第8話 戦闘開始
王都の家に『転移』する。
まずはミー姉を解放する。
捕まっているのはミー姉だけではなくて10名ほど。
獣人を王宮に入れることはない。
首輪の透明化をして式典で命令を下すためにはゲーレン自身が必要なので貴族街の中にいるはず。
さらに透明化の犯罪奴隷が増えることを考えれば広い場所が必要だ。
さすがに1年通って半年働いていたこともありそういう場所のあてはある。
ほぼ間違いなくて研究室の地下だろう。
研究室はコングロレイト公爵やティンカー侯爵が出入りするだけあって王宮の手前にある。
今は記念式典の直前で国中から貴族や軍隊たちが集まってきている。
王宮守護兵は式典の警備を担っていたのでだいたいの参加者と参加場所は俺ですらわかっている。
散々嫌がらせを受け痛めつけられていたのは俺が4人がかりならどうとでも押さえ込めると脅威に感じられていなかったこともあるがそれだからこそわざわざ重要なことも隠されていなかった理由でもあるだろう。
もっとも守られる側が軍隊の上級士官であったり魔力の高い上級貴族であったりして王宮守護兵より強いのだからそこを襲われることなど現実的には考えられていなかったように思う。
警備の配置や式典の大まかな内容などを思い出して今現在貴族街にいる人数を思いだしてみる。
まずは王宮の中。
貴族にはもちろん文官もいる。
宰相や尚書などがそうでありその下に徴税官や法務官などの部門に別れ今回のような式典の内容などは儀典官が務めている。
王が武に偏っているためこういうときに出番だと張り切っているようだ。
その文官たちの式典に関わり城の中にいるのが50名ほど。
対してコングロレイト公爵を頂点とした軍部の中で式典に王の前に並ぶという形で参加するのが将官クラス以上の者。
他に軍には組み込まれていないが独自の戦力を持つ侯爵以上の者も加えてそれが総勢50名ほど。
この合わせて100名ほどが今は城の中で式典に関する最終的な取り決めをする話し合いをしている。
これに王宮守護兵も加わるが人数は半減していることもあり今からミー姉を取り返しに行くときにさらに減るだろうから今は加えないでおく。
貴族以外の世話人や料理人、庭師などは戦うことはないので敵としての人数には加えないがもちろん相手が敵対するというのなら遠慮するつもりはない。
次に城の外で貴族街の中にいる者たち。
式典では王の前に並ぶ者たちの後ろで整列し威厳を見せるための役割。
軍隊での佐官、尉官クラスの者たちが自分たちの貴族外の屋敷に滞在している。
大佐と少尉では人数は違うがそれぞれ目をかけている者などを連れており現在の軍隊の中核を担う500名ほどが貴族街で式典の打ち合わせや整列の練習をしているはずだ。
この他にも警備兼軍の威厳を見せるために3万人ほどの隊員もついてきている。
式典は王宮の中で貴族向けの儀式を行なった後、貴族街の門を出たところにある広場で国民に向けての式典が行われる。
そのときに広場の周りに立ち平民たちから王たちを警護する。
さらに貴族街を抜けて城下町までパレードのように移動する王たちが通るときに道の両横に立って文字通り肉の壁となるのだ。
この3万人は一般兵でありほとんどが平民出身だ。
当然貴族街には入れず城下町に滞在している者やスラム街、果ては王都から離れて野宿をしている者もいる。
式典の当日に集まり指示通りに動けばいいのですでに打ち合わせも終わり賑わう王都を楽しんでいるだろう。
この3万人は敵の人数に入れない。
元々平民ではあるので殺したくはないのと貴族街の中から行動を開始するので勝手に中に入ってくることはないだろうからだ。
敵が呼び込むようなことを防げば無力化できるがもしうまくいかずに敵になったとしたらそれは相手に諦めてもらおう。
ちなみに貧民上がりの兵士や獣人の兵士はよほど戦果を立てていたりしなければここにきてはいない。
現地に残されて式典に参加できない組ではあるが本人たちが出たいと思っていたのかどうかは別だ。
これが今の状況でミー姉を助けるところから始めれば敵は貴族街の500人と城の中の100人ほど。
戦闘力で言えばこの600人、正確には文官を除いた550人ほどはこの国の戦力のほとんどだといえる。
魔法や魔道具などがあるので数が多い方が強いとは言えない世界なのだ。
この550人が貴族街の外にいる一般兵30000と正面から戦ったら550人が圧勝するだろう。
この国の戦力がほぼ全て集まった中で捕らわれているミー姉を助けるのだ。
しかも王が主導した記念式典の直前で記念式典をぶち壊すことになる。
さらには王子の石化の解除も解かせないことになり完全に国に喧嘩を売ることになる。
だが今さらやめられるわけがない、やめるということはミリアたちが犠牲になることを認め犯罪奴隷にされた皆が死亡するのにそれを主導した王たちに頭を下げることになる。
それはあり得ない。
王宮にいる王、コングロレイト公爵、王宮守護兵、位の高い貴族たち、そして貴族街にいるこの国の軍隊、全てを敵に回してミー姉を助けて隷属の首輪からの解放する。
怒りにまかせてミー姉を探しに突っ込んでいくところだったがベイルがいる。
冷静になって敵の巨大さを自覚した。
まずはミー姉の救出だ。
そしてミー姉をベイルに預けて守ってもらう。
俺一人ならインビジブルモンキーの毛皮でミー姉の近くまで行けるはずだ。
行き当たりばったりな策を考えながら表に出るとどうも騒がしい。
子供たちが何人かザワザワと話し合っている。
子供たちは俺を見て驚いた顔をした。
その中のまだ10歳にもなってないような羊の獣人っぽい女の子が叫んだ。
「で、出て来たっ!兄ちゃん、もしかしてティルって人!?」
「えっ、あ、うん、知ってるの?」
「ジル兄ちゃんに言われてたの、そこの部屋だけには入ったらダメって。ご飯を食べさせてくれるティルって人との約束だって」
『転移』の拠点にするから入らないように言ってたのだがちゃんと守られているようだ。
「あ~、ジルの友だち?」
「うんっ!そうなんだけど、今危ないの!私たちが兵士に襲われてジル兄ちゃんに逃がしてもらったの!」
「襲われた!?」
「うん、お城の兵士の服を着てた、獣人を集めろって!ジル兄ちゃんがこっちにって逃がしてくれたの!」
壁の抜け穴から内側に逃げてきたようだ。
他の子供たちも獣人やさらに小さい子が多い。
たぶん新しい犯罪奴隷を作るための獣人狩りだ、だけどジルが残っても兵士には適わないだろう。
「すぐ行くっ!壁の外だね?」
「えっ!?行ってくれるの!?ありがとう!」
以前教えてもらった抜け穴から壁の外に出る。
ケガだけならポーションでどうにかできる。
死んでないことを祈るしかない。
そんなことを考えながらジルの長屋に急ぐ。
長屋が見えざわついてはいるが戦っている気配はない。
別の獣人が連れて行かれたのか、ジルたちは殺されたのか?
焦りながら長屋の前まで行くとジルが俺を見つけて手を振っていた。
「ティル兄ちゃん!」
「ジルっ!久しぶりっ!大丈夫だった?」
「うん、俺は大丈夫、何人かケガをしたけど。何でティル兄ちゃんが?」
「あっ、羊の獣人の女の子が兵士が暴れてるって教えてくれたんだ。兵士たちは?」
「リルかぁ。えっと、他の人が助けてくれたんだけど・・・」
「おっ、よかった」
「ティル兄ちゃんなら大丈夫だと思うし隠せないから言うぞ、兵士を倒してくれた人が今、中でポーションも分けてくれてるんだ。でも助けたことを誰にも言わないで欲しいって言ってるんだ」
「何か理由があるのかな?いいよいいよ、もちろん誰にも言わないよ。会わない方がいいならこのまま帰るけど?」
王宮守護兵を倒してスラム街を助けてるのだ、国に目をつけられたらめんどくさいことになるのは間違いない。
俺も今からさらにミー姉を助けるために国に喧嘩を売るつもりなのだからお互い顔を合わせない方がいいかもしれない。
その人たちに世話になるぐらいポーションを使ったのなら追加を渡してこのまま帰ろうかと考えときに部屋の奥から女性が出てきた。
「ジル~、一応手当は終わったから。大丈夫やと思うけどあまり無理せんようにな。あいつらを探すために違うヤツらが来るかもしれへんから隠れるところあるならそっちに行っといたほうがええかもしれんなあ・・・って誰やっ!?」
腰の短剣に手がかかるが目が合うと柄を握る手がゆるんだ。
「ティルっ!」
「リモっ!」
久しぶりの再会だ。
「えっ?知り合い?じゃあバレても大丈夫?」
「あぁ、大丈夫や。ティルやったんか、それやったら納得や。カインもニルも、あ、あとひとりもおるからちょっとこっち来ぃや」
ということで中に入るとそこには子どもたちに囲まれたカインとニルがいて部屋の隅には炎帝が立っていた。
「ティルっ!」
「久しぶり、助けてくれたんだって?ありがとう」
「なるほどな、助けたのはそうなんだけど自前でポーション持ってるしあまり飢えた様子もないしスラムとしてはちょっと様子が違うって思ってたんだけとティルが関わってるなら納得だ」
「関わったのは最初のちょっとだけだけどね。式典に出席するのは聞いてたけど会えてよかったよ」
「あ~、それなんだけどな。ちょっと話せるか?」
周りを気にしながら話すカイン。
何か話しにくいことでもあるんだろうか?
そこでルッコラさんが提案してくれた。
「カインさん、ティルさんと話すならさっきの部屋を開けますよ?」
「あ、そうしてもらえると助かります」
「いいえ、みんな、もう大丈夫でしょ?ちょっと大人の話し合いをするから離れてちょうだい」
「は~い、カインさん、また遊んでね!」
「ニルさんもリモさんもまた来てね!」
「ありがとう!!」
みんなにお礼を言われながらジルの母親でもありみんなのまとめ役みたいになっているルッコラさんが一部屋開けてくれた。
炎帝も一緒に部屋に入ってくるがイメージ通りというか子供たちと仲良く遊ぶというわけではなかったようだ。
炎帝は犯罪奴隷としてカインについているがそこは強制させなかったのだろう。
させて子どもたちが喜んでなつくとは思えない。
カインたち4人と俺とベイルだけになってカインがこうなったいきさつを話し始めた。
元々はエイト国から王弟として即位20周年の式典に出席する予定だった。
最近はエイト国王の治世も安定してきて王弟としての事務仕事も一段落し、兄の代理で出席することを幸いに昔を思い出して3人で旅をしがてらこの国に向かった。
炎帝とその部下3人も少し離れて護衛として行動していたがこれは10傑として顔が売れている炎帝いたら周りにばれやすいからだ。
ただでさえカインたち3人ともタングスの砦の件で顔が広まっている。
なので騒がれないためにも国家横断道路を通らず顔を隠しながらセブン国とシックス国を繋ぐ南側のルートからヴィットリアの町に入った。
冒険者時代からだいたいスラム街辺りの宿屋に泊まっているので今回もそうしたところ夜中に騒ぎが起きた。
泊まった宿の近くの女性が働いている夜の店に兵士が襲いかかってきたのだ。
そこに行っていたこの宿屋の親父さんが慌てて逃げ帰ってきて今あったことを話した。
たまにある獣人狩りというよりはただ殺しに来たみたいだったと。
奥さんにそんなところで飲んでいたのかと怒られていたのだがその兵士たちが気になった3人はそこに行って襲っている兵士から獣人を救った。
3人はすでに殺されており4人が負傷している、やめるように言うが兵士は譲らず戦いになり炎帝も絡んできて結局9人の兵士たち全員を殺してしまった。
国の兵士のようだったのでこのままでは獣人たちのせいにされたりしたらがどう処分されるかわからない、なので獣人たちにお金を払って逃げるように進めたのだが約束があるからと逃げるのを断られた。
逆に助けたお礼とあとのことは気にしないように言われ後ろ髪を引かれる思いをしつつ帰りにまた寄ってみるつもりで王都についた。
王都でも式典までスラム街で寝泊まりして観光のようなことをするつもりがまた同じような装備の兵士が10人以上人きて今度は獣人を脅して集め始めたのだ。
それでまた戦いのなったのだが相手も譲らずまた全員殺すことになってしまったというわけだ。
死体はスラム街では珍しくない。
焼却場に近くの大人たちで運び終え、ケガした人たちにポーションで治療しているときに俺が来たらしい。
どんな装備だったかと聞くと身につけていた物は残していると見せてくれた。
間違いなく王宮守護兵の装備品だ。
装備品を見る限り第2小隊の隊長とその部下3班。
これで第2小隊は全滅したことになる。
元は公爵、いや王家の命令なのだ、どうあっても兵士たちが引くことはなかっただろう。
ということはヴィットリアの町で殺したのもそういうことで全員ではないが俺がどうしようもなかった人たちをカインたちが救ってくれたことになる。
俺は今の状況と王たちの計画を簡単に説明した。
今からミー姉を助けに行くこと、たぶん国に喧嘩を売ることになること。
内容を聞いたカインたちはやめるなとは言わなかった。
あまりの酷さに協力すると言うが他国の王弟にそんなことをさせるわけにはいかないと断った。
「やっぱりこっちの方が面白いな、命令してくれたらこの坊やの護衛として一緒に行ってもいいぜ?」
炎帝は戦いたいのだろうがすでにカインの奴隷となっていることは有名なのでややこしいことになるといけないので丁重に断る。
「坊やの奴隷になってたほうがよかったかな?国との戦争なんてなかなかないんだがな」
などとブツブツ言って残念がってはいた。
少しの話し合いの後簡単な今後の行動を決める。
まずは貴族街の研究室の地下でミー姉を救う。
そこでベイルにミー姉を任せる。
できるなら貴族街から脱出。
最低限の目的はゲーレン男爵、ティンカー侯爵、コングロレイト公爵を探し出し捕らわれている全員の犯罪奴隷からの解放。
リモとニルが顔を見合わせて何か言いたそうだ。
何かと言うより自殺行為だからやめておいたほうがいいと言いたいのがわかる。
カインも考え込んでいるが同じ気持ちだろう。
だけどここは引くつもりはない。
やらなければミリアたちは殺されるのだからその選択肢はないことがわかっているからこそ誰も止めないのだろう。
せめてミー姉を助けたあとのベイルと協力させてくれとのことだ。
ベイルは獣人なので貴族街には奴隷にでもならない限り入ることはできない。
なので俺のインビジブルモンキーの毛皮を貸す。
カインたちも正体を隠すために同じくインビジブルモンキーの毛皮を被って貴族街に入る。
ミー姉を助けたら『転移』で逃がしたいがさすがに敵のど真ん中でその余裕があるかどうかわからない。
ミー姉だけ逃がすという手もあるができれば他の獣人も助けてやりたい。
ミー姉に毛皮を渡して隠れたままでいるか最悪ベイルがミー姉を守る。
ベイルも王宮守護兵数人なら相手にできるがあまりに多いと対処できないので戦うのは最終手段だ。
俺はその間にコングロレイト公爵たちを探す。
そこからは1人で行動する。
インビジブルモンキーの毛皮が足りないので炎帝は待機してもらうつもりだったがばれないようにあとをついて行くと、何かあったら死刑にしてくれて責任はとらなくていいからと言い張るので連れて行くことにした。
最悪の場合炎帝の戦闘力は役に立つのは間違いない。
懸念していたことがひとつ。
ゲーレン男爵を殺害したときの首輪の透明化のことだ。
ゲーレンが死んでも透明化したままだと本当に解除されたのかの判断が難しいのでできれば先に透明化を解除したい。
そう思ったのだがゲーレンを殺せばほぼ間違いなく透明化は解けるとのこと。
もしすぐに解けなくてもゲーレンというか人間の魔力量では死んだあと長く魔法は続かないそうだ。
付け加えると今ミリアを苦しめている位置のわかる魔法はかけた当人が死んだのならそのうち切れるということ。
だけどたまに2人でかける魔法というものがあって他に位置のわかる者がいるのならそいつに解除させるか殺すしかないということだった。
これで安心してゲーレンを倒すことができる、他の貴族も。
カインたちは町に入る時も顔を見せないほうがいいだろうとの判断で抜け穴を通って壁を抜ける。
何かあったときの待ち合わせ場所は転移場所でもあるこの長屋の真ん中の部屋だ。
もし『転移』で逃げ出すことができればここにたどり着くだろうし。
どこで見られているかわからないので部屋の中からインビジブルモンキーの毛皮を被って移動する。
俺を先頭にベイル、リモ、ニル、カインの順に、周りからは俺しか見えていない。
離れて炎帝が気配を消してついてくる。
貴族街への東の門を通る。
タングスの砦のときを思い出して足下に注意はするが何もない。
今回は忍び込まれるなどと予想していないだろうから当たり前なのだが。
ここはさすがにごまかせないので俺の『転移』で炎帝も貴族街の中に入れたがそのあとはまた離れての行動だ。
まずは何よりもミー姉の救出だ。
周りに気をつけながら王宮に近付く。
いつもの手前の大きな広場では王宮守護兵ではない人間が集まっている。
皆同じ軍服を着て整列している、おそらく式典の練習中だ。
大将とか中将とかの偉い人は城の中にいるはずだ。
全部で400人ぐらい、佐官、尉官クラスの軍の人間だろう、予想より100人ほど少ない。
もし彼らが王宮守護兵なら間違いなく俺に絡んできただろう。
だけど俺の顔も知らない人も多い。
何より栄誉ある式典への出席の練習を俺にかまうことで台無しにはしたくないだろう。
それでも目立たないように遠回りをして彼らを通り過ぎた。
ミー姉を助けたあとこの400人を無視することができればかなり楽なのだが。
ティンカー侯爵の屋敷が見える。
敷地内だが完全に別の建物になっており入り口も別々だ。
入り口は小さな門になっていて侯爵の部下2人が見張っている。
「ここで間違いないのか?」
カインの小さな声がした。
「ちょっと待って」
返事して視界の『転移』で何度か入ったことのある地下室を覗いた。
いたのはティンカー侯爵にゲーレン男爵、それと研究員が3名。
研究員はそれぞれティンカー侯爵の手下のような貴族の子弟だ。
その奥に部屋があり牢屋のようになっている。
生きた人間を隔離しておくために外側からも様子が見えるようにだ。
そこに10人ほどの獣人がおり中にはミー姉もいた。
全員がボロボロの服を着ておりかなり衰弱しているようだ。
顔に傷がないのは式典で顔を見せて王子のための犠牲になると宣誓するからだろう。
首輪の透明化も解除したままで逃がすつもりもないのだろうが式典までにはまた透明化するつもりなのはわかる。
さらによく見てみるとほとんどの人が身体に傷を負っていた。
ミー姉も身体中に切り傷や擦り傷がある。
その檻の中に研究員が1人入った。
周りの研究員はニヤニヤ眺めている。
それだけでミー姉を含め獣人たちは身を縮めている。
その研究員は持っていたムチを振り上げ一番近くにいたネズミの獣人の背中を叩いた。
叫び声を上げるネズミの獣人。
「はははっ、ほら、反抗は禁止だが逃げていいぞっ。暇つぶしぐらいにはなってくれよ」
「またかよ、いくら待つ身だからってなぁ。暇つぶしはいいが殺したらちゃんと1匹捕まえてこいよ」
「今守護兵が捕まえに行ってるんだろ?2、3匹多めに捕まえてくるだろ」
「まぁそうだな、俺も遊んでやろうかな」
暇つぶしで逃げ惑う獣人を追い詰める。
反抗は禁止と命令しているということはここの研究員の命令を聞かなければいけないとゲーレン男に命令されているのかもしれない。
その八つ当たりのムチがミー姉に向き、振り下ろした瞬間にその研究員の首を切断した。
叫び声が上がる。
さすがに目の前で殴られるのを見過ごせなかった。
ゲーレン男爵やティンカー侯爵が騒ぎ出す。
「俺は急ぐからあとからゆっくり来て」
4人にそう言うと門に向かって走り門番の首を切断して落とした。
そのまま門の中に入る。
見てなかった部屋にいた4人の王宮守護兵が叫び声を聞いて部屋に向かっているところを後ろから身体ごと横薙ぎに切断する。
部屋に入ると牢の中で2人の研究員が剣を握っているのが見え、その剣が獣人に向かう。
考えている暇はない、2人とも首を落とす。
残りはゲーレン男爵とティンカー侯爵だ。
口を開けてポカンとしている2人の前に立つ。
「犯罪奴隷からの解放を!」
「なっ、何を言っている!こいつらは式典での生贄だ。そんなことできるはずがない!」
「そうだ、おい、平民のくせに!さっさと出て行かんか!」
「もう1度言う。犯罪奴隷からの解放を。まずはそこの人たちからだ」
「でっ、できるわけない!おいっ、誰に口をきいているのかわかってる・・・っ」
ゲーレンの首を落とした。
ゲーレンは首輪の透明化だけで解放できるのはティンカー侯爵のはずだ。
今まで騙していたのだし許せるはずもない。
「これで透明化もできなくなったはずだ。さぁ、解放を」
「なっ、何をするっ!お前、式典をぶち壊すつもりかっ!」
ティンカー侯爵の左腕を肘から切断した。
「グァァァッッッ!!なっ、何を、わしは侯爵だぞっ!」
「だから?犯罪奴隷の解放できるんだろ?早くしろよ」
「はっ、早く、ポーションをっ!ポーションを渡せっ!」
「先に解放だ」
「馬鹿なことを言うなっ!ポーション!エリクサーのなりそこないがあったはず、痛いっ、腕がっ!」
ポーションを探す右腕も肘から切断した。
「うぁぁぁッッッ!!!貴様ぁ、何をっ!どうやってっ!」
「いいから早く解放しろよ」
「するわけないだろうっ!クソッ!守護兵っ!早く来いっ!」
大声で呼ぶがさっき殺した兵のことだろう。
呼んでも来ないことがわかったのだろう、焦り始めているのがわかる。
「クソッ!クソッ!何でこんな目に!お前らっ!こいつを・・・っ」
首を落とした。
獣人たちに命令して俺を襲わせようとしたのだろう。
できればここで解放したかったのだが襲われたらどうしようもない。
その命令を出しそうになったら殺すことは決めていた。
「ティルっ!」
「ミー姉、助けに来たよ」
「うわぁぁぁぁっっ!!」
よほど辛かったのだろう、俺にしがみつき大声で泣き出した。
そこにカインたち4人がやってくる。
「早いな、全員か」
「うん、ここで解放したかったけど無理そうだった」
「そうだろうな、奴隷が近くにいたら自分を守らせようとするだろう」
カインはこうなることはわかっていたようだ。
「じゃあここでミー姉たちを頼むね」
「おぅ、任せとけ!」
ベイルが頼もしく返事をする。
「ミー姉、首輪取るから、ベイルと待ってて。ちょっと行ってくる」
「・・・無理、しないで、ね」
俺から離れてベイルの横に立つ。
首輪から解放されたいがその困難さもわかっているのだろう。
止めたほうがいいのかと迷っている感じだ。
「大切な妹のためなんだからちょっとぐらい頑張るって、任せといて」
「もぅ、また・・・年下のくせに」
泣きながら笑顔を見せた。
「門番の死体は隠しておいた、ここの中の死体も隠しておくよ」
「あ、ポーションと食料が入ったマジックバッグあるから渡しておくから」
全員を『転移』で送っている時間がもったいない、彼らも助けてくれただけでもありがたいとのことでここで待っていてもらうことになった。
どのみち犯罪奴隷から解放されなければ式典で死ぬとこになるのだから『転移』などで俺の魔力を使うのはもったいない、とも。
魔力は全然足りているのだが言い争いよりも今は行動だろう。
俺が地上に上がるのをカインたち3人とベイルが様子を見にがてらついてくる。
ベイルはミー姉を守ることに納得しているがカインたちはまだ迷っているのが見てわかる。
しかし地上に出るとそれどころではなかった。
ティンカー侯爵の部下だろう10人ほどの兵士が入り口を取り囲んでいた。
その前で炎帝が入り口に立ち入るのを防いでいるようだ、炎帝とわかったのだろう、牽制だけでまだ戦いは始まっていなかった。
さらにさっき通り過ぎた広場の兵士たちであろう軍隊の装備をした兵士たちが集まってくる。
「あいつらよ!泥棒よ!強盗よ!殺しなさい!」
本宅である屋敷で女性が叫んでいる。
ティンカー侯爵の奥さんだろう。
「あ~、これはもう隠すのは無理だな」
カインが腹はくくったとばかりに少し嬉しそうな声で言う。
「そうね。元々私たちも喧嘩を売ってるんだからティルにだけ任せるのは間違ってるわよね」
「そうやな、後のことは気にするんは止めや。ティル、ここに来て止めても無駄やで
」
「さすがご主人様だ、よし、国と戦争だ」
続々と集まる兵士たちが庭に集まる。
広場よりは狭いとはいえさすが侯爵家の庭だ、充分な広さがある。
わめき続けるティンカー侯爵夫人にリモが矢を放つと額に綺麗に刺さり後ろに倒れた。
空気がザワッとしたのがわかった。
夫人が死んだとしてもそれで解散とはならない。
むしろ侯爵夫妻を殺した相手を逃がせば何を言われるかわからないだろう。
「殺してもいい!捕まえろっ!」
ティンカー侯爵家の指揮官だろうそれなりに豪華な防具を着けた兵士が叫ぶと兵士たちは俺たちに向かってきた。




