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5³㎤の転移無双  作者: 清白
第5章 王都

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番外編5 コングロレイト公爵




 ピューリー=コングロレイト公爵



 ティルという雇っていた素材収集屋が王宮守護兵を数人殺害して逃亡したとの報告があった。

その際どうやら貴族街で攻撃魔法を使ったようだ、そうでなければ複数の被害者が出るとは思えない。

普段の戦闘練習では4人でなら負けることはないと報告を受けていたからだ。

逆上したのだろうがこれで反逆者になったことには変わりはない、あとは処分したという結果を聞いて終わりだろう。

2年ほどよく働いてくれた。

あの素材収集屋としての腕は惜しいが王宮守護兵からの反発も大きくなってきたし切り時だろう。

奥の間には王がいる。

今回の即位20周年記念の祝賀会のことを考えると王としていた冒険者をやめて即位したときのことを思い出す。


 20年前に前王が崩御した。

跡継ぎは第1王子のゴードン=シックス。

私の従兄弟で一緒に冒険者としてパーティーを組んでいた相手だ。

ゴードンには弟と妹がいるがまだ6歳と4歳なので玉座を巡る争いもなくすんなりと王になった。

ゴードンに対して反旗を翻すような貴族はいなかったし前王が体調を崩してから冒険者を抑えて政務に励み成果も出していたので文句もでなかった。

そして何よりゴードンは強かった。


 王にはそれなりの強さが求められる。

上に立つものとして自らが強くなくても強いものを率いていればいいのだとの話もあるが『王の器』を手にする以上それなりの強さはいった。

この世界のそれぞれの国にある神からの贈り物と言われるその『王の器』を手にすればそれなりの戦闘力の者でもさらに強さは引き上げられる。

しかしゴードンは『王の器』無しでも世界の10傑に数えられるほどの武勲を立てていたのだ。

得意な武器は槍、そして我が国の『王の器』は槍、元々その気があって槍を極めたのだろうが『王の器』を手にしたゴードンに単独で勝てる者はいないと思われていた。


 もしいるとしたら10傑第1位のアーサー=フェニックスぐらいだろうがアーサーはテン国の山の中で暮らしておりわざわざ戦いに出てくるタイプではない。

それでもアーサーに挑む者はたまにいるのだが傷を負わせることのできる人間もいないほどだった。

あの炎帝も傷すら負わせることはできなかったとの噂もある。

そしてゴードンも王になりわざわざ戦うために『王の器』を手に国を出るわけにはいかない立場になっていたのだ。


 ゴードンが王になり私も冒険者を引退した。

王には及ばないまでもそれなりに強さで名前を売っており正規軍に士官として入隊して順調に昇格していた。

その頃は隣のセブン国と小競り合いが続いており国家横断道路の戦争利用禁止に従って国の南西部、ヴィットリオの町が主戦場だ。

広い橋が1つ、細い橋が2つに川の幅が広く浅くなっている部分もありどこに戦力を当てるか、どうやって敵を潰すか、指揮官にとっても腕の見せ所の戦場だった。


 王の進言もあり戦争に向かったとき私はすでにシックス国軍の副司令官になっていた。

総司令官はカーリー=フロミングス公爵。

公明正大な部下への態度と堂々とした戦い方で兵士からの人気も厚く戦闘指揮にもそつがないのでセブン国に恐れられていた。

セブン国の指揮官はシング=ミュゼット伯爵、セブン国軍の若手で最近地位を上げて軍での立場は中将になったはずだ。

それでも新参者で経験も浅い、フロミングス公爵には及ばないだろうと思われていた。


 しかし結果はシックス国の敗北だった。

公爵が獣人の奴隷部隊をセブン国に突撃させ相手を混乱させる。

慌てふためいて逃げ惑う敵を公爵の部下たちが突撃する。

完全な勝利になるはずだったのだが混乱は偽装で奴隷部隊は演技を見抜けるわけもなく奥まで引き入れられ、さらにそこに突撃した部下たちの後背をセブン国の精鋭と工作兵が駆け抜けて工作兵は橋を落とした。

その精鋭は風魔法と毒魔法で公爵たちを逆に混乱させたところを暗殺された。

私の軍はたまたま後方を巡回していたので被害はなかったが戻ったときには手遅れで暗殺者を含めたセブン国の精鋭を倒しセブン国側の味方を回収するにとどまった。

国土には影響はなかったが総司令官を暗殺されるなど紛れもない完敗だった。


 戦いの後、崩れかけた戦線を立て直したことを評価され順当に国軍総司令官に就任した。

今回の戦い、そして今までの経験からいくつか学んだ。

部下に対しては公明正大、少なくともそう見せなければ部下はついてこない。

奴隷兵士たちは改良の余地がある。

戦争は勝たなければ意味がない。

それらを考え合わせてシックス国のこの先を見据え行動を開始した。


 元々冒険者になったのは様々な素材を手に入れられるからだ。

その素材を使って新しい物を作る楽しさは戦いに勝つことの喜びと遜色がない。

ただ私の興味は人間への影響に関することが多い。

特に不老不死薬と言われているエリクサーを追い求めている。

老いもせず死にもしない、手足を失っても復元し心臓を貫かれても元通りになるという。

解除不可能と言われている石化や重度の毒や呪いすら治せるという伝説の治療薬だ。

不老不死になって病むこともなくこの先も人生を思う存分楽しみたいものだ。

冒険者時代は自ら手に入れた素材で作った薬などを奴隷などで人体実験していた。

だがそういうことは大っぴらに言うことではない、今までは知られたら処分していればよかったが部下などにバレたら士気にも関わる。


 そこで私の研究のことを知っているティンカー侯爵に協力させた。

ティンカー侯爵は戦いより研究という人間だ。

研究内容は私とよく似ておりポーション系の研究だった。

その研究熱心さがたたって借金までして研究費を捻出していたのだが私が立て替えた、代わりに私の研究の実行係になることと引き替えに。

自分の研究ができないのなら意味はないのだろうがポーションやハイポーションの行き着く先はエリクサーではないかとの話もありティンカー侯爵は話に乗ってきた。

貴族の中では魔法を使っての戦闘に興味がある者が多く研究者は異端ではあるがいないわけではない。


 ティンカー侯爵には国軍の参謀長という役職を与えた。

建前としては正々堂々と戦い戦略を練る私に罠を仕掛けたり時には卑怯と言われるような戦術を提案する役目だ。

「私の意見が全て通るような組織なら先はない、異なった意見も検討するのが上に立つ者の責務だ」

そんなことを言うだけで部下からの人気は取れるのだ。

他に意見を言う部下などが出てきてもその部下の意見をさらに酷くした意見をティンカー侯爵に出させてそれに反論すれば同時に部下の意見も却下できる。

戦略会議として研究の成果も報告でき、戦争を行えば戦死として扱われる人体の入手も簡単だった。


 国軍総司令官になって5年、ティンカー侯爵の報告でゲーレンという騎士と出会う。

何とこのゲーレンという男、特殊魔法を使えてそれが隷属の首輪の透明化だった。

特殊魔法を使える人間はそこそこいる。

だが目を閉じてもまっすぐ歩けるとかほくろを1つ増やすことができるなど本人も気付かないことがあるぐらい何の役にもたたない能力であることがほとんどだ。

たまにマジックバッグの製造や武器の強化、魔法能力向上などのレアなものもあるが有用なのは100人にひとりもいないぐらいだろう。

隷属の首輪の透明化もそれだけではほぼ意味はない、だが私の研究には役に立つ。


 隷属の首輪というのは呼称で形は魔石だ。

隷属の首輪の魔石を首に当てて呪文を唱え魔力を流すと魔石は消えて首に首輪のような刺青が入る。

犯罪奴隷は命令には絶対服従なので言葉すら信用することができない、言わされているかもしれないからだ。

なので首を見せることが本人の言葉だという証拠であり逆に犯罪奴隷はその証である首を隠してはならない。

それを透明化することができるのであれば周りからも犯罪奴隷だということがわからないのだ。

これによりできることが増える。


 例えば戦争で犯罪奴隷が敵地に逃亡しても助けてもらえることはない、国ごとに犯罪奴隷からの解除方法は違うし「敵地に行って殺せ」や「毒をまけ」などと命令されていたりするからだ。

