最終回 最後の出席者?
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旧校舎の奥、かつて封鎖された特別教室。
叶と美空が見つけたその場所には、机が36脚、整然と並んでいた。
けれど、そのうちの一つだけにだけ、赤い“×”印が描かれていた。
「ここ、、何の部屋なんだろ」
美空が呟くと、どこからともなく、冷たい風が吹いた。
ペラッ、、ペラッ、、
黒板の上に吊るされた古い出席名簿が、ページを勝手にめくる。
そこに記されていたのは、全て“転校生”の記録だった。
「、、全部、名前が、、天河 陽、、」
美空の声が震える。
叶は名簿の最後のページをめくった。
「出席予定:天河 陽」
「転校予定:加賀谷 遼」
「えっ、、遼って、、」
叶の視界が一瞬、霞んだ。
なぜかその名前に、強烈な既視感があった。
誰かを知っていた気がするのに、どうしても思い出せない。
と、その時。
黒板に「カチッ」と音を立てて、スライドが映し出された。
古びた映写機が勝手に動き出したのだ。
映像に映っていたのは、一人の生徒が教室の机で笑っている姿。
何の変哲もない、日常の一幕、のはずだった。
だが、生徒の顔が徐々に、別のものに上書きされていく。
目が抜け落ち、肌が剥がれ、顔が[誰か]に書き換えられていく。
「これ、、加賀谷 遼、、だよね?私達が調べた時は、もう転校したはずじゃ、、」
「違う。[された]んだよ」
背後から、声がした。
振り向くと、そこには天河 陽が立っていた。
けれど、その顔は以前のものと違う。
叶が覚えていた転校生ではなかった。
「くくくっ!君が見た[天河 太陽]は、誰だった?
どんな姿だった?」
「え、、、?」
「僕は、誰かの記憶を焼き直して存在してるだけなんだ。
君が信じたその姿が、僕の輪郭になる」
「それって、、じゃあ、[本当の君]って、、?」
「いないよ。
僕は転校する運命を背負った誰かが作った、概念だ」
背筋が凍った。
「この学校に転校してくる者、転校していく者、すべて記録される。
けれど[気づいた者]は、消される。
記録を破った者は、出席者として永遠にここに縛られる」
叶の目が、机の“×印”に向いた。
「じゃあ、、ここに座るのは、、?」
「君の親友、美空はもうその記録に触れた。
そして、[転校する側]の席は、もう空いていない」
美空の姿が、静かに消えていく。
「ちょっ、まって、何言って! 美空っ!!」
叶が叫んだ時、床にぽとりと、美空の持っていたノートが落ちた。
表紙には、かすれた赤いインクで書かれていた。
「出席番号:36」
それは、本来存在しない番号だった。
叶はふらふらと近づき、机に手をかける。
[×印]のあるその席に触れた瞬間、頭の奥に直接、声が響いた。
「ようこそ、記録される教室へ」
「次の天河 陽の素体として、君が選ばれた」
その瞬間、彼の視界が赤く染まった。
目の前で、自分の手が、他人の顔になっていく。
肌の下から、鱗のような模様が浮かび上がっていく。
「これが、、役、、?」
机の奥にあった[転校届]に、彼の名前が刻まれていく。
「加賀谷 叶→ 天河 太陽」
それを見届けた瞬間、机の×印がふっと消えた。
誰もいない教室で、ページがまた一枚、冷たい風で、静かにめくられる。
そして、それから時は立ち、、、
新学期が始まり、あるクラスに新しい転校生が紹介された。
「今日からこのクラスに入ります、天河 陽くんです」
教師がそう言うと、教室にどよめきが起きる。
「え、なんか見たことある、、?」
「え?誰、、?でも、どこか懐かしいような、、」
生徒たちがざわつく中、陽 否、叶は笑みを浮かべた。
そして、隣の席の男子生徒に、不気味な笑みを浮かべながら、そっと声をかける。
「ねぇ、君、この学校、、ちょっと変だと思わない?」
カタリ。
その言葉と同時に、ノートの上に、また一枚の転校届が置かれた。
その用紙の最下部には、赤いペンでこう記されていた。
「次は、君の番だよ」
そしてどこからか、冷たい風が吹き、その風に乗って聞こえる、、、
「俺の声、、まだ聞こえる?」
おしまい
最後まで読んで頂きありがとうございます。
【まとめ】
この物語は、「人が存在を上書きされる恐怖」と「記録にない生と死」を描いた転校系ホラーです。
美空も、叶も、陽も、本当は誰だったのか?
天河という姓さえ、実は名前のない者たちの共通の何か、だったのかもしれません。
そして最後に残る疑問
あなたの頭の中にも、消されてしまった36番はいますか?