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5³㎤の転移無双  作者: 清白
第5章 王都

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番外編4 セルバンナイト侯爵




 セルバンナイト侯爵


 タングスの砦を墜とした人物が入学しようとしている、そんな話をタンタルに聞かされた。

タンタルの伯父であるアンバー=タングス侯爵がエイト国のハインベルド第2王子と炎帝と手を組んでクーデターを起こそうとの企みを打ち砕かれてからまだ1年ほどしか経っていない。

あのままエイト国の王が崩御してクーデターが成功すればタングス卿はエイト国の王を操る黒幕になれたはずだ。

クーデター自体は杜撰な計画ではあったが何よりも『王の器』を手中に収めていたのだから勝算はあった。

というよりも『王の器』を手中にしたからこそ杜撰な計画でも実行したのだろう。


 そんな計画だとしても最終手段としては炎帝がリーブディード第1王子を殺害すればよかったのだ。

エイト国の王子は単独行動が多い。

それが許されるだけの本人と周りの人間の武力が高いから許されるのだろうが炎帝が相手では太刀打ちできないだろうから成功率は高かったはずだ。


 第2王子が王になればタングス侯爵は娘を嫁がせて王妃にして王の義父として権勢を振るうことができる。

もしくは第2王子が何らかの失政をすれば『王の器』を譲り受けて本人が王になるという可能性すらあった。

それほど『王の器』を所有しているという事実は大きいのだ。


 タングス侯爵にそれが可能だと思わせるエイト国第2王子にはかわいそうなところもあった。

第1王子のリーブディードが圧倒的に才能があったために本人はスペアにすらなれず、比較対象にすらなれずに育った。

物心がついた頃にはすでに第1王子の才覚は周りにも認知されていた。

最初は少なくとも期待する人間もいたのだが第1王子の光は眩しすぎて決して愚鈍ではないというぐらいの第2王子の姿は誰の目にも頼りなく映った。

それでも本人は第1王子の補佐をすべく努力をし続けていたのだが数年後に第3王子のアーカインドが10歳になる頃にはそちらの才覚が目立ってきたのだ。

第1王子も第2王子には補佐としての仕事として雑用を頼みだし、計画そのものの相談は第3王子にするようになっていった。


 こうなったのにも1つの逸話がある。

エイト国のとある田舎町の橋が原因不明で壊された。

橋を直して欲しいとの陳情を受けて王は第1王子に対応を任せた。

第1王子は補佐として第2王子を、初めての現地での学習として第3王子を連れて現地に赴き数日間の探索を行った。

第1王子としては同じ場所に橋を架け直すA案と少し離れた場所に新たに架けるB案とを比べていた。

補佐をしていた第2王子に両方のメリット、デメリットを地図を見ながら説明した。

第2王子の返事はどちらの案にするのか決まったらそれに合わせた資材や人材を準備する、どちらになっても使えるようなものはすぐにでも用意し始めるので決まったら教えて欲しいというものだった。

