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5³㎤の転移無双  作者: 清白
第5章 王都

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第2話 王都サドラ





 シックス国の王都サドラ。

シックス国の中央の北寄りに位置し、十数万の人間が住んでいる。

中央に王の住む城があり城壁で囲まれている。

その外側には豪華な町並みが広がりその外側にも壁があってそこは貴族たちに関わる者たちが住んでいて貴族街と呼ばれている。

貴族街の壁には東西南北に門があり南門からは軍の関係者が出て行く道があり一番広い道だ。

逆の北側は国家横断道路の始発点になっており旅人や商人たちが通って賑わっている。

この道は終点のトゥエルブ国へと繋がっている。

国家横断道路を軍隊が使用するのは国同士の取り決めで禁止になっているので軍隊は逆側から出るのだ。

残りの東と西の門は貴族以外の者、例えば貴族の使用人や貴族相手に商売をする商人、呼び出された平民などが出入りするので門番も怪しい者が入らないように厳しく取り締まっている。


 貴族街の外側は平民の住む城下町になっていて外に行くほど貧しい者が住んでいる。

城下町の一番外側はさらに壁で囲われていて城下町に入るときでさえ門を通るときに門番に身分確認されるのだ。

貴族街に入ろうとしたときに比べると身分確認は厳しいわけではないがそれでも町の中に入れないものがいる。

身分証明の無い者、無くても少しのお金を払えば問題を起こさない限りは入れるがそのお金さえ無い者、犯罪者、などで王都にいる獣人の半分以上がこれに当てはまる。

その者たちは壁の外側のスラム街に住んでいる。

スラム街と呼ばれている場所は西と東に分かれてはいるが北や南に近づくにつれ貴族などが町を出るときに道などで関われば命がない、それを避けるように町が分かれて人が増えているだけだ。

ここにも城下町の中に住んでいる者と同じ数ほど住んでいるのではないかと言われている。


 国家横断道路から王都を見る。

道はまっすぐに門に続いている。

その門からは一番外側の壁が両側に広がっている。

東を向くと遠くに町に入れない人たちが住むスラム街が見える。

西を向くと同じくスラム街と呼ばれる場所だが王都に来たが夜に入れなかった者相手の宿屋や安い食堂などが並んでいる。

そんな場所を遠目に見て城下町の北側の大きな木製の門の前に着く。


 身分の証明できる者は見せるだけで通過できる。

俺の場合はBランク冒険者のカードを見せれば問題ない。

Eランクのままなら身分証明にはならないが身分証明ができなくても100ゼゼ払うと通してくれる。

怪しい人間は荷物などを調べられたりするのだが基準があるわけではなく門番の判断次第だそうだ。

何も言われなかったというよりBランク冒険者など王都にはありふれており興味も持たれていない様子で城下町に入る。

外の店よりは数段上等そうだがガヤガヤとしている要するに平民向けの店が並んでいる。

町の中に入り少し進むと宿屋が並び馬車で来た者は宿屋などに寄り馬を預けることになる。

どこがいいのかわからないこともあり馬を連れているわけでもないのでそのまま宿屋を通り過ぎた。


 向かったのはさらに中心部の貴族街だ。

依頼の納期は明日、最初のコングロレイト公爵からの依頼なので手続きもわからない、まずは納品してみようと思う。

入ってきた門から貴族街の門までは真っ直ぐに道がある。

町の中の大通りみたいなもので両側には高級な店が並ぶ。

入り口付近の宿屋を越えて馬車を使うのは貴族しかいない。

その貴族たちが興味を引けば立ち寄れるようにということだ。


 当然そんな高級店はスルーして歩き貴族街に入るための門の前に立つ。

最初の門より出入り口の警戒が厳しい。

中に住んでいる身元のはっきりしている貴族は馬車のまま門を通る。

ここは貴族用の門だということで言葉通り門前払いに合い東の門に行かされた。

東にある俺みたいな中に用事のある者のための小さな門の前で入門許可を取る。

身分証明だけでは入れず何のために入るのか、武器などの携行の有無、身元保証人、厳しく調べられるのだがゲーレン男爵から受け取った依頼の証明書と冒険者カードを見せるとそれだけで中に入れた。

