第7話 隷属の首輪の起源
カインたちが帰ったあとは少しゆっくりして昼食を食べ終わった後に再びリヴディ王子の隠れ家に『転移』した。
今回の報酬としてお金や宝石などの支払いを提案されたのだが今は特に困っていないので断った。
その代わりに情報をもらうことになった。
もちろん犯罪奴隷の解放のことだ。
マリンとリゼが犯罪奴隷になった経緯を話し、首輪を作った国が違うと犯罪奴隷の解放方法も違うが知っていることは教えてくれるという約束をしたのだ。
隠れ家に着くとリヴディ王子はソファーに座りダイスとハイスを向かいに座らせて何やら話をしていた。
俺を見ると2人に席を外すように指示をして出て行かせる。
せめてどちらかを残してくれ、と言うダイスに「3人いてもティルが俺たちを殺そうと思ったら防げないよ」と諭して出ていかせ、俺に対しての敵意と思われたのなら申し訳ないと謝罪された。
もちろん害意はないことと王子の身体の心配をしていることはわかっていると伝え、知られたら困ることでもないので同席してもいいと言ったのだがリヴディ王子が拒否をした。
ダイスもハイスも粘ることなく出ていったのはそれなりに俺のことは信用してくれているからだとは思う。
俺も2人は信用できると思っていたので話を聞かれるのはよかったのだが2人が出て行った後リヴディ王子は足を組んでソファーにもたれかかった。
「あいつらがいると『王子』のままでいないといけないからな、たまには素でいてもいいだろ。カインの友人なんだしな。王子だと思わなくていい、カインの兄だと思ってくれ」
「いいのですか?」
「いい、いい、実際にカインと友人関係を築けているだろ?それに世話になったのはこっちだし謝礼を渡すのも国としてではなくカインの兄としてだ。国として城で大々的に宝石を送られるのは嫌なほうだろ?」
「それはちょっと遠慮したいですね。礼儀も知りませんしあまりそういう場に出たくないです」
「俺もそういうのが好きな人種と嫌いな人種がいることぐらいはわかってる。無理にそうしようとは思わないがそれなら俺も楽にさせてもらおうと思ってな」
自ら国を出て問題解決に乗り出すぐらいだ、城の中だけで偉そうにしている王子様ではないのだろう。
元々この世界では貴族の方が魔力が強い人間が多いせいか貴族だといっても自ら動きたがることが多い。
その理由も貴族は幼い頃から魔法に対して触れたり練習したりの機会が多いからだろう。
カインたちが小さな頃から魔素の近くにいてたなどはその最たるものだ。
城にこもって安全な場所から酷い命令を出すのは最低だと思うのでそれよりはマシだと思うのだがこっちもまた難しい。
魔力が強くて魔法を使えると戦闘も強くなる。
魔力の少ない平民やほぼない獣人などを見下すようになり自尊心が跳ね上がり弱い者を価値がないものとみなして犠牲にすることをためらわなくなっていくのだ。
だがリブディ王子はそうではない。
カインが尊敬して次の王になることを全面的に認めているのもわかる。
本人は王になったらそうそう今回のようなこともできないからそれなりに楽しかったと笑っているが王になったら今回のようなことは起こさせないのが王としての手腕だな、と振り返ってもいた。
今回の事件の話も聞いた。
リヴディ王子の部下の子供が1人捕らえられていたらしい。
脅されてタングスに情報を流しカインたちと俺とがインビジブルモンキーの毛皮で潜入することまでバレていたようだ。
それを聞いた炎帝は砦の門が開く食事の搬入時に門の足下に細い糸を張って見張っていたのだ。
その上で搬入時は毎回砦の中に入る前に兵士の雑談などで少し時間を置くようにした。
毛皮で足まで隠すには毛皮を引きずるほどギリギリの長さにしているはず、毛皮の中で歩くために足を上げても毛皮自体は上にあがらない。
歩くときに足と一緒に毛皮が上がればもう片方の足は見えるはずだし見えないぐらい毛皮で調整してれば毛皮は糸を跨げない。
跨ぐことができないなら抵抗がないほど軽く張った糸が切れたら何かが通った合図になるということだ。
俺たちはそれに気づかずにまんまと糸を切って砦の中に入ったのだ。
ゆっくり歩いている透明な物体数名とまでわかれば空気の動きや足元の引きずった砂の動きで大体の居場所はわかる。
後ろから軽く風の魔法に乗せて砂をまとわせ一番後ろのカインをさらった。
こちらも緊張していたのだろう、カインをさらって砦の壁の上に登るまで気付かれることはなく残りの俺たち3人の足元に砂をまとわりつかせることにまで成功していた。
カインをさらったのはインビジブルモンキーの毛皮ほどではない軽く意識しにくくなる程度の認識阻害の魔法を使った兵士が5人がかりで連れ去ったのだった。
さらった男たちは炎帝の前で最後尾にいたのが男で残念だと笑っていたし、風の魔法でさらにインビジブルモンキーの毛皮を無力化した。
このときにやっと俺たちはばれていることに気付いたのだ。
そこまで炎帝たちは優位に進めていた。
侵入を知って後は殺すか余裕があれば生け捕りにして情報を引き出すだけと思っていた余裕の状況から完敗したのだからいいわけもできない、と炎帝がリヴディ王子に砦であったことを説明したのを聞かせてくれたのだ。
それでいてインビジブルモンキーの毛皮を使うことがバレていたのを謝罪された。
作戦の前提が失敗していたのだ、それで結果は最大だった、俺のおかげだと言ってくれた。
子供を人質に取られて情報を売った部下は死刑が相当だという、国が乗っ取られるかどうかの瀬戸際だったのだ。
だけどさすがにそれはかわいそうだ、被害にあった俺が怒ってないこと、その者の上司であるリヴディ王子の責任も不問にすることで降格だけで済ませることになった。
甘いのかもしれないが敵にも味方にも被害が出ていないのに子供を人質に取られた者だけが死刑というのはかわいそうだと思うので今回はこれでいいということにしよう。
そんな話もしていよいよ本題だ。
リヴディ王子の知っている限りの隷属の首輪のことを聞いた。
なんとなく聞いたことはあるが話は隷属の首輪ができた頃まで遡る。
まだ今の7つの国ができてから100年ほどしかたっておらず大陸横断道路がやっと完成した頃、今から200年ほど昔の話だ。
隷属の首輪とは元々テン国の『王の器』である『首輪』が発祥だ。
シックス国の『槍』エイト国の『盾』のようなもので大昔に神から与えられたと言われている神器だ。
首輪に大きな鎖が6個連なってリードのように付いている、首輪も鎖も他の神器と同じ傷つけることもできないといわれている金属でできている。
『首輪』は他の『王の器』とは違い武器と言うよりは魔道具だった。
首輪の中に魔石を通すと魔石は隷属の属性に変わるのだ。
1㎝クラス以上の魔石を通すと魔物を従わせることができる。
だいたい魔物自身が持っている大きさの魔石で同程度の魔物を従わせることができた。
『首輪』はドラゴンをも従わせることができると噂されているがドラゴンに首輪をつけられる人間がいないのでこれはただの噂だ。
イノシシの魔物レベルだけでも数がそろえば戦う相手としてはやっかいだ。
さらにはブラックアリゲーターやファイアータイガー、アイアンバットなどの人間には倒す準備をしないと勝つのが難しい魔物までテン国は従えていた。
テン国はナイン国、イレブン国の両隣国を相手取って同時に戦争を仕掛けた。
何しろ自分の命を考えずに突撃してくる魔物ばかりなのだ、陣形が崩れたところをさらにテン国軍に攻められれば戦いは厳しくなる。
さらにこの頃はまだ国家横断道路が整地されたばかりで条約もなく道路も戦争に使われていた。
というよりは道が完成して移動しやすくなったからこそテン国は戦争を仕掛けてきたようだった。
ナイン国とイレブン国は手を結んでテン国と対峙した。
それでもテン国の優位は動かなかったがここにトゥエルブ国も参戦した。
イレブン国とは休戦しテン国の横暴さに対抗するということだ。
トゥエルブ国はそこで興った宗教が大きくなってきたところで神の名の下に戦争を終わらせる、と参戦してきたのだ。
そのときのトゥエルブ国にはミコトという名の天才がひとりいた。
ミコトはクロノス教という名の宗教を興して教祖になっていた。
それまで地方ごとに神から与えられた『王の器』という神器を元にした神話はあったのだがそれを体系立てて宗教組織として新しく作り上げたのだ。
何よりミコト自身が戦いでは先頭に立って剣を振るい火と風の魔法を使いドラゴンの装備を身につけて戦って負けたことがなかった。
それに伴いトゥエルブ国での名声も上がりその時点でトゥエルブ国政府より人気があった。
ミコトがイレブン国を通りテン国についたