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転校生  作者: 星 見人
2/5

第一話 声が、聞こえた気がした。 

見て頂きありがとうございます。作る励みになりますので、良かったらブックマークと評価よろしくお願いします。

前回の話しは第0話として読んでみてください。


 春の風は、あまりに普通で、逆に不気味だった。


桜の花びらが踊る校門の前で、俺、加賀谷かがや かなうは、制服のネクタイを締め直した。


「……なに緊張してんの、叶。中学だよ? 別に面接じゃないし」


すぐ横で、茶色の髪を揺らした少女、美空みそらが笑った。

小学校からの付き合いだ。親の転勤で一度離れたけど、春からまたこの街に戻ってきた。


再会したとき、美空は少し背が伸びて、言葉に棘が減っていた。

でも笑い方は変わっていない。俺はその笑いに、なんとなく安心していた。


「そう言えば、叶、あの話、まだ信じてる?」

美空がポツリと、急に言った。


「え、何?」


「天河 陽って転校生の話。知ってるでしょ? 小学校のとき、私と何度も話したじゃん」


俺は苦笑いした。


「、、まだ言うか、それ。あれ都市伝説でしょ? 消えた転校生ってやつ」


「そうそう。名前が記録からも消えてて、でも校内のどっかに、声が残ってるんだって」


「声?」


「うん。俺の声、まだ聞こえる?って」


まるでその瞬間だけ、風が止まったように感じた。

桜の花びらが、ひとひら、俺の首筋に張りついた。



新しい教室は、何もかもが新しくて、眩しかった。


入学式を終えて、俺と美空は同じクラスになった。運命的なようで、なんだか、どこか不安だった。


「名前、前の出席番号と一緒だー!」と笑う美空の声が響いていたが、俺は教室の隅の机に目が止まった。


ひとつだけ、少し色の違う木目。

その机の表面に、うっすらと、鉛筆で削ったような跡があった。


「た、、か、、わ、、よう?」


読み取れたのは、それだけ。

見間違いかと思って、もう一度目を凝らしたが、美空が声をかけてきた。


「叶。何してんの?」


「いや……なんでもない。ちょっと、気になる落書きでさ」


「ふーん。そういやさ、うちの学校、転校生が多いって話、聞いた?」


「多い?」


「うん。ここ3年で、9人も。しかも、転校元も転校先も、記録が曖昧でさ……」


美空の目は、まるで猫のようだった。

好奇心と、無邪気さと、ほんの少しの狂気が混じっている。


「もしかして、調べてるの?」


「ふふ、だって気になるじゃん。私の好きな、実話系っぽくない?」


俺はフゥっとため息をついた。


「それでまた、あの、天河 陽が出てくるんだろ?」


「そう。でね、、変なこと、言っていい?」


「うん」


「今年の名簿、最初の下書きに、天河 陽って名前が一度だけ載ってたんだって。先生が訂正したけど、なんでか消せないらしくて、端っこの裏紙に貼られてたって」


「そんなの、どこ情報?」


「印刷係だった子が、こっそり言ってくれたの。だから、、」と言いながら鞄をゴソゴソした。


美空は鞄から、一枚の紙を取り出した。


「これ、見て」


それは、確かにこのクラスの名簿だった。

でも下の余白に、手書きの文字で、こう書かれていた。


追加予定:天河 陽(4月10日受け入れ申請中)→中止


俺は声が出なかった。

ただ、胸の奥がじわじわと焼けるように熱かった。



放課後。下駄箱で靴を履き替えていると、耳の奥で何かが囁いた。


「、、おい」


ゾクッと背筋が凍った。振り返るが、誰もいない。


「、、まだ、、ここにいるのか」


俺は音のする方を睨んだ。何もない空気の向こうに、誰かが立っているような気がした。


その夜。ベッドに入っても、なかなか眠れなかった。

そして、いつの間にか夢を見ていた。


誰もいない教室。

黒板に、赤いチョークでこう書かれていた。


 [俺の声、聞こえるなら、返事しろ]


俺は、夢の中で声を出そうとした。


「、、お、れは、、」


そこでハッと、目が覚めた。


汗をかき、喉が乾いていた。心臓は、ずっと早く胸を打っていた。

窓の外では風が吹いていた。


その風の中で、確かに、、耳元で囁かれた気がした。


「返事、聞いたよ。加賀谷 叶」  そう聞こえた。




次の日。学校に着いて席に着くと、誰かが俺の机をじっと見ていた。


後ろの席の男子、永井がポツリと呟いた。


「そこさ、、前、変な奴が座ってたって、噂の席なんだよ」


「え?」


「なんか……名前は覚えてないけどさ、急に消えたんだよな。出席取ってたのに、先生もそんな生徒いなかったとか言ってさ」


俺は固まった。


「、、いつの話?」


「たぶん、三年前ぐらいらしい?誰かの兄ちゃんが言ってたんだって」


その瞬間、胸の奥に、美空の言葉が突き刺さった。


 [天河 陽の転校記録は、三年前から毎年あるんだよ?]


「おい、加賀谷」


永井が俺の肩をポンと叩いた。


「お前さ、もしかして、、あの声、、聞いたりしてないよな?」


「、、なんの話だよ?脅かすなよ?」


「へへへっ、いや、なんでもない」


永井はそれだけ言って、席に戻った。

でも俺は、もう知ってしまった。


俺の中に、何かが、[入り込んできてる]ということを。


《記憶の檻》の扉が、ゆっくりと開いていく音が、聞こえた気がした。


次回、 第二話「美空の夢と、忘れられた声」


会ったことのない誰か、の名前をどうしてか知っていた。

届くはずのない手紙。書かれていたのは、、天河 陽。

夢と現実が滲むたび、何かが彼女を見つめている。


記憶にないはずの過去が、扉を叩いている。

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