第11話 奴隷解放
疲れた。
とにかく疲れた。
王を倒した後カインが次の王になることは了承してもらった。
それはいいのだが今日一日で物事が起こりすぎた。
とりあえず休みたい。
しかしこの事態を考えると色々しなくてはいけないことが残っているのはわかる。
カインも当分休んだりできないかもなとつぶやいている。
そこに現れたのはさっき見逃した変わり者の文官とイーシリー伯爵の子分だった貴族だ。
変わり者の文官がルナーリア侯爵、子分はアズル伯爵。
ルナーリア侯爵は自ら全面的に協力する、と申し出た。
元々貴族のやり口に批判的だったそうだ。
ルナーリア侯爵が言うにはアズル伯爵はイーシリー伯爵に無理矢理従わされていただけで元々派閥などに属さない地味な貴族なのと仕事はできるということで一緒に仕えさせてくれということだ。
正直俺には判断がつかない。
カインが少し問答して取り合えずは信用することにするとの判断をする。
大丈夫なのかな?と聞いた時のカインの答えはこうだった。
「今彼らが何か画策するとしたら目的は王位を奪うことぐらいだろう。それしか俺たちは持っていないのだから。もしそれが成功して王になってくれるのならそれはそれでいいんじゃないか?」
今日の惨状を見て俺を騙して敵に回る気持ちがあるのならそれはそれですごい胆力だ。
ただし前王のような貴族特権のための政治ならすぐにまた倒されるだろう。
本人たちの前でそう宣言する。
そんなに王がポンポンと変更することがあり得るのだろうか?
『王の器』を賭けた戦いだと証言した兵士がいたら本当にそうできるのかもしれない。
それにこの2人を信用する理由は他にもある。
ここで2人を排除していたら俺たちはこの人数で国を動かしていかなければならないのだし、それは無理だ。
どこまでかは考えないといけないが信用するしかない状況なのだ。
王を引き受けたところなのにすでにそんな考え方ができるのはさすがカインといったところなのだろう。
「大丈夫ですって、今、王になったら1番苦労するっていうのは私もわかってますしあの強さを見せられて逆らおうなんて気にもなりません」
そしてルナーリア侯爵が最初にすることを提案した。
「とりあえず休んで全ては明日からにしましょう。雑事は私たちがしておきますので」
この提案には感謝した。
城の中の雑用はルナーリア侯爵たちと生き残ったもので片付けておいてくれるそうだ。
さすがに死体も多く雑に扱えないだろうと思ったが彼らが今までした獣人たちなどの扱いを考えたら雑でいいんじゃないかとまで言っていた。
国葬はするが合同でいいだろう、城の離れにいったん並べておきそのまま建物ごと火葬することになった。
一応炎帝が見張り兼記録者としてルナーリア侯爵についてくれることになった。
炎帝はこれぐらいでは疲れていないので大丈夫だとのこと。
さらに俺たちがこの後旧知の者たちに会うので炎帝は自分は驚かれるからいない方がいいとも。
カインはけっきょく炎帝の言い分を聞き任せることにした。
隠れているベイルとミー姉たちにも再会した。
その他の犯罪奴隷になった人たちは安堵の声を上げていた。
明日にでも解放できると思うと言うと明日まで炎帝たちを手伝ってくれることになった。
ここはもう協力してくれる人を拒むのはやめておこう。
その犯罪奴隷からの解放。
隷属の首輪を作る元『王の器』の鎖の欠片。
これ自身があるのなら解放は簡単にできるそうだ。
本来なら鎖と連携したアイテムがいるはずなのだが本体があれば鎖を逆側から通せば解除の魔石になる。
それを刺青に当てれば犯罪奴隷から解放されるというわけだ。
この鎖の欠片の属性をつけた魔石を使った魔道具と呪文によって犯罪奴隷から解放されるのだが大元の鎖の欠片が手に入ったのでもう必要は無い。
解放の魔道具はたぶんコングロレイト公爵の手にあるのだろうがそれも後にしよう。
カイン、ニル、リモ、ベイル、ミー姉をつれて『別荘』に転移する。
ミー姉を見てリンが駆け寄ってきた。
よほど心配していたのだろう。
みんなの顔を見てやっと全部終わったのだと実感した。
「あ~、ただいま。さすがに疲れたよ。でもこれで終わったと思う」
「「「「おかえり~!!」」」」