さすがに公爵からの依頼は特別なのだろう。


 町の中は綺麗で建物と建物の間は広くゆったりしている。

ほとんどが貴族の家でもちろん住み込みの従業員たちもいるので1軒がかなり広い。

それも奥に行くに連れて敷地面積も広くなっていくので奥に行くほど身分が高いのだろう。

この国で貴族になるとここの家を買い住むことができる。

領地持ちの貴族もいるがそれでもここに家があるのが普通だ。

奥の方にはさらに壁があり高い城が見える。

あれがこの国の王が住んでいる王城だろう。


 俺が呼び出されたのはゲーレン男爵の家だ。

貴族の格としては一番下の男爵なので貴族街の外側で貴族の家としては小さいのだがそれでも庭の広いお屋敷としか表現できない。

俺の家も同じような広さだが王都の貴族街と地方都市の魔の森の真横では値段も全く違うはずだ。

あまりマジックバッグ、特に容量の大きすぎる物は見せびらかす物ではないということは勉強してきているので門に入る前に大きなカバンを出して荷物を持っているようには見せかけている。

ゲーレン家の門番に依頼書を見せると門を通してくれて入ってすぐ横の庭にある小さな小屋のようなところに通された。

俺の家にも最初から建っていたので従業員用の部屋みたいなものだろう。


 中に入ると6畳ぐらいの部屋で大きめのテーブルが置いてあり椅子は手前と奥に3つずつ用意してあった。

座って待つように言われたので手前の真ん中の椅子に座る。

まさか元の世界の面接のように座るときの作法とかがあるんじゃないだろうか?との思いが頭をよぎったが、もしあったとしても何が失礼に当たるかなどわかるわけもないので考えることはやめた。

カバンの中から鳥カゴを取りだしてテーブルの上に置き布をかける。

中のポイズンスパロウの止まっていた時間が動き出したが布をかけて暗いからか止まり木におとなしく止まっているようだ。

そこに1人の男が入ってきた。


 痩せ型で長身、髪もきちんと整えており元の世界の古いサラリーマンといった印象を受ける。

ここでも依頼書と冒険者カードで本人確認をされ新規に雇われた冒険者だということを確認される。

コングロレイト公爵に紹介されたが実際にはティンカー侯爵のさらに下のゲーレン男爵に雇われていることになっており目の前の男はゲーレン男爵のさらに部下である。

この仕事をする前に念を押されているのはコングロレイト公爵の名前は出さないこと。

コングロレイト公爵とティンカー侯爵は表向きには仲が悪いことになっているが実は裏で繋がっていることを口外しないこと。

これを破れば犯罪奴隷に落ちることもあると言われており実際にもそうなるのだろう。

なので俺の立場はゲーレン男爵に雇われた素材収集家ということだ。

ゲーレン男爵は表向きはティンカー侯爵の派閥に入っていることになっていて犯罪奴隷関係の仕事をしているのは政策の争いでティンカー侯爵がコングロレイト公爵から奪い取った仕事だということになっているとか。

ほかの貴族たちも絡み合って色々複雑な貴族同士の関係のようだがコングロレイト公爵は表向きは公明正大なことにしておきたい、裏の仕事はティンカー侯爵が主導していることにしているが実際はコングロレイト公爵自信が担っている、ゲーレン男爵は犯罪奴隷関係と裏の仕事関係の実行者、ということらしかった。


