第10話 王の間での戦い
公爵や王の妻子の死体を残して部屋を進む。
王の間と呼ばれる玉座に近い部屋に王はいることが多い。
その奥には『王の器』がある隠し部屋があると言われているがもちろん王に無断で確認などはできるはずがない。
王の間の前に立った。
この状況でももちろん王が単身でいるなどということはない。
2人の甲冑を着た護衛が槍を構えた。
甲冑ごと横薙ぎに『消去』する。
鍵はかかっていないが装飾もこっており重そうな横2m縦4mほどの両開きの扉が閉じている。
ドアの重さで力を試しているわけでもないだろう、右側の扉を押してみると1人でも動かせた。
さすがに警戒しながら少し開ける。
50㎝ほどの隙間から一瞬だけ覗いてみると矢が5本ほど飛んできた。
顔を戻してかわすが今まで顔があったところに矢が刺さっているところを見ると弓兵の腕はいいのだろう。
最初から覗くだけのつもりじゃなかったら危ないところだった。
ここまできて簡単に倒されるのも馬鹿らしい、慎重に視界の転移を使えばよかったのだ。
マジックバッグから大型の盾を取り出した。
これはドラゴンの翼と翼部分の細い骨を組み合わせて作った物で何より軽くて取り回しがしやすい。
さらにドラゴンの防具なので人間の武器を使った攻撃力程度では傷もつかないし魔法も通さない。
今着込んでいるドラゴンの皮膜でできた肌着でも充分な防御力なのだがどうしても動いたときの首筋や顔などの覆えない場所があるのでさらなる安全策というわけだ。
相手の技量がどこまでなのかはわからないが目などに攻撃をされたらハイポーションで治すにしてもその時間の間に攻撃されたらたまらない。
いきなり全員を殺害してもいいのだが一応王には聞きたいこともある。
盾を構えてそれに隠れながら部屋に入った。
再び矢は飛んでくるが盾に刺さることもなくはじき返される。
盾に隠れながら視界の『転移』で周りの状況を見る。
そんなに広い部屋ではない。
見える限りでは隠し扉はわからず出入り口は入ってきた扉だけ、20m四方ほどの広さで1番奥に金色の甲冑を着ているのが王だろう、右手には漆黒の槍が握られて左手の肘から先に小さめの盾が持たなくてもいいように装備されている。
その両横には2人ずつが甲冑を着込み剣と盾を構えている。
部屋の左右には等間隔で左右ともに5人が弓を構えてこちらを狙っており1番手前の部屋の隅、両横からも狙いをつけられていた。
今のところ開けた扉で右側の弓兵からは死角になっているはずで左側の弓兵のほうに盾を構える。
次に攻撃してきたらまずは弓兵を『消去』しよう。
そう思ったところ先に王から声をかけてきた。
「よくここまで来たな、コングロレイトは通してくれたのか?あいつも気が利くようになったな。さぁ、久しぶりの実戦、しかも時期のいいことに『王の器』も持っている。楽しみだ」
『王の器』は持っている槍のことだろうか、嬉しそうに槍を掲げながら話している。
記念式典のために普段は隠している槍を出してきたので飾るのではなく実戦で使えるのが嬉しいのだろう。
「ハッハッハ、入ってこないのか?この『王の器』があればこの国の王になる資格も得られるんだぞ?」
「いや?それはいらない。俺はとにかく騙して犯罪奴隷にした俺の知り合いたちを解放してほしいだけだ」
「は?馬鹿か、お前は?それだけのためにここまで来たというのか?それとも戦うのが怖くて逃げ出したいということか?」
「俺は最初からそう言っているだけだ。それを騙したり相手にしなかったりで押し通そうとしているのがお前たちだ」
「では今から解放してやると言ったらワシの部下になるか?ここまで単独でこれる男を殺すのも惜しいからな」
「今まで散々そういう言葉に騙されてきた、今すぐにでも解放しない限り信用はできない。首輪を透明化できるような奴もいるみたいだしな。何より騙したのがそっちだとしても俺はお前の部下や王妃に王子も殺した、それでも許せるのか?」