これらは実際にあったことで今では犯罪奴隷が逃げても殺されるのが普通だ。

元々逃げるなとの命令で逃げることすらできないので逃げてきただけで信用はできない。

他には犯罪奴隷が最前線で歩兵として突撃させることがある。

フロミングス公爵も突撃兵として使っていた。

敵の陣地に潜り込み爆発して自爆するような戦法を取るのだ。

危険な鉱山と並んで犯罪奴隷の行き着く先の最低な場所の1つが戦地だと言われているがそれは当然だと考えている。

犯罪奴隷なのだ、最後に少しでも国の役に立てれば死ぬとしても本望だろう。

しかも犯罪奴隷の獣人となれば他に何の役に立つことがあるのだろうか。


 しかしさすがに犯罪奴隷の扱いの酷さが国際的にも問題になることがある。

特にエイト国などは獣人の人権などという訳のわからない言葉まであるそうだ。

獣人などいくらでもいるのだしそれぐらいにしか使い道がないものを。


 そこで今回のゲーレンの隷属の首輪の透明化だ。

首を隠さないことで犯罪奴隷ではないことの証明になる。

例えば敵の立場の高い者を捕虜にできたら犯罪奴隷にして首輪を透明化してから逃げられたふりをして敵陣に返す。

そんな人物が内部に入り込んで要人の暗殺、もしくは毒をまいたり火を放って混乱を起こす。

これだけで戦争の勝ちは容易になる。


 ゲーレンを男爵にしてティンカー侯爵の下につけた。

ティンカー侯爵には犯罪奴隷に関する責任者に任命している。

その中で都合のいい者の首輪を透明化し、準備を進めた。

犯罪奴隷にするのはそうそう難しいことではない。

隷属の首輪のは量産できるし使い方も呪文を知っていれば魔力のある者ならそう難しくはないのだ。

一応中級以上の聖職者が犯罪者に対して正しく判断して使うということにはなっている。

しかし当然聖職者が歪んでいれば判断も歪むし獣人に対しては犯罪奴隷になりやすいのは当然だろう。


 そういう者の中に犯罪奴隷からの解放をしてくれとの懇願がある。

普段なら獣人や人間でも犯罪奴隷になるような者の声が私まで届くことはないのだが今回は都合がいいので利用させてもらった。

その結果、隷属の首輪の透明化をしても首輪の効力は変わりない。

命令には従い、死ねと言えば死ぬ、透明化したことを知っていても効果は変わらず、透明化したときに犯罪奴隷から解放したと言えば解放されたと思い込みながらも命令には従った。