第1王子は初めての現地に勉強としてついてきていた第3王子にふと意見を聞いてみた。

第3王子は地図と状況を伝えられるだけでメリットもデメリットも理解してA案を推した。


 結果として第3王子の推したA案は採用された。

今の状況は村人たちの希望はA案だが橋が落ちた原因が不明なので再び同じことが起きると困るのでB案を考えているということ。

地図上でA案を見てさらに現地で落ちた橋の残骸を調べると原因はおそらく魔物のせいだということ。

その魔物、おそらくビーバーの魔物の現在の所在地、対策、弱点などを第3王子の部下が探していること。

さらにはA案の場合は基礎はできているので工事費も安くなるし工期も短くなること。

これらを発表し次の日には部下とともに探し当てたビーバーの魔物を狩ってきた。

その肉も村人たちに分け与え第3王子アーカインドの名前は皆に覚えられた。


 この事例はそこまで難しいことではない。

だが対策を考え出すこととその補佐をすることでは大きく違うのだ。

第2王子の準備の周到さも悪いわけではない。

補佐としては得がたい素質だ。

だが上に立つものとしては問題の解決策を考える視点が必要だ。

第3王子はその視点を持っており実行する力もあることを証明したのだ。


 このことがあってから第1王子は王に与えられた課題や政策についてまでもを第3王子に相談するようになった。

もちろん第3王子の言うこと全てに同意するわけではなく考え方の参考にしたり意見を言い合ったりする本当の相談で第2王子とはできなかったことだ。

第3王子もそれに応えた。

王が病気がちになり第1王子の責任が増えてきても臣下たちが不満を漏らすことはなかった。

それどころか決して王になる資格は血統ではないとわかっていながらも実力で次の王は第1王子しかないと皆が思っていた。


 辛いのは第2王子だった。

決して馬鹿にされていたわけではないが臣下たちや民衆に興味も持たれていなかったのだ。

第1王子が王になり第3王子が補佐をする、皆が思い描く未来に第2王子は入っていなかった。

生まれたときから兄には敵わず兄の補佐を務めれば弟に敵わない。

それどころか第3王子の器は第1王子より上ではないかとの意見もあるぐらいだがそこに第2王子の存在は一切なかった。


 だがそんな第2王子にも誰にも負けないものを1つ持っていた。

『防御魔法』だ。

防御魔法を使える人物はたまにいる。

対象に魔法をかけると防御力、耐久力を上げるのだ。

物理にしろ魔法にしろ耐久力を越えると魔法は切れるのだが第2王子の防御魔法はその防御力と耐久力が圧倒的に高かった。

例えば木の盾にでも魔法をかけると一般的な兵士が複数人でその盾に攻撃しても3時間ほどは傷つかずに耐えた。

もちろんよほどの攻撃力や魔法で耐久力を削られるとそうはいかないのだが他の防御魔法に比べると圧倒的な頑丈さだった。

ただしその効果範囲は狭く最大1m四方の空間の中の物にしか効かなかった。

おまけに魔力の関係で1度防御魔法をかけた武器や防具の効果が切れるまでは他の物に魔法をかけられない。

結果、数人の防具にかけるか十数人の武器にかけるかぐらいで軍全体の力が上がるような能力ではなかった。


 そんなある日、第1王子と第2王子たちがナイン国との国境近辺の土地を調べる仕事をしていたところ第2王子と3人の護衛だけではぐれてしまった。

さらに休憩中に十数人の山賊に襲われた。

そのときの護衛の機転で携帯用の木のテーブルにテーブルクロスをかけて第2王子が中に入り防御魔法をかけた。

時がたち第1王子たちが気付いて救援に駆けつけたときには護衛の3人はすでに殺されていたのだ。

山賊たちはテーブルクロスをかけたテーブルを散々攻撃したが一切の攻撃を通さなかったので第2王子は助かった。

護衛たちは仕事を全うし護衛対象を守り切れたのだが第2王子への民衆たちや事情を知らない下士官たちの評価は「いざとなったらひとりだけで生き残る」といったものでさらにそこから「もし第1王子や第3王子だったなら山賊を倒し全員生きていたはずだ」と陰で言われるようになった。


 第1王子は「山賊十数人に後れを取るつもりはない、だが護衛を守って本人が前に出て戦うなどということはしない。十数人に襲われたら全員同時に相手できるわけがないのは当然で私が同じ立場だったとしても護衛は殺され私は生き残っただろう」と、第3王子は「私は十数人相手に勝てる武力が無ければ第2王子のように本人だけでも守れるほどの防御力もない。もし私が同じ立場なら護衛も私も生きていないだろう」と公言した。

だが周りの声は変わることはなく陰口をたたかれ悪意の視線に第2王子の心は折れた。

その様子を見た第1王子の勧めでセブン国に少しの間休養に訪れることになった。


 実はこの護衛に守られてテーブルの下に隠れているときに第2王子は防御魔法の新たな可能性に気付いたのだがそれを伝えたのは兄でも弟でもなく休養に訪れた先で出会った炎帝だった。


