転校生
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今日、クラスに転校生 [天河 陽]が来た。
前の学校で何かあったらしい。けど、先生は何も言わない。
クラスメイトも深くは聞かない。そんなの、今じゃ普通だ。
転校生は、どこか浮いていた。目が合うと、なぜか少しゾッとする。無口で、笑わない。でも授業は全部、満点だった。
ある日、昼休みにそいつが俺に話しかけてきた。
「なあ、この学校、、おかしいって思わない?」
俺は首をかしげた。別に普通の公立中学だ。
クーラーは壊れてるし、教師は口だけ。
廊下では後輩が殴られてたけど、まあ、そんなもんだろ。
転校生は言った。
「みんな、それが普通って思わされてるだけだ。
ここは、、人間を、、、はははっ!」と笑って言った。
俺はその時、なんでか知らないけど怖くなり、笑い返せなかった。
その日の帰り道、後ろから声が聞こえた。
「お前、もう、、気づいちゃったんだよな」
俺は驚き、振り向いたけど、誰もいなかった。
次の日、転校生はいなかった。
先生は「そんな生徒、最初からいなかった」と言った。クラスメイトも、誰一人覚えていなかった。
俺の机の中にだけ、ノートがあった。
そこにはこう書かれていた。
「ようこそ、もう逃げられない学校へ」
転校生が消えた次の日、教室の空気が、少しだけ違っていた。
みんなは普段通り、給食を食べて、
スマホでくだらない動画を回し見して、教師の説教にうんざりしてた。
でも俺だけは気づいていた。
昨日と違う。みんなの目が、抜けてる。
言葉にできないけど、みんなの目は人形みたいに空っぽの光だった。
昼休み、校庭のベンチに座っていると、また、あの声が聞こえた。
「ねえ、まだここにいるの?」
びくっとして振り返ったが、やっぱり誰もいない。
けど、ポケットに手を入れると、何かがあった。
一枚のプリントだった。
「中間試験の範囲」って書かれた紙。
でも裏返すと、手書きでこう書いてあった。
[次は、君の番]
ビックリして、思わずプリントをビリビリに破って捨てた。
でも教室に戻ると、クラス全員が同じプリントを持っていた。
「なあ、それどこでもらった?」って聞いたら、みんな笑って言った。
「先生が配ったじゃん。忘れたの?」
俺は見てしまった。
その笑ったみんなの顔が、コピーされた人形みたいに同じだった。
その夜、夢を見た。
真っ白な教室、誰もいない。
黒板に、赤いチョークでこう書いてある。
「あなたも、もうすぐ、転校します。」
翌朝、机の上に、見覚えのない封筒が置かれていた。
中には、、転校届が入っていた。
そして最後のページにだけ、見慣れた文字。
「気づいた人間から、順に消えるんだ。これは嘘じゃない、本当だよ。君の声が、、本当に聞こえる内に逃げて、、転校生より」
封筒から、ゆっくりと、冷たい風が吹いた気がした。
次の日、教室の掃除当番だった俺は、
たまたま職員室の前を通った。
ガラス越しに見えた棚。そこに、分厚いファイルがあった。
[出席名簿、特別記録]
どうしても気になって、放課後こっそり忍び込んだ。
誰もいない。
教員たちは夕会議に出ているらしい。俺はそのファイルを何気なく開いた。
最初の数ページは、普通の名簿だった。
でも、その次のページから、赤いインクで書かれた名前が続いていた。
その隣に、黒く塗り潰された欄。
顔写真の代わりに、白紙が貼られていた。
ページの下に、こう書かれていた。
「転校済:記録削除」
俺の心臓が跳ねた。
その中に、あいつの名前を見つけたからだ。
「天河 陽」
転校生の名前だ。
でも奇妙だった。
そこに記された転校日は、三年前になっていた。
「三年前、、? そんなはず、、昨日、来たばかりのはず、、」
焦りながらページをめくっていくと、そこに、さらにおかしな名前を見つけた。
「天河 陽」
「天河 陽」
「天河 陽」
名前が何度も、何度も現れる。
それも、十年分くらい前からずっと。
その瞬間、背中に冷たい風が通った。誰かが、俺の後ろに立っていた。
「見、た、な」
ゆっくりと振り返ると、
あの転校生、天河 陽が立っていた。
でも、その顔は、
俺が見たどの天河 陽とも、少しずつ違っていた。
目の色、髪の癖、笑い方。
「、、、お前は誰だよ」
「俺は、転校生って役割をしてるだけだよ。この存在に気付いた生徒を[天河 陽]にするために作り出した、、顔のない人間。」
「、、は?」
「だ、か、ら、君みたいな気付く奴が出てくると、俺が転校生として来る。その子の中にある気付きを引き出して、変われる様に設定されてるんだ。」
天河は一歩近づいて、声をひそめた。
「君は記憶してしまった。名前も、存在も、俺の中身まで、気付いて、覚えてしまった。だから今度は君が、、転校生になる番だよ。」
「、、、、」
俺は口が、動かなかった。足も動かない。
息だけが、凍るように冷たかった。
「名簿の最後の名前、見てみなよ」と天河が言った。
俺は震える手で、最後のページを開いた。
「転校予定:加賀谷 遼」
(※処理予定:4月21日)
、、俺の名前だった。
天河の声高の笑い声が部屋に響く中、俺は気を失った。
最後に見た景色は、天河が腹を抱えて笑う姿と、俺の名前が「転校予定」に記されていた、あの名簿が冷たい風に吹かれ、ペラペラとめくれる景色だった。
それを見て、目覚めた時から、日常が少しずつ歪んでいった。
朝のチャイムが二回鳴ったり、同じ夢を三夜連続で見たり。
夢の中では、誰も居ない教室の真ん中に、古びた木箱が置かれていた。
開けると、蛇と龍が交わったような不気味な骨が眠っていた。
ある日、図書室の一番奥に、何かが光が灯っていた。
入っていくと、そこには一冊の本だけが置かれていた。
タイトルは、[転校生に出会ったら話してはいけない]
背表紙には、小さな文字でこう書かれていた。
[話した者は、その役を引き継ぐ]
俺はゾッとして、図書室を後にした。
次の日、俺のクラスにまた、転校生が来た。先生は笑って言った。
「今日からこのクラスに、新しい仲間が増えます」
その顔は[天河 陽]だ。
だが前よりもずっと薄く見えた。
というか、顔に“模様”が浮いていた気がする。
龍の鱗みたいに。
転校生は笑わなかった。でも、俺にだけは目を合わせて来た。
そして、口の動きだけでこう言った。
「俺の声、まだ聞こえるよね?」と言うとニタァ〜っと笑った。
次の日、俺の席はなくなっていた。
クラスメイトに尋ねても、誰も覚えていない。
教師たちも、「はて、、、このクラスは元々35人だったよ」と言う。
校庭の掲示板の名簿も、35人。
でも、俺はここにいた。確かに存在していた。
今、僕は誰の記憶にもいない転校生になった。
〜それからの噂〜
この学校には、嘘みたいな都市伝説がある。
「転校生に、俺の声、まだ聞こえる?と聞かれたら、
絶対に返事をしてはいけない」
話してしまった生徒は、この世界からいなくなる。
名簿からも、記録からも、記憶からも。
誰もいなくなった教室の窓際で、風に揺れるカーテンだけが、かすかに囁く。
「ふふっ、次は、誰が[天河 陽]になるのかな?」
了
最後まで読んで頂きありがとうございます。
あなたの記憶の中にも、ふとしたときに思い出せない“誰か”がいませんか?
もしかすると、その人はすでに“転校”してしまったのかもしれませんね。