 入ってきた男はカルノーと名乗った。

さっそく鳥かごの布を取ると急に明るくなったことに驚いたポイズンスパロウがピーピーと鳴きだす。

カルノーはその鳴き声に驚いたようだ。


 「まさかっ、生きたままか?本物なのかっ!?」


 「本物だと思います、ただ僕はそこまで魔物の鳥類に詳しくないので似た別種がいたりしたら間違っているかもしれません」


 町中ででも見かけるスズメが魔物になったと聞いて変わったりするだいたいの特徴は教わったのだが羽の形が少し違うなどで別種だったらわからない。

そのことに思い当たって一応そう言ってみた。


 「いや、見かけでは間違いない、まさか生きて持ってこれるとは思ってなかったのだ。この納期までで納品されるのはそこまで質がよくないものだと思っていたがこれは助かる」


 「納期を過ぎても受け入れるつもりだったのですか?」


 「ん?あぁ、初めての納品だったな。よくやってくれたし次も期待してるから詳しく説明しよう。だいたい納期が少し厳しいのだ。それで持ってこれるのは質の悪い売り物を買った物とか何とか見つけられたといった物なのだ。それで納期が来ても締め切りだと言わなければさらに納期は延びる」


 「最初からその納期にしない理由とかはあるのですか?」


 「質の悪い品物にも使い道があるんだ。だいたいは実験の道具になるのだが最初は失敗が多い。なので質のいい物を無駄にするのはもったいないのだ。なので最初は失敗前提で質の悪い物を使う。そして実験が進み質がいい物なら成功の可能性が上がるのでは?といったところまで来た時点で質のいい物を使う。魔物の素材を使った実験はだいたいそういう感じだ」


 質の悪い物では一切成功する可能性がないとかの結果はないのだろうか、などと思うがそこまで口に出すこともないのでそういうものかと受け入れる。

何より犯罪奴隷から解放してくれた恩でこの仕事をしているのだから喜んでくれるのなら特に問題はない。


 「いくら質がいいと言ってもまさか生きたまま持ってこれるとは思わなかった。最近では生きたファントムマンティスも納品されたがあれも助かったが・・・えっと、君の名前は、ティル?確かファントムマンティスの納品者も・・・?」


 「あ、はい。僕です。あれで推薦してもらいました」


 「おおっ!生きたまま捕まえるような特別な魔法でも習得してるのか?いや、納品して貰えるのなら詮索はしない。是非これからもよろしく頼む!」


 「できる限り頑張ります」


 「あぁ、今回の納品で内部での評価のランクを上げておく。もし何か困ったことがあれば言って来てくれ。町中のもめ事程度ならゲーレン男爵の名前を出してくれてもいい。そうだ、貴族街を歩ける許可証も渡しておこう」


 「ありがとうございます。できる限り迷惑をかけないようにはしたいと思います」



 そう言われて服につけるバッジのような物を渡された。

これがなければ貴族街を歩いている見知らぬ人間は警備員などに職務質問を受けることもあるという。

もちろんこのバッジにも制限があり貰ったのは1番下の3級バッジで子爵、男爵エリアを自由に歩き回ることができる。

カルノーがつけているのは最上級の貴族街どこでも入れる1級バッジだそうだ。

侯爵の仕事も受けているのだから当然だろう。

屋敷で働く者や貴族街の外から買った品物を納入する業者、警備員や兵士などがそれぞれのランクにあったバッジをつけているらしい。


 それと男爵の名前を出してもいいというのは囲い込まれるということだろうか?

何にしろもめ事が起きて貴族の名前を出してその場を納めるというようなことはやりたくないが状況によっては必要なのだろうか?