 第2王子がテーブルの下に隠れているときは必死だった。

今にも防御魔法が切れ殺されるかもしれないとの思い。

テーブルクロスで外は見えないが攻撃されている音はする。

武器を持ってテーブルの下に入ってから防御魔法をかけたのだ、武器の耐久力も強化されているはずだとしゃがんだまま剣を抜く。

無理だとはわかっていながらもさらに防御魔法をかけられないかと剣に魔力を注ぐと剣は黒く発光しだした。

魔力が流れているのはわかる、悪いはずがない、とさらに魔力をこめる。

剣はさらに発光したが一気に光が消えた。

やはり失敗か?と思ったがテーブルクロスへの攻撃の音がやんだ。

攻撃されている影は見えるのだが今までが衝撃を防御していたのだとすれば今は衝撃を無効にしている感じだ。

テーブルクロスの防御力が格段に上がった上に外からは見えなくなった。

不安が消えたわけではないがテーブルの下でそのまま体感では何分か、何時間かもわからなくなる時を過ごしてから様子を見に出たところを救助された。


 第2王子の静養地はセブン国のタングス領だった。

タングス領には長期休暇や静養地として有名な湖畔があるからだ。

そこに第2王子が来ることを知ったタングスは炎帝と手を組んだ。

タングスと炎帝は何度か手を組んで「仕事」をしたことがあるので今回も誘ったのだ。


 炎帝は最初はいくらエイト国の王子だと言っても陰の薄さで有名な第2王子では面白いことは起こらなさそうだと考えていた。

だが第2王子と実際に会って魔法の話になり防御魔法を見せてもらったときに考えを変えた。

これは本質的には防御魔法ではないんじゃないかと思ったのだ。

さらに上の最近気付いたという防御魔法にいたっては炎帝の炎をもってしても破れないどころか完全に押さえ込まれた。

炎帝は第2王子に興味を持ち話を聞き実験してこれは防御魔法というよりは封印魔法だろうと結論付けた。


 第2王子も今まで存在感すらなかった扱いから批判を浴びる立場になっていたところ初めて自分を認めてくれる存在に出会った気がした。

しかもそれがあの10傑のひとり、炎帝だ。

炎帝とタングスに持ち上げられ本当の自分をわかってくれるのはこの2人だと思い込んだ。

そして父であるエイト国王が病気がちであり『王の器』を第1王子に譲渡する儀式がありそのときまでここで静養していることも教えた。

タングスと炎帝は計画を練り儀式のために第2王子が国へ戻るそのときを選んだ。


 儀式の前日に『王の器』の保管場所を第1王子に伝えて儀式のために移動させる。

エイト国の『王の器』は盾だ。

普段は王しか知らない隠し部屋の中の台座の上に保管されている。

簡単に持ち出せるものではなく大きな台座の上に置かれ王の特殊魔法『固定』で動かなくされた上でさらに鎖が巻かれている。

この『王の器』 の鎖を王が解錠し第1王子が新たに持ち主として鎖を繋ぎ直すのがエイト国の『王の器』を譲渡する儀式だ。

儀式の最中の王が解錠した時点で奪い取るのがベストなのだが儀式自体は王と第1王子の2人で行われるので邪魔をしたり盗んだりすることはできない。

だが前日に隠し部屋から儀式の部屋に移動させる時間がある。

このときは王の特殊魔法『固定』も解除されて運ばれる。

台座ごと運ぶので大勢で運ぶことになるのだが重量がありすぎて盗み出すのは不可能だ。

そこで第2王子の封印の魔法だ。


 兵士が6人で台座を運ぶ。

運ぶ最中は『王の器』には布がかけられている。

第2王子はその布に『封印魔法』をかけた。

第2王子はその場に付き添っていた王と第1王子、第3王子に向かって叫んだ。

「ほら、いきなり襲われたらどうしようもないだろ?私と同じじゃないか!」

驚く王たちにさらに続ける。

「私の封印魔法は鍵がなければ解除できない。お前らがそんなに優秀だというなら取り返してみろよ!」


