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5³㎤の転移無双  作者: 清白
第1章 少年期

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第7話 魔の森




 魔石での『転移』を覚えてから1年がたった。

朝起きて子供たち3人と食事の用意や寮の雑用をしながら剣の稽古や勉強をしたり遊んだりする。

昼前に起きてきたミリアと昼食をとり2人でいろいろなことを話したり、みんなで遊んだりと楽しく過ごす。

夕方ミリアたちが出勤した後は日が暮れるまでの2時間、魔の森を探索する。

帰ってきたら子供たち3人と夕食をとりそれぞれで過ごす。

この時ベイルとリンは一緒に過ごしていることが多い。

俺はミー姉と食事の改善を話したり、ベイルとリンと一緒に遊ぶこともあるがほとんどは1人で魔法の練習をしている。


 夕方の魔の森の探索で先には進んでいるが、その途中にあった寮からは丸1日かけたらたどり着くぐらいのところにいい感じの広場があり、そこに別の『転移』の魔石を設置した。

森の奥なので少々音を出そうが何ともない。

そこで魔法の剣に『消去』を這わす練習や、『転移』するときの範囲を決定するときの速さを上げる稽古をしていた。

おかげで今では一瞬で『転移』の形を思った通りに変えることができるようになっていた。


 そしてメインの魔の森の探索。

1日2時間とは言っても1年だと700時間ほど。

それなりに奥まで進めたと思っている。

ただ全貌が全く分からないので実際のところはどうなのかといったところだが。


 途中の稽古をしている場所に転移先を設置できるのは魔石を使ったからだ。

この1年で魔石もかなり集めた。

ウサギの魔物やイノシシの魔物などは数十匹は倒したし、虎の魔物やクマの魔物も倒した、その魔石はウサギやイノシシの魔物よりも大きかった。

奥に進むほど魔物は強くなっていったが今のところそこまで苦戦した相手はいない。


 もちろん魔法の剣だけでは1匹を相手にした時ならまだしも数匹同時に出てこられたらまだ危ない。

そんな時は離れた場所からの『消滅』で首を切断した。

何しろ攻撃力はあるが防御力はほぼないのだ、一撃受けたら死、という状況なので慎重に慎重を重ねて進んでいる。

そのうえで剣で戦う練習もしているというところだ。


何より便利なのが『視界の転移』を覚えたことだ。

自分を中心に半径50m以内ならどこでも見られる。

隠れている魔物を見つけるのに役に立った。

もっとも自動で索敵してくれるわけではないので自分で見ようと思わないと見つけられないし、擬態してたりしたら見破るのは自分でしなければならない。

だが今までと比べると危険が圧倒的に減少したのも確かだ。


 この調子だと、魔石を売ってミリアとの生活ぐらい賄えそうなので、そう言ったことがある。

俺はミリアに魅かれていた。

命の恩人なだけじゃない、毎日話をし、一緒に過ごしていくうちに自覚した。

元の世界での家族以来じゃないだろうか、好きだという気持ちを覚えたのは。

その相手が夜の店で働いていこるのだ、できるなら辞めてもらって2人で過ごしたい。

そう思ってミリアに聞いてみたのだ。

昼食をとった後、部屋でミリアは後ろから俺を抱え込むように抱きしめているときだ。


 「ミリア、俺、魔物をそれなりに狩れるようになったんだ、魔石もそこそこ手に入れられるし、売ればお金に困らないと思うんだよ。それで・・・仕事辞めて俺と暮らさない?借金があるなら俺も一緒に返すからさ」


 そう言って顔だけ振り向くと、ミリアは困ったような泣きそうな顔をしていた。


 「ありがとう、ティル。いつまでもご飯にお肉は出てくるし、誰かが魔物を倒したりして手に入れてるのかな、とは思ってたよ。ティルだとも思ってたけど。でも・・・ごめんね、それはできないんだ」


 そう言うミリアにさらに聞いてみる。


 「どうして?せめて借金の額を教えてよ、俺はミリアに助けてもらったし、俺ができるならミリアを助けたいんだ」


 「私だけじゃなく、ここのみんなもそうだけど・・・お金もそうだけど、10年働くという契約なんだ。だから勝手にやめられないよ。それにティルにお金のことを助けてもらったらこの先ティルに頼りっきりになっちゃいそうだもん、受け取れないよ」