これ以上借りも作りたくないのでそういうことを聞いた程度にしておこう。

納品が終わり報酬が払われゲーレン男爵の屋敷を後にした。

どういう町なのか少し興味を持ってせっかくバッジを貰ったことだしと貴族街をブラブラとする。

大規模な閑静な住宅街といったところで所々に警備員が立っており視線を向けられるが胸のバッジを見ると視線は外され咎められることはなかった。


 住宅街の外れに大きな広場があった。

野球場ぐらいの広さのそこでは100人ほどの兵士が訓練をしていた。

おそらく小隊3つを合わせた中隊の訓練だと思われる。

30人ぐらいずつでひとかたまりになりなっているのが小隊でそれが3つの部隊になっている。

それぞれ先頭に2人立っているのは小隊長と副小隊長だろうか。

さらにそれらをまとめるように1段高い所から指揮をしているのは中隊長で指揮台の下にいるのが副中隊長だろう。

もっともこの知識も元の世界の漫画などからなのでここでは別の編成などがあるのかもしれない。


 中隊長の指示で小隊長を先頭に全体が規則正しく動く。

甲冑を着込み動きづらそうなのにそれを思わせないのはよほど訓練されているのだろうか。

ただ後ろのほうにたまについて行けてなさそうな兵士がいるのは新兵なのかもしれない。

ここで訓練をしているのはたぶん城を守る兵士だろう。

俺も一応は学園の戦闘コースを卒業しているのだ、もしかしたらあそこに混ざっていた未来もあったのかもしれない。

コングロレイト公爵にマリンたちを隷属の首輪から解放してもらい素材収集を紹介してもらったのだ、公爵の本業は国の軍の隊長なのだから兵士になってほしいと言われたらたぶんなっていただろう。

この訓練をするなら今の素材収集の方が気楽でよかったな、そんなことを思いながら訓練を見ていると中隊長が俺を見とがめたのか呼び止められた。


 「おい!そこの!何を見ている!」


 見知らぬ人間で着ている服もたいした物ではない。

中にドラゴンの肌着は着ているが上は貴族街に入る最低限レベルの衣服だ。

貴族本人などではないことも一目でわかった上での文句だろう。

最近は貴族と会うこともあって何とかなってきたことで考えが甘くなっていたのかもしれない。

貴族街をブラブラしているのが間違いだった。

物わかりの良い相手だったら良いのだけどと少し期待をしてこの場を乗り切ることを考える。


 「もうしわけありません、あまりこういう場所に入ることもなかったので整然とした動きに見入ってしまっていました。ご不快でしたらすぐに立ち退きます」


 「我々、王宮守護兵の訓練を覗き見ておいてそれだけで許されるわけはないだろう。身分を証明していけ、まずはこっちに来い!」


 『転移』で逃げることも考えた。

だが顔も見られているしこの先貴族街には何度も来ないといけないのだ。

仕方がないので広場に入り胸のバッジを見せる。


 「それはこの街に入る最低限の保障だ。どこの貴族の使いだ?名前は?」


 少し迷った。

誰の名前を出したらいいのか?

ゲーレン男爵の名前は出してもいいと言われているがティンカー侯爵やコングロレイト公爵の名前を出すのは不味いのだろうか?

そもそも兵士ならコングロレイト公爵の部下だろうがそうすると侯爵の名前は悪い方に取られるか階級の高い貴族の使いと思われるのかどちらなのかもわからない。

とりあえず本当のことで名前を出す許可を貰っているゲーレン男爵の名前を借りるしかない。


 「ゲーレン男爵に素材収集者として雇われている者です。ティルと申します。今日初めて貴族街の中に入り素材を納めたところです」


 「ゲーレンの奴隷か。ということはティンカー侯爵の一派だな、我々がコングロレイト公爵の直近の部隊、王宮守護兵だと知ってのことか!!」


 「いえ、申し訳ありません。本当にただの偶然です」


 名前を出したのは外れだったようだ。

とにかく誤り続けるしかないのだろう、経験がないので落とし所がわからない。

そんなとき1人の隊員が中隊長にかけより何やら耳打ちした。

先ほど後ろでついて行けてなかった新兵だ。

それを聞いた中隊長は俺をにらみつける。


 「ほほぅ、お前、タンタル男爵を倒したのか?それで学園を卒業したというわけか?うちの新人が言うには学園でそこそこ有名だったそうじゃないか?おい、腕に覚えがあるのならちょっと訓練を手伝ってくれよ」


 どうやら新兵は今年学園を卒業したようだ。

学園ではほぼ学生生活をしていないし知人もカインたちぐらいしかいないので他の生徒から俺がどう思われているのかなど知らなかったが有名といわれるぐらいだったのだろうか?

