呟く私。
私が何と言ったのか分からず「?」と首を傾げる昧。
「何でもない。心配してくれてありがとう」
ふるふると首を横に振りながら言う。
「ならいいんだけど...」
心配そうに言う昧。
「昧は、優しいね」
悲しい笑みを浮かべる私に
「うんん!そんなことないよ!私なんかより舞桜の方がよっぽど優しいよ」
と励ましてくれる。
「私は…私は昧が思ってるほど綺麗な人間じゃないよ」
そう、この手は穢れてしまっている。心は凍り付いていて何も感じない。
人形である私は…。
「…ごめん。変なこと言った」
「大丈夫!誰にでも弱音を吐きたくなる時ってあるからね!」
笑顔でそう言ってくれる昧。
あぁ、本当に優しいなぁ。…でも、優しいだけじゃ誰も救えない。
だから、その役割は全て私が引き受ける。
痛いのも苦しいのも、傷つくのも傷つけるのも私一人でいい。
心を、生きる意味をくれた二人のためになら何者にもなる。何だってする。これまでのように、ずっと