「ほぅ!王妃と王子を殺したとなれば許すわけにはいかんから戦うしかないな」
そこまで怒っている様子ではない、王として妻子を殺されたから外に向けて許すとは言えない、程度の感情しか乗っていなさそうだ。
「自分の妻子を殺されてそれぐらいでいいのか?」
「んっ?おぉ、わかったか。あの馬鹿王子に王位を譲るのは不安でもあったのだ。王妃が他の候補を潰しまくったから他がおらんと言う話だったがな」
「それで怒ってはいないと?」
「いや、そうでもない。新しい後継者は今からでも作れるし王妃がいなくなれば今度はもっと多くの選択肢も取れるだろう。だが他の妾を潰されるのを許しておったほどには愛情もあったのでな」
「じゃあ犯罪奴隷からの解放はしない、と?」
「したかったらワシを倒してみるんだな。ちなみに『王の器』とシックス国に代々伝わるこの甲冑を身につけて戦って負けたことはない。10傑の第2席などと呼ばれたこともある。戦う機会がなかったが第1席にも負けんだろう」
「でも第2席だったわけだ?周りの評価の方が正しいんじゃないか?あのじぃさんより下で俺に勝てるとでも?」
「ふっ、まるであいつと戦ったことがあるような口ぶりだな!馬鹿にするのもいい加減にした方がいいぞ」
「さぁ、どうかな」
ガキィン!!
大きな響く音がした。
ドアから一歩踏み入れて『消去』で『王の器』の槍を切断しようとしたのだが槍は切断されずに王の手に残ったままだ。
「ははっ、何やら攻撃をしたようだが『王の器』が斬れるわけなかろう!この甲冑もだ。この状態のワシを傷つけられる者はおらんのだ。」
初めて『消去』ができない物を見た。
さすがに焦った。
さらに弓を持った両横の壁の兵士たちが弓をこっちに向ける。
「ほれ、ワシを倒して王になる以外に奴隷を解放する手段はないぞ。どうする?逃げるか?逃げれるとは思わん方がいいがな」
この王は戦いたいのだろう。
ドアから入ったのに弓兵は矢を射かけてこない。
さらに横のたぶん護衛だろうが剣を持った2人も構えてはいるが攻撃してくる様子がない。
王に横やりを入れるのを止められているのだろう。
先に周りを倒しておいた方がいいだろうか?
少しの迷いの間に王が間を詰めてきた。
10m以上離れた距離を数歩で詰め槍で突きを繰り出す。
反射的に突き出された槍に『消去』を出すが再び大きな音を立てるだけで斬ることはできない。
慌てて横によけるが数歩詰めてきた時間がなければよけることはできなかっただろう。
さすがに元10傑第2席と呼ばれることはある。
「それでよくコングロレイトが通したな?それとも安全だと思ったから通したのか?それなら馬鹿にされたものだ。まぁいい、今のワシの前に立ったことを不幸だと思え」
純粋な実力では勝てない。
最強を目指したわけでもないし日々鍛えてはいるつもりだが漫画で言う修行パートをしたこともない。
王宮守護兵程度なら個人の武力でも勝てるが才能がありさらに本格的に鍛えた人間には及ばないのはわかっている。
王しかり、コングロレイト公爵しかり。
王は部屋の真ん中で槍を構える。
槍先をこちらに向けて腰を落として。
精神集中しているのか王の周りに魔力があふれ槍が光り出す。
視線はこちらで逃がすつもりもないとばかりに眼光鋭く俺を見ている。
「おっ、王、その技は王の身も傷つけてしまいます」
「この部屋どころか周りまで影響が・・・」
剣を持った兵士が口を出す。
「黙れぃ!!」
王の一言で周りの兵士が震え上がるほど身をすくめる。
「ワシが王になって20年、鍛錬は欠かさなかったし技術は上がった。しかし今がピークだろう。王子が王になるのならワシはまた戦いの場に行くつもりだった。しかし王子が死んだのならそういうわけにもいかん。これからも王の責務を負い次の王子が生まれて王になる頃にはワシの肉体は衰えているだろう。せめて今だ。ピークの最後、相手は役者不足だが本気のこの技を出してワシは戦いから身を引こう」
さらに眼光は鋭くなり槍の光が濃くなる。
「逃げれるなら逃げればいい、今から少しでも動けば例え瞬間移動や転移で逃げたとしてもその身を貫こう。だができれば技を最大限の威力で出せるまで逃げ出さなければその身を一瞬で葬り去ってやる、苦痛はない、安心しろ」
周りの兵士さえも立ちすくむほど。
これがオーラというものなのだろうか。
目には見えない圧倒的な圧力が俺を覆い尽くす。
実際に『転移』で逃げるには予備動作無しでは50mしか移動できない、この技の威力はそれ以上ありそうで逃げたところを認識されれば壁ごと貫いて攻撃されそうだ。
遠方に逃げるには『転移』の石を使わなければならないがその間に攻撃されるだろう。
弓を持った兵士たちが弓を下ろして俺に向かって盾を構える。
俺からの攻撃に対処しているのではなく王の攻撃がこっちに来たときの余波への備えだろう。
「ふふっ、ワシの人生最大の技だ、行くぞっ!」
槍の周りの光が収束されて槍に戻っていく。
魔力を槍に蓄えてそれも技の威力とするのだろう。
その光が収束されきる前に槍は地面に落ちた。
手から離れた訳ではない、槍は握られたまま。
手は腕に続き胴体に、さらに頭、腰にも続くがその全てが床についていた。
腰の下には両足がついておらず横には太ももの付け根あたりから切断された両脚が転がっていた。
「うがぁぁぁぁっっ!なっ、何が起こった!?」
『王の器』である槍には俺の『消去』は通用しないのはわかった。
でも甲冑はそうではない。
「これは王家に伝わるドラゴンの鱗から作られた甲冑だぞ?こんな簡単に切断できるしろものではないのだっ!おいっ、ハイポーションをよこせっ!」
自分の脚を手に取り傷口を合わせる。
ハイポーションをかけたらつながるだろう。
剣を持った兵士のひとりが急いでハイポーションを持ってくる。
だがあと1mの地点で首を切断され手からハイポーションのビンが落ちて床で綺麗な音を立てて割れる。
「うがぁぁぁっ!貴様かっ!おいっ!早く持って来いっ!ハイポーションだっ!」
こっちを見て叫ぶがまずはハイポーションが欲しいようだ。
弓兵たちも揃ってハイポーションを取り出そうとするが次々と首をはねる。
「うっ、うわぁぁぁっ!王っ!これをっ!」
最後のひとりであるもうひとりの剣を持った兵士が首を落とされる前にハイポーションを王に向けて投げた。
王はそれを左手で受け取る。
「よくやったっ!まだ槍の魔力は生きている。踏み込みさえできればこいつごとき!治れば一瞬で・・・」
左手が肘からずり落ちた。
同時にハイポーションも床に落ちるが足がなくて落とした位置が低かったからかビンは割れなかった。
「あぁぁっっ!!くそっ!ハイポーションがっ!足さえ治ればっ!!」
槍を手放して右手でハイポーションを拾う。
それを素早く両脚の切断部分にかけさらに左腕にもかけた。
右手で左腕を拾い上げ左腕の切断部分をつなぎ合わせる。
さすがの王が使うハイポーションで瞬く間に傷が塞がっていく。
「ハハハッ!これで俺の勝ちだ!」
右腕で槍を掴み拾い上げたが槍は地面に落ちたままだった。
槍を掴んだ瞬間に右腕を肩から『消去』したのだ。
驚愕の表情で槍をつかんだまま床に転がる自分の右腕を見る。
左腕で右肩を掴もうとするがその左腕も肩から再び『消去』する。
さらに今度は両脚を膝から。
先ほどと切断場所が違うのはハイポーションがかかっているからすぐくっつくかもしれないと思ったからだ。
両手両足を切断された王に近付く。
「おっ、おい、これは何だ?ずるくないか?こんなことあるわけないっ!」
「知らねぇよ」
「ワシはまだ全力の一撃を出してないのだぞ?あれならお前ごとき一瞬で消滅させてやれるのだぞ!」
「それになんだこれは、この甲冑は全身をドラゴンの鱗から作られていたのだ、こんなに簡単に斬れるはずがないっ!」
「こっ、コングロレイト公爵っ!助けに来いっ!早くっ!」
甲冑はドラゴンの鱗素材からのものだったようだ。