実際に俺はその今年卒業と思われる新人を見たこともない。

こういうのは同期と言うのか何というのかわからないが仲良くやっていくわけにはいかなさそうだ。


 「いえ、決して有名というわけじゃないと思います」


 「何言ってんだ、入学と同時に卒業資格も取って授業も出ずにセルバンナイト侯爵に媚びてそこからティンカー侯爵に取り入ってたんだろ?ほとんど顔すら知られてないがティンカー侯爵の派閥で新人でティルって名前なのだから間違いないよな?ほら、実力を見せてくれよ」


 卒業生にはそういう風に思われていたのか。

確かに顔を合わせた生徒の方が少ないので名前しか知られていない。

カイルたちは優秀で有名な王族なのに気さくだと評判を上げていたが俺はそんなものなのだろう。

他の兵士たちもニヤニヤと笑って見ている。

元の世界のイジメを思い出す、大勢からの悪意はこんなに気持ち悪かったのだと再確認した。

それでもどうやら1度は戦うしかなさそうだ。


 冒険者と城の兵士との違いは装備だ。

決まった場所で戦うわけではない冒険者は動けるように最低限の防具しか着けない。

ここの王宮守護兵のような甲冑を着込んでいては魔の森の入り口付近に出るウサギの魔物を追いかけることすらできない。

相手が都合よく襲ってきたら甲冑で防御して剣で切ることはできるだろうが魔物もそんな馬鹿ではない、逃げられて終わりだろう。

強い魔物から逃げるにも弱い魔物を追い詰めるにも急所は守りつつできるだけ軽装備というのが冒険者の常識だ。

対して王宮守護兵の仮想の敵は人間であり防衛することに意義がある。

魔物が襲ってきたとしても倒せば勝ちなのではなく魔物から護衛対象を守れば勝ちなのだ。

襲ってくる相手に対しては防御力は高く相手の目的が守備の突破である限り敵から近づいて来てくれる。

そこを有能な指揮者がいれば編隊を組みさらに優位に戦えるだろう。

相手が逃げれば勝ち、だが相手が強くても逃げるわけにはいかないのが王宮守護兵の役割である。


 さらに中隊長が言うにはSランク冒険者を倒すほどの人間に胸を借りたいとの名目でどうやら小隊を組んでいる中での最低限の単位の4人組を相手にしろということらしい。

甲冑を着込んだ4人相手に普段着で刃の欠けた剣を渡される。

「Sランク冒険者を倒すぐらいなのだからそれで充分だろう」と笑う中隊長とそれに追従する兵士たちの笑い声は人間の汚いところを煮詰めたようだ。


 先ほどの新兵を含めた4人組が前に出てくる。

残りの兵士に周りを囲むように立たれては逃げ場はない。

それに加え軽装なのを利用して足を使って距離を取り続けるという選択肢を防ぐための形だろう。

正直に言って勝つだけなら簡単だ。

『消去』で4人まとめて切ることもできる。

だがそれをすると残りの全員が敵となることは明らかでこの先がやりづらくなる。

さて、どうするか?

