1-2 SNSでの出会い
1ヶ月前。
佐伯美咲(25歳)は、薄暗いアパートの一室でスマホの画面を見つめていた。
SNSの「死にたい」コミュニティで、彼女は匿名アカウント「黒い月」として投稿していた。
もう、生きていても意味がない…。
美咲はアパレル業界で働くが、元カノに裏切られ、職場で孤立していた。
元カノは取引先の重役で、別れ際に匿名で「美咲はレズビアンを使って枕営業してる」と偽情報を流した。
美咲がデザインした服のプレゼンの日、同僚が囁く声が耳に刺さる。
「あの人、枕営業で仕事取ってるらしいよ。」
上司の冷たい視線、会議での無視。信頼していた同僚が距離を置き、SNSでも匿名の中傷が止まらない。私がマイノリティだから? 社会がこんなにも冷たいなんて…。
彼女はもう、耐えきれなかった。
一方、藤井遥(17歳)は学校の美術室で涙をこぼしていた。
彼女もまた、SNSで「黒い月」にメッセージを送っていた。誰も私の味方じゃない…。
遥は好きな女の子に告白したが、それが原因でクラスメイトに「レズ」と晒された。
SNSで「藤井遥、キモいレズビアン」と拡散され、机には「死ね」と落書き。昼休み、教室の隅で一人弁当を食べる遥を、クラスメイトが指差して笑う。「あんな子、いるだけで気持ち悪い。」家族にもカミングアウトできず、家でも孤立感が募る。
学校も家も、私には居場所がない…。 絶望の中、彼女は美咲の投稿を見つける。
「一緒に死にませんか?」
遥の指が震えながら、メッセージを打つ。
「私も、死にたいです。一緒に…いいですか?」
美咲はそのメッセージに息を呑む。
こんな若い子が…私と同じ傷を…。 彼女は返信する。
「ありがとう。あなたとなら、怖くないかもしれない。」
2人はメッセージを重ね、互いの絶望を共有する。
美咲は遥の純粋さに心を動かされる。
遥は美咲の言葉に安堵する。美咲さん、私を見てくれる…。
そして2人は渋谷のスクランブル交差点近くの喫茶店で会う約束をする。
待ち合わせの日、美咲は黒のレザージャケットに長い黒髪をなびかせ、遥はパステルピンクのセーターに緊張した笑顔で現れる。
スクランブル交差点の人混みの中、2人は互いを見つけ出す。
美咲のシャープな目元が遥を捉え、遥の大きな瞳が美咲を見つめる。
「美咲さん…ですよね?」
遥の声は小さく、緊張で震えている。
美咲は遥の純粋な瞳を見て、胸が締め付けられる。こんな子が、死にたいなんて…。
彼女は微笑み、遥の手をそっと握る。
「遥、来てくれてありがとう。やっと会えた。」
遥の頬が赤らむ。
美咲さん、こんな綺麗な人なのに…
私と同じ傷を抱えてる。