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5³㎤の転移無双  作者: 清白
第4章 学園編

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第1話 ジョヌーブ学園





 『国家共通教育学校ジョヌーブ学園』通称『ジョ学』もしくは単に『学園』と呼ばれている。

3つの国から認められた学園でありシックス国、セブン国、エイト国それぞれの国から優秀な生徒が集まってくる。


 その受験3日目の実技に俺は挑むところだった。

一昨日の初日の筆記試験は少し舐めていたところもあったのだがほぼ満点だったと思う。

元の世界で言うと小学生で習う範囲を想定していたが中学生の範囲まで出たというところだろうか。

院長に神話や昔の話なども聞いていたのであまり聞かない固有名詞などもわかったのも幸いした。

夕方に発表された結果は合格、実技は最終日の最後ということになった。

ほぼ満点だと思っていたのに筆記の成績順だという2日目からの実技の試験の順番には少し納得がいかないものもあったのだが実技の前の個人面接でその理由がわかった。


 面接官は5人、真ん中に座るのがほぼ頭に毛髪の残っていない老人で学園長でディアポレオ子爵だと名乗った。

向かって右に少し太り気味の愛想の良さそうな顔だが目は笑っていなさそうなのが商人コースのコース長であるユーコス。

そのさらに右のジャージっぽい服装で体育教師のような感じなのが戦闘コースのコース長であるファーレン。

向かって学園長から左の高そうなスーツをきて髪をピッチリと七三に分けているのが貴族コースのコース長セルバンナイト侯爵。

さらにその左にいる柔道着のようなものを着ている小柄だが筋肉はついていてずっとこっちを睨んでいるタンタル子爵と名乗った男が今日の俺の実技の相手のようだった。


 学園長の話では筆記は全教科満点だったそうだ。

だけど成績順での実技試験のはずが俺が最後になったのはそのタンタル子爵という男から俺に不正の疑いをかけられたからだった。

筆記テストは100点満点で商人コースで50点、戦闘コースなら30点も取れれば合格で同じ難度のテストで商人コースで80点戦闘コースで60点取ったら学科は卒業だという。

1年ごとの卒業ではないが同じテストで卒業試験を受けた者もおりもちろんその者たちも含めて俺が最高点だった。

要するに入学試験で卒業に必要な点数を取ったので今までにこういう人物がいなかった訳ではないが年にひとりもいるわけではなくしかも満点は初だそうだ。

タンタル子爵からの告発もあり一番最後の試験生にして話を聞くつもりのようだった。


 話といってもテスト用紙を見ながら答えを書いた経緯や考え方などを説明したら学長と商人コース、戦闘コースのコース長は認めてくれた。

戦闘コースで申し込んだが商人コースの卒業資格もじゅうぶん与えられるという。

これまで入学試験で卒業資格も取れたような人物は戦闘の実技で劣ることが多かったらしく入学してから実技に合格するまで在籍することになるそうだ。

今回の戦闘の実技では30点で商人コース合格、50点で戦闘コース合格になる。

その点数は実技相手の試験官が付けるのだという。

その説明が終わったがここでずっとにらんでいたタンタル子爵が口を開いた。


 「おい、俺が実技の試験官だ、簡単に合格できると思うな?」


 「はい、わかりました」


 「どうせ何か汚いまねでもしたんだろう、実技じゃそうはいかないからな!」


 「なぜそう思うのですか?なにも不正などはしてないですし先生にそういうことを言われる理由がわからないのですが?」


 本気でわからないから聞いてみた。

前の世界でも俺は生徒だけではなく教師にも嫌われていた。

俺がいわゆる普通ではなかったからだろう。

たまに優しく問いかけてくる教師もいたが俺が受け入れられなかったし施設の子でさらにその中でも浮いている、問題が起きても文句を言う親もいない子どもだとわかれば声をかけてくれる教師はいなくなり関わらなくなっていったのだ。

だけど今回はここまで敵意をむき出しにされる理由が全くわからなかった。

本気で不正をしたというのなら学院長や他の教員たちももっと疑うはずだ、なのに貴族コースの2人、特にこのタンタルという教師は特に敵意をむき出しにしている。

だが次の一言でその理由がわかった。


 「俺はタンタル、タングス候爵の従兄弟だ。これでわかるだろう?」


 タングスの従兄弟だった。

タングスはあれから他国の王族と組んで抗争を起こそうとしたことでリヴディ王(そのときはまだ王子だったが)に訴えられた。

証拠も揃っていて炎帝も全てを告白して自分から犯罪奴隷に落ちたことにより言い訳もできず死刑になったはずだ。

平民や獣人なら犯罪奴隷になり死亡率の高い鉱山などで使い潰されるところを貴族の特権で回避はしたがもちろん刑を許されるわけではない。

しかも隣の国の王族を巻き込んでのことなので領地を全て没収された上で何とか本人の死刑だけで収まったのだ。

タンタル本人は子爵でタングス候爵の直属みたいな感じだったのだがタングスが死刑になったことにより貴族の後見人のようなものがなくなり苦労しているのだろう。

それを恨んでいるということを俺が悪いという遠回しな言い方でぐちぐちと責めてきた。

正直に言うと「知らねえよ」というところだ。


 「まったく、あのカインとかいう3人組も私に実技を受け持たせてくれたら正体を暴いてやったのに。あいつらも不正をしたに決まってる!」


 「えっ?カインたちも試験を受けてるんですか?受かったんですか?」


 「ふんっ!そんなことも知らなかったということはやはりたいした仲でもないな。学園長、やはりこいつはただの荷物持ちですよ、この学園にはふさわしくないことを私が証明してやります」


 そこでやっと学園長が口を開いた。


 「他の生徒の合否を知らせるわけにはいかないですから。ちなみにこういうことになっていて彼との実技ですが受けますか?一応見込みのある者を選んで立候補した教師ということになってるのですが」


 「はい、実技は受けるつもりですが採点はどうなりますか?このまま2人での実技だと勝ったところで失格だと言われかねないようですが」


 「誰が誰に勝つつもりなんだ?俺は元Sランク冒険者だぞ!?安心しろ、おまえの攻撃など当たらん。全く見込みのないやつがいくら筆記で点数を取っても合格させるわけはないだろ!」


 そこで貴族コースのコース長が口を挟んできた。


 「タンタル卿が言うことは過激だが間違っているわけではない。戦闘コース志望の者が10年以上前に冒険者を引退した者に攻撃をかすらせることもできないのなら失格と言われても仕方がないだろう。ということはかすれば合格ということでいいかな、タンタル卿」


 「あ?ああ、わかった!かすれば合格にしてやる。当たるわけがないからなっ!」


 合格させるつもりなどは一切なかったのだろうが上司に言われては仕方がないといったところだろうか。

しかし質問には答えてもらっていないので再び聞いてみる。


 「すいません、僕は勝ったらどうなるのかを聞きたかったのですが?」


 「あ゛あ゛っっ!!!???」


 それでも面接官か?と言うような声をタンタルが上げる。


 「そっ、それぐらいにしておきなさい、死にたくないでしょう?引退したと言っても元Sランクの学園の講師ですよ?あなたはBランク冒険者ですよね?それに教師に向かってその態度は確かに少し問題があるようですね」


 学園長も話しが通じないようだ。

実技で戦闘をするのに基準を聞くのがおかしいとは思わない。

諦めかけたところで貴族コースのコース長がやっと答えてくれた。


 「もちろん勝ったら卒業資格を得られます。実技の単位認定試験でも教師と戦うことがありますから。そこで負けたのに単位はあげないなどとなれば教師の信用を無くすので当然です。これで安心しましたか?ただし今の君の態度は元Sランク冒険者を怒らせたことになります。貴族にそんな対応をして死んでもこちらに罪はありませんので」


 貴族コース長の表情は心配しているというよりは関心がなさそうだ。

おそらく貴族じゃない者はどうでもいいのだろう。

このままいくとタンタルは俺を殺すのでその先を考えても意味はない、といったところだろうか。

学園長はできれば死人は出したくないがこうなったらもう仕方がない、といったところ。

どうも貴族コース長の方が権力がありそうだ。

戦闘コース長、商人コース長は貴族コース長だけでなくタンタルにも逆らいたくなさそうだ。

結局ここでも貴族が上、逆らうなということなのだろうか?


 最後の受験者ということで中庭に出たところ周りにはもう受験者はいなかった。

建物に囲まれており外部からの視線はない。

ここで殺されてもそのまま闇に葬られて終わりなのだろう。

壁際に用意されていた椅子に4人が座る。

タンタルが手に木刀を持って俺に向かって構えている。

俺も与えられた木刀を握りしめた。

武器は自分の得意なものでいいらしい、一応は剣の練習をしていたので木刀にした。

木刀は持っていても剣道の試合のようなものではない、魔法だろうが別の武器だろうが生き残るために手段は選ばないのが普通だ。


 タンタルが構えるが余裕を持っているのがわかる。

木刀と言ってもまともに頭に当たると死ぬだろう。

しかも相手はじゅうぶんその気のようだ。

例えばこの距離からでも『消去』を使ってタンタルを切り捨てれば俺の勝ちだ。

実戦ではそうなのだが学校の入学試験で試験官を殺して受かるほど何でもありではない、漫画で言えばハ○ター試験ですら失格になる行為だ。

ただし貴族でもある試験官が俺を殺したらうやむやにされて試験中の事故で終わらせられるはずだ。

そういう意味ではハードな試験ではある。


 俺は肌着としてドノバンたちの作ったドラゴンの皮膜でできた服を着ていた。

上は首を覆う長袖のシャツ、下も長ズボンで袖と裾の先も皮膜のバンドを巻いて止めて手首足首も守っている。

染めたりする方法までは確立されていなかったので濃い肌色のままだ。

今は上にさらに服とズボンをはいておりその肌着が見えるのはほぼ首だけだ。

ピッタリとした付け心地で一色なのでオシャレに興味のない俺でも思うぐらいダサい肌着。

しかしその実態はドラゴン系の武器以外では斬撃は通らずあの筋肉ムキムキの親方の巨大ハンマーで殴られても中に衝撃を与えないほどの防御力を持つ並の鎧以上の防護服だ。

同じ素材で作った靴下にさらに薄い部分で作った手袋もつけている。

手袋が薄いのは服よりは防御力は落ちるが攻撃した手に全く衝撃が来ないのも使い勝手が悪く困るので仕方がない。


 タンタルはSランクと言うからには解体場の親方より強い攻撃ができるのかもしれないがこの防御力を越えて即死ということはないと思う。

もし攻撃が通ったり肌着がずれたりしたときの隙間の部分に攻撃が当たればすぐにハイポーションを使う準備はできている。

ということで今守らないといけないのは頭部だ。

実は頭部にも同じ素材で目出し帽のようなものを作ったのだが被ってみるとあまりにも怪しいいでたちになるのでつけるのは諦めたのだ。


 頭さえ守れば即死はしないというのなら練習してきた剣での戦いを少し試してみたい。

そんな気持ちでベイルと一緒に練習していたことを思い出して剣を構えた。


 タンタルからすれば構えを見ればほぼ素人なのはわかるだろう、それでも魔法などを気にして周囲にも気を配っているのがわかる。

開始の合図とともにタンタルが打ち込んできた。

見えないというレベルではないが防御することを考えていなければ防ぐことはできなかっただろうレベルではある。

続けて何度も攻撃を仕掛けてくるが何とか防げてはいる、手袋をつけていなければしびれるか最悪は取り落としてたかもしれない。

タンタルはまだ本気を出していないのだろう、薄笑いを浮かべてどういたぶってやろうかと考えているように打ち込んでくる。


 「ははっ、逃げるのはまあまあだな。だがこれで勝つつもりだったのか?一撃当てれるもんなら当ててみろよ!」


 その言葉と同時に攻撃が止まり1度距離を取られた。

何も対策なしの木刀同士の戦いでは勝ち目どころか一撃当てるのも不可能なことはわかった、さすが元Sランクではある。

対策としてまずは視界を転移する。

これはそれなりの練習をして身につけたのだが自分を俯瞰で見るのだ。

真正面に対峙した相手からの攻撃を受けるよりよっぽど動きがわかりやすいのだ。

この状態でもう一度戦ってみようと思ったのだがタンタルの木刀が黒い光に包まれる。

魔力を流したのだ、木刀に何らかの属性の付与が行われたのだろう。


 「そっ、そこまではっ」

 「タンタルさん、殺してしまいますっ」


 商人コース長と戦闘コース長がイスから立ち上がりかけたところを貴族コース長が手で制した。


 「まだ試験中ですよ」


 「しかしっ!あの技はっ!」


 どんな技なのか聞きたかったのだがその前にタンタルが動いた。

先ほどとは比べものにならない早さ。

こっちにも余裕がないので力を試すなどと言っている場合じゃない。

木刀に『消去』をまとわせて受け止める。

いや、受け止めるというのはおかしいだろう、タンタルの木刀は俺の木刀に当たった場所で切れ、短くなったタンタルの木刀が空を切ってタンタルがバランスを崩す。

振り向きかけたところ木刀の根元をめがけ再び木刀を振り下ろすとタンタルの持った木刀は握ったところから5㎝の長さもないぐらいになった。


 さらに『消去』を解いてタンタルの首筋に木刀を当てる。

相手が殺す気であってもこちらも付き合う必要はない。

これで俺の勝ちだ。


 「なっ、何がっ!?」


 その場に膝をついたままのタンタルは何が起こったのかわかっていないようだ。


 「これで僕は合格でしょうか?」


 「ま、まだ負けたわけじゃな・・・」


 「タンタル卿、あなたの負けです」


 そう答えたのはまさかの貴族コース長だった。

椅子から立ち上がり前に進み出て来る。


 「奥の手まで使って今膝をついて首筋に木刀を当てられているのに言い訳はないでしょう、あなたの負けです。ね、学園長?」


 「そっ、そうじゃな、ティルくんの勝ちだ、試合はそこまでっ!」


 ポカンとしていた学園長がその言葉で我に返り慌てて試合を止めた。

俺はタンタルから木刀を外して視界の『転移』もやめ、試合後の礼をしようと離れる。

この世界でも試合の後の礼とかするのかな?と考えてタンタルを見るとこちらに何かを投げたところだった。

 

 「馬鹿がっ!死ねっ!」


 飛んできたのは手元に残っていた木刀の切れ端。

「うわあっ!」と商人コース長がしゃがんで頭を抱え込む。

戦闘コース長は商人コース長の前で大きな盾を構える。

貴族コース長はおそらく防御の魔法を自分と学園長の前に展開した。


 彼らまで10mぐらい、そこまで範囲の広い攻撃のようだ、前面だけを全員が防いでいるのはこっち方面からの攻撃の余波を気にしてだろう。

俺に向かって攻撃しているはずなのに横にいる彼らが警戒するということは全方向への攻撃だ。

ここで閃光弾のような光で目を奪うのも知っているなら彼らは目を閉じるだけでいい。

物理的な攻撃、爆発か?


 思ったより冷静に考えられた。

魔物などと戦って少しは成長しているのかもしれない。

飛んだままの木刀の切れ端を『転移』でマジックバッグに入れる。

消去でもよかったのだが試合の終わった後の攻撃だとの証拠でもあるので一応保管しておいた。

折れた先の部分2つもさっき魔力を流していたことを思い出して『転移』で回収する。

マジックバッグの中では時間はたたない。

これで爆発することはないはずだ。

なぜなにも起きないのかわからずに狼狽し出すタンタルの足に木刀で打ち込む。

これぐらいしてもバチは当たらないだろう。


 貴族コース長が人を呼びタンタルを捕縛する。

改めて学園長から謝辞と合格を伝えられ、さらに商人コースも戦闘コースも卒業資格を得たことも伝えられる。

この学園では筆記だけではなく実技も入学試験と卒業試験も試験は同じで元Sランク冒険者のタンタルを倒した時点で卒業資格が得られるらしい。

普通なら実技の入学試験は担当教員がある程度のレベルを得ているか何か光るようなものがあれば合格、卒業試験は担当教員が認める戦闘を行えるかどうか、学園で学んだことを習得しているかどうかが合否のポイントなのだそうだ。

教員に勝てる者などほぼいない。

商人コースでも戦闘の試験は戦闘コースの教員やタンタルのようなSランクや最低でも元Aランク冒険者が相手をするからだ。

3年に1回ほどは教員に勝って卒業する者もいるらしいが入学試験時点で元Sランク冒険者に勝った受験生は初めてだそうだ。

こうして入学試験を受けに来たのにもう卒業資格を得るという訳のわからない事態になってしまった。


 その後貴族コース長に呼び出されて話をした。

そして学園に来た目的などを伝えるとセルバンナイト貴族コース長が役に立てるかもしれないと言ってくれた。

なんとセルバンナイト貴族コース長はシックス国出身だそうなのだ。


 すでに卒業は決まったが卒業式というものがあってそれは3週間後だという。

入学式は1週間後。

卒業試験というか単位認定試験は基本1年に4度だが卒業式は年に1度、入学式より卒業式の方が後になるのが元の世界の記憶から考えると理解できないところはあるが同時に入学した者が全員がまとめて卒業ということではないこの学園ではどっちが先などはたいした問題じゃないのだろう。


 入学式にも卒業式にも出席の義務はないが入学式は貴族コースの親たちは見学にも来るので貴族コースの生徒はほぼ全員出るし憧れの学園に入学するということで入学式は出席する者が多いという。

卒業式は貴族コースはほぼ全員、他のコースはすでに働いて遠方にいる者も多いので半分ほどの出席率だとのこと。

2週間後に卒業するにしても一応俺にも戦闘コースのクラスに所属することになる。

思った以上に貴族コース長が色々とアドバイスをしてくれて助かった。


 その後家に戻ってマリンに合格の報告をしたら喜んでくれてご馳走を作ってくれた。

さらに卒業も決まったことを伝えると訳がわからなさそうだったが卒業式の日にもご馳走を作ってくれるということで落ち着いた。

リゼからもおめでとうと言われ嬉しそうにしてくれたのだが今日のご馳走を2週間後にまた食べられること喜びの方が大きかったように見える。



 そして入学式。

カイン、ニル、リモに再会した。

式が終わり全員が同じクラスになったのは偶然ではなくカインたち3人も入学試験で卒業が認められたからで、クラス分けが成績順なので卒業資格を取れるほどの成績なら当然同じ一番上のクラスになるからだ。

入学式の最中に話をするのはダメなのでクラスに入ってから4人で集まった。


 「久しぶりだね、まさか3人とも入学してくるなんてね」


 「ホントだな、ティルも聞いたよ。タングスの親戚と戦ったんだって?」


 「そうなんだよ、何でもあの件で逆恨みしてたみたいでさ。カインたちは何もされなかった?」


 あの事件で目立って顔と名前を売ったのは俺じゃなくてこの3人なのだ、有名になった絵には俺はわかるほどに描かれていない。

だからこそ俺を狙ったタンタルは実情を知っていたと思ったのだ、ならカインたちもターゲットになっていておかしくない。


 「さすがに恨みを持ってても他国の王族を狙う度胸はなかったようだな。名声だけ受け取って面倒ごとはティルに押しつけたみたいになって申し訳ないが」


 「いや、名前を売るつもりもないからいいんだけど、それを言うなら今カインの国は大変じゃないの?学校に通ってて大丈夫なの?」


 「それがなあ・・・」


 少し言いづらそうに横を見るとリモが代わりに答えた。


 「ウチら、特にカインは名前が売れすぎたんや。あの例の絵の複製画とともに吟遊詩人がええように歌い上げてなあ」


 「それは王弟としたら人気になっていいことじゃないの?新しい政権って人気もいるよね?」


 「それは正論なんやけど王弟が王より人気あったらどうや?リヴディ王は懐が深いし事情ももちろん知ってるから笑ってくれてるけどカインの人気が気に食わない側近とかもおってな。さらにはカインを王に担ぎ出そうと企むような奴らもおってやな。政権移行後の忙しさが一段落したからそういう奴らを止めるためにも少し国を出ることにしたんや。それでどうせならここの卒業資格取っとこうと思って3人で受けたってことやな」


 「なるほどねえ。カインたちならここの教師ぐらいなら勝てるだろうからそりゃあ卒業資格も取れるよね」


 「待って待って、私たちはおそらく1人でタンタル卿には勝てないわよ。仮にも元Sランク相手に完勝だったって聞いたわ。私たちは3人で受験してAランクパーティーと戦って勝ったのよ」


 リモがそう教えてくれた。


 「へぇ、パーティーで受験なんてできるんだ?でもAランクパーティーに勝てるのはすごいんじゃないの?」


 「あのね、それも言いたかったんだけどティルに貰った装備と道具のおかげよ。何あれ?そこそこ有名な元Aランクパーティーに圧勝したんだけど?ニルの弓矢の連射は相手に攻撃の隙を与えないし私が攻撃力向上の付与をつけたカインの木刀は相手の盾を粉砕しておまけに相手が一撃だけカインに届いたけど全くの無傷だったんだけど?」


 まくし立てるように言うが俺の渡した武器や道具を作った者の功績だろう。

あげたかいがあったというものだ。

カインたちが砦の騒動の後、国に帰るときにできたばかりの装備を譲った。

国の一大事の時に暗殺などの危険を排除するため、とは言ったがドラゴンの装備ができてテンションが上がっていたことと他に見せる人もいないドラゴンの装備を自慢したかったのもある。


 カインにはドラゴンの前脚の骨を使った剣、鱗を使った片手の盾、リモにはドラゴンの健とヒゲを使った弓に『転移』を付与したマジックバッグを使った矢入れと防御に徹するときの大盾、ニルには胸部の骨を使った杖と腹部の皮のローブ。

さらに俺も着けている肌着も普段使い用に渡してある。


 ドラゴンの肌着は防御力が高いというので着けていることは多かったらしいが実際に襲われたりしたことはなくニルがマジックバッグから弓に直接転移でスムーズに矢を放てるように練習していたぐらいで他は使用していなかったようだ。

それを今回使ってみたところニルが矢をつがえる時間を短縮したこととドラゴンの弓矢の威力で相手を防戦一方に追い込み、ドラゴンの杖で攻撃力向上の付与をつけたカインの木刀は敵と近づいてを振ると相手盾役の盾を粉砕した上に斬撃は鎧まで到達して破損させた。

それでもさすがのAランクパーティーは切られた盾役がカインを抑えるように動いたところ補助役が攻撃力向上の魔法をかけた棍棒使いの攻撃が盾を押さえつけられたカインの胴に一撃を加えた。

だがカインの服は破れたもののドラゴンの肌着は全くの無傷で棍棒使いの棍棒を木刀で叩き折ったカインたちの圧勝だったという。

ちなみにドラゴンの肌着で身体には痣すらついていなかった。


 さらに興奮して話を続けようとするのだがふと周りを見ると他の生徒から微妙な視線を向けられているのがわかった。

カインたちは今や吟遊詩人の唄にも出てくる人物で王弟だ。

その側近のニルとリモも個人で有名になっている。

そんな恐れ多い人物たちと会話している俺は誰なんだということだろう。

カインたちも2週間後には卒業なので少しぐらい居づらい空気は気にしなければいい。

セルバンナイト侯爵からもアドバイスされたがあまり目立たないほうがいいだろう。

特にカインと友達だと知れたら目立つことは間違いない。

ちょうど担当の教師が来たので席に着き話は終わった。

俺たち4人は2週間後は卒業だということを教師から伝えられた生徒たちは驚いた表情をし、顔が売れていない俺を不思議な表情で見ていた。

明日からの説明も終わり帰る時にも俺たち4人には話しかけにくそうな打ち解けなさそうな雰囲気だったのは下級貴族の子弟や平民が多い戦闘コースとしては仕方がないだろう。


 卒業が決まっている俺たちにはもちろん授業の出席の義務は無い。

俺は明日からは図書館に籠もって2週間を過ごすつもりだ。

こっちの世界の歴史や物語などかなりの蔵書があると院長に聞いていて楽しみだったのだ。

そのことをカインたちにも言うとカインたちは少し残念そうだったのはこの雰囲気だとたぶん他に友達はできなさそうなことを悟ったのもあるだろう。

王族に気軽に声をかけることをはばかられても3人いたら2週間程度は大丈夫のはずだ。

この3人と一緒にいて目立つことは避けたいし1人で図書館にこもるのはちょうどいいかもしれない。

こうしてこっちの学校生活も俺はボッチが確定したわけだがたかが2週間、しかも卒業は決定、本は読み放題なので文句はなかった。




 2週間後、実際その通りの行動で卒業式を迎えた。

毎日図書館に行きセルバンナイト侯爵から卒業後のことも何度かアドバイスされて隷属の首輪を管理している公爵を紹介して貰うことになった。

採用試験のようなものも受けたが合格だったようだ。

隷属の首輪は外して貰えると思うとのことで思った以上に早く解決できそうで本当によかった。

卒業式が終わり2週間ぶりに自分のクラスの席に座り担任の話が終われば俺の短い学園生活も終わりになる。

さすがに感慨深さなどは無いが短期間過ぎるので仕方がないだろう。

そう思ってたのだがクラスの雰囲気が入学式時点とは少し違う。

担任の話が終わり解散になったがカインたちは一緒に行動しておらずバラバラに他の生徒と談笑している。

思った以上に仲良くなっているようだ。

クラス委員のようなまとめ役の男子が手を叩くとカイン、リモ、ニル、俺を除いた生徒が教室の前に並んだ。


 「卒業、おめでとう!!」


 「「「「「おめでとう!!!」」」」」

 

 「俺たちも後から続くから3人・・・あ、4人は頑張ってくれ!短い間だったけど3・・・4人との学生生活は楽しかった、ありがとう!」


 生徒たちから拍手される。

無意識で1人よけられてたのは間違いなく俺のことだろう。

男子が2人と女子が1人出てきて男子がリモとニル、女子がカインに寄せ書きのようなものを渡していた。

カインたちがありがとうとお礼を言うがクラスから少し引きつった笑顔を向けられているのが俺だった。


 「あっ、その、大丈夫、俺はほとんどと言うか全くクラスに来なかったし。気にしないでいいからカインたちを祝ってあげてよ」


 それだけ言うのに必死だった。

その後は解散になったがみんな名残惜しそうに雑談をしており帰る気配は無い。

聞き漏れてくる内容によると学校帰りに寄り道したこと、勉強を教えて貰ったこと、戦闘の模擬訓練であった担任の失敗談、生徒同士で付き合うことになった男女ができたこと、俺には覚えもなく加わりようもない会話だった。


 少し申し訳なさそうな顔で3人はこっちを見ていたがもちろん悪いのは最初から打ち解けようとしなかった俺だ。

最初の雰囲気だけで仲良くなるのを諦めた俺だ。

わかっているし時間は戻せないのだ。

気を遣われるのが申し訳ないので俺はそっとクラスメイトを後にして教室から出た。


 こっちの学園生活も向こうの世界と同じくさみしく卒業した。




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