 できないこともあった。

何人かをセブン国に送り込もうとしたのだがゲーレン男爵から離れすぎると透明化が解除された。

これが1番の問題点で大勢の透明化した犯罪奴隷をセブン国王宮に突撃させるなどということはできなさそうだ。

ゲーレン男爵も一緒にセブン国に行こうとすると特殊魔法が使えなくなる。

どうやら隷属の首輪を製造している元テン国の『王の器』である首輪の鎖からの距離が問題のようだった。

ゲーレン男爵の魔法はかなり範囲が広くシックス国中央の王都サドラにいればほぼシックス国全域をカバーできる。

ただし魔法が使えるのは王宮にある『王の器』の首輪の鎖から数㎞以内でしか使用できない。

要するにほぼ国内でしか使えないのだ。


 もうひとつは上限が100人ということ。

100人を越えると透明化はできなくなる。

透明化したうちのひとりを解除したり死んだりすればまた新しく透明化できるようになる。


 結論は国内限定の犯罪奴隷だとバレないどんな命令も聞く中隊ほどの人数を手に入れたというだけのことだった。


 セブン国が侵略してきた時には若い女の獣人に相手の陣地のできるだけ奥で毒をまいてみたのと指揮官っぽい人間を選んで暗殺させてみたことがあった。

だがやはり殺せても下っ端がせいぜいで男の獣人で試したときは怪しまれて何もできずに殺されたこともあった。

けっきょくゲーレンを見つけてから2年後にセブン国とは講和条約が結ばれた。


 とりあえずの使い道はなくなったのでまた何か役に立つまではゲーレンの自由にさせた。

結局ゲーレンは隷属の首輪を透明化した獣人や人間を男は犯罪奴隷ではない身分で高給を貰っての鉱山などで、女は夜の店で働かせて借金返済の名目で金を稼いでいる。

100人がそれこそ命を削るように働いた金のほとんどを奪っているのでかなりの儲けにはなっているようだ。

そのときに新たな魔法の制限もわかった。

10年で透明化は切れるのだ。

再び魔法をかければ透明化されるがしなければ隷属の首輪が見えることになる。


 役に立ちそうな奴隷なら再び透明化するがほとんどはそのままになる。

今までの平民として働くのではなく犯罪奴隷として働くようになる。

やっていることは変わりなくても周りからの反応や賃金は全く違う。

何より本人が死ぬまで終わりがないと絶望するのだ、絶望しても勝手に死ぬこともできないが作業効率が下がり死にやすくなるのは不思議なことだ。

だが死ねばまた新しい者を犯罪奴隷に堕とせばいい。

獣人相手なら少々無理矢理に犯罪奴隷にしても有力者の中に騒ぐ者はいない。


 そんな状況で透明化した奴隷も何度も入れ替わり現在ではゲーレンも透明化の使い方に慣れてきたようだ。

いざというときのためにゲーレンを取り込んでおくつもりでたまに報告をさせることがある、一年ほど前に聞いたときには相変わらず金儲けに使っているようだ。

100人の首輪を透明化した犯罪奴隷だが男を鉱山送りにすると死ぬのも早い。

女を犯罪奴隷にして夜の店で働かせる方が長持ちするし金も入る。

しかも自分が犯罪奴隷だとは気付いてないし借金の返済のために10年だけとなると一生懸命に働く女も多いのだ。

10年後には王都に呼んで透明化を解除して犯罪奴隷としてさらに売られるか人体実験の素材となるかの未来しかないのだが。


 100名のうち半数は王都で働かせている。

残りの半数は他の町に送り込んで情報収集も混みで。

たまに奴隷を連れだそうなどと考えるやつもいる。

そういう奴には積極的に処分する、逆らえばどうなるかを教え込むためだ。

5年ほど前にはメダグリアの町で奴隷だけじゃなくて奴隷の娘をそそのかしほかの貴族に売ろうとしている手下もいた。

奴隷から娘を助けてほしいとの連絡を受けそいつを処分した。

奴隷は喜びさらに一生懸命に働くようになったことを笑いながらゲーレンが話していたこともあった。


 その奴隷が10年たつ前に王都に呼び寄せたのだが娘がついてきたのでちょうどいいと首輪の透明化を解除して娘を犯罪奴隷にした。

母奴隷はわめき叫んでいたがもちろん黙れと命令すれば黙るしかない。

ちょうど奴隷を欲しがっていた貴族がいたのでそのまま母奴隷はその貴族に売ったが長くは持たなかったようだ。

新しい子どもの奴隷は王都から一番近くの小さな町に送り込んで働かせる。

獣人1匹のために獣人狩りをするのは時間の無駄なのでちょうどよかったとゲーレンは言っていた。


 別にどうというわけではない酒のつまみ程度の話だ。

獣人の使い道などそれぐらいしかないのだ。

だが今回新しい使い道が見つかった。

エリクサーを造るために人間を魔物化させた時にできる魔石が役に立ちそうだとわかったのだ。


 動物などが魔物になるには魔素を浴び続けて限界を越え心臓の近くに魔石ができる。

魔石が大きく育つと徐々に心臓に癒着し始め魔素を浴び続けるとさらに大きくなる。

魔石が1㎝ほどになると心臓の内部に入り込み完全に魔物になり様々な変化をとげる。

動物なら巨大化、昆虫なら特殊能力を得る、という変化が多いが魔物になれなくてそのまま死亡する種族もある。


 人間がそうだ。

人間は魔素を浴び続けると同じように心臓近くに魔石ができる。

だがそれに身体が耐えられずに大きくなるにつれて体調は悪くなり1㎝になる前に死亡する。

しかしそのときハイポーションで治療し続けて死なないようにしていると人間でも魔石が1㎝に到達するのだ。


 ただ人間は魔物にならない。

魔石が1㎝を越えると魔素過多で死亡する。

だがここで魔石は残る。

この魔石を素材としてポーションを造るとエリクサーに近づくのだ。

できたものはハイポーションよりもさらに性能のいいものだった。

外傷の治療はハイポーションなみ、欠損なら1㎝ほどは肉が盛り上がってくる。

解毒薬にも状態異常の治療にも役に立った。


 問題は膨大な魔素を浴びせ続ける方法だ。

魔素を身体に取り込み魔力に変換する。

これを生物は自然としている。

魔素は大陸の中心に行くほど濃くなり人間の住んでいる場所は1番外側で最も魔素の薄いところ。

人間の身体が魔石を造るためにはせいぜい行けるドラゴンの生息域ギリギリ辺りでも1年ほどはかかる。


 これは実際にSSSランクの冒険者がSランク冒険者を四人連れて1年間魔の森で過ごしたときにその症状で死亡したことからわかる。

10ヶ月ほどたったときに1人が体調が悪くなり5人の中の1人の医者が診ていたが理由はわからず1年たつころには5人とも同じ症状になり1人目は死亡した。

そのときに解剖したら心臓に魔石が造られており、2人目の死亡者も同じだった。

残りの3人は魔の森を後にしたが帰る途中で医者も含めて2人が死亡しSSSランクの1人だけが帰還した。

そのSSSランクの冒険者は2度と魔の森には入らず医者の残した記録を元に魔素を浴び続けることによる人体への影響に関する論文を発表した。

その冒険者が死亡したあと解剖すると心臓には7㎜の魔石ができていた。


 人間の魔石、これが手に入れられないのは魔の森のドラゴンの生息域で1年間生きていける者がほぼいないからだ。

魔の森の奥で魔素を浴び続けて魔物にならないのは人間とドラゴンだけだと言われている。

ドラゴンは魔石を元々持っており魔素を取り込むほどに魔石が大きくなり強くなると言われている。

ドラゴンの肉を食べた者は魔素への耐性がつくことは実証されている。

さらにその先のドラゴンの住処のような魔の森の中央辺りの魔素の濃さだと人間に魔石ができる期間は短いがそんなところまで入り込むことさえ普通の人間にはできない。

もし魔の森の奥で人間が生きていこうとしたら出会ったら死というドラゴンを狩って食料にできほかのドラゴンに襲われても生きていられる者だけだろう。

ようするに不可能なのだ。


 それが今回例のティルという素材収集屋に依頼したマジックアントという蟻の魔物。

女王蟻は魔の森の全域に生息しているとされ、魔素の濃さによって体長が変わる。

森の奥に行くほど魔素を吸って大型になっているが森の外側にも小さい個体はいる。

大きさは森の中ほどで10㎝、森の端では1㎝もないほど。

この蟻の特徴は働き蟻は食べた餌の魔力を蓄積する。

その魔力を女王蟻に献上する。

女王蟻は魔力から何らかの力を取った後魔素を吐き出す。

魔素を魔力に変換する魔物が多い中で珍しく魔力を魔素に変換する魔物なのだ。

もっとも変換できるのは女王蟻だけで女王蟻は巣の中に引きこもっていることが多いのでなかなか目にかかることはない。


 そんなマジックアントの女王蟻をティルは捕獲したのだ、しかも生きたままで。

さらに大きさは50㎝ほどもありおそらく魔の森中央部に付近に生息している個体だと思われる。

鉄の虫カゴのようなものに入れられた女王蟻はじっとしているがたまに暴れるという。

たまたま地上に上がってきたところを捕獲したと言うのだが魔の森中央部まで単独で行ける人間がいるとは思えない。

女王蟻がたまたま外側まで来ていたところを捕獲したのだろうか?

