番外編7 エピソード0前編
「こういうのって中世ヨーロッパ時代とかが舞台なのが普通なんじゃないの?」
思わず愚痴をこぼしてしまう。
私がお見舞いに病院へ向かう道中でトラックにはねられたと思ったら神様の前にいて異世界を救ってほしいと連れてこられてから1週間がたっていた。
神様にいくつかのチート系の魔法をもらい異世界を楽しむつもりがやってきたのは中世どころか家は洞窟で狩猟生活をしている石器時代レベルだった。
言葉は神様に貰った翻訳魔法で通じるが文字は無く、国どころか集落が点在しているだけのレベルなのだ。
「そうだなあ、でもほら、スミレの料理程度で感動してもらえているんだからよかったじゃん」
そんな腹の立つ答えを言ったのは白山蓮。
私と一緒でトラックにはねられた仲間?である。
彼は高校の同級生で当時は同じグループにいてそこそこ仲もよかったのだが卒業してからは会えば話すがわざわざ会おうというほどではない友達でもないポジション。
「そうやな、高校の時のあのホットケーキは忘れられへんわ」
さらに関西弁で私を非難したのは灰田稔。
蓮とおなじく高校の同級生で同じグループだったが出身は関西で中学生の時に関東に来たくせにいっさい言葉を直そうとしないやつだ。
ちなみに3人とも同時期にトラックにはねられて神様の前にいたのだが同じ場所にいたわけでも連絡を取り合っていたわけでもない。
別々の場所で同時にはねられたのだ。
何らかの恣意的なものを感じるが神様はなだめるようにごまかしただけだった。
さらに突っ込もうとしたところ全員にマジックバッグを渡して見せてくれたところで「これがあの噂の!」と盛り上がってしまい話が別に移ってしまった。
神様が言うにはこの世界では魔物が強すぎて人類がなかなか発展しない、少し人類の手助けをしてやって欲しいということだった。
成功すれば事故の起こる10秒前の元の世界に返してくれるという約束も取り付けて私たちは承諾した。
事故を偶然と言い張っているだけに断ったらそのまま死ぬ未来しかないのなら選択肢はなかったのだ。
「ちょっと生クリームの砂糖と塩を間違ったぐらいでグチグチとしつこいわね!」
高校時代に昭和の漫画のような間違いをおかしたのは私なのでしかたがないのだがいつまでも昔のことを言わないでほしい。
ホットケーキにデコレーションしようとして生クリーム係になったけど会場を提供してくれた友達の家の塩入れが私の家の砂糖入れと同じだっただけだ。
今では喜んでくれる彼氏・・・はいないが少なくとも自炊で生活できているぐらいの腕にはなっている。
ちなみに今いるのは入り口が3つある洞窟の前で狩ったウサギの魔物を捌いて鍋にしているところだ。
もちろん塩で味付けしている。
こんな洞窟が偶然会ったわけではなく私が貰った特殊魔法『転移』で掘ったのだ。
この『転移』が思ったより使い勝手が悪く5㎝角ほどの範囲しか転移させられなかったのだがどうやら形を変えられるらしくて入り口と出口をわけて作ればどうやら空間を繋げられるとわかったのは一昨日だ。
それでやっと木の根元などでの野宿から解放されていた。
改めてこの世界での目的と現状を話し合う。
まずは魔法。
私、黒野スミレ。
特殊魔法『転移』
白山蓮。
特殊魔法『使役』
灰田稔。
特殊魔法『全身装備』
そしてそれぞれが『火』『水』『風』『土』の基本魔法に加えて『鑑定』『身体強化』『自然治癒』『魔法習得』『魔力回復』『自動翻訳』をそれぞれ貰っていた。
ちなみにこの魔法だけでこの世界の人間には傷すらつけられることはないしほとんどの魔物に負けることはない。
強い魔物や虫型の特殊な魔物などがやっかいだが冷静に対策を練れば今の私たちでも即死させられることはなさそうだ。
今のところ絶対に勝てない敵と言えばファンタジー世界のお約束であるドラゴン。
ドラゴン相手では物理も魔法も効かない。
ただし持っている魔法は強化できるとのことなので経験を積むしかない。
そして目標はこの世界での人間の文明を上げること。
この世界には獣人もいて人族よりは身体能力は高いが魔物を相手にするとそこまで変わらない。
お互いに憎み合ってはいないが協力もしないと言う程度の関係のようだ。
そもそも敵対している暇はないのだろう。
ある程度の情報は神様に貰ったのだがこの世界の今いる大陸はほぼ円形である。
中心に大きな穴が開いておりそこから魔素が湧き出している。
魔物はその魔素を魔力に変換して魔法を使ってくる。
魔物は弱肉強食、その頂点にいるのがドラゴンで支配区域は中心の穴を主として大陸全域である。
問題点は家のようなものを作ってもドラゴンや魔物が来て襲われること。
それはそうだ、人間を餌だと思っているのなら巣である家を襲撃するのが効率がいい。
なので今バラバラに集落が分かれており目立たないように洞窟に隠れ住んでいるのは間違いではないのだ。
「それで何か解決策はある?」
そうたずねてみたがいきなり答えられるようなものでもない。
魔物が来ない地域を作る、魔物の襲撃があっても脅威にならないようにする、思い浮かぶのはその2つ。
前者はこの大陸全域がドラゴンや魔物の生息区域なのだからどこかに入ってこれないような区域を作るか大陸の外に違う島を求めるか島を作るか。
後者は魔物を退治するか追い返すかできるほど強くなる。
退治するなら強くならなくてはいけないが今のところ魔物最弱といわれているウサギの魔物も人類にとっては脅威のレベルで追い返すなら砦や壊れない建造物が必要だが弱い魔物ならともかくドラゴンに通用する砦というのは難しい。
大陸の真ん中から魔素があふれてくるだけあって強い魔物は大陸中心部にいるようだがやはりドラゴンの存在が問題だ。
どうやら魔物を私たちが殺し尽くしても魔素があふれてきている限り新しく魔物は生まれてくるようなのでそれもできない。
「あー、まったく。どうしたらいいのかわかんねーよな」
蓮がそうぼやくがそこまで悲壮感はなさそうだ。
「そうやなぁ、まぁそんなすぐに解決できるんやったら神様にもできるやろ。ゆっくり考えよっか。ここの生活も思ったより悪くないしなあ」
稔もそんな感じだ。
ここに来てまだ1週間でチート能力ももらっているが早く帰りたいという気はなさそうに見える。
「向こうに早く帰りたいとかはないの?」
思わず二人にそう聞いてしまった。
友達と言っても高校卒業から5年以上会ってないのに踏み込んでいいのかと思ったがあっさりと答えてくれた。
「俺は元々天涯孤独なんだよ。施設出身だし高校は出させてもらって就職もできたけどブラック企業そのままって感じでさ。焦って帰ってもあの生活があるだけだと思うとなあ」
「あ~、俺もやな。高校を出てすぐに両親が事故で亡くなって大学やめて就職して。彼女と結婚するとかの話もあったけど振られたところって感じやな。その原因は俺もブラック企業で働いてて会う時間もなくて浮気されたんや。理由はお決まりの寂しかったから、やな」
「うわぁ、彼女がいただけ羨ましい、って思ってしまう自分が情けないけど稔もたいがいだな」
そこからお互いのブラック企業あるあるで盛り上がっているのを眺めていた。
ふと蓮が私のことを聞いてきた。
「私もよく似たような感じかな。話してるブラック企業度合いはわかるし心配してくれる親はいないし。彼氏も事故で亡くなったところだし」
「そうか、偶然と言うよりは神様がそういう人間を集めたんかもしれへんな。失敗してもいいように」
少し沈黙が流れた。
だが私は元の世界に戻りたい理由がある。
彼氏は事故で亡くなったがその弟がいるのだ。
彼氏の両親は早くに亡くなっており弟は病弱で彼氏は弟の面倒を見ていた。
入退院を繰り返していたが退院したときにはデートにも連れてきていた。
私も仲良くなって早く結婚したらいいのに、などとからかわれていたものだ。
そんなときに亡くなって彼氏の心残りはその弟のことだと思う。
私もそうだったが弟の悲しみようは見ていられないほどだった。
それが原因かはわからないが容態は悪化して入院したままである。
入院時の保証人などになった私が死んだりしたら弟はさらにつらい立場に追いやられるだろう。
できれば私の事故の10秒前の世界に戻りたい。
一応そんな身の上話もしてみた。
「それは戻りたいよな。じゃあ向こうの世界に後腐れのない人選って訳でもないのか」
「いや、どうやろ?彼氏ならともかく彼氏の弟まで考えてないって可能性もあるやろ」
「そっか、でもまぁ考えても結論なんて出ないしな。とりあえずは神様のクエストとして頑張ってみるしかないんじゃないか」
「そうやな、それがスミレのためにもなるんやったらいいことやしな」
「そっか、ごめんね。元の世界に戻らないっていう選択肢を選んだら神様のクエストも気にしないでもいいんだ」
「いやいや、それならこのままの世界で洞窟に隠れ住んでるだけで終わっちゃうから残るにしてにしてももうちょっと生きやすい世界にはしたいとは思ってるよ」
「そうやな、それにさすがに生活レベルが悪すぎる。元の世界に戻って死んだと思ってやり直した方がええかもしれん。クエストクリアで報酬とかもらえるならそっちの方がええしな」
「そうだなあ、娯楽も何もない世界だしさすがに残りたいってわけじゃないしなあ。帰れるなら帰りたいほうが強いかな」
「どっちにしても数日でクエストクリアってわけにはいかんやろ。年単位、もしくは10年単位でのクエストや。どうせ元の時間に戻れるなら焦らんとゆっくりやろうや」
ふたりが笑いかけてくれる。
そうなのだ、焦って死んだらどうにもならない。
時間的なことはどうなってるのかわからないが元の時間に戻れるならこっちで焦る必要はない。
「そうね、ありがとう。ゆっくり頑張ろうか」
いつまでも火を使ってたら魔物もそうだが虫も集まってくる。
食事を終えるとたき火を消してそれぞれの洞窟に戻った。
元の世界では落ちこぼれた3人かもしれないが仲良くやっていけそうなのは重畳なことだ。
この世界に来てから5年が過ぎた。
魔法のレベルも上がって基本魔法は全て極めたし、もらった魔法もレベルアップしたり新しい魔法を覚えたりして普通のドラゴンていどならこちらには傷すらつかなくなった。
私は『空間魔法』を覚えてそれに属するいくつかの魔法を覚えた。
その中に『転移』の上位互換のような魔法がある。
覚えたときは同じ魔法かと思ったのだが5³㎤の制限などもなく行ったことのある場所ならどこにでも行けるの上位互換のようで最近ではそちらばかり使っている。
『治癒』も覚えて今のレベルでもほとんどの身体異常を治すことができる。
『鑑定』は私のレベルが上がったからか鑑定できるものも増えていた。
白山蓮
『使役』が『使役(極)』になりドラゴンですら使役することができるようになった。
『拡大』を覚えた。
使役する際に使用する魔力でできた首輪を魔物に取り付ける際に使っている。
『怪力(極)』も覚えて何トンあるかわからない岩を持ち上げる様はまるで漫画を見ているようだった。
灰田稔。
『全身装備』は一瞬で鎧、兜、武器を装備できる魔法で軽装するしかない森の中では重宝する。
その装備もレベルが上がったのか今では普通のドラゴンなら息だろうが牙だろうが攻撃を通さない。
さらに特殊魔法『作成』と『鍛冶』を覚えた。
『作成』は材料があれば家だろうと剣だろうと思ったとおりに一瞬で作ることができる。
『作成』で材料があれば剣が作れるということは『鍛冶』は自分自身の役には立たないのだが『鍛冶』でないと他人に教えることができないので文明を上げるためには『鍛冶』のほうが役に立ちそうだ。
あとは森の中で魔力を含む鉱物を見つけた。
もちろんこの世界でも未知の鉱物なので名前などはないが命名をオリハルコンにするかミスリルにするか悩んでいるらしい。
今は私の家でこの先の話し合いをしている。
ログハウスのようなものだが2階もある一軒家だ。
空間魔法の『隠蔽』で視界を歪めて魔物からは見つからないようにしている。
3人とも1軒ずつ持っていて普段はマジックバッグにしまっている。
ちなみに空間魔法の『空間収納』で何トンでも収納できる上に全員が数トン入るドラゴンの魔石で作ったマジックバッグを新調して持っている。
それでもあまりに大きいものは『転移』でしかマジックバッグに入れることはできないので普段は私が家を預かっている。
私の家に集まったのは蓮と稔の部屋が乱雑で片付けから始めないといけないことともうひとつは2人に最近彼女ができたことだ。
ちなみにその彼女たちにも家を作ってやっておりこちらは当然その場に固定してある。
ここと同じように『隠蔽』は私がかけた。
彼女がいる男性の部屋に遊びに行って恨まれるのは嫌なのだ。
「まったく、こういうときって男2人に取り合いされるのが王道じゃないの!?」
お茶を育ててる集落があってそこから紅茶を作ってもらったのでそれを入れてやりながら2人に話しかけた。
「ないない、この状況で2人が付き合って残りの1人になるなんて居心地の悪さしかないじゃねえか!」
「だいたいスミレも俺たちに取り合いされたいって気持ちなんかないやろ?」
「まぁ、ない、ね。でもまさか現地で彼女作るとは思わなかったからね」
「スミレも結婚話いっぱいもらってたじゃん」
「いや、それって全部集落の族長とかが私の力を手に入れるための策略じゃん。よくてその息子。あれはさすがにないかな」
「そうやな、男の立場が強いから結婚してやるって感じやったな。神様扱いしながら利用する気を隠そうともしてないのが頭悪いよな」
元の世界には及びもつかないがやっと美味しいと思えるぐらいにはできあがってきたクッキーもどきをお茶請けに出す。
「おっ、美味しくなってきたな。農業もなんとかなりそうじゃね?」
「う~ん、できないことはないんだけどやっぱり魔物だね。さすがに全地域を『隠蔽』で隠すのは無理だし」
「『隠蔽』して試しにやらせてるところはうまくいってるのになぁ、『隠蔽』なしやったら見つかった時点で荒らされるのはわかったしな」
全部解決してから文明を育てるのでは時間がかかりすぎる。
なので小さい規模で色々なことを教えながら魔法でカバーして農業や鍛冶などの武器作り、調理などを教えてきた。
もっとも1から畑を作る暇はないので1坪もないほどの小さな畑を『怪力』で作りそれを『拡大』して広げ、その後は『作成』で畑を作るなどとチートを使いまくっている。
おかげで現地の人間からはほぼ神様扱いだ。
その中の女性2人が蓮と稔を射止めたというわけだ。
もっとも彼女2人が知り合いというわけではない。
この大陸は東の沿岸部は断崖絶壁が多く暮らしにくいので西の沿岸部でほとんどの人間が生活をしていた。
蓮の彼女は北の沿岸部、稔の彼女は西の沿岸部で見つけたようでもちろん接点はない。
結論としてはやっぱりもう少し魔素の低い土地にすること、少なくともそれで強い魔物はあまり近寄ってこなくなる。
あともう一つ。
「あのドラゴンだよな?」
蓮が言うのはたまに見る普通のドラゴンではない。
何百年、何千年生きているのかもわからない、ドラゴンの王様みたいなやつのことだ。
『鑑定』で見たところ普通のドラゴンのステータス値が3000前後のところ、年齢から力、魔力、わかる全ての数値が99999でカンストされていた。
全長は1㎞ほどもあるだろうか、巨大な身体で初めて見たときには攻撃をしかける気持ちすらわかないほどの圧倒的な存在感だった。
ちなみに普通の成人男性なら1、戦えないような子どもなら0と出るぐらいの少々の強さの違いでは変わらない数値でだ。
今の私たちの強さで10000ぐらい。
作戦を練って10倍の強さの敵に3人がかりなら勝てるかもしれないがカンストしてるので実際のところ何倍かはわからない。
「そうやな、今の力ではアイツは無理や。下手に手を出して怒らせたら俺らが死ぬだけじゃなく人間が滅ぶ可能性もあるやろ」
「そうね、あのドラゴンが人間を敵と定めたら簡単に滅ぶよね。それに特殊魔法『見えざる爪』っていうのもどんな能力かわからないし。『転生』ってのもあったけど私たちみたいに転生してきた元人間とかじゃないよね?」
「ドラゴンに転生してっていうのはこんな世界やと無いともいえないけどわからへんな。爪のほうは名前の通りやったら見えない爪が襲ってくるんやろ?まぁあのドラゴンの爪が見えないだけで引っかかれたら即死やけどな」
「それだけでも危ないけど『鑑定』のレベルがマックスになってやっと見れるような能力だ。どっちの能力も想像だけで決めつけるのは怖いな」
「もっと私たちが強くなるか倒す策ができるまでは手出し禁止ってことね。怒らせたら敵対行動に出るかもしれないから一発勝負だと思っておいた方がいいわね」
そのドラゴンは大陸中央の魔素が出る穴辺りを生活区域にしている。
今のところはおとなしくしている。
だが寝起きが悪かったのか頭をもたげてブレスを吐いたところを一度見たがそれだけで数キロ四方の木々が吹っ飛んだり倒れたりした。
これはたぶんブレス『風』で他にも『炎』『氷』の能力を持っていることも『鑑定』でわかっている。
この大陸の圧倒的な支配者、それがこのドラゴンでこれをどうにかしないと簡単に人間は滅びそうな感じだった。
この日できたことは他のドラゴンと一括りにしてたらわかりにくいということでそのドラゴンのことをマスタードラゴンと呼ぶことにしたということだけだ。
蓮と稔がなんと呼ぶか熱く話し合っていた。
他にも竜王、黄龍、竜帝などの候補があったようだが私に意見を聞かれたときに他をドラゴンと呼んでいるのによけいわかりにくいという理由でマスタードラゴンと言って決定したのだが2人とも他の意見をまだ捨て切れていないようだ。
後編は24日の予定です