 その言葉で台座を運んでいた兵士になりすましていた炎帝がマジックバッグから黒い光を放つ杖を取り出して第2王子に渡した。

さらに光が強くなり杖を布に当てたかと思うと光は消え『王の器』は布ごと見えなくなった。

封印完了だ。

炎帝は火球を王子たちに向けて放つと第2王子とともに逃げ出した。


 何とか火球を防いだ2人の王子だがショックで王が倒れ、逃げる第2王子たちにすぐに対応できず、混乱している間に炎帝と第2王子は城から逃げ出した。

そしてタングス領に戻り王が死ぬまで時間を稼ぐ作戦に出る。


 タングスの砦は地理的にも難攻不落でそこを炎帝が守っているとあって軍隊に攻められても食料がある限りは耐えきると言われていた。

言ったのはタンタルだ。

セルバンナイト侯爵とタングス侯爵は国境の川を挟んで隣同士の領地であり昔は小競り合いぐらいは起こさしていたりもしたが今の代では協力関係にある。

表でも裏でも繋がり利益を上げていた。

今回も諜報活動に長けるセルバンナイト侯爵が第1王子の部下の中に間者を潜り込ませ第1王子たちの動向をタングス侯爵に流していた。

その謝礼としてこの作戦が成功しエイト国をタングス侯爵が手中にすれば今のタングス領をタンタルに譲りセルバンナイト侯爵の血縁関係にある貴族の娘を嫁がせる。

それはタングス侯爵とセルバンナイト侯爵がセブン国とシックス国で権力をさらに高めるための足がかりになるはずだった。

今回のことが成功すれば手中に収める対象が2国から3国に増える予定だったのだ。


 タンタルはタングス侯爵の血縁に当たる。

タングス侯爵がエイト国の王になった後に自分が伯爵、さらには候爵になり領主として領地を持てる未来を描いていた。

当時はタングス侯爵とセルバンナイト侯爵の連絡係の隠れ蓑としてジョヌーブ学園の貴族コースの講師をしているが元Sランクの冒険者でもあり戦闘コースの実技指導講師でもある。

もっとも平民の学生に対して実技で厳しすぎるとの批判はあるが弱い者が悪いと本人は気にしていないようだ。


 後はエイト国王が死ぬまで封印が解かれないように待ちそれからの交渉と脅しとが本番で第1王子の排除の計画も着々と進んでいた。

だが結果は大失敗だった。

タングスの砦が墜とされたのだ。

炎帝は敗北し第2王子は捉えられ幽閉されタングス侯爵は死刑になった。

『王の器』の封印の駆け引きからが本番のはずがまさかの第3王子たちによる砦の陥落。


 第2王子の居場所がタングスの砦だとばれたこと、第3王子がインビジブルモンキーの毛皮を手に入れたこと、第3王子たち3人と1人の助っ人の4人で封印の鍵である炎の杖を奪いに潜入しに来ること。

これらの情報ももちろん得ていた。

第3王子を捕らえられれば第1王子への脅しも込みで交渉材料が増えるぐらいの感覚だった。

だからこそ砦の門の地面に細い糸を張り見えない毛皮が通ったら糸が切れて発見できるようにした。

さらに潜入するなら食料などの搬入時だと考え食料を持ってきたときは数分間門を開けたままで雑談するように指示をして罠を張った。

その罠に引っかかり最後尾であろう人物を4人がかりで捕らえたら本命の第3王子であった。

さらに残りの3人にも風魔法で砂を吹きかけて位置がわかるようにした。

この時点で完全勝利しかないはずだったのだ。


 タンタルがタングスの部下から逐次受けている報告を流してもらいここまでの戦況を受けたときまでは問題はなかった。

「これで私の昇爵も現実味を帯びてきました、セルバンナイト卿には今後もよしなにおねがいします」などと上機嫌に挨拶をされたぐらいだ。

それが4人との戦闘の結果は全く想像もしていなかったものだった。


 侵入者と戦闘にはなったが暇を持て余した兵士たちの楽しみとして軽くいたぶって捕らえるつもりだったので想像以上に抵抗した3人はむしろ兵士たちにとっても喜びだったはずだ。

