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5³㎤の転移無双  作者: 清白
おまけ

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番外編7 第一席





 その日俺はある人物の訪問を受けた。

名前は何度も聞いたことはあったが目にするのは初めてだ。

そんな人物がわざわざ俺に会いにここまできたのだ。


 彼の名はローガン。

この世界で30年ほどの間ずっと10傑第1席の座を守っている人物だ。

あの炎帝も何度か戦ったことがあるが一度も勝てたことがないという。

まずこの世界で負けた後何度も戦えるという時点で手加減されているのがわかる。

ただの試合だと勝敗がついた時点で終わるが炎帝の言う戦いは命をかけてということだろうからだ。

もちろん炎帝はそのつもりで策を練り勝負を仕掛けたのだが全てを返り討ちにされた上に命を奪われるどころか再挑戦できるほどのケガで許してもらえたのだ。

炎帝が3度挑戦して敗れたあとに負けを認めたと本人が言っていた。


 その炎帝がローガンに声をかけたのだ。

純粋に自分が勝てないふたりのどちらが上かを知りたくなったらしい。

何度か戦いを見てみたいと言われていたのをスルーしていたところまさかの相手がこちらに出向いてきたのだ。


 30年第一席を守っていることもあってローガンは見かけは初老といった感じだ。

長めの白髪を後ろで束ね、上は白、下は紺の道着のような服を着ている。

身長は170㎝ほどで大柄な訳ではないが今でも鍛えているのがわかるほど筋肉はついている。

昔はイケイケでしたよ、といった雰囲気は感じ取れるのだが年を取って表情に丸みが出てきているのかもしれない、そんなに怖いという感じはしなかった。


 ローガンの昔の話は炎帝から話は聞いたことはある。

元はテン国の貴族。

幼い頃から貴族が習うことの多い正道流という剣を習いそこで天才と呼ばれていた。

10歳で道場には敵がいなくなった。

しかし正々堂々との戦いで勝とうが卑怯だと言われている手に1度でも敗北し、死ぬことになれば何の意味も無いことに気付いた。

そこで貴族が習うようなものではないと言われている戦い方にも興味を持ち習おうとした。

反対する家族を見切って貴族である実家から抜け、家名を名乗ることをやめた。

さらに正道流をやめて他の流派や剣以外の武器、さらには暗器などにも興味を持ち習ったり調べ上げたりしたという。


 18の時に一兵士として参加したナイン国との戦争で敗走する味方を追ってくる300人の兵士をひとりで倒したことで10傑入りした。

23の時に当時最強と呼ばれていた10傑第1席のトゥエルブ国の将軍戦い勝利した。

そこでも将軍の命までは取らなかったのだが第2席、第5席に数えられていた部下を連れて復讐に来た将軍を3人まとめて無傷で返り討ちにしたことで第1席の座についた。

それ以来不敗だという。


 そんな人物に声をかけられたのはタングスの砦の事件も終わり炎帝と一緒にカイルたちもエイト国へと帰ったあとのことだった。

Bランク冒険者としての日々を送っており屋敷に帰って来たところに声をかけられたのだ。

最初はロウが屋敷の護衛として間に入ろうとしてくれたのだがどうやらローガンの顔を知っていたらしく「申し訳ありません、自分では守り切れません」と謝られたのだ。

逃げるならその間の時間稼ぎぐらいはと言うところを制してローガンと対面している。


 屋敷の庭で戦って皆の見世物になる気はない。

ローガンもお目付役というかお世話係という人物の目を盗んでこっそり来たようであまり騒ぎ立てたくないようだ。

ひと気のない場所で、ということで屋敷を後にしてふたりで歩き出す。

ロウが心配そうな目で見送るが大丈夫だと目で答えた。


 「ほほっ、相当な自信じゃの。一応名は知られている方だとは思うんじゃが」


 「もちろん名前は知ってます。強いという噂も。炎帝がどうしても勝てないと言ってましたので」


 「ワシにも言っておったよ。どれぐらいの差があるのかすらわからないのはワシに続いて2人目だと。それでちょっと見てみたくなってのぉ」


 「僕にはそんなつもりはないのですが、戦わずにすむ方法はありませんか?」


 「ないわけでもないがのぉ。ワシも強い者が相手なら誰とでも戦いたいとかいう戦闘狂ってわけでもない」


 「じゃあ、このまま何もしないってことで?」


 「それでものぉ、さすがにここまで強いとなるとどんなものかなと気にはなってくるんじゃよ。ティルと言ったか、お主かなりやるな」


 「あなたたちのように純粋に鍛えたとかいうわけではないので自分で言うには心苦しいのですが」


 「魔法も含めてに決まっておる。そのほかの力でも全て含めての実力じゃ、変なことを気にしよるのぉ」


 その魔法自体がもらい物のようなものなのだ。

人のいない場所を探し始めたのだがスラム街を抜けて市街地に入っていった。

どこかにあてとかあるのだろうか?そう思いながらもついていく。


 「どこに向かっているのですか?」


 人目を避けたいのなら市街地に向かうのはおかしい。

そもそも屋敷で出会ったのだ、人目を避けたかったら魔の森に入った方が早い。


 「そうじゃの、さすがにここまでの相手とは思ってなかったもんで少し話したくてな」


 「話ぐらいはいいですけどできれば戦いたくはないですね」


 「ワシと相対して自信のあるものはワシと戦いたがる。自信の無いものは逃げたがる。なのにティル殿は自信はあるのに戦いから逃げたがる」


 「自信がある訳ではないのですが・・・」


 知らないうちにティル殿などと呼ばれ出した。

何をどう見て俺の実力の判断をしているのかわからない。

気がつくと市街地を周り再びスラム街に戻ってきていた。

こういう武器を使っただけの戦いを想定するのではなく魔法も使ったいわゆる何でもありの戦いを希望する者と戦うのは常に気が抜けない。

全く知らない魔法で攻撃されるだけではなく今すぐに切りつけられてもおかしくないのだ。

武器、武術、魔法は当然のこと不意打ち、毒、飛び道具、相手を倒すためなら何でもありだろう。

幸いドラゴンの肌着も完成して身につけているので大概の攻撃は防げると思うが注意はしたほうがいい。


 改めて第1席と呼ばれる老人を見る。

世界で1番強いと言われる人物だ。

さらにあの炎帝が認めている人物。

これだけでもある程度の推測は立つ。


 いろんなことを警戒しているが基本は1対1の武器と魔法で戦うタイプだろうこと。

1対1、相手は複数でもいいが少なくともこの老人が1人でなければ1人だけ第1席と呼ばれることはない。

多数の前でも戦う姿を見せているので他の人間を隠れさせて手助けや不意打ちなどをさせているということはなさそうだ。

さらに毒や薬物などの散布型の物質を使うのではないだろうということ。

ここで知らない間に持っているポーションで対応できない毒などをまかれたら対抗できないのだがそれはここだけでのこと。

例えば炎帝が一戦目でそれをされて生き残ったのなら二戦目では対抗策を練るだろう。

毒のような物を生成する魔法だったとしても同じことだ。

炎帝が一戦目で命を奪われていないことと敵わないと認めていることでそういうスタイルで戦うのではないことがわかる。

第1席ともなると攻撃手段が毒だったりの搦め手だけではなれないのだ。


 そこでも対策を取っている。

身体はドラゴンの肌着で守れるがそれ以外の場所は晒してしまっている。

その周りに薄い『転移』を張って攻撃されたらそこに当たった部分は『消去』される。

攻撃ではなく肩などを組んできたら腕を消去してしまうが攻撃の意図のないスピードなら避けたりできるので問題ないだろう。

反応できないスピードで肩を組まれたらどうしようもないがけんかを売りに来てそんなことする奴にまで責任はとれない。

仕掛けられたらできるだけ素早く足首にでも攻撃して移動手段を奪おうなどとシミュレートはしていた。


 けっきょく戦ってみないと納得してくれないんだろうな、と思っているとスラム街も抜けて元の屋敷に着いてしまった。

通り過ぎて魔の森に向かうのかも?とも思ったが門の中に入っていった。

そこでローガンはこっちを見て元の世界の外国人のように肩をすくめた。


 「まいった。勝てる気がしない」


 まだ戦うどころか戦闘態勢にすら入っていない。

戦闘態勢に入ったからといって攻撃力が上がるなどの漫画のような特性は持っていないが散歩しただけでまいったと言われるのは腑に落ちない。

無意味な戦いを避けるために許してくれたのならそれでもいいのだが。

納得できない表情がバレたのかローガンが笑って説明してくれるという。

屋敷に入ってお茶でも入れようかと思ったがお酒がいいと言うことで親方たちが気に入っている酒を出してやった。

屋敷の2階でローガンの能力にも関わることなのでもちろん人払いをして2人になる。

ローガンにとってはもう終わったことなのかお酒の方に興味が偏りそうだったのでこちらから質問した。


 「で、戦いに来てもう参ったってのはどういうことですか?見逃してくれたと言うならそれでもいいですけど」


 「そんなことはない、どうやっても勝てないってのがわかったんじゃよ。その年ですごいもんじゃ」


 「何でそれがわかったんですか?」


 「ワシの魔法がそういうものじゃからな。今まで無敵の魔法だったんじゃがワシの時代も終わったようじゃな」


 そう言いつつローガンの魔法について教えてくれた。

ローガンの魔法は『攻撃すると結果が先にわかる』というもの。

ローガン自信は『未来視』と呼んでいるそうだ。

例えばこの場で俺に剣で首筋に向かって打ち込んだら結果は剣は根元から無くなりローガンは足の健を切られた状態で敗北することになるらしい。

突きで俺の身体を突いても転がっている場所が違うだけでほぼ同じ結果。

散歩しながら攻撃する場所や手段を変えて何百、何千通りと試してみたが勝てる手段がなかったという。


 実際のところ炎帝相手なら9割は真正面から戦っても勝てる。

しかしどんなハプニングがあるかわからない。

剣が折れたりこちらにだけ邪魔が入ったりなどで1割負けるとそのときは死と同義なのだ。

だから普通はその脅威を減らすために1度目の戦いで命まで取って終わらすのだが『未来視』がある限りそのリスクは避けられるのだ。


 逆に言えばほぼ負ける相手でも1%の勝率でもあればそれを毎回引ける。

その勝ち筋を選んで攻撃すればいいだけなのだから。

そりゃあほとんど無敵のはずだ。

それでも俺相手ではどうやっても勝てなかったらしい。

ドラゴンの肌着と『転移』のおかげだろう。


 「毒や薬系は使おうとは思わなかったのですか?」


 「ワシが若かったら考えていたんじゃがな、そこまでしても勝てるかどうかはわからんがの」


 「僕としては戦わなくてよかったです」


 「そこまで強いくせにのぉ、まぁ死ぬ前に出会えてよかったわい。ティル殿の相手となるのは『王の器』を身に着けた王ぐらいかのぉ」


 「へぇ、『王の器』ってそんなに凄いのですか?」


「そうじゃな、例えばこの国の王の持っているドラゴンの装備に加えて『王の器』である槍を使われたらワシの攻撃は通らんじゃろうな。もっとも『王の器』自体がいつでも使えるわけではないし鎧など着けたら1対1なら持久戦に持ち込むなどの戦いようはある。フル装備の王と真正面から戦うなどの機会はないじゃろうけどな」


 そりゃあそうだ。

国王などその国の民でも顔を見たことない国民の方が多い。

ドラゴンの装備なら『消去』は通用するんじゃないか?

戦ったときの戦法などを考えるぐらいはいいだろう。

どのみちローガンの言うとおり、国に1つしか無いレアな装備をつけた王と戦うなんてことが起こるはずもない。


 その後は俺では酒の相手にならないと思ったのか1階に行き親方たちと飲み始めたようだった。

いくつかおつまみを出したりしていたところで院長の話になった。

どうやら院長とは昔からの知り合いのようで隣の孤児院に迎えに行かされた。

飲み会に院長も加わったので俺の手には負えないことが確定し自室に戻って寝ることにした。


 朝方、冒険者の仕事をするために準備をして階下に降りると潰れて床に寝転んでいる人たちが大勢いる。

たまにあることなのでいつも通り少し音を気にしながら通り過ぎる。

音を立てても起きないだろうことはわかってはいるがわざとたてることもないだろう。

壁にもたれて眠っているローガンの横を通ったときに声がした。


 「この不意打ちでも無理か」


 ニヤリと笑いかけられる。

おそらく『未来視』で攻撃されたのだろう。


 「気を張ってるのは疲れるのでもう許してくださいよ」


 「嘘をつけ、そこまで気にしてないだろう。もっとも知り合いになったからなのか足の健を斬られることもない。その必要もないほど実力に差があるってわけだのぉ」


 院長の知り合いなわけだし対処できるのならそこまで動けなくするつもりはない。

そんなところまで見抜かれているのだろう。


 「ワシもそろそろ行くとするか」


 そう言って立ち上がり俺についてくる。

お酒の入ったビンを手に持ったところが酒飲みらしい。

昨日の散歩と同じように門に向かってふたりで歩きながらローガンは話を続ける。


 「ワシを倒せば10傑と呼ばれるのは確実、そうなれば雇いたがる貴族も多いし美味しい仕事なども争って持ってくるぞ?低ランク冒険者などせずとも金に困ることは無くなるのだが・・・そんなつもりもなさそうじゃな」


