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転校生  作者: 星 見人
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第三話 名前のない地図 

見て頂きありがとうございます。作る励みになりますので、良かったらブックマークと評価よろしくお願いします。


 図書室の奥、棚の裏の書庫で美空が見つけたあの本


[転校生に出会ったら話してはいけない]


その一文を読んでからというもの、叶の頭の中には、あの言葉が何度もこだました。


「俺の声、まだ聞こえる?」


返事をしてしまったあの日から、何かが少しずつ、確実に変わり始めていた。



その日の放課後、叶と美空は図書室の別室に忍び込んだ。

美空が見つけた、古びた地図のような紙。それには奇妙な印がいくつも描かれていた。


学校の見取り図に似ていたが、決定的に違うのは「存在しないはずの部屋」が記されていたことだ。


  [旧・資料保管室]

   [心理実験棟]

   [転校処理室]


「ねえ、これ、、本当にこの学校の地図なの?」

美空の声がわずかに震えていた。


「確かめよう。行ってみよう、終わらせよう全部。」



まず向かったのは[旧・資料保管室]現在は使われていないはずの旧校舎の奥、鍵がかけられている扉の先。


だが、叶が手を触れると、まるで誰かが中から開けたかのように、軋む音と共に扉が開いた。


中は暗く、埃だらけだった。


その奥に、奇妙なファイルが積まれていた。

[特別転校生記録]と書かれた分厚いフォルダ。


美空がそっとページをめくると、そこには見覚えのある名前が並んでいた。


「、、加賀谷 遼」


「それって、、?」


「、、三年前の俺だ。いや、俺だった誰かだ。」


それを聞いた美空が「えっ、、何言ってんの?叶?」と言った。


叶の声は、自分でも気付かぬほど乾いていた。


さらにその下に記された名前、、


「天河 陽」

「天河 陽」

「天河 陽」


「ねぇ、どういうことなの……なんで名前が何度も、何度も、、、?」


「天河 陽は、、誰か、じゃない。何かなんだよ」


叶の口から、その言葉が漏れたとき、室内の空気が一変した。

遠くで、何かが這うような音がした。


、、、カサ、カサ、カサ。


「逃げるよ、今は、、ここじゃない」


二人は部屋を出た。扉の向こうから、何かがゆっくりと近づいてくる気配を背に受けながら。




その夜、叶は再び夢を見た。

黒板に、白いチョークで書かれていた。


「名前を失えば、君は消える。」


そして誰かの声が続いた。


「でも、役割を受け入れれば、残れる」


叶は聞いた。「お前は誰だ!!」

声は笑って答えた。


「俺? 天河 陽って役名をやってた者さ。」


夢の中で、叶は気付いた。

[転校生]とは、名前ではない。存在でもない。

それは、選ばれた誰かが「引き継ぐ役」なのだ。




翌朝。校門の前で、美空が真っ青な顔で叶を待っていた。


「見て……これ」


スマホの画面には、生徒名簿の一覧。だがそこに、、


「、、んっ?俺の名前がない?」


「それだけじゃないよ、、私の名前も、、薄くなってるの。昨日までちゃんと表示されてたのに、今は、グレーになってるの」


叶は何も言えなかった。


名前が薄れる。それは、この[地図の外]へと、押し出され始めている証拠かもしれない。


その時、背後から聞こえた声。


「おはよう」


ゆっくりと振り向くと、そこに[転校生]が立っていた。


だが、それは天河 陽ではなかった。


顔も違う。背丈も違う。けれど、瞳の奥にだけ、あの同じ空洞があった。


「俺の声、聞こえるよね?」


次の瞬間、叶の頭に閃いた疑問があった。


  なぜ、天河 陽の姿が毎回違うのか?

  なぜ、記憶と記録が食い違うのか?

  なぜ、自分の名前が消えかけているのか?


叶は呟いた。


「これは、、役の入れ替わりだ、、存在じゃなく、役が上書きされていくんだな、、」


転校生が微笑んだ。


「そう。そろそろ、君の番かもね」




放課後。二人は、最後の印が示す場所へと向かう。

地図に記された、最奥の部屋—、[転校処理室]


その扉の前で、叶は美空に言った。


「俺が中に入る。美空は、入るな」


「なんで、、、?」


「俺はもう、名前が薄くなってる。消えかけてるんだ。けど、美空はまだ、間に合う」


「叶、、」


「もし俺が消えたら、この地図と記録を使って、誰かに伝えてくれ。天河 陽の正体を。そうすれば、この役の連鎖を、、」


ドン。


その瞬間、背後の闇から、誰かが叶を突き飛ばした。


扉が開く。中は、真っ白な部屋だった。



   「あなたは、転校しますか?」



部屋の中央には、ひとつの机。

その上に、転校届が置かれていた。


「記入済み:加賀谷 叶」


そこには、まだ叶が見たことのない、自分の筆跡があった。


誰が書いた? いや、いつ書いた?


そのとき、部屋の奥から、白い制服を着た、誰かが現れた。


「やあ、やっと来たね。加賀谷 叶くん」


「  お前は、、誰だ、、?」


「俺は、君だよ。三年後の、もう転校してしまった君」


叶の背中に、ぞっとする寒気が走った。


「じゃあ、今の俺は?」


「ふふっ、、役を譲る前の君、さ。君は、選ばれてしまったんだ。あの声に返事をした瞬間から」


 「俺の声、まだ聞こえる?」


あの一言が、全ての始まりだった。


部屋が軋むように笑った。




ついに、叶は[天河 陽]の核心へと踏み込んだ。


だが、この記録が終わるとき、彼はまだ自分でいられるのか?

それとも、またひとつ、名前のない記憶へと還っていくのか?


彼が最後に書き残した言葉は、ノートの端に走り書きされていた。


「俺の名前を、誰か覚えていてくれ」




[次回、最終回、最後の出席者?]


同じ名前が、名簿に何度も刻まれていた。

昔見た夢が、誰かの記憶だったとしたら?

目だけが変わらない転校生。

そして、ノートに残された最期の言葉  

『もうすぐ、君の番だ』

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