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相模坂通り_廃研究所より


天候:くもり



「自業自得って分かってても嫌なものは嫌だよね?」

「どうしたの、急に」

あれが例の研究所、と指差した直後、星名は唐突にそんなことを呟いた。何を言っているのか分からず、僕は咄嗟に無難な回答を返してしまう。そういった思想か何かだろうか。星名はそれに回答することなく、「あ、あの建物ドーム付いてる!かっこいいー!」と走っていく。

「置いていかないで」

僕はそう言って着いていく。

天気は気分が大分沈みそうな曇天だった。朝は晴れていたはず。どうして急に、と僅かに不穏な気配を感じとる。いや、不世出こもり。天候で運勢が決まることはない。そもそも、運勢とは確率なのだから。確率が天候に左右されるなんて馬鹿げた話である。建物に近づくにつれ、僕は違和感を感じとる。建物が古い気がする。いや、古いと言うより掃除がされていないと言った方が良いだろうか。まぁ、自分も研究しているときはそれに夢中になって掃除なんてまるでしないので気持ちは分かるのだが。入り口はガラス張りになっているが、自動ドアはまるで反応せず、中のエントランスにも碌に物が置いていない。まるでもう人がいないかのようだ。

「あれ?反応しない」

自動ドアの前に立ち、手動なのかなと声を上げてこじ開けようとする星名を押し留め、僕は壁に取り付けられたインターホンを見た。黒色のオーソドックスなタイプのインターホンには、小さな蜘蛛が巣を作っていた。カチッ、という手応えで、僕の違和感は確信に変わる。普通ならば小さくチャイム音が聞こえたりライトが点灯するが、それらが全くない。どうやら電気が通っていないようである。

「あ!ねぇ見てみてこもりくん!絶対人いないよ!ここ」

星名はそう声を上げて中を指差す。僕がそちらに目をやると、エントランスの隅には狸が丸くなって寝転がっていた。随分リラックスしている様子だ。ああ。たしかにこれは無人だろう。

「星名。その扉こじ開けて良いよ」

「分かったー!」

星名が数歩ほど後退するのを横目に、僕は入り口の脇に回る。花壇があった。だがそこにも花は一輪も咲いておらず、枯れ葉が吹き溜まっているだけだった。もしかして、既に無人になってしまったのか?

【バリンッ!!】

大きな音が耳を刺す。驚いて入口の方を見ると、自動ドアのガラスが無惨にも粉々になっていた。破片の広がりようを見るに、無理やり外されて倒れた際に割れたのではなく、打撃を受けて粉々になったようだ。……ガラスを一撃でバラバラにする打撃?

「な、なにしてるの」

「何って、こじ開けただけだけど…」

ドアの前に立っていた星名は不思議なことを聞かれたかのように首を傾げた。

「…………」

そういえば、昔もこういうところあったな…と思いながら、僕はとりあえず有難うと伝える。中に入ると、玄関ホールの上のシャンデリアがまず目に入った。大量のガラスの装飾がぶら下がっている、高そうなデザインだ。エントランスの受付らしき長いテーブルの裏を覗き込むと、そこには何もない。やはり無人になってしまっているようだ。理由は不明だが。

「よっ!」

と声を上げ、星名が身軽にテーブルを飛び越える。…僕たちの胸ほどの高さがあるのだが。彼女はそのままテーブルの引き出しなどに指をかけ、そのまま開ける。

「っくしゅ!」

と勢いよくくしゃみをする。

「こ、こもりくん、これ埃やばい」

「…だろうね」

僕はホールの奥を見る。窓から光が差し込んでいるため真っ暗ということはないが、照明のついていないホールは薄暗く、やや不気味と言えるであろう空気を放っている。心なしか、外よりも空気が冷たく感じる。

「人はいないみたいだけど、中を見て行ってもいい」

「勿論いいよ!というかそのために来たんだし」

そう言って星名はグッドサインをしてみせる。

「でも、なんで人いないの?ここで合ってるよね?」

「…研究所ごと移転したのかもしれない」

そんなことがあるとは思えないが。僕はホールの壁に設置されたマップらしきものに近づいた。埃が積もっていて文字が読めない。だが指を使って擦るのも面倒だな。メイスを召喚し、魔法を唱える。

『Infini』

途端、ハンカチ程度の大きさの白い布が空中に生成される。僕はそれを掴んだ。

「な、なにそれなにそれ!凄い!魔法?」

星名の声に頷いておきながら、布を使って埃を拭き取る。

「……」

それはやはりこの研究所のマップだった。幾つか研究室があるようだが、大きい主要的なものは2つと言ったところだろうか。全ての部屋をくまなく探していては時間がかかりそうだ。『研究室A』と『研究室B』。まぁ、僕のことが残っているわけがないだろうが。

「とりあえず…」

そういって星名の方を見ると、彼女は既に消えており、数メートル離れた部屋の隅で壁に向かって何かをしている。

「…星名」

「おりゃっ!」

星名がそう言って素早く手を伸ばす。すると彼女の足の間を通って狸が走り出し、ホールの奥へとトコトコ走って行った。「ああ〜」と声を上げ、星名が残念そうに手を伸ばす。

「星名、取り敢えずホールの奥にある研究室Bに行くから」

「あ、うん!わかった!」

「あと、狸は雑菌とかを持ってるかもしれないから触らない方がいい」

僕はそう言い、ホールの奥へと歩き出す。星名はトコトコと足音を立てて僕に追いつく。

「そういえば、なんでこの研究所の人はこもりくんの記憶のデータを持って行っちゃったの?」

「理由は分からない。けど、僕のことを雇っていた人は『都合が悪いから』と言っていた」

「つごうー?」

星名はまるで何を言っているのか分からないらしかった。

「もしかしたらこもりくんも私と仲間ってことかな!」

「…まぁ」

僕は『研究室B』と書かれた扉を押し開ける。意外にも中は明るかった。照明が付いているわけではない。大きな部屋の天井はドーム型になっており、その全てがガラス張りだったのである。採光用だろうか?研究をするときは随分と気が散りそうだな、と思いながら、僕は足を踏み入れた。

「全然標本とか置いてないね。本当に何もなくなっちゃったのかなぁ」

星名もそんなことを言いながら天井を仰ぐようにして見上げる。ほとんど残っていない机や棚を探っていくが、やはり何も入っていないようだった。完全に廃屋となっている。何故だろうか。住所は先ほど確認したものであっているはず。なら、僕が住所を知らされてからの数ヶ月間で研究所を放棄したということだろうか?

「なにかお金とかあるかな!?」

「…いや、ないんじゃないかな」

僕は顔を上げる。

「研究資料やそれ以外の備品も完全に持っていったのに、金銭を残していくことはないと思う」

「えー!」

「というか、星名お金欲しいの」

「うん!給料有明海苔だから!」

給料ありあけのり。ありあけのり、というのはあの有明海苔だろうか?有明海の有明海苔?

僕は考えることをやめた。

引き出しや戸棚を2人で端から全て開けていくが、結局何かが出てくるわけでもなくかち合ってしまった。ふむ。ここまで何もないなら、他の部屋を探索してみても大した意味はないかもしれない。

「ねぇねぇ、こもりくんってなんでGOG辞めたの?」

星名がそう問いかけてくる。

「…どうして?」

「私が誘ったときは『研究があるから』って秒で断ったのになって」

「それに関しては、他にも適した言い方があったとは思ってるけど」

僕は記憶を辿る。

「まぁ、僕の存在がGOGの中で損な方になってしまったらしいから。いつ処分されるか分からないよ、って教えられて」

だから逃げてきた、と続けると、意外にも星名は瞳を輝かせた。同類を見つけられて嬉しいのだろうか?いや、そんなことは

「同類だ…!」

まぁそれでいいか。

「他村舞に逃げた方が良いと言われた。星名、知ってる?」

「知ってるよ!私の様子観察とかやってた人だよね!たしか他村舞って字、何かの資料で見た気がするし」

「GOGにもまともな奴はいるということかな」

「まともかは微妙だろうけど…」

まぁこもりくんが元気にここに居てくれて良かったよ!と星名は笑う。本当にそんなことを思っているのだろうか、と疑問を覚えてからそれを振り払う。失礼だろう、不世出こもり。

「……じゃあ、研究室Aも見て帰ろう」

「おっけー!」


終わったら映画にでも行ってみようか、といつ考えが小さく脳をよぎった。

星名は映画とか行ったことあるのだろうか。…なさそう。


こうやって書いてると自分の文章力のなさを実感しますね

カラオケ行きたいなああああああ

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