 「いいじゃん、頼りっきりでも、それだけのことをミリアはしてくれたんだし。それに夜の仕事続けるよりはいいとは思わない?」


 「でもね、ティルが今の仕事辞めてほしいと言うからには今の仕事のことあまりよく思ってないんでしょ?そんな私のことを助けて、私がティルに依存して・・・ティルが私のことを嫌になったらもうどうにもならなくなるもの」


「嫌になんてならないよ!」


「ありがと、でも最初はみんなそう思うんだよ。そこまでいかなくても私に対して責任があるから、みたいに思われるのも嫌なの。私は私で生活できるぐらい1人前の大人になりたいの」


「それが今の仕事でも?」


「今はこれしかできないからね、10年たったら今までの人と同じように王都に行って仕事を続けるしかないと思ってたけど最近は何か違うことをして1人前になりたいなと思ってきてるんだよ、こう思えるようになったのもティルのおかげだよ」



「俺の?」


「そう、ティルってば記憶もなく拾われたぐらいなのに全然悲壮感もないし毎日楽しく過ごしてそうだもん。私もそんなふうに毎日楽しく過ごしたいなって思いだしたの」


 俺にも色々と悩みなどはあったのだが、元の世界に比べたら魔法も生活も充実していて比べものにならないほど楽しかった。

それにここで俺にも悩みがあるんだなどと主張するほど子供じゃない。


 「ミリアに助けてもらってから毎日楽しいよ。少しでも良い影響があったんなら嬉しい」


 「うん、だからね、私も頑張らないとなあって。10年の契約が終わるまでに何かできることを探して一人で頑張りたいの。ティルに手伝ってもらったりお金を出してもらったら簡単なんだろうけど、それじゃあ私の力じゃないからね」


 「それぐらいいいのに」


 「ティルだってここにいるままじゃそんなにたいしたことできないでしょ?この町で冒険者になるにもきっちり14歳になるまで待たなければならないし・・・」


 「え?他の所なら14歳にならなくても冒険者になれるの?」


 「正確には14歳だと言い張ったらいいだけだけどね、この町で登録しようとしたら私が保護者だということはバレてるし、バレてるのにごまかされてはくれないわよ。見習い冒険者にはなれるけど獣人の保護者ってだけで何やらされるかわかんないからね」


 「そうなんだ・・・他の町ならいけるのか・・・」


 「そうするにしてもさすがにもう少しごまかせる年齢にならないとだけどね。今のティルが14歳って言っても通用しないわよ。そうね、せめて10歳になって・・・それなりの力があるところを見せたらっていうのが最低条件かな。それでも死んじゃったら自己責任だけどね」


 それはそうだ、ごまかすんだからそれにも程度があるだろう。

だが14まで待たなくていいのだ、ミリアが契約終わるまでに俺も冒険者として1人前になっていたい。

考えこんでいるとミリアに言われた。


 「やっぱり知ったら出て行っちゃうかぁ、言わないでおこうかと思ったんだけどね」


 「え、あ、その・・・」


 「わかってるわよ、私もティルに依存しすぎかなと思ってたし、精神的にね。ティルは冒険者になったらもっといい女の子と知り合えるわよ。そのときのために私にばっかり捕らわれるのはやめときなさい」


 そんなことを言われてもわかりましたと言うわけにはいかない。


 「どっちにしてもまだ数年、俺がごまかせるようになるまではここにいていいんでしょ?」


 「それはもちろんよ、明日からいないなんて言われたら私もショックだもの」


 「じゃあ、約束してよ。10歳になったら俺は冒険者になる。ミリアが契約が終わるのはその4年後。そのときは俺も大人だしそれまでに1人前の冒険者になるよ。それでも思いが変わってなければ俺と付き合ってよ」


 「もう、ませてるわね、そんなこと言っても契約が終わったばかりだと私が何にもできないじゃない」


 「だってさ、毎日仕事でもお金も貯められないでしょ?現に契約が終わっても違うお店に行くのはそれしか選択肢がないからでしょ?少なくとも生活できる場所がなければどうしようもないじゃない、その場所になりたいんだよ」