みんなで出迎えてくれた。
押し出されるようにミリアが俺の前に来る。
体調もよくなっているようだ。
「お、おかえり」
「うん、ただいま。体調は大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「よかった」
ミリアに抱きつかれた。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・」
泣きながら抱きしめてくる。
いつの間にか身長も追い越していたらしい。
目の前にある頭と獣耳をなでる。
久しぶりの感触だ。
顔を上げて涙を流しているが笑顔のミリアはかわいい。
思わず俺も笑顔になってしまう。
そこで周りがニヤニヤしながら俺たちを見ているのに気付きミリアを離す。
「なんや、せっかく会えたんやからイチャイチャしてもええのに」
リモの言葉に照れてしまう。
「後でゆっくりするからいいよ」
強がってそう言うが周りのニヤニヤはさらにひどくなるだけだった。
「もう、かなり落ち込んでたのにそんな気分じゃなくなっちゃったじゃない」
そう言ったのはミー姉で少し唇をとがらせながら続けた。
「犯罪奴隷だって言われて落ち込んでたのにみんなもそうだって言うし、それなのに皆は今まで通りで落ち込んでもないし、オマケにティルはイチャイチャしてるしさ。悩んでるのが馬鹿みたいじゃない!」
「あ~、うん。ごめんね、私たちは少し前に犯罪奴隷だって知ったところでさ。ミーちゃんは大変だったんだよね?モネさんも・・・」
「お母さんは・・・うん。でも私だけじゃないし。ティルが助けてくれたし・・・」
「あ、それでやっぱり犯罪奴隷からは解放できないのかな?駄目なんだったら私はティルの奴隷でもいいよ?」
「私はカインさんがいいな!」
「あ、私も!」
「私も!」
安定のカインの人気だ、さすがにカインと争う気はないがミリアがそう言わなくてホッとする。
「大丈夫、今から解放するから」
「あれって偉い人しか外せないんでしょ?協力してくれたの?」
「そのために戦いに行ってたんだよ。で、勝ち取ったってわけ。ちなみにカインはその偉い人になったよ。明日からこの国の王様はカインだから」
「「「「「は?」」」」」
全員が理解不能といった顔をする。
「王の座をかけて戦って勝ったからカインが王様になったんだよ」
誰と誰が、ということは伏せておく。
数秒の間があった。
「「「「「えええええええぇぇぇぇぇ!!!!」」」」」
全員の声が揃った。
とにかく話は後でいったん落ち着くことにする。
まずは城から帰ってきたメンバーの女性たちにお風呂に入ってもらう。
その間にカインと協力しながら皆を犯罪奴隷から解放する。
鎖に通した魔石を首に当てると黒い光が刺青を包み光が消え去ったときには刺青も無くなっていた。
実際に皆が犯罪奴隷だと自覚したのはつい最近だ。
それでも解放されたときの気分は今までとは違うようで頭の中にあったモヤモヤが消えたようだと口を揃えて言う。
「今まで全く意味の無いことに頑張らされてたんだね」
「そうだね、でも助かったんだから良かったよ。あのままだったらほぼ間違いなく殺されてたんでしょ?」
「そうだよ、どうせならここで助かって良かったって思おうよ」
同じ状況に置かれた人たちだ。
ひとりでは苦しいけど皆でなら乗り越えられるのかもしれない。
お風呂に入っていた女性たちが上がってくるとマリアさんがお茶を入れる。
ニルとリモがケーキの催促も忘れない。
その間に俺たち男性陣がお風呂に入り汗を流した。
出てくると俺たちにもコーヒーとケーキが用意されておりこれで本当に一息ついた気分になる。
「で、そこのカインちゃんが王様ってどういうことなのかねぇ?詳しく教えてくれないかねぇ?」
院長の言葉で改めて説明した。
どこまで皆が知っていいのかわからなかったので俺とカインとニルとリモに院長だけ別の部屋に呼んで。
首輪の解放のためにはこの国の上位貴族の持っている権限がいったこと。
この国ではコングロレイト公爵が持っていたこと。
コングロレイト公爵はエリクサーの開発を進めておりその材料が人間だったこと。