真偽はどうであれマジックアントの女王蟻の極上の個体が手に入ったことには違いない。

すでにかなりの濃さの魔素を吐き出しているようで、数日ぐらいなら浴びてもどうということはないが急いで一つの地下室を空け、女王蟻をカゴごと部屋の隅に隠した。


 奴隷の獣人を部屋の中に入れて様子を見た。

2週間ほどで体長が悪くなり1ヶ月ほどで死亡した。

次に2人同時、さらに3人同時に部屋に入れたが少々の誤差はあるがほぼ同じ結果だった。

このことから部屋の中は魔の森のドラゴンの生息域沿岸部よりかなり濃い魔素を出している状態だと推測した。

そして人間の魔石未満が6個手に入った。


 心臓の魔石は約7㎜から8㎜、あと1週間から10日ほど生きながらえさせれば魔石が1㎝を越えるはずだ。

ポーション、ハイポーション、毒消し薬、幻惑解除薬、色々な薬品を使い生き延びさせようとしたところハイポーションを飲むのではなく血管に直接注入することにより実験は成功した。

心臓の魔石が大きくなり魔素が魔力に変換され血液に魔力が増え過ぎて血管が破れる、これが人間が濃い魔素を浴びたら死ぬ理由だった。

そこで直接ハイポーションを血管に注入することにより血管が破れたところを修復させる。

もちろん無理矢理生き延びさせた10日間は拘束してハイポーションを注入し続けなければならない。

血管が破れては修復されさらに限界以上の魔力が血管内を巡る。

実験体は常に苦しそうな叫び声を上げているが布を口に詰めることで騒音を緩和した。


 実験を行うにあたって必要なものは血管に直接注入するための道具と実験を行う者自らが魔素に犯されないようにするものだ。

これもティルが素材を集めた。

道具はアイアンパピヨンの口吻、なるべく細い管状の物がほしいという依頼でそれが納品された。

ちなみにこれも生きたままだったが今回はどっちでもよかった。

そして魔素に侵されるのを避けるためのドラゴンの肉。

出回っている肉を強引に集めたがまだ足りない。

さすがにダメ元で依頼したところ10㎏ほどの納品があったことには驚いた。

これで実験は続けられた。


 さすがにあり得ないほどの実績を見せられて興味というよりは警戒感を抱く。

ドラゴンの生息域内のレアな素材をいともたやすく持ち帰りさらにほとんどが生け捕りだ。

生け捕りできるのは何かの特殊魔法だとは予想できる。

しかし単独で何度もドラゴンの生息域に行き来するなど聞いたことがない。


 ティルという人物についてさらに詳しく調べさせたところジョヌーブ学園を記録的な早さで卒業し、あのタングス事件のエイト国の王弟と行動を共にしていたこともある人物だ。

セルバンナイト侯爵の紹介でゲーレン男爵に犯罪奴隷の母娘と使用人の男を犯罪奴隷から解放させたことにより私の素材収集を手伝うきっかけになった。

王宮守護兵ともめており実力は1対1で王宮守護兵が勝ったことはないが兵の基本単位の4人相手ではティルが勝ったことはない。

私に納品するたびに王宮守護兵ともめて相当なダメージを食らってもそれ以上の反撃はないのでそれぐらいの実力だと思われる。


 大きく見積もって王宮守護兵4人と同等、それぐらいで安定してドラゴンの生息域で狩りができるはずがない。

だがどれだけのケガでも次の日には治っているということでポーションかハイポーションをかなりの数所持しているのだろうと思われる。

さらにエイト国の王弟との関わりよりインビジブルモンキーの毛皮を所持していることがわかっている。

導き出されるのは実力はそこまでだがインビジブルモンキーの毛皮で隠れて行動し、ハイポーションでケガをしたらすぐに治し、何らかの特殊魔法で姿が見えない状態から生け捕りにしているのだろうと思われる。


 1つ懸念があるのはティルが希望した犯罪奴隷から解放したとされている母娘だがゲーレン男爵にはそんな権限はない。

首輪を透明化しただけだ。

このことがバレて離れていくのならティルを処分しなくてはならない。


 実験の準備は整った。

あとは時間をかけて実験をするだけなので処分をするのはいいのだが今の時点で処分をするのはもったいないとも言える。

緊急で何らかの素材が欲しくなることなどいくらでもあるのだ。

処分してからインビジブルモンキーの毛皮とハイポーションを奪うことまではできるが特殊魔法は貴重だ。

せめて実験が終わるまでは手元に置いておきたい。

そう考えてできる限りティルの家に住んでいるという犯罪奴隷の母娘と離すためにティルに辞令を出した。

王宮守護兵に入り半年間鍛えること、と。

そのころには即位周年記念式典がある。

そのためにも王宮守護兵の増員は不可欠でティルにとっても出世であるしティルを手元に置いておくことができるのはいろいろな意味で有益だ。

エリクサーが完成すればさらにいくつかの入手しにくい素材を収集させ、都合が悪くなれば処分してインビジブルモンキーの毛皮とハイポーション、おそらく所持している大容量のマジックバックを奪うことにする。