 ミリアもわかっているはずだ、せっかく契約が終わってもお金がなければここを追い出されたらどうにもできないのだ。

退職金なんてないだろうしその日から寝るところも食事にも困ることになるのだ。

今手に入るお金を貯めるぐらいではどうにもならない。


 ここのオーナーは10年と言いながらその先も自分の系列のお店で仕事を続けさせるつもりなのは間違いないだろう。

そして王都に行ってから様子を見にでも戻ってきたものはいないという。

ということは別の仕事を紹介されたと言ってても実際にはわからないじゃないか。

きちんと人並みの生活ができているのなら1人ぐらい遊びに来ることがあってもおかしくないのだ。

ここから王都までは馬車で5日ほど、簡単に行き来できる距離ではないが絶対に無理なわけではないし手紙も届かないという距離ではない。

すごく仲の良かった人とでも連絡がつかなくなるのだ。

王都でどんな扱いを受けているのかわからない。

ここの女の人たちは何も言わないが俺は怪しいんじゃないかと思っている。


 「もう、そんな先のこと、絶対にティルだって忘れてるわよ。だけど嬉しいわ。嬉しいけど私に捕らわれないでね」


 そう言ってさらに抱きしめる。

誰もが思っている現状、改めて言われてわかるこの生活から抜け出す方法の少なさ。

気持ちも伝えたしこれ以上今日は言うのはやめておこう。

実際の所、今の俺は逆にお金が少々あろうがこの世界でどうやって生きていけばいいのがわかってないのだ。

お金を払って宿屋に毎日泊まる?

ケガでもしたら?

宿泊費は?

とにかく知識が足りない。

俺も1人前にならなくてはいけないのだ。


 抱きしめられながらその日を過ごし、この先も頑張らないとと自分に言い聞かせた。




 頑張ると言っても今はすることと言えば森の探索と剣の腕を上げること、そしてこの世界のことを学ぶことぐらいしかできない。

ミー姉はかなり物事を知っていると思うのだが当然ここにいるだけではわからないことも多いだろう。

剣の腕も自己流でしかない。

焦るが他に伝手もない、魔の森で魔物を狩って少しでも腕を上げる、冒険者になったときのために。

それぐらいしか思いつかなかったのだ。




 それから10日ほどたった日、すでにどれぐらい入り込んでるのかわからない魔の森をさらに奥に進んでいると違和感があった。

どちらかというと暑いほどの気温なのだがひんやりとした空気が流れてきたのだ。


 その場で立ち止まり『視界の転移』で周りを調べる。

木、茂み、大きな岩・・・丁寧に調べていると大きな岩の片面に不自然に穴が開いていて、そこにはウサギの魔物の死体があった。

高さ10m、幅10mに長さは30mほどもある大岩。

ゴツゴツしているがほぼ直方体のようだ。

その岩の正面に洞窟の入り口のように穴が開いていて死体がありその中から涼しい空気が流れてきているようだった。


 『視界』だけで魔物の死体を通り過ぎて中をのぞいてみるとすぐに1mほどの段差になって下に降りるようになっている。

降りた場所は5×5mほどの空間というか部屋のようで、一面の氷の世界になっている。

この気温でいきなり一面の氷、とけてもいない。

こういう不思議な現象のときはこの世界ではほぼ魔物の仕業だ。

そしてそういう魔物はたいがい強い。

スルーしてもいいのだがこの状況からしてこの魔物の魔石には氷の属性がついているかもしれない。

奥に続く道も全部凍っているようだ、これだけの強さの魔力なら念願の冷蔵庫が作れそうだ。


 属性付きの魔石を持つ魔物はほとんどが強い。

慎重に『視界の転移』で岩の中を調べてみる。

降りた場所にある部屋は天井は3mほどの高さ、大岩の下半分といった感じか。

その部屋から視界だけまっすぐに奥へと進む、廊下のようだ。

幅は1mほど、両側に3つずつ、まるでアパートのように部屋がある。

一部屋は3×6mほど。

左の部屋には何もないが右側の一番奥の部屋には魔物の死体が積まれていた。

クマ、ワニなどのこのあたりで見かける魔物の死体が凍った状態で積み上げられている。

間違いなく魔物がいるだろう。


 さらに『視界』を奥に進め突き当たりの部屋を見る。

最初と同じような5×5mほどの氷の部屋だが奥に体長3mほどの大きな蜘蛛が氷のクッションのようなものの上に座っていた。

脚は縮めているので実際の大きさはもっと大きく感じそうだ。

身体は黒に近いグレーで所々氷をまとっているが他の魔物と違って死んでいないことは口元がモゾモゾと動いているのがわかるからだ。

どうやらこの岩はこの大蜘蛛の巣のようだ。

 