 こちらが答える前にそのつもりが無いことはわかったようだ。

少し言いにくそうにさらに言葉を続ける。


 「ワシはティル殿と戦おうとは2度とせんことを誓う。正々堂々と戦うだけではないことを散々言っておいて信用できないじゃろうがティル殿の強さの秘密を教えてもらえないだろうか?もちろん他言はしない。どう考えてもわからんのじゃ。魔法を使っているのはわかるがどんな魔法なのか想像もつかん」


 俺でもどんな魔法を使っているのか知ったら対応しやすくなるのはわかる。

戦う者の常識として自分の魔法をさらけだすことはない。

ローガン自身が本人の魔法のことを話したのが不思議なぐらいなのだ。

もっとも知っていても対応できない魔法であること、負けを認めた理由とその誠意を表すこと、などの理由はあっただろう。


 ローガンの魔法を知ってから自分の魔法を晒す。

これはお互い様のようでそうではない。

ローガンが魔法の効果を教えてもらってから対応策を考えれば勝率は上がるだろう。

そして勝率が0%から0.1%に上がった時点でローガンにとっては勝ち確定なのだ。

本人の魔法をばらしてもバラした相手を倒していなくなれば問題は無い。

わざわざ先にバラしたのも断りにくくする作戦と言うこともあり得るのだ。


 そんなことを考えたが今のローガンにはそんな感じはしない。

むしろ俺の魔法もバレても対策しにくいはずだ。

教えてもいいかな、と思ったが門を出たところで2人のローガンと同じ武道着を着たハゲ頭で長身の若者が2人駆け寄ってきた。


 「師匠!やっと見つけましたよ!」

 「まったく、すぐにひとりで出かけるのはやめてください。護衛として困ります!」


 「ふん、わしより弱いくせに何が護衛じゃ。ワシが負けるような相手ならお前らにはどうにもできんじゃろ」


 「そっ、それはそうですが・・・」

 「もう剛心流との会議まで時間がありません、ローガン様を連れて行くのも我々の仕事です!」


 「まったく、せっかく秘密を聞けそうじゃったのに、空気の読めん奴らじゃ」


 「ですが・・・」


 「まぁいい、ティル殿、またの機会にしたいがこれでもなかなか時間の取れん身でな。残念じゃが今日のことを思い出して色々推測しておくことにするよ。結論が出たらいつか会えたときにでも聞いてくれたら嬉しいんじゃがな」


 そう言って寂しそうな視線で見られると少し申し訳ないような気がする。

もっとも気がするだけでそんなことを思う必要はないことはわかっているのだが。

そこにロウが薪にするつもりでいるだろう丸太が目に入った。


 「あ、ちょっと待ってください。これをどうぞ、お土産です」


 それを手にしたローガンは驚いた顔をしたあと5秒ほど考え込んでから俺を見てニヤッと笑った。


 「なるほど、だいたいのことはわかった。勝てないわけじゃ。まだいくつかわからんこともあるがそれはゆっくり考えることにしよう。礼を言う」


 「いえ、ローガンさんが先に教えてくれましたので」


 「ふむ、これならドラゴンの装備を着けた内側などを攻撃できるかもしれんな・・・」


 ボソッとつぶやいた言葉から『転移』を理解したのだとわかった。

俺が渡したのは『転移』と『消去』で丸太を10㎝四方ほどの塊にしてその内側5³㎤をくり抜いたものだ。

ただしくり抜いた場所は上部の0.1mmほどを残した部分。

さらにそこにローガンが持っていた酒を『転移』させた。

薄皮でこぼれるのを防いでいる升のようなものだ、それを見てすぐに何が起きたのか理解した。

さらにそのお返しではないだろうがもし王と対峙したときこの能力を使っての対策まですぐに考えたのだからさすがというしかない。


 「そんな戦いが起こるとは思えないですけどね」


 「そうは思うがな、人生とは何が起こるかわからんから面白いんじゃよ」


 最後に老人らしい言葉を残して渡したお土産を掲げて見せてローガンは去って行った。

俺と違い自らの努力で30年以上も世界一の強さを誇った男に自然と頭を下げて見送った。


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