『王の器』は斬れなかったがドラゴンの装備なら余裕で斬れるのは当然だ。
ちなみに甲冑が斬れなくても甲冑の中身は斬れる、『転移』で甲冑の内側だけを『消去』すればいいだけの話なのだ。
なのでそこまで焦ってはいなかったのだが。
「公爵は死んだよ」
「なっ、まさかっ!あいつがっ!?わざと通したんじゃ?」
「そんなわけないだろ。ちなみにこの城の武装した奴はほぼ死んでいるはずだ。残念だったな、助けが来なくて」
先ほどから王の胸のあたりにある魔石が光っているのはたぶんコングロレイト公爵と通信しているのだろう。
対になる魔石を光らすことによって救援要請をしているのだ。
それも無駄なことがわかった王は手足がないまま後ずさった。
「ま、待ってくれ!ワシはこの国の王だ!ワシがいなくなれば国は乱れてセブン国が攻めてくるぞ!」
「だから?」
「わ、ワシならうまくやれる、殺したらこの国が終わるんだぞ?」
「この国が終わって何が困るんだ?お前の息子のために100人を犠牲にしようとしたりお前の政策で獣人や貧民が虐げられたり」
「そっ、そうか!わかった、お前の出身はどこだ?そこに金を回してやろう!お前の家族を貴族にしてやる!」
「ははっ、それを受け取ったらお前と一緒だろ?で、他の獣人たちを虐げて生きていくのか?」
「獣人は、あいつらは種族が違う!わかるだろ?魔法もろくに使えない、少し力が強いだけの頭の悪い種族だ。俺たち人族が使ってやらないと何の役にも立たない!」
「もういいよ、聞いてられない。お前も俺に対して役に立たないから殺していいよな?」
「だっ、だめだっ!何を言ってる!ワシが役に立つんじゃない、ワシのために役に立つやつがいるのだっ!」
「それが通ったのはお前が王で権力者で『王の器』を持って強かったからだろ?お前と意見の違うものを役立たずと切り捨ててきただけだろう?」
「お、王とはそういうものなのだ!国のために小さな犠牲は仕方がない!わかってくれ!」
「獣人を無実の罪で犯罪奴隷に落とすのが、スラム街で腹が減ってる子供たちを無視するのが、貴族が金儲けのために平民が犠牲になるのが国のためなのか?」
「そっ、そうだ、そのぶん俺たちが国を守ってやってるんだ。国を守るのが貴族の仕事だ!そのためならあいつらは自分の身体ぐらいでしか対価を払えないだろう?」
「じゃあもういらねぇよ。ほとんどの貴族は処分したし大元の王も両手足がない、これじゃあ守れないしな。役立たずだろ?」
「ちっ、違うっ!ワシはまだ大丈夫だ、ハイポーションで身体は治る。お前をコングロレイトの代わりに国軍トップに任命してやろう!平民からしたら最高の出世だろう!?」
「そんなこと頼んでないだろ、何で貴族とはこんなに話が通じないんだ。もういいよ」
「待ってくれ、助けてくれ!王だぞ、ワシはこの国で1番の王なんだぞ!」
「今まで獣人や貧民が助けてくれって言って助けたか?少しでもかわいそうだと思ったか?」
「あんな奴らとは違うんだ!獣人?貧民?どうでもいい!いいから早く助け・・・」
首を落とした。
何を言っても話が通じない。
これが貴族なんだろうなと思う。
元の世界でもそうだったが権力者というのはよっぽど自分が特別だと思う生き物らしい。
この世界に来て俺の力はかなり規格外のものだった。
常識では想像もできないほどの力。
なので何とかなったのだが逆に言えばこれぐらいの力がなければ権力と暴力の前にはどうしようもないのだろう。
「ふぅ」とため息をついていまだに王の右手に握られている『王の器』である槍を見下ろした。
これだけ常識外の力を持っていても傷つけることのできない『王の器』、やはり特別なものなのだろう。
拾い上げようとしたときにひとりの男がそれを止めた。
「待ってください!」
先ほど王にハイポーションを最後に投げた護衛剣士だ。
さらに何かを言おうとしたところで王の間の入り口が開いた。
「ティル、大丈夫か!?」
心配の声をかけてくれたのはカインだった。
「何だよ、終わってるじゃねぇか」
現状を見てそう言ったのは炎帝だ。
さらに後ろからニルとリモも入ってくる。
「あきれた、まだ戦い足りないの?けっきょくあの残りもほとんどあなたがやっつけたじゃない」
「ティル、ケガしてへんか?」
炎帝は犯罪奴隷の身分だがそこそこ仲良くやっているようだ。
「うん、大丈夫。終わったよ」
カインが改めて王たちの死体を見る。
「そうみたいだな、って、まさか王は『王の器』を使ってたのか?」
「あぁ、うん、式典で使うつもりみたいなことを言ってたから準備はしてたみたいだけど」
「王が『王の器』を使っての戦いか、ティル、この先大変だぞ?」
「えっ?何か違うの?」
「あ~、そうだな、でも奴隷は解放できるようにはなるはずだ」
「せっかくカインが手伝えば奴隷解放できそうだから借りは返せるかと思ってたのにね」
「まさか自分で解決するとはなあ、やるやん、ティル」
先ほどの剣士が再び割り込んできた。
「王が『王の器』を装備しての戦い、見届けました。これより新たな王として『王の器』を受け入れてもらいます」
「あ~、そうなるよな」
カインがニルとリモと目配せをしながらつぶやいた。
何でもカインの説明によると『王の器』を身につけて王が戦うということは『王の器』を賭けるということ。
それは負けたら王の座も譲らなければならないということだ。
『王の器』を賭けての戦いは今までも前例がないわけではないが王側が負けたことはこの国どころかすべての国でも今まで2回しかない。
それはそもそも王と直接戦うという状況がほぼないこと。
国の礎でもある『王の器』は普段は隠されていることがほとんどで王が勝てると判断したときにしか使われないこと。
何より『王の器』の武器としての優秀さで個人の力量を数十倍に引き上げると言われていること。
それらにより王の座は世襲制ではないと言いながらも結局は『王の器』を譲るという形で自らが選んだ息子に王の座も譲られることがほとんどであった。
その場合も一応は武を示したということで形ばかりの王と次期王の演武が行われるがこれは儀式みたいなものだ。
実際にこの国の王は1対1なら『王の器』を賭けた挑戦を受けると公言してきて挑戦者を退けてきたが国民の前で戦ったことはない。
誰でも簡単に挑戦できるわけではなくその前に武力を見せろと他の者と戦ってほとんどが敗北した。
式典などでたまに武力を認められた者と戦ったりしたが本当に実力者を認められた者かどうかあやしいものだ。
今回の事件のように裏で策を巡らしていると思った方が納得できるかもしれない。
実際にドラゴンの防具に身を包み『王の器』の槍を持った王はほぼ無敵だったろう。
それでもわざわざ危険を犯して挑戦を受けることはないというのが王の弟でもあるカインの見方だった。
『王の器』とはそういうものなので式典などで使用するときは神の前で『王の器』の力を借りた上で敗北すれば王の座を譲ると誓ってから使うことになっている。
その誓いを例えその場の形だとしても見たのが剣士だった。
王が神に誓ったことを自らが覆すわけにはいかなかったのだろう。
「ま、待って、俺は王になるつもりなんてないんだって。リゼたちが奴隷から解放されたらそれでいいんだって」
「ティルがそう言ってもな、さすがにこれはどうしようもないと思うぞ。『王の器』はそうやって受け継がれてきたんだ」
「いいじゃねぇか、王になって好きなようにいきたらいいんだよ」
カインの言葉に炎帝までがそそのかすようなことを言うが俺には王になりたくない気持ちが100%なのでやってみようなどという気持ちは一切沸かない。
その気持ちを力説するが皆がこの状況だとどうしようもないと言う。
このまま放置すると『王の器』も放置されたことになって全く理由のわかってない者が王になり国が荒れ、王が死んだことを知ったセブン国がシックス国を蹂躙するだろうというのがカインの考えだった。