 大蜘蛛は動く気配はない。

虫系の魔物は特殊能力を持っている個体が多い、さらに大きい虫となると対処が難しい上に強さが跳ね上がると聞いている。

森の外縁部、寮があるところなどでは普通の虫より少し大きいぐらいの虫の魔物はいる。

小さな虫の体内では魔石は1㎝にまで成長できないのでほぼ無意味なのだ。

倒してクズ魔石を手に入れることはできるので見つけたら倒してはいるがそれぐらいなら強さは普通の虫と変わりない。

だが森の奥に行くに従って魔素が濃くなると順応できた個体は体長が大きくなる。

だがこれまではせいぜい10倍程度の大きさまでしか確認されていない。

例えば蟻などが10倍になって襲ってきたら大変だが10倍になると群の数は10分の1になると言われている。

それでも小さな魔石を持っていることがあるので見かけたら倒す、それなりに簡単な魔石を手に入れる方法だ。

なので森の外縁部には少しでも大きくなれば狩られるのでそれほど大きな虫の魔物はいない。


 この大蜘蛛は体長3mほど。

元の蜘蛛の大きさはわからないが10倍どころじゃないのは確かだ。

さらに氷の属性持ち。

警戒しすぎるということはないだろう。

そう思っていたのだが全く動く気配がない。

このままではどうしようもないので1mの段差を降りてみた。


その途端に大蜘蛛が動き出し、奥の壁を伝い天井に消えた。

いや、消えたと思ったのだが穴が開いていて上に登ったようだ。

『視界の転移』を天井のさらに上に向けると2階と言っていいのか上にも空洞があるようだ。

こちらは部屋も何も無い広い空間だ。

すごい早さでこっちに向かってきている。

どうやらこっちに向かって下り坂になっているようで脚を立て、まるでスケートのように滑っての移動。


自分の上を見ると一面の氷だと思っていたのだが真上だけは薄い氷が張っているだけで穴が開いている。

大蜘蛛がこのまままっすぐにこっちに向かいあの穴から襲いかかってこられたら・・・

それはやばい。

だがもうすぐそこまで来ている。

慌てて真上の穴に『消去』の魔法を格子の形に張り穴の真下から奥へと逃げる。

大蜘蛛は滑ってきた勢いのままに穴から降りて飛びかかろうとして・・・『消去』魔法で切断され、いくつかの肉片に別れた。


勢いをつけてたので途中で止まることもできなかったのだろう、穴の下でいくつかに切断された大蜘蛛はヒクヒクと動いてはいるが襲ってきたりはできなさそうだ。

手足をそがれ、体はほぼ真っ二つになっている中に魔石が見える。

どうやら魔石も2つに割ってしまったようだ。

その魔石を拾うと水色で澄んでいる。

直径10㎝で魔石(大)と言われる中、2つを組み合わせると20㎝ほどの大きさになる。

さすがにここまで成長した虫系の魔物、大物だったようだ。


 7対3ぐらいで切断してしまったが氷の属性はなくなっていなさそうで助かった。

全部の部屋を見て回る。

アパートが一棟手に入ったようなものだ、探索の時の本拠地にしようと決めた。


 大蜘蛛が食料として積み上げていた魔物は蜘蛛の毒が回っている可能性もあるので処分する。

入り口の魔物の死体はたぶん他の魔物をおびき寄せる餌だろう、なのでそれも処分してなるべく入り口をわからなくしよう、カモフラージュしたドアをつけてもいいかもしれない。

魔物の死体に魔石はなかった、大蜘蛛が取り出したのだろうか?

大蜘蛛のいた一番奥の部屋の手前右側の部屋を冷凍室にする。

これだけ大きな魔石なら魔力を補充しなくても一部屋なら相当な時間冷凍してくれるだろう。

そこにマジックバッグに入れていた魔物を並べていく。

大蜘蛛としていることは変わりないな、と自嘲しながら。


 大蜘蛛がいた1番奥の部屋を自分の部屋にしようか、いや、利便性を考えれば入り口に近い方がいいだろうか?

せっかくなので居心地もよくしたい。

冷凍室にした部屋の向かいの部屋に別の魔石を置いて転移してこれるようにする。

ベッドやクッションなども持ち込もう。

前世ではネットカフェが一番近かったが、ついに本当の自分の部屋が持てるのだ。

漫画やパソコンがあればいいのだがそれは無理だ。

今度町の中で必要なものを探してこよう。

俺は初めて一人暮らしをする若者のようにワクワクしていた。









 

 


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