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5³㎤の転移無双  作者: 清白
第5章 王都

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第5話 王都での日々





 ジルたちに出会って2カ月がたった。

住んでいた長屋は安くで買い取れた。

安くと言っても相場の1.5倍ほどの金額を払っている。

元の持ち主にしても先代が安すぎる家賃で住ませていたのがもったいないのでもっと払える人に貸したかったようだが高めの家賃で20部屋もいきなり埋まるわけがない。

それならと先代が安く貸してくれてた感謝も込めて色をつけると言うと売ってくれたのだ。

この辺りでは高いといってもスラム街には変わりがないので元々の値段が安いのだ。


 そこにルッコラさんが代表みたいな形になり元々住んでた知り合いなどのママ友みたいな人にも声をかけてさらに3人の大人が集まった。

子供たちはジルと他のママ友の子供たちと孤児たちの中からなるべく任せられるような年上を選んでリーダーにして3人グループを10個作った。

グループごとに手分けをして1日2回、話を聞くのだから忙しい時間を避けた朝食後と夕方とに食堂を回ってもらった。

もちろんスラム街だけではなくジルの友達にも手伝ってもらい壁の中の子供でも行けそうな食堂もだ。


 そしてルッコラさんのママ友の中には大人の店で働いてた人もいてその伝手でそっち系のお店も探してもらった。

さすがに大人の男性を雇ってお店に行ってもらってそのお金まで出す、などということまではしない。

それでも横のつながりが強いのか2ヶ月でスラム街の半分ほどのお店で話を聞いてくれたみたいだ。


 それでもミー姉は見つからなかった。

ウサギの獣人のミー姉と同じぐらいの年齢の人の話は数件あったが本人らしき情報はなかった。

ルッコラさんが申し訳なさそうな顔をするが元々の情報量が少ないのだ。

約束の2ヶ月がたち大規模な捜索はやめることにした。

そうなると子供たちの食費を稼がなくてはならない。

食費ぐらいならずっと出してもたいしたことはないのだが自分たちで稼ぐことを覚えないと自立できない。

ここのようなスラム街で自立できないのは生きていけないということだ。


 それについて子供たちがかなりの数の食堂を当たってくれ、値段と味の情報も集まった。

自分たちで稼ぐためにもせっかく住めるところを作ってもらったので場所を利用して持ち帰りのお弁当屋のようなお店をはじめられないかとルッコラさんに持ちかけられる。

場所代がいらないぶん安くできて子供たちの食費ぐらいは稼ぎたい、少しずつでも稼ぐ方法を身につけてやりたいということだ。

当然美味しいお店と同じものを出して商売敵になるのはダメだ。

あと初期費用もいる。

それで俺が責任者になって初期費用も出せないかという話だった。


 初期費用を渡すが責任者にはなれない。

どうやら俺は王宮守護兵に目をつけられたようで責任者になってここにまで迷惑をかけることはできない。

それでもここまで協力してもらったのだからお礼もかねてできることがあればこの先の子供たちの自立のための手伝いはしてやりたい。

けっきょく責任者という形ではなく初期費用を出してルッコラさんに責任者になってもらうことになった。

もちろん何かあれば俺に相談することになっている。

特にたちの悪いチンピラや組織的な暴力などは女性と子供だけでは対応し辛いだろうからそのときはすぐに連絡を取れるようにした。


 俺への報酬と言うかお礼はミー姉の情報が入れば連絡をくれること。

元々それが目的だったしこの後も規模は小さくしてでも気にかけてくれたらありがたい。

その約束でまとまりあとはルッコラさんに任せることにした。

ルッコラさんはあれ以降体調も悪くならないしポーションで治ったということはやはり体内でケガのようなものがあったのだと思う。


 俺がこの町に来たのはもちろん素材収集の納品のためだ。

今回の納品はマジックアントという魔の森に住んでいる蟻だ。

大きくて真っ赤な蟻という特徴を聞いているうちに昔のことを思い出した。

ドラゴンを倒したときに最初見たドラゴンが餌にしていた蟻だ。

蟻なので1匹だけということはないだろう、あの辺りに巣があるはずだ。

説明では働き蟻が他の魔物の死骸などを餌にするのと同時に魔力を溜め込み女王蟻に魔力を捧げる、魔力を捧げられた女王蟻は魔力を魔素に変換するという珍しい虫の魔物だそうだ。