さらにその人間は首輪を透明化した人間の予定で犯罪奴隷だということを隠して犠牲にさせるつもりだったこと。
解放するつもりは無かったので敵対するしかなく結局は公爵どころか公爵を含めたかなりの数の貴族を倒したこと。
そのついでに王も倒して『王の器』を賭けた戦いに勝ったこと。
それでカインが王になったこと。
ただし王を倒したのはカインと言うことにしている。
カインは何かを言いたそうだがそれは諦めてもらおう。
ここで俺が王を倒したけどカインに譲った、などと言っても誰の利益にもならない。
「ほぅ、あの王はドラゴンの装備を持っていたよねぇ?さらに『王の器』を賭けたということは槍も持ってたんだよねぇ?『王の器』とドラゴンの装備を身につけた元10傑第2席のあの王を倒した、とねぇ」
「そうですね、実際倒しましたから」
院長は何となくわかっているようだがここは押し通すことにする。
カインは憮然とした表情だが反論するつもりはないようだ。
「まぁいいさねぇ、カインちゃんが『王の器』を持ってティルの作った装備で防御したら10傑の実力は余裕であるだろうからねぇ。確かにそうする方が都合がええかもしれんねぇ」
それはそうだ。
この先カインに死なれたりしては困るのでできる限りの防衛はしてもらうつもりだ。
ドラゴンの肌着一式はもちろん、盾や鎧もカインに合わせて作ってもらう。
マジックバッグに入れておけばいつでも取り出せるのだから遠慮はしない。
さらに様々な攻撃用、防御用の魔道具に『転移』の魔石、ハイポーションも大量に備蓄しておいてもらおう。
あとは暗殺や毒殺に対応するようにドノバンやベンたちと新しい魔道具の開発もやってみよう。
楽しそうだ。
「また何か常識外れのことを考えてないか?」
「い、いや、そんなことないって。カインの身を守る方法を色々と、さ」
「その色々が信じられ無いことになるんだよなあ」
「そりゃあこんなに色々と魔物がいるんだからその対応を考えていたらなあ。10傑程度の攻撃で傷なんて負ってもらいたくないしさあ」
「10傑程度って言えるだけでおかしいんだよ!」
「まぁいいじゃないの。そういうことはカインを守る立場になる私たちも楽になるじゃない。私も前にもらった杖だけでも国宝ものよ」
「うちの弓もそうや。オマケに盾どころか肌着でさえ炎帝の攻撃を難なく防いだんやで。炎帝の杖も同じドラゴンの装備やのに傷もつかへんかったわ」
「ほぅ、炎帝の杖で傷すらつかんかったんかねぇ。しかも炎帝が持っとってねぇ。それはちょっとおかしいねぇ。ティル、あんたが倒したドラゴンってどんな奴だったんかいねぇ?」
院長の話では一口にドラゴンと言ってもその中で位があるようだ。
位の一番下のドラゴンでも人間にはどうしようもないから考えても仕方がないのだがドラゴン同士で戦うこともあるそうだし強い弱いがあるのは当たり前だろう。
人間が手に入れられるのは位が下のドラゴンだそうで負けたり死んだりして素材になったのだからそうなるのだそうだ。
位が上のドラゴンは人間が生活し始めた頃にはもう存在していて寿命は数万年とも言われるがもちろん観測などできないので言い伝えでしかない。
院長に詳しく聞かれて俺が倒した状況やドラゴンの形状を話した。
「それは・・・ドラゴンの王かもしれないねぇ・・・」
「ドラゴンの王、ですか?」
「竜王、竜帝、黄龍、マスタードラゴン、いろんな言い方はあるさねぇ、世界のドラゴンを統べる存在と言われているんだけどねぇ」
「でもそれは存在を確認すらされていない言い伝えでは?」
カインも知っているようだ。
知っていると言っても知識としてだけで実物はもちろん見たことないだろう。
「それがねぇ、ティルにマジックバッグを作ってやったときに使った魔石なんだがねぇ、あれがそうじゃないかい?いくらドラゴンの魔石でもあれほど魔力を奪われるのはおかしいと思っていたのさねぇ」
「なっ・・・、ティル、ドラゴンの魔石使ったのか?しかもマジックバッグに?国とでも交換できると言われる物だぞ?しかもドラゴンの王の魔石となるともう値段もつけられないぐらいだぞ!」
「いやいや、待ってよ。国と交換って容量の大きいマジックバッグのほうがいいに決まってるだろ?別に武器とかに使いたくもないしさ」