それがまさかの炎帝が腕を切られ杖を奪われタングス侯爵も捉えられ第2王子を奪い返される事態になった。

タンタルが潜り込ませていた手下の兵士からすれば何が起きたのかわからなかったそうだ。

第3王子が強かったというが最初に捕らえられているし炎帝に敵うとは今までの情報から考えるとあり得ない。

全てが終わってからも考え続け、結論としては第3王子たち3人ではない4人目の人物による何らかの魔法かもしれないとの仮定を立てた。


 炎帝を倒すほどの男だとしたら警戒しておかねばならない。

そのティルという平民をひと月ほど調べたがBランク冒険者としては腕は立ち依頼達成の成功率も高いがそこまで難しい依頼も受けていない。

屋敷持ちと言っても郊外の森の前だ。

何よりあの炎帝を倒したのが彼ならばこの国に戻ってBランク冒険者を続ける理由がない。

高額の報奨金を貰ってエイト国で貴族にでもなれるほどの功績だからだ。


 ひとつだけ不審なことがある。

彼の横の孤児院の院長があのアルーシャなのだ。

マジックバッグの制作者で元Sランクの冒険者。

あの気難しいアルーシャが彼とは仲良く話している。

彼はあの場に高容量のマジックバッグを持ち込んだのではないかと推測する。

インビジブルモンキーの毛皮を脱いだときにも中に入れたと思われる、そこに炎帝の腕を治したハイポーション。

腕を切断したのも何らかの魔道具かと推測されるが炎帝に通用するほどの魔道具の存在を知らない。

なので何らかの魔道具に加えそれを利用することができる魔法を使える特殊魔法系の人物などだろうか。

単発のサポートだとしてもあのアルーシャが機嫌良く対応するとすれば気にしておいた方がいいかもしれない。

そう思い少しの間監視を続けていたのだが成績はいいが行動は普通のBランク冒険者だ。

たまに魔の森の奥まで行き入手の難しい素材を持ち込むこともあるので実際の実力はBランクより上だろう。

魔の森にまで監視を続けたらバレるのでどの程度なのかは持ち帰ってきた素材から想像するしかないがAランク上位と言ったことろか。

だがあれ以降エイト国関係者とも接触することはないのでやはりあのときのことは単発の特殊魔法を使ったサポート依頼だったのだろうと結論付けた。


 こうして監視は緩めはしたがそんなときにタンタルが慌てて報告してきた。

それがあの騒動の3人とティルが学園に入学願書を出したのだ。

わかったのは筆記試験の終了後だった。

なんとティルは全教科満点、他の3人も卒業資格を得るほどの点数だった。

この学園の入学試験と卒業資格試験は内容はほぼ同じであり入学試験は合格ラインが低いだけだ。

入学希望者の最初に持っている知識の差が大きいので何が得意で何が苦手なのかをわかるように問題数は多くなるがこういう制度を取っている。

たまに大商人の子供などが入学試験で卒業資格の点数を越えたり貴族の子弟が貴族コースのマナー試験で合格したりすることがある。

だが全教科卒業資格ラインを入学試験で越えるのはそうそうないこと、しかも4人もだ。


 3人はエイト国の中枢に関わる人物できちんとした教育を受けているだろうし今回も国内の兄王の政権を落ち着かせたいので少し身を隠すという意味合いが大きいだろう。

問題はもうひとりのティルであまりにも異質だ。

卒業認定試験も兼ねているので試験の問題は簡単な問題から学者レベルの問題まで多岐にわたる。

それなのに全教科満点なのだ。


 タンタルはタングス侯爵の復讐と自身の栄達を阻害されたと4人を恨んでおり全員の実技試験を引き受けたいと言っている。

私怨を晴らすぐらいは普段は見過ごすのだがさすがに他国の王族相手にはまずいだろう。

3人はパーティーでの試験を希望しているのでタンタルの子飼いと言ってもいい戦闘コースの講師を相手につけた。

パーティーでの試験にもティルは入っていないことからここをタンタルに任せる。

4人分の恨みを背負ってもらう形になるがAランク相当の実力があれば死ぬことはないだろう。

本来なら成績順のテストだがタンタルから不正を疑われていると言うことで他の受験生がいなくなる最後に回した。

周りに人がいないとタンタルの歯止めが効かなくなるかもしれないが死んでしまったらただの平民がひとり死んだだけでどうにでもなる。


 そんな考えでの実技テストだったのだが思っていた結果ではなかった。

第3王子たちは元Aランクパーティーの講師たちに圧勝した。

何よりマジックバッグを使った弓の連射、そして第3王子の攻撃力の高さには目を見張るものがあった。

第3王子の剣筋もなかなかのものだとは思ったがまさか木刀で相手の木刀を切り裂いた上に鎧まで破損させるとは。

信じられない威力である。

ひとりは最初にかけた補助魔法ぐらいしかすることがなかったほどだ。

さらに第3王子の武器を押さえ込んで仲間に託した起死回生の一撃は第3王子の身体に傷すらつけることはできなかった。

かなりのレベルだが王族として装備にどれだけの金額をかけているのかと思うほどの装備の印象が強かった。


 そしてティルだ。

筆記試験はその場で少し質問しても堂々と説明が返ってくるので不正はないだろう。

それがさらにタンタルを怒らせた。

中庭の何が起きても隠蔽できる場所に移動して実技試験を始める。

最初はいたぶるつもりか少し手を抜いていたがAランクでもおかしくない技量を持っているのは間違いなくそれなりに防いではいた。

だがタンタルにかなうレベルではない。

このままだと普通に合格レベルだろうがそれを許さないのだろうタンタルは剣に魔力を通し始めた。


 タンタルの持つ特殊魔法は『爆発魔法』だ。

魔法を通した物で攻撃した場所を爆発させるのが基本の戦い方で相手は受けるだけで爆発するので剣で防ぐこともできない。

知っていても対処が難しいのに初見でやられるとさらに対応が難しい。

タンタルのあの勢いなら死んでもしかたがないか、と思ったところ学園長の制止を無視して斬りかかった木刀が爆発せずに切断され逆に首筋に木刀を当てられるという結果になった。

何らかの魔法を使ったのだろうが私にも何が起きたかわからなかった。

この強さは使える駒になる、そう思いタンタルを止めた。


 しかしタンタルは止まらなかった。

普段見せている打ち合った相手を爆発させるのではなく自分の魔力を爆発させる奥の手を出した。

奥の手といっても本来はこっちの使い方が正解なので威力は段違いだ。

折れた木刀がティルに向かう。

さすがに学園長たちは防御魔法でかばうがティルまでは届かない。

さすがに死んだが、と思ったが投げつけた木刀の切れ端は爆発しなかった。


 彼の魔法の候補はいくつか挙げられたが確証はなかった。

しかしタンタルをものともしないなら使い道はいくらでもある。

話を聞くと犯罪奴隷にされた者の解放を希望していたのは都合がよかった。

ピューリー=コングロレイト公爵が素材を集める人物を探しているのでそこに紹介することにした。

犯罪奴隷からの解放という恩を売ればいい感じで働いてくれそうだ。


 公爵に連絡してみるとどの程度の腕か聞かれたので少しの学園生活の間に紹介するためのテストと称してファントムマンティスを持ってくるように言ってみた。

ファントムマンティスはドラゴン生息域ギリギリ当たりに生息するカマキリで実体は見えないが少し離れた位置に幻影を映し出しその幻影に襲い掛かってきた獲物を捕食する体長20㎝ほどの魔虫だ。

この虫を選んだのは死んだり捕まえたりしたら幻影がなくなり実体を現すので死骸にはたまに出くわすことがある。

なのでどうしようもないほど難しくはないが金で買うには高い、といったレベルだからだ。

買って差し出すならそれでもいい、それだけの金を使う価値があると判断しその財力を持っている証拠だからだ。

そう思ったのだがまさかの生きたファントムマンティスを持ってきた。

ファントムマンティスは幻影の出現場所が個体によって違うので生きているときに見つけるのは至難の業だ。

幻影を大きな網で捕まえたときにかなり近くに本体もいる個体を偶然捕まえた記録があるぐらいでそうそうあることではない。

もちろん捕まえ方をペラペラ話すような間抜けではなかった。

公爵に献上すると喜んで彼を迎えるとの話がついた。

自分の子飼いとしてもよかったかと思ったが公爵との繋がりが大きくなったので満足しておくことにする。


 ピューリー=コングロレイト公爵。

シックス国国王の父である前王の弟の息子にあたる現国王の従兄弟だ。

若かりしときの王の冒険者時代には同じパーティーを組んでおりリーダーは王だったが副リーダーとしてパーティーのまとめ役と戦術立案、指揮をしていた。

王には個人的な戦闘力は一歩及ばなかったが十傑候補には何度も名前が挙がっていた。

最終的にはSSランクであり今はシックス国軍総指揮官でもある。

50歳で白髪白髭で冒険者時代と変わらない筋骨隆々の大男だ。


 公明正大、質実剛健、部下には優しく慕われている。

だがもちろんそれだけで1国の軍隊の作戦を立てられる訳がなく普段は見せない裏の顔も持っている。

裏側の部下の代表格がティンカー侯爵だ。

表向きは人格者で貴族には珍しく平民にも獣人にも甘いと言われる公爵にもっと厳しくするように主張することが多いのがティンカー侯爵だが実のところはティンカー侯爵はコングロレイト公爵の操り人形でしかない。

それでも犯罪奴隷に関することはティンカー侯爵が管理していることは事実なのでそれを利用してティルをどう使うのかは公爵しだいだ。

タングス侯爵が断罪されセブン国側との繋がりがひとつ潰れた今、公爵に恩を売っておくことは大事だろう。

タングス侯爵の企みが失敗し、歩みは少し遅れたが最終的に私が上に行くことができればいいのだ。


 ティルという者を送り込んで公爵がどう使うかはわからないが役に立たなければそれまで。

役に立って公爵の役に立てたら私の印象もよくなる。

私のところにも下級貴族から人材を紹介されることはある、その人材の使い方が上手いのが貴族なのだ。

どう使えば1番利益が上がるか、それを考えて素材採取の腕を買い公爵に送り込んだがこの先どうなるかは送り込まれた者次第でもある。

せいぜい私のために役に立ってほしいものだ。



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