10話
眛がいなくなってしばらくした後、私は汗を流すためにお風呂に入る。
…あの天宮とかいう男子生徒に蹴られた腕が内出血を起こしていた。
まぁこのぐらいなら明日か明後日には治っているだろう。
私は昔から傷の治りが普通の人の何倍も早い。
理由は分からないが体質のようなものだろう…多分。
「大人達からしたら楽に使い潰せて都合がいいんだろうけどさ…」
はぁ、と溜め息を吐きながらそんな事を呟いてしまう。
天宮か…何処かで聞いたことがあるような…ないような…。
う〜ん上手く思い出せないや。
思い出せないってことはそこまで重要なことではないってことだろうしいいか。
取り敢えずは阿津斗に色々調べてもらおうかな?
そう思い立ち、お風呂から出る。
何着も持ち合わせている制服に着替えて髪を乾かしながら阿津斗に電話をかける。
「…どうした?」
「えっと、今平気?調べ物してほしいんだけど…」
「…あぁ、平気だ」
淡々と答える阿津斗。
「あ、お金は五千円くらいでいい?」
一応依頼という形になる以上は報酬が必要だ。たとえ仲の良い相手であっても。
それが除霊師としてのマナーのようなものだ。
「二千円でいい。たいした手間でもないしな。それより、何を調べればいい?」
「2つあるんだけど、1つは天宮漣っていう生徒のことなんだけど…」
「分かった。3分ほどくれ」
そういうと電話の奥でカタカタとパソコンか何かのキーボードを打つ音が聞こえる。
丁度3分たったぐらいで
「簡単にだが調べられたことを言うぞ」
「うん、お願い」
…相変わらず仕事が早いなぁ
と感心してしまう。
「天宮漣。今日アメリカの方から転校してきたらしい。普段から色々な所を転々としているみたいだが目的は分からん。
性格としては正義感が強くてお人好しみたいだな。霊だろうが妖怪だろうが助けてるらしい。
得意な戦闘方法としては近接戦闘で動きが全く見えないらしい。
ランクはS、信用も信頼も高い聖人という印象だな」
なるほどね…私が感じた印象通りの奴か。
それにランクS。納得の強さだ。
ちなみにランクというのは除霊師につけられた格付けのようなもので上からS、A、B、C、D、Eと全部で6段階ある。
ランクによって受けられる依頼なども限られ、これは弱い人が危険な依頼を受けて死亡してしまうことを防ぐ目的や、人間の承認欲求に基づいて個人の技術向上を目的としているらしい。
何がどうであれ依頼のためなら何だってする私とは相性が悪い人間だ。
実力もあるし一応邪魔されないように警戒だけはしておこう。
「もう少し時間を貰えれば詳しく調べておくが…」
「うんん、大丈夫それだけ分かれば十分だから。ありがと」
と阿津斗にお礼を言う。
「それで、もう一つの調べものはなんだ?」
「えっと、もう一つは最近この辺りであった霊絡みの事件について色々調べてほしいの」
「別に詳しくは言わなくていいが理由は?」
何故そんな事を調べて欲しいのかという理由を聞いてくる。
「今日、術を使う霊に会ったの。でも、全く強くなかった」
術は霊力を使うことで発動させられる。
しかし霊力は文字の通り霊の力。霊にとっては命そのものなのだ。
そんな命を削るような行為を気軽に行うなどありえないのだ。
生前に術を使っていた人…除霊師などは使い慣れていることもあり霊力をあまり使わずに使えたり、強い霊は霊力が高いためある程度使ったりするのだが、今回の相手はそのどちらにも当てはまらない。
「…誰かが霊に霊力を与えている可能性がある。ということか」
「そう。だから周辺の事件について、特に術を使った様子のある霊について調べて欲しいの…あ、お金増やしたほうがいいよね?」
「…いやいい。自分が言ったことだ。今更取り消さないさ。取り敢えず色々調べておく。電話、切るぞ」
「うん。お願いね」
そう言って電話を切る。