焦っていたカインだが考え直したようだ。
「そりゃあそうか、考えたらティルは今回交換しなくても実力で国を手に入れたようなもんだしな。武器に使ったらまた新しい国同士のもめ事になりそうだし・・・考えたらそのマジックバッグはこの『別荘』が入るんだよなぁ。やばい奴の手に渡ったら面倒くさいことになりそうなのは変わりないか」
「大丈夫じゃない?マジックバッグの入り口が小さいから普通に取り出したり入れようとしてもできないしさ。『転移』の魔法がなければそうそう使い道がないって」
「あ、そうか。じゃあ悪用されないってことだな」
「俺がしない限りは、だね」
「それはないだろ、マジックバッグなんてなくても国を手に入れられるんだ。悪用する必要がない」
「あんたたち、隠すつもりじゃなかったのかねぇ?」
「「あ・・・」」
ばれてると思い俺が王を倒したことを暗に話してしまっていた。
「まぁいいさねぇ、私がどうこうすることはないよ。あんたたちの時代だ、好きにするさねぇ。でも国の運営ではうっかりでも大事になるから気をつけるさねぇ」
何も言い返すことはできなかった。
せっかくミリアと再開できたのだから2人でゆっくりしたいと言う気持ちもあったのだが明日からカインは王様になる。
さすがに後は任せたと言って逃げるのも申し訳ないのである程度の方向性を話し合った。
まずは獣人差別の撤廃。
元々犯罪者でもないのに勝手に犯罪奴隷にされそれを咎められないのがおかしいというところからこの問題は始まったのだ。
これがおかしいというのはカインとも意見は一致している。
かと言って獣人を優遇する、となると立場が逆になるだけで問題は変わらない。
獣人を差別することを禁止したからそれで世の中から差別はなくなる、なんていうことはもちろん不可能だ。
差別をしたら訴えられる、法によってきちんと裁かれる、最初はそれでいいかもしれない。
差別をする貴族はほとんど倒したはずだ、後ろ盾になる者もいないということで以前よりは良くなっていくはずだ。
次にその貴族たちの領地。
大勢の貴族が死に後継者争いなどもあると思う。
領地を持っている貴族たちは数十いるがこのまま領地を認めるかどうかの問題もある。
ほぼ全ての領地で頭首がいなくなったのだ。
協力的な領主は残してもいいが基本的には敵である前王に与していた者たちで反発されるのは明らかだ。
ここにカインが説得してたりしたらいつまでたっても国の運営ができない。
改めて話し合う必要がある。
もうひとつは外交。
エイト国のカインの兄とはうまくやれそうだ。
問題はセブン国。
最近はあっても小競り合いだったがいまはこっちの軍も崩壊している、チャンスだと判断して攻めてきてもおかしくない。
ここも考えなければいけないだろう。
「やっぱりやることがありすぎるな」
ため息をつきながらそうこぼすカインだがやりがいもありそうだとも言っていた。
国の行く末ではないが気になったことがもうひとつ。
ある程度の話し合いを終えて皆の元に戻った。
そのときミリアに会ったニルが言ってたのだが、ヴィットリアで助けた犯罪奴隷たちの中にミリアと同じアンクレットをしていた女性がいたというのだ。
ミリアに聞くと妹のリーリアもお揃いのアンクレットをしていた、母の手作りで同じ物は他にはないはずだとのこと。
もちろん似ているだけということは十分にあり得る。
でも同じくゲーレンに連れて行かれたのなら違う場所でゲーレンの息のかかったお店で働いていてもおかしくはない、というよりは可能性はかなり高いだろう。
「リーリア・・・」
思い出したのか再び涙があふれてくるミリア。
会えるかもしれないという希望を持てたのだ。
ヴィットリアの町の犯罪奴隷にされた人たちも助けなければいけないし再会した俺たちの最初の行動はどうやらヴィットリアにいくことになるようだ。
その前に明日に備えて今日はゆっくりと休むことにする。
皆がそうしろと言ってくるのだがまさかこんなに大勢の知り合いがいるのにミリアと2人で寝れるわけがない。
そんなことを話していたのだが結局はいつの間にか力尽きたのか途中から飲み出したお酒が回ったのか皆が雑魚寝のような形で眠り込んでいた。