かつて『王の器』の『首輪』を所持していたテン国がイレブン国に滅ぼされた上にイレブン国の属国のようになった逸話も聞いたことがある。
それが『隷属の首輪』の始まりで滅ぼされた国は『王の器』なしで再建するのは難しいのだ。
散々言われたがどうしても王になる気にはなれない。
遠慮でも謙遜でもないことは皆がわかってくれたようだがそれでもどうしようもないと説得される。
カインは「俺はエイト国の王子という立場だがティルへの借りはばく大だと思っている、ティルが王になるならエイト国以上に協力する」とまで言ってくれたぐらいだ。
そのときニルがボソッと言った。
「本当にティルは王になりたくないのよね?少しでもやってみようとかいう気持ちもなく?」
「うん、上に立つにはそれなりの心構えもそうだけど色々とそのために勉強とかもした人がなった方がいいと思う。帝王学?だっけ?上に立つ人間の考え方みたいな知識とかそういう考え方とかはないの?貴族のノブレスオブリュージュ?そういうものとか」
「学問というまで系統立った物はないけど王家には代々受け継がれている考え方はあるな、だけどなかなか実践できている王家は少ないと思うからそこまで考えなくてもいいんじゃないか?俺もティルにはいくつも大きな借りがあるから本気で協力するしさ」
カインの返事を聞いてさらにニルが続ける。
「カインは私たちにもずっと言ってたけどティルに借りを返したいんだよね?」
「そうだよ、インビジブルモンキーの毛皮の入手、そのときのトランプでの賭けごとでは国の予算なみのお金を借りてるしさらにタングスの砦でのことは兄のリヴディ王もティルが困ってることがあれば国をあげて協力するから何かあったら教えてくれって言ってるしね。ティルが王になったら王家の交代は久しぶりになるけどエイト国は1番に認めるし協力するから間のセブン国とも問題は起こりにくくできるんじゃないかな」
「うん、そうやって国同士の連携とかの規模で考えられるのはそういった勉強をしてきたからだと思うのよね。それでなんだけど、ティルは王位をカインに譲ったら1番上手くいくんじゃないかな?」
「はあ?俺が?」
カインが珍しく今までで1番頭の悪そうな声を上げた。
「うん、ティルは王になりたくない、カインはティルに借りを返したい、王になる勉強はカインはしている、カインが王になったらティルは感謝するし借りも返せる」
「いやいや、待って待って、確かに返しきれない借りを作ってると思ってるよ?でもその借りの返し方が王になるって意味わからなくない?どっちかと言うとなりたくて奪い合いが起きるのが王位ってもんだよ?」
「でもティルはなりたくないんだよね」
2人の会話を理解して思いっきり頷いた。
それが1番いい、国にとっても国民にとっても。
カインなら獣人差別なんてしないだろうし生きやすい国になるだろう。
「カイン、ぜひお願いしたい!もうこれで借りのことなんて気にしなくていいから!」
「ティルまで!?待ってくれよ、だいたい『王の器』を受け継いだのはティルだろ?俺は何にもしてないんだから」
「元々王から息子に譲るときには形式的な演武で済ませてたのだからティルがカインに『王の器』を賭けた戦いで負けたということにしたらいいと思うの。ティルがカインに形式的にでも負けるのが嫌なら難しいかもしれないけど・・・」
「カイン、まいった。全面的に俺の負けだ。『王の器』を使ったところでカインに勝てるとは思えない。負けを認める、なんなら土下座してでも・・・」
「あ~!もう!わかったよ!引き受ける!シックス国の王になるから!あ~、もう、どうしよう、この国の貴族はティルがほとんど一掃しちゃったのはいいけど戦力もほぼないんだよな、エイト国から何人か連れてきてこの国の国民たちが納得するかどうか、それに国政も1から把握する必要があるし」
カインが先を見て嘆いているところ、申し訳ないが俺はホッと胸をなで下ろしていた。