 記念式典まであと2ヶ月というこころで問題が起きた。

この国の第1王子アメルドが実験に手を出して素材の取り扱い方を間違えたのだ。

ストーンフラワーというひまわりに似た花で生物を感知すると種を飛ばして相手を石化させる。

普段は生物を感知できないように木製のケースで覆っているのだが王太子が勝手に開けて両腕にささり両腕とも肩の辺りまで石化したようだ。


 

 第1王子アメルド=シックスは19歳で男。

今の王の唯一の子供で次の王になることを期待されている。

しかし父親の困難を力で解決するところ、母親の目的のために手段を選ばないところ、その悪い部分ばかりを受け継いで自分のわがままのために権力や暴力を当然のように使い理不尽に踏みつけられた相手には目もくれなかった。

それでも知能が悪いわけではなく王たちの前ではおとなしくしたいたこともあり問題はあるとしながらもほかに選択肢はなく廃嫡されることはない。


 王妃はアメルドを産んでから妊娠できない身体になった。

なので他にも次の王になる候補が欲しいところだがその競争相手を次々と排除した。

王が妾を作れば妾の心得を教えるために話し合ううちに姿を消し、王が隠れて子を作れば見つけた時点で子供ごと事故に巻き込まれたりしていなくなった。

そんな王妃としては自分の息子が次の王にならないなどとは考えたくもなかったのだ。


 アメルド王子も自分しか次の王になるものはいないことをわかっており両親の甘やかしと周りにいる者からいさめられることもない生活に自尊心は肥大した。

王子にとっては自分のしたいことは楽に叶えられるべきでありしたくないことは我慢してする必要もなかった。

王の鍛錬によって得た強さを生まれ持った権力で補い、王妃の情報収集と状況判断の結果で敵を消していった容赦のなさは自らの欲望だけで発揮された。


 そんな王子だがコングロレイト公爵にはそれなりになついていた。

それも公爵の裏の部分に。

今回も獣人を使っての人体実験に興味を持ち見学や口を挟んだりしていた。

エリクサーというからには石化も解けて当然だ。

その実験をしていたところ獣人を石化させるときに面白がって王太子が自らしようとしたところストーンフラワーは王太子を狙った。

花でさえ王子には敵意を向けないし従うものだとでも思っていたようである。


 現時点でのエリクサーはほぼ完成していたのだが濃度がまだ薄かった。

濃度がまだ足りないようで呪いの最上級レベルである石化が解ければエリクサーは完成というところまで持って行けていたのだ。

王子が石化したときに未完成のエリクサーを使い両腕と右足だけの石化で食い止めた。

王子は怒り狂いベッドに寝たまま研究員のひとりを処刑しエリクサーの完成を急がせることを指示した。


 王にとっても記念式典で王子にも国民の前に立たせ次期王になる王太子の身分につけ王になる心構えを持たせるつもりだった。

王妃としても同じだ。

2人からもエリクサーの完成を急ぐように指示された。


 エリクサーの濃度を上げるには人間の魔石を増やすことだ。

今の不完全なエリクサーでは魔石10個分、計算上では最低5倍、本来なら少しずつ増やしていきたいのだが今回は成果が求められる、10倍の人間の魔石を作ることにした。

100人分の人間の魔石を作る。

材料になる人間を100人用意する。

スラム街で獣人狩を行って調達しようかと思ったところ王妃からの希望が出た。


 「アメルド王子は研究員をかばって身体が石化した、そんな王子を救うために自らの命を投げ出してエリクサーの材料となり王子を救う100人を集めよ。記念式典で王子への忠誠を見せて自ら犠牲になることを誓い王子がこの国の次の王として国民に期待されていることを民衆に知らしめるのだ」


 もちろん王子を救うために自ら実験体になる者なんていない。

しかしこれは悪いことではない、少しでも次の王になる自覚を持てるなら100人程度の獣人など捨て駒でかまわないのだ。

問題は自ら命を捧げる者の存在だがこっちにはゲーレンがいる。

隷属の首輪をしたままだと強制されているように見えるが首輪を透明化して命令すれば立派な王子に忠誠を誓う自己犠牲の者たちのできあがりだ。

さっそくゲーレンを呼び出して作戦を説明した。


 いくつか障害があった。

ゲーレンの透明化は上限100人で今はほぼ全ての枠を使っている。

王都で50人、王都の近くの村で10人、王都から離れた大きめの町で3カ所30人、その他10人といったところだ。

王都の50人はそのまま使える。

付近の村も1日あれば連れてこれる。

その他10人にはティルの家の使用人のような奴隷から解放したという名目でしていないような者だがこれは貴族相手ではないし連れてこさせて差し出させればいい。

断るならそこで奴隷もろとも処分すれば首輪の枠が空く。

問題は10人ずついる離れた3つの町の奴隷だ。


 3つの町の奴隷は全員所有者はゲーレンになっている。

連れてこさせる命令をするにもゲーレンが3つの町を渡り歩き命令しなければならないのだ。

1つの町ぐらいなら往復で10日もあればいいが3つの町をすべて回るとひと月はかかるだろう。

そうなると式典の日までに準備が間に合わないかもしれない。


 そこで解決策を見つけた。

奴隷が死亡すれば首輪は透明化が解け、ゲーレンの透明化の使用枠は戻り死んだことはゲーレンにはわかる。

死んだ者は1つにカウントされないのだ。

王宮守護兵を派遣して今ゲーレンが所有している首輪を透明化した犯罪奴隷を全て処分する。

道路が整備されているバラッドで馬車で3日、メダグリアとヴィットリオなら5日だ。

奴隷たちの働いている場所はわかっているので探すのに長い時間はかからない、準備をしても10日もあれば処分できるだろう、そうすれば30人分の透明化の使用枠が戻ることになる。

それまでに壁の外の獣人でも30人ほど捕まえておき、枠が空けば奴隷にして透明化すればいい。


 記念式典まであと15日。

「王子が石化した、その対処法としてティンカー侯爵の実験が役に立ちそうだ。

コングロレイト公爵とティンカー侯爵が手を取り記念式典までに王子を救うために手を組んだ。

そのために邪魔な者がいる、国中に逃げ込んだ犯罪奴隷の獣人だ。

その獣人たちを探し出して殺して欲しい」


 王宮守護兵にはそう指示を出した。

兵士たちは長年の対立の雪解けに感動すらしている者もいる。

ついにティンカー侯爵もコングロレイト公爵の偉大さがわかったのかと。

その命令を実行するために王宮守護兵を3つの町に派遣する。

逃げ込んだ場所はわかっている、全員が獣人だ、死ねば首に犯罪奴隷であるあざが浮き出てくるので10人確認しろ、もし間違って違う獣人を殺してもわざとでなければ不問とするので確実に町ごとに10人ずつ見つけ出せ。


 兵士たちは我こそはと行きたがったが隊長が抜けるわけにもいかない。

3つの小隊から2班8人ずつが選ばれ副小隊長がそれぞれ率いて3つの町に向かうことになった。

さらに第3小隊長がティル以外の残りの11人を率いて近くの村にいる奴隷たちを連れてこさせる。

これは往復で2日もあればいいので殺すより早いとの判断だ。

その第3小隊長が奴隷を10人引き連れて来たときだ。


 第3小隊長が近くの町の首輪を透明化した犯罪奴隷10人を連れて帰って貴族街のティンカー侯爵の屋敷の地下の実験室に向かわせた。

ゲーレンも合流し奴隷たちに現状を把握させこの先の命令をする予定だった。

首輪の透明化を解除してお前らは犯罪奴隷だと実感させているところでティルと出くわしたようだ。

しかもその中の1人がティルの知り合いだった。

王宮守護兵たちはティルを笑い嘲った。

ティルはゲーレンに犯罪奴隷の解放を願った。

しかしゲーレンは聞き入れずにバレたからには仕方がないとティルを捕獲した。


 マジックバッグとインビジブルモンキーの毛皮だけは押さえなくてはならない。

さらに処分するならついでに100人の奴隷のリーダーということにして王宮守護兵として王子の犠牲になるということにすればちょうどいい。

いくつかの作戦のうちゲーレンはそれを選択した。

完全に取り押さえて隷属の首輪も用意して暴力で心を折ったのちに犯罪奴隷にする。

その状況までは報告を受けた。

その上でゲーレンとティンカー侯爵は実験室に赴き捕らえている犯罪奴隷たちに改めて現状を把握させようとしていたのだ。

それが2人とも、いや、一緒にいた王宮守護兵とともにティンカー侯爵の屋敷で殺害された。


 ティンカー婦人からの使いでその報告を受けた時はさすがに驚いた。

ちょうど今日は在位28周年記念式典の話し合いということで将官クラスの軍人は城の中では武官と文官に別れて集まっている。

さらに下の軍人たちはティンカー侯爵の屋敷の近くの広場で式典の練習をしているはずだ。

この者たちを向かわせることにした。


 「ティンカー侯爵とゲーレン男爵がティンカー侯爵の屋敷で襲われたようだ、すぐに討伐しろ。いや、できれば生きたまま捕獲だ」


 部下にそう伝えた。

細かいことまで上から指示を出せば器量が疑われる。

数人を殺害もしくは捕縛するのに400名ほどが集まっているという失敗しようのない任務にあまり口を出さない方がいいだろう。

広場にいる者の中では地位の一番高い武力派のタイガーアイ大佐に全権を任せた。

これがまさかの敗北に終わる。


 敗北の報を受けたがさすがにまだ信じられなかった。

私は国軍副司令官のオーヴィルに式を任せた。

無いとは思う、いやほぼ無いであろう。

しかし万が一のときに戦うならひとりで戦いたい。

久々に心がたぎる。

王にも報告した。

王もニヤッと笑ったのはお互いに気持ちがわかるからだろう。


 「では万が一のときに備えてワシも完全装備で待っていた方がいいかな?」


 「私が負けることをお考えで?」


 「それを言うならお前もそうであろう、部下が負けることを考えているのか?」


 「ふっ、それを言われては言い返せませんな。強者と戦うのは我々の楽しみですからな」


 「可能性はあると思ってるのだろう?もしお前のところまで来たら一つ頼みがある」


 「何でしょうか?王が戦いたいから見逃せ、とでも?」


 「ははっ、もし敵が強者ならお前は見逃さないだろうよ。勝ちを確信したらワシに譲ってくれるかもしれんがな」


 「ふふっ、私のことをよくわかっていらっしゃる。違うのでしたら何を?」


 「あぁ、王妃と王子のアメルドだ。王妃はストーンフラワーを持ってきた者を恨んでおる、王子は王子で人間の魔石になるリーダーに自ら命令をしたがっている。お前が魔法を使ったら呼んでやってくれないか?」


 「王宮内で魔法を使う許可をいただけるということですね?」


 「王宮で攻撃魔法を使うなど反乱者しかいないからな、使っただけで処分するための法だ。お前ならよい」


 「わかりました、ではとどめはささずに王妃様と王子様に」


 「あぁ、2人には横の部屋で待機させておく。しかし本当にここまで来てほしいものだな、こんなことそうあるものではない。ワシの出番はないだろうがせっかく式典のために『王の器』も手元にあることだし準備はしておくことにしよう」


 「『王の器』も持った完全装備ですか?何年ぶりでしょう、懐かしいですな」


 「奥の手も準備しておくことにしようか」


 「特殊魔法ですか?そこまでするのでしたら私が敵を見逃したとしてもここで絶望するでしょうな」


 「王妃と王子にはワシが戦った後にでもいいのだ、お前の食指が動かんなら気にせずに回してもらっていいのだぞ」


 「わかりました、考えておきましょう。もし実際に実力でここまでこれるほど使えるなら部下にしてやってもいいぐらいなのですがな、一応勧誘でもしてみましょうか」


 「それで部下になったら戦えなくてガッカリするだろうに、その場合でもここまで攻め込んでくるようなヤツだ、どっちにしても犯罪奴隷にするのは確定だな。やり過ぎて殺してしまうのだけが心配だ、気をつけろよ」


 「わかりました、予定通りに獣人のリーダーにするなら王子の奴隷に、部下になるなら私の奴隷にしましょう。王の前に現れたら取り逃がしたと思って後始末はお願いします」


 「安心しろ、ワシも万全の状態で待ち構えておいてやるわ」

 

 王と顔を見合わせて最後は笑った。

王の特殊魔法は『身体強化』だ。

そこらにあるような腕の力を数%上昇させる、などのものではなく体力、攻撃力、防御力、瞬発力、など全ての力が3倍になる。

さらにその上国宝のドラゴンの装備に『王の器』の槍、私でも対応しようがない状況だ。

王は戦いたくて仕方ないのだろう。

私自身もその気持ちはわかる。


 こんな話をしたがここまで来る可能性すらほぼ0なのだ。

それでも元の部屋に戻って装備を身につけ始める。

もしかしてたどり着くかもしれない可能性、相手はインビジブルモンキーの毛皮を持っているのだ。

それを使いここまでしのびこんでくるかもしれない。

王もそれがわかっているのだろうから完全装備になっているのだ。

私たちのこの慎重さと用意周到さが無敗のパーティーだった理由の1つである。

たとえ無駄になったとしても戦いの前のこの空気がたまらなくいい。

失敗したら死、この緊張感を乗り越えてここまで来たのだ。

そして相手が死を覚悟したときの表情、自らが生死を握る優越感、命乞いをする人間の表情。


 魔物を相手でもそれなりの満足は得られたがやはり人間相手の方が何倍も楽しかった。

冒険者を引退してからはそういう感覚を味わうことも減った。

たまに獣人などを切り捨てたりはするがあれは戦いではない、こちらに危険は全くないのだ。

あれはあれでストレス解消にはなるのだが。

もっとも人間同士の戦いでも身の危険を感じたことはほぼ無い。

王とパーティーを組んで人間相手だと圧勝ばかりだったのだ、最初はいきがっていたのに負けた後のあの惨めな命乞いをまた見たいものだ。

ここまで来ることがあれば負けた後もハイポーションで復活させてやって王の前に送り出してもいい。


 (ティルだったな、ここまでこれるか?)


 完全装備で高まる気持ちを焦らないように落ち着ける。

平常心が勝つ秘訣でもある。

部下には捕獲だと命令しているが殺してしまった可能性もじゅうぶんあるだろう。

私への報告を万全の状態で待つ。

もしかしたらかなり待たなければいけないかもしれない、そう思ったが20分も待たなくてよかった。


 ドアの開く音がした。


 

 


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