第二話 美空の夢と、忘れられた声
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最近、美空は夢を見るようになった。
真っ白な教室。窓も扉もない。そこにひとり、見たことのない生徒が立っている。
「、、まだ、気づいてないんだね」
その声は、どこか懐かしくて、どこか怖かった。
目が覚めると、胸がドクドクと音を立て、寝汗で枕が濡れていた。
「また、、あの夢だ」と頭を抱えた。
朝、いつものように叶と待ち合わせて登校する。
彼とは幼なじみで、家も隣。少し離れただけで、小学校の頃からずっと一緒にいた。
「なあ美空、今日って社会の小テストだっけ?」
「え、あ、たぶん…」
最近、美空の集中力はどこかに行ってしまっていた。
教室に入ると、なぜか目がある一点に吸い寄せられる。
[黒板の横の、出席番号の一覧表]
その中に、ひとつだけ「誰だったか思い出せない名前」がある。
読み方はわかる。字も見える。でも、顔が思い出せない。
それだけで、全身が冷たくなる。
昼休み。美空が机を開けると、ノートの下に何かが挟まっていた。
一枚の手紙。折り目は古く、誰かが何度も読み返したような跡。
差出人の名前は、「天河 陽」
ぞくりと背筋に寒気が走った。
名前だけで、心臓がひとつ跳ねる。なぜかはわからない。
でも、その名前は知っている。たしかに、どこかで、、
「美空、どうした?」
叶が声をかける。手紙をとっさに隠した。
「ううん、なんでもない」
午後の授業中、うとうとと眠りに落ちると、また、あの夢がやってきた。
教室の中央に、同じ人物が立っている。
今度は顔が少し見えた。目の奥に、無数の影が揺れていた。
「君、まだ覚えてないんだね。あの日のことを」
誰? と尋ねようとした瞬間、背後から誰かが耳元で囁いた。
「名前を忘れたのは、君じゃなくて、、世界の方だよ」
目覚めると、なぜか涙が頬を伝っていた。
その日の放課後、美空はひとりで図書室に向かった。
なぜか足が勝手に動いていた。導かれるように、奥の棚の裏側へ。
そこには、普段なら絶対に気づかない隙間があった。
覗き込むと、そこに一冊だけ、本があった。
タイトルは [記録されなかった転校生]
指が震えるのを押さえながらページをめくる。
そこに書かれていたのは、この学校に現れる、[顔のない転校生]の都市伝説だった。
「その転校生は、誰の記憶にも残らない。だが、ある一定条件を満たした生徒だけが[それ]を覚えてしまう。
覚えた生徒は、やがて[存在の空白]に飲み込まれ、役目を引き継ぐことになる、、、」
最後のページに、赤いペンで書き足された文字があった。
「次に来るのは、[彼女]の番」
その瞬間、図書室の照明が一つだけ、パチンと音を立てて消えた。
辺りが静まり返り、どこからか冷たい風と足音が響いた。
美空は咄嗟に本を抱えて、隙間から飛び出した。
図書室の入り口、誰もいないはずの場所に、、
出席一覧にあるはずの、でも顔を思い出せない誰か”が立っていた。
その影は、微笑みながらこう言った。
「また、逢えたね。美空」
そして、すっと目の前から消えた。
手に持った本の表紙だけが、赤黒く染まっていた。
夜、眠れずに窓の外を眺めていると、道の向こうに一人の生徒が立っていた。
月明かりに浮かぶ制服姿。その顔には、見覚えのある輪郭があった。
あれは、、、
あの日、夢の中で[名乗った名前]
天河 陽
美空は、初めてその名前を口にした。
「、、よう、って、、」
その瞬間、部屋の時計が一瞬止まり、風も止んだ。
世界が、一秒だけ、静かに [違和感]を許した。
第3話 名前の無い地図
「書いた記憶はない。でも、私の字で書かれていた。」
叶が“見てしまう番。彼の手に渡った一冊の古い日記が、全てを暴き始める。
だが、そのページの余白に、なぜか“彼の名前”が赤く書かれていた。
気づいた瞬間、もう後戻りはできない。