普通の魔物は魔素を魔力にして魔法を使ったり身体を強化したりできるようになるのでそれとは逆なのだ。

生態は珍しいが働き蟻は相当数いて森の奥に行くほど体長が大きい。

働き蟻自体も魔力そのものを蓄えるので餌として見られやすいが特に女王蟻は魔素を吐き出すので強い魔物の餌になりやすい。

なので普段は巣から離れた場所で隠れ住んでおり働き蟻が魔力を捧げに来るのを待っていて魔素を吐き出すときだけ地上に出てくる。

もし女王蟻が殺されたりしていなくなったら働き蟻の中から女王蟻に進化する個体が出てくる。

あのときは逃げられていたがドラゴンが食べようとしてたのもそういうことなのだろう。


 女王蟻は遭遇すら難しいので収集依頼は働き蟻だがもちろん女王蟻なら査定アップだそうだ。

以前行ったドラゴンと出会った所に『転移』で以前見かけた場所を調べた。

そこにはまだ穴が開いていた痕跡があり、やはり奥は巣のようだった。

魔物を餌にして魔力を溜め込むというのでドラゴンの肉を巣の前に置いておくと以前と同じ体長50㎝ほどの真っ赤な蟻が出てきたので『転移』で虫カゴに入れた。

そのままマジックバッグに入れて納品しに来たのだが今回は楽すぎた、以前見かけていてラッキーとしかいいようがなかった。


 しかし思ったよりマジックアントは喜ばれた。

金貨100枚も報酬を貰えた。

認めてもらえたのはそれなりに嬉しいのだがこの貴族街に来るたびに憂鬱になる。

相変わらず王宮守護兵に捕まり模擬戦との名目で乱暴を受ける。

こんなに毎回見つかるのは納品しに行くたびに俺のことを王宮守護兵に報告しているやつがいるのだと思う。

そうでなければあまりにも毎回納品のたびに出会うのが納得いかない。


 元の世界と違いケガは治るのだが一方的な悪意に慣れることはない。

コングロレイト公爵にマリンたちを犯罪奴隷から解放してもらった恩がなければ貴族街などには一切近づかないだろう。

ただ、話を聞いているとあと1年後にある今の王様の即位20周年記念式典というものがありそこで発表するための研究をしているのだそうだ。

その年は同時に俺が14歳になる年でミリアが今の仕事の契約を終えて再び一緒に暮らす年になるはず。

獣人であるミリアを貴族街に連れてくることはできない。

専属の素材収集家として認められるのならミリアと違う町に住みながら『転移』で通ってもいいと思っていたのだがそれはやめておこうと思い出していた。

式典のための研究ならそれまでは協力しよう。

式典が終わって2ヶ月ほどで俺の誕生日になるのでちょうどいい。

あと1年は協力する、その先はBランク冒険者の仕事でミリアと暮らしていこうと思う。


 それから半年がたった。


 その間もアイアンパピヨンの口吻やストーンフラワー、ドラゴンの肉などを納品した。

コングロレイト公爵はかなり満足してくれていると聞き少しは恩を返せたかと思う。

そのたびに絡んでくる王宮守護兵には辟易したが。

ただ、ここで思ってもいなかったことを提案された。


 「数々の良質な素材の納品をありがたく思う。公爵専属の素材収集家の中でもかなり上位の貢献度だ。ほしい素材もほぼ揃ったので少しの間は依頼もなくなるだろう。ティルにはその功績を讃えシックス国名誉騎士に任命し王宮守護兵の一員として王の即位20周年記念式典まで王宮の警護を任命する」


 ティンカー侯爵に呼び出されてその任命の言葉を聞いたときは頭が真っ白になり理解できなかった。

しかもティンカー侯爵はありがたがれと言わんばかりだ。

「名誉騎士に任命されるなんてシックス国の国民として自慢できることだ」

「スラムで暮らしていた人物が王宮守護兵になるなんてこれ以上ない出世なので喜ぶがいい」

「王宮守護兵の先輩の言うことを聞いて国の式典を無事に終えられるように頑張れ」

にこやかにそんなことを言われる。


 今すぐ逃げだそうか、そんな思いもあったがミリアのこともあり少し悩んだ。

逃げるならこの国で堂々と生活することはなくなる。

エイト国でカインの世話になるのもいいかとも思うがミリアが自由になったあとの選択肢が狭まるのは嫌だ。

そして侯爵の台詞から元々スラムにいたことは調べられているようなのでひとりで逃げるとミリアにも迷惑がかかるかもしれない、それだけは避けたい。

王宮守護兵になることは耐えられないが1つだけ聞いてみた。


 「その王宮守護兵になるのは記念式典までだけなのですか?」


 侯爵は少し難しい顔をしながら答えた。


 「今回は記念式典までという任命だ。だがもちろん功績を上げたり立派に務めれば記念式典以降も王宮守護兵でいられるということはあり得る。もし続けられなくても名誉騎士の称号はそのままだし王宮守護兵として一時的にでも働いていたことはこの先の人生で栄誉となるだろう。まずは努力することだ」


 おそらくこっちの意図とは別の答えだがその後に王宮守護兵の強さや素晴らしさを語り始めたのでうなずきながらも頭の中を切り替えた。


 あと半年間だけ。

半年我慢すれば恩も返し終えたと判断して王都から出ていく。

バラッドの家で暮らすのもいいし公爵や貴族たちが何か言うようなら国を出る。

なので半年間は王宮守護兵として何か起きても我慢する。

そう決めた。


 王宮守護兵は3つの小隊に別れている。

これは以前から訓練を見かけて大体わかっていたことだ。

ほぼ全員が貴族の子弟で構成され、冒険者のように魔物を倒すわけではなく王宮に攻めてきた人間が仮想の敵である。

3つの小隊で順番に王宮の警護をしており城の城門が開いている朝から夕方までが勤務時間だ。

もっとも実際に王宮まで敵が来たことはなくセブン国との戦争はシックス国軍が担うので貴族の親たちも危険のない名誉職のような感じで息子を職に就かせているようなものだ。

どうりで模擬戦をしたときに1対1でそこまで強くなさそうだと思ったはずだ、訓練はしているが実戦がほぼ0なのだ。


 王宮の警護といっても城を囲む壁は高いのでよじ登ってくる者はいない。

城門を守ればほぼ事足りるのと一応巡回もしている。

まずは小隊が4人ずつ8班に別れる。

城門にいる2班、休憩する2班、城壁の内回りを巡回する2班、休憩する2班で別れるので実質半分が休憩だ。

週に1度は全体訓練がある。

城の近くの広場で隊長の指示に従って行進し決まった通りの動きで模擬戦をする。

これは年に1度の発表会があるのでかなり練度が高い。

だがもちろん決まった通りに動くだけなので実戦で役に立つことはない、親たちに見せるための小学生の運動会のようなものだ。

俺が最初に見て凄いなと感心したのはこの訓練だったのだが現実を見るとこの程度だ。


 俺は第3小隊に組み込まれた。

それにともない一人の兵士が休養ということになった。

何かあったときは駆けつけられるようにと王宮守護兵は1小隊は勤務外でも貴族街にいることを義務づけられている。

元々貴族街に住んでいる者ばかりなので問題はなかったのだが俺は貴族街に家はない。

しかし俺だけその条件を免除するわけにはいかないということで3日に1度は城門の前で警護するということにさせられた。

夜通し閉まっている門の前で立っているのだ。

あまりにもバカバカしいのだが半年はすると決めたことだしと言うとおりにする。


 他にも元の世界の子どものいじめかというような嫌がらせをされる。

支給された剣や盾を隠される。

模擬戦では4対4のはずが味方から攻撃される。

スラムに住んでたことへの誹謗中傷。

何度やり返そうと思ったのかわからないがやり返せばその時点で死刑になってもおかしくない。

貴族とはそういうものらしい。

しかもなりたくもない王宮守護兵に平民がなったことへの嫉妬心などこちらにはどうしようもないのだ。


 そんな状況のまま2ヶ月がが過ぎたころ、兵たちの間で噂話が流れているのを知った。

なんでもティンカー侯爵がエリクサーの完成の見通しをつけたということだ。

コングロレイト公爵の出資と協力のおかげだというコメントで今まで対立関係だったのが協力関係になるだろうとのこと。

ある程度の成果が見えてきて対立している意味もなくなってきたのだろう。

元々ティンカー侯爵の実験のために素材を納入してるということで文句を言われていた俺だが協力関係になったからといって俺への嫌がらせがやむことはなかった。


 さらに2カ月が過ぎ、即位20周年記念式典まで2カ月に迫った。

そんなときにニュースが入った。

この国の王子の手と足が石化された。

俺が納品したストーンフラワーのせいだそうだ。

石化の解除というのはほぼ不可能と言われていた、だがここでエリクサーが本当に作れたのならもちろん解除できるはず。

王宮守護兵に入ってから素材を納品することもなくなったのでティンカー侯爵どころかゲーレン男爵とも会っていない、どちらかなら当然エリクサーの情報を持っているのに、と思ったが俺に開示されるわけないだろうと思い直す。

あと2カ月、ここでの馬鹿らしい生活も後それだけだと思うとまだ頑張れる。

相変わらず俺への嫌がらせはひどくなるばかりで毎日のようにポーションがいる。


 俺に普通に話しかけてくるのは同じ小隊のボニートぐらいだ。

つい愚痴りそうになるが王宮守護兵の悪口などはもちろん言えない。

それでも少しでも話をする相手がいるだけでホッとするのでボニートには感謝している。


 記念式典まであと10日を切った。

基本は国内のお祝いなので他国からの出席はほぼないのだが隣のセブン国とその隣のエイト国からは国王代理の使者が来るという。

その使者がどうやらカインということだ。

カインが来るならもちろんニルとリモも来るだろう。

久しぶりに会えないかな、と考えてしまう。

俺にとっても記念式典が王宮守護兵の最後の仕事になるはずだしその後の話も少ししたかった。


 それとは別に王宮守護兵たちがザワザワしている。

しかしその原因は俺に知らされることはない。

王宮守護兵の内で半分いかないほどの人数、副小隊長3人ともと第3小隊長がそれぞれ2斑8人ほどを連れてどこかに派遣されたようで珍しいこともあるものだとは思ったが俺はその中には入っていなかったのであまり気にしなかった。

大事な任務に俺がどうこうすることはない。

それが2日後、最悪な事態を見ることになった。


 その日俺は休日だった。

王宮守護兵としてこの式典は今までにない見せ場になるはずだ。

王家の警護を一手に担うことになっている。

その緊張からか皆がそわそわしているのを感じ、ストレスからか暴言や暴力は酷くなっていた。

休日なので他の兵士の顔も見たくないと思っていたのだが嫌がらせの一環として休みの日にも提出しないといけない書類があった。

書類の書き直しをさせられて休日が終わってしまうこともあるぐらいなのだがあと数日ぐらいは何があっても耐えようと決意しながら貴族街の門をくぐる。

書類を提出するために城の前の詰め所に行ったが誰もいない。


 書類を置いて帰ろうかとも思ったがどうやら広場に誰かいるようだった。

そこには俺の所属する第3小隊長の姿が見えた、2日前に2斑ほど連れてどこかに行ったはずだが帰ってきたのだろう。

隊長が話をしているのはゲーレン男爵のようだ。

先頭に隊長、その後ろの兵士がロープを握り10人ほどの獣人の男女が繋がれていた。

首の刺青を見るとどうやら犯罪奴隷のようだ。

周りを逃げ出さないように兵士が囲んでいる。


 貴族街に獣人の奴隷を入れるのは珍しいのだがそれ以上に犯罪奴隷がここまでザワザワしているのも珍しい。

たいてい犯罪奴隷として過ごしていたら諦めが見えて抵抗することも少なくなる。

騒いでも命令されたら騒げなくなるし反感を買うぐらいならおとなしくした方がマシということになるのだ。

それが泣いたり叫んだりしている者もいる。

犯罪奴隷になったばかりの団体か?

推測していると大きな体の熊の獣人の男がゲーレン男爵と言い合いしているのが聞こえた。


 「素材とはどういうことだ!?何で首に犯罪奴隷の刺青が!?」


 「ん?お前がずっと犯罪奴隷だったからに決まってるだろう。健康そうだからストックとして隣町で働かせておいたのだ。犯罪奴隷が5年も死ななかったのだから感謝してほしいな」


 「5年?俺が王都を出て隣町に行った時だ、どういうことだ?俺は犯罪奴隷になどなった覚えはない!」


 「あぁ、見えなかっただけだ。だがその身体にも使い道ができた。いいか?お前らは国民の前で宣言するんだよ。王子のために身体を捧げると。意味がわかってなかったら行動できんからわざわざ説明してやってるんだ」


 「そんなのはどうでもいい!何で俺たちが犯罪奴隷になったのかってことだ!」


 「理由などストックのないときに健康そうな獣人がいたからに決まってるだろう。お前ら獣の存在価値などそんなものだ」


 「つ、妻は?俺は妻を残して隣町に行ったはず。そう言えば俺は何で置いていったんだ?俺は帰る、西の町に家があるんだ!妻は?妻は足が悪いんだ、なのに俺は何で置いていったんだ!?」


 「ん?ほう、思い出したのか?忘れて働けと言ったのに珍しいな。魔法の効き目が切れやすくなるような特殊魔法を使えるのかもしれんな。獣人では珍しいが5年かかるならたいした魔法じゃあるまい」


 「妻は?妻は?どうなった?5年休みなしで働いて毎日の食料以外受け取っていないはずだ!金は妻に渡してるんだろうな!?」


 「う~ん、どうだったかな、足が悪いなら私の奴隷にはしてないはずだが・・・あぁ、思い出した。何の役にも立たないからたしかその場で処分したはずだ」


 「なっ、しょ、処分とは?な、何を?」


「あぁ、もういい、小隊長、連れて行け。お前らは隊長について行け。あとで式典の時の段取りを教えてやる」


 途中から言葉は聞こえていたが内容は頭に入ってきていなかった。 

最初は遠目に見てできればかかわらずに通り過ぎようかとも思ったのだがどうしても気になることがあったのだ。

言い合いをしている間もそれが気になっていたのだ。

犯罪奴隷の集団の一番後ろに頭を抱えながら泣いているようにうつむいている女の子。

首には犯罪奴隷の刺青が入り手はロープで縛られて周りの奴隷と繋がれている。

そして亜麻色の髪からはウサギの耳が見えてその形には見覚えがある。

どうしても確認したくて近寄って行ったところ、小隊長から厳しい声がかかる。


 「ティルか!!邪魔をするな!貴様と違ってこっちは大事な仕事をしているんだ!下がれっ!!」


 そんなことを言われたが頭に入ってこない。

ずっと頭を抱えていた最後尾の女の子が小隊長の叫んだ俺の名前を聞いたからなのか顔を上げて怒鳴られている方、こちら側を見た。


 ミー姉だった。


 (何で?ミー姉が犯罪奴隷?何が起こってる?早く解放しないと?ゲーレン男爵がいるならすぐにでも解放してもらおう。素材ぐらいならまた獲ってくるから)


 自分でもわかるほど足下がおぼつかない。

フラフラとミー姉の近くに寄るとミー姉はハッとした顔をしてから顔を背けて繋がれたままの手で首を隠す。


 「・・・見ないで・・・」


 そう言ったミー姉の瞳からは涙がこぼれているのが見えた。

それはそうだ、友達に自分が犯罪奴隷になった姿など見られたくないはずだ。


 「だっ、大丈夫だって、ほら、ここにゲーレン男爵がいるから。男爵は犯罪奴隷から解放する権限を持ってるんだ。ゲーレン男爵っ、これは何かの間違いです。ミー姉が犯罪奴隷になるはずがない。また何でも集めてきますから解放してやってください、早く、お願いしますっ!」


 自分でもテンパっているのはわかった。

ただ解放してもらわないといけないということだけで頭の中は一杯だった。

いきなり頭の後ろから衝撃が走り気がつくと地面に倒れていた。


 「馬鹿か貴様は!何を勝手なことを言ってるんだ!こいつらは王子のための素材だ!少しは礼節をわきまえろっ!」


 俺は4人ほどに上から押さえつけられ身動きができなくなった。


 「違うんですっ!そんなつもりじゃ、彼女が犯罪奴隷のわけがない!お願いします!解放をっ!」


 さらに人が増え頭も押さえつけられて話すこともできなくなる。

そんなときに小隊長とゲーレン男爵の会話が聞こえてきた。


 「どうしますか、ゲーレン男爵?」


 「そうだな。素材は集まったしもういいだろう。あぁ、処分する前にインビジブルモンキーの毛皮とマジックバッグは必ず手に入れておけ。持っているはずだ。あとは特殊魔法を使えるはずだ、死んだら使えんがどんなものか吐かせておけ」


 「わかりました。その後処分でいいでしょうか?吐かなければそのまま処分でも?」


 「あぁ、それでいい・・・あ、いや、ちょっと待て、すぐに殺すな」


 「はっ、あの、すぐに、とは?さっさと処分しておいた方がいいかと思いますが」


 「いやいや、こいつは仮にも王宮守護兵だったのだ。栄誉をやろう。素材になる100人の獣人のリーダーだ。王宮守護兵にまで上り詰め、王子の役に立つため獣人たちとともに素材になるんだ。いい話だろう」


 「はっ、ではそうするように説得を?」


 「いや、さすがに説得は無理だろう。こいつも犯罪奴隷にすればいい。元々処分しはじめている奴隷の空きを捕まえなきゃならん、1人はこいつにしよう」

 

 「なるほど、わかりました。おいっ!お前ら、ティルを縛って詰め所に連れてこいっ!」


 話は聞こえたが理解はできなかった。

暴れて逃げる?

『転移』で?

ミー姉は?

まるで悪い夢でも見ているかのように兵士たちに縛られている自分が他人事に感じられた。


 「ティルっ!」


 かすれたようなミー姉の声がした。


 「ごめん、待ってて。助けに来るから」


 何とか誤解を解いてミー姉を助けなければ。

縛られて連れて行かれながらそのことばかり考えていた。



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