24話
3年前、まだ小学校5年生の頃、昧は自分の力を制御できずに暴走したことがある。
その時は私が奥の手を使って何とか抑えたが今に思えばあれも呪いによって無理矢理暴走させられたのかもしれない。
私が人工島に着く頃には昧はほとんど獣の姿になっていた。
「ごめんね。何とか抑えようとしたんだけど…無理、みたい。また迷惑…かけちゃうね」
「待ってて、必ず助けるから」
「舞桜…私、怖いよ…助け—」
—ウォォォォォォッッッ!!
完全に獣になった昧の咆哮が夜の街に響き渡る。
満月に照らされる白銀の美しい毛、何でも引き裂きそうな鋭い爪、見られるだけで萎縮してしまう金色の瞳。大きさは10メートル以上はあるだろう。
ジェヴォーダンの獣、それが昧の正体。
ジェヴォーダンの獣がなんなのかを簡単に言えば昔フランスで100人以上もの人を殺した怪物の名前だ。
昧達の古川家にはどうやら遺伝としてジェヴォーダンの獣になれる力が継承され続けているらしい。
まぁ要は昧は狼男の女版だね。
そしてその力は月の満ち欠けによって決まる。月が満月に近いほど力が強まり、逆に新月に近づくほど弱くなる。
そして今日は満月。絶好調ってわけだ。
でも、私だってあの時とは違う。あれから嫌というほど経験を積んだ。
今の私なら奥の手なんて使わなくたって昧を助けられるはずだ。
グルルル、と唸りながら私を睨みつける昧。
威嚇のつもりなのだろう。
「痛いだろうけどごめんね…?」
そう謝って一気に昧の懐へと、潜り込み掌底を入れる。
ドムッッ!!と鈍い音がするがあまり手応えがない。
昧もグァウ!と嫌そうに唸るだけ。
それもそうだろう。こんな巨体相手にただの掌底が効くわけがない。
巨体に似合わないスピードで身体の下にいる私を押し潰そうとしてくる。
急いで離れて回避するが、どうやら今の一撃で私を完全に敵として認識したようだ。
ヒュッ!と、迫りくる昧の前足。
3年前よりもずっと速くて鋭い一撃。
既の所で避けられた。
バカンっ!!と大きな音を立てて地面のコンクリートが割れた。
こんな攻撃一撃を貰えば確実に死ぬ。
…あぁもう、何で私ちょっとだけ楽しい、なんて思ってるのよ。今は昧を助けないとなのに…。
戦闘狂である自分自身に嫌気がさす。
いくら大きくともただの狼。人間ほどの高い知能はないため力に身を任せた攻撃ばかりをしてくる。単調な攻撃ほど避けやすいものはないね。
大振りの一撃に合わせて昧の身体にしがみつく。