今着ているドラゴンの肌着は相手の剣を通すことはないだろう。

頭などの露出部は気をつける。

圧勝するのもまずい。

負けて終わるのならそれでもいいが相手の武器は普通に殺傷能力がある。

殺されたとしても簡単にもみ消されて終わりだろう。

方針は粘った上での引き分け、もしくはできるだけケガを少なくしての敗北になる。


 相手は4人、先ほどの若い男性が前に出てきた。

まずは実力を見るといったところか。

相手の剣も一応は刃の落とした模擬刀だが頭に食らえば死んでもおかしくない。

後衛が攻撃を仕掛けてきたりするのかと思ったがそれもなさそうだ。

2、3度剣を合わせただけでさすがにこいつに負けることはないとわかる。

俺だって今もほぼ毎日剣を振っているのだ。

「さすがに1人じゃ無理か」

そんなことを言いながらもう1人が参戦してくる。


 2対1。

魔法無しではさすがにきついが未熟な最初の男の動きの鈍さもあり何とか戦える形にはなっている。

最初の男が体力を使い果たしたのか動きが鈍くなったところをケガはしないように甲冑の上から胴を打った。

これは殺し合いではなくただの試合だ、これで納得してくれないかと思ったが甘かったようだ。

「生意気だな」と残りの2人が参戦し、最初の男は後ろに下がって息を整えておりまだ参戦してくる気は満々のようだ。

あの打撃では退場にはならないらしい。


 3対1。

さすがに防戦一方で何とか動き回って同時に相手取らないようにするだけで精一杯だ。

ヤバいと思ったときはハイポーションをかけるか飲めるように心の準備はしておく。


 「この程度か」

 「本当にタンタル卿に勝ったのか?」

 「木刀で勝ったと聞いたがこの程度に負けるとは思えん」


 そんな感想が周りから飛ぶ。

俺なりに3人相手で魔法無しでということでそれなりにやっていると思うがタンタルならもっと強かったのだろう。

しかも相手の体力を尽きさせるように円陣の中でも大きく動いていたのだが少しずつ輪を狭められている。

円陣から攻撃は今のところはないが、いざとなったらわからないのでそちらにも気を遣わなければならない。

さすがに無理があったのか頭をかばって剣を受けたところ胴を強打された。

ドラゴンの肌着で衝撃は吸収されダメージはないがもうこれで終わるつもりでその場に倒れた。

参りました、のつもりだったのだがさらに剣を打ち込まれた。

殺すつもりは無いのか剣の腹の部分でだった、頭をかばったが数か所肌着の無い部分にも当たり傷ができる。

手首や足首のガードまではつけてきていななかったので袖や裾がまくれそのあたりに痛みが走る。

倒れた相手にニヤニヤと笑いながらの追撃、元の世界で嫌になるほど味わった顔だ。

最後に休んでいた最初の新人の男が腹に蹴りを入れたのが最後だった。


 「でかい面して歩いてんじゃねえぞ」

 「平民の分際で取り入り方だけ上手くやりやがって」

 「殺さねえだけありがたいと思え」


 うずくまる俺に口々にそんな言葉を投げかけてくる。

そこに中隊長が出てきて俺を見下ろして言った。


 「少しは自分の立場がわかったか?ティンカー侯爵みたいに裏でコソコソせずにコングロレイト公爵を筆頭とした俺たちを見習って正々堂々と生きるんだな。どうせ何かその汚いやり口でタンタル卿も倒したのだろう。その程度の腕で貴族の戦いに入り込めると思うなよ、お前など甲冑を着込んだら1分も動けんだろう。ティンカー侯爵に泣きついても無駄だからな、今日はこれで許してやるからさっさと出て行け。偉そうな顔で貴族街を歩いていたらまた稽古をつけてやるからな」


 そう言ってさらにうずくまっているところに蹴りを入れられる。

さすがに腹が立つがこいつらは公爵に心頭しているだけでティンカー侯爵側だと思われたから敵対されているのだ。

実はティンカー侯爵もコングロレイト公爵の言うままに動いているということは秘密だしもし言っても信用してくれないことは明白だ。

偉そうなことを言いながらやっていることは4人で1人を袋だたきにして倒れたところを追い打ちし罵倒しているだけなのだから。

「申し訳ありませんでした」

一切思ってはいないが何とか言葉を発してその場を去る。

軽い切り傷と打撲ぐらいのようだが深手を負ったと見せかけるのに少し演技力が必要だった。


 理不尽な暴力に元の世界を思い出すがそれ以上にミリアたち獣人はこっちの世界でもこんな思いを抱いているのだ。

俺がこれぐらいで心を折るわけにはいかない。

ミリアと再会するまであと1年とちょっと、それぐらいなら我慢できる。

毎日ここに来るわけでもないし次はあいつらの気分で見逃されるかもしれない。

続いたとしても素材収集者としての評価を上げれば公爵に何とかして貰えるかもしれない。

実際に身体にはほぼダメージは無い。

だけどこういうことがおきればどうしても元の世界のことを思い出してしまう。

こんなことがミリアに起きたらと思うと耐えられない。


 「ミリアに会いたいなあ」


 貴族街の門をくぐって出るときに思わずそうつぶやいた。





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