雨谷通り24.1番地_店内
今回は戦闘ありません
ひたすら駄弁っているだけです。
天候:雨
へぐしゅっ!というくしゃみが星名から出た。雨に打たれていたので当然だろう。数分前まで雨に打たれながらかっこつけていた自分を平手打ちしてあげたい気分である。結局星名ともう1人の人物は近くのカフェに駆け込み、親切な店員からタオルを貸してもらい、結果的に今は席でくつろいでいる。
「風邪ひいたの?」
正面に座った人物が首を傾げる。星名は「多分大丈夫」と答えながらその人物の方を見る。
不世出こもり。それが「彼」の名前である。星名の唯一の幼い頃からの友人。年齢不詳の謎の蝙蝠。蝙蝠とか言っておいて姿は人なので紛らわしい。やや童顔な星名と比べても幼く見える顔立ちに、モデルでもできそうな白くてシミひとつない肌。2段にカットした長い黒髪も艶々としている。二重瞼の大きな瞳に長いまつ毛。彼を見て最初に男性だとわかる人物は、おそらく1人もいないだろう。
昔の星名ですら作り物みたいに綺麗な人物だと思っていたのだが、やはり改めて見ても顔面の破壊力がとんでもない。背丈は星名とあまり変わらないのに、この差はなんなのだろうか。
「というか、こもり君はなんであんな所に…?研究は?」
星名が問いかけると、こもりは眉を僅かに顰めた。
「研究したくて堪らないけど、研究費用が無くなった。だから、なんでもいいから稼がないといけなくて」
なるほど、それで頼まれたとかなんとか言っていたのか、と星名は納得する。
「S7は、最近どうなの」
「うーん…まぁ、普通に就職して働いてるよ。あ、あと今は星名って名乗ってるよ!」
「ほしな。ふーん。じゃあそう呼ぶ」
と心底興味なさそうに反応される。そっちから聞いておいて、と思ったが昔からこんな感じだったな、と記憶が蘇る。だからこそ友人になれたし、他の人より喋りやすかったのだ。逆に興味津々に聞かれたら気味が悪いくらいである。
ふと窓の方を見てみると、沢山の雨粒が競うように表面を流れていくのが見える。その先では傘を刺した人々が歩いている。かなり雨足が強い。恐らくしばらくは店を出ることができないだろう。何か頼もうかな、とメニューを取り出す。
「あ、こもり君は何か食べる?」
こもりは呆然と窓の外を眺めていたが、その言葉に視線を戻して「パンケーキ食べたい」とだけ言った。
「おっけー。えーっと……あ、パンケーキといっても色々あるみたいだよ」
「…じゃあ、1番安いやつ」
そういえば金欠なんだっけ、とその言葉で思い出す。といっても星名も所持金に余裕があるわけではないのだ。結局同じものを頼むことにする。すみません、と店員に声をかけ、パンケーキお願いします、あ、メイプルシロップで、と星名が頼んでいる間も、こもりは呆然と窓の外を見ていた。いや、正確には思いついた研究だか問題の解き方だかを頭の中で動かしまくっているのだろう。まぁ、無理に会話をする必要もない。星名もスマートフォンを取り出してSNSを見ることにした。
「ほしな」
「はい!?」
突然に声をかけられ思わず声が裏返る。
「性格変わった?」
「…そ、そうかな…?」
星名が首を傾げると、こもりも真似をするかのように首を傾げてみせた。
「昔は、目が座ってたけど、今はウロウロしてるから。それに上機嫌だし」
「ウロウロって…」
そんなに挙動不審かな、と星名は苦笑いする。そもそも昔も常に不機嫌な女だったつもりはないのだが。なんだと思われてるんだろうな…と思った矢先、お待たせしました、パンケーキおふたつになりまーす、と店員さんが愛想良くやってくる。
「………」
自分の前に置かれた5段式のパンケーキを前に、こもりは無表情でナイフとフォークを持ったまま固まってしまった。
「え…っと、こもりくん、ナイフとフォークでパンケーキ食べたことない…?」
まさかそんなわけあるまいと思いつつ、星名は恐る恐る問いかけた。
「……うん。今まで、研究所に箸しかなくて。それに、重なってなかった」
「ま、まじですか…」
フォークでパンケーキを押さえて、こう切ってこう食べるといいよ、と星名はこもりに教えた。というかパンケーキ箸で食べるってどうやるのだろうか?こもりは一度覚えると上手くできるのか、今日にパンケーキを切って口に運んでいる。
「なんだかこもりくんって、頭いいけど幼いんだね」
ふふっと星名が笑うと、こもりは珍しく眉を顰め、「そんなことない」と反論した。随分ほのぼのした光景である。数分前に血みどろの戦いをしてきた後にこんなことをしていると改めて考えると、どう考えても脳みそとち狂ってるのだが。
「というか、ほしな、ここにいて大丈夫なの」
「え?」
「追いかけ回されたりしないの」
「あ〜…いや、最初は追いかけ回されたよ?でももう結構経ってるし、ほとんど気にされてないというか…」
「………」
こもりは真剣な表情をした。いや、真剣な表情といっても無表情なので何が違うのかまるで分からないのだが。見分けられるのは世界で星名くらいである。
「まだ、諦めてないみたいだから。今どうやって逃げ延びているのか知らないけど、気をつけた方がいい」
「まじ…?気をつけますっ!」
と星名は冗談っぽく言った。こもりはそれに反応せずにパンケーキを食べている。すごいマイペースである。若干拍子抜けしながらも、まぁすぐに慣れるんだろうな、と星名は思う。
「…ということはこもり君、無職なの?」
「……たしかにそうだけど。言い方……」
「あ、ごめんごめん。でも…」
でも…で硬直してしまった星名にこもりは「なに?」と不審気に問いかける。
「いや、こもり君にはあの職場は合わないかなって…」
「なんの話をしているの」
「あ、いや、私が働いているところにこもり君を勧誘しようかなって思ったんだけど……」
「…世の中の企業ってそんなシステムなの。というか、どんな職場なの」
「えっと…」
星名は考えてみるが、そういえば政府公認の秘密結社なんだから何も言えないのでは…!?と思い立ち、出てきた答えは
「ひ…秘密?」
であった。
「はぁ」
マイペースなこもりも流石に着いて行けず、何もわかっていないまま声をこぼした。はぁ、うん、秘密ね。わかった。と適当に相槌を打つ。内心「(昔のS7ってこんな知能だったっけ…?)」と思っているが、それを顔に出すことはしない。ポーカーフェイスのままパンケーキにナイフを入れた。
「…でも、働いてるならほしなはなんで平日昼に街をほっつき歩いてるの」
「あ、えーっと…」
「クビ?」
「休暇!休暇だから!」
僅かに眉を顰めたこもりの言葉に慌てて被せるように訂正する。こもりは「冗談」とぼそっと言ってパンケーキの大きめのかけらを一口で頬張る。
「だから暫く暇で……あ」
いいこと思いついた、とでも言うかのように星名が瞳を輝かせた。瞬間、こもりの胸をよぎる嫌な予感。なぜかこの少女は数年前より知能が下がっているように見える。おかしな提案をしてきそうで少し怖い。
「こもりくんも暇だよね?私のんびり旅しようと思ってるからさ、一緒に行かない?」
その言葉にこもりは不思議そうに首を傾げる。
「なんで僕を連れて行くの」
「え?だって楽しそうだもんね」
「…………」
この目の絵の少女は本当に自分が知る人物なのか?とこもりは思う。豹変しすぎではないだろうか?良くも悪くも。昔の方が合理的な人間だったはずである。自分が発する全ての言葉に定型文を返してくるから少し気味悪さすらあったが。
「…………」
あ、だめ…?と若干不安そうな顔をする星名の前で、こもりは静かに考える。
「…わかった」
ため息をついたのかただ単に呼吸をしたのか絶妙にわからない塩梅でこもりは息を吐いた。よっしゃー!と喜ぶ星名を前に「(口も悪くなったな…)」
と失礼なことを考える。
「そうと決まったら行き先決めなきゃだね。海?あ、山?やっぱり海かな」
「極端すぎない」
もっと観光地とか、他にも色々あるでしょ。そんな会話をしている横で、いつのまにか雨が上がり、黒い雲が開けて青空が見え始めていた。
終わりです。
そういえばこもりはZEROで使ってたキャラなので、今度キャラシを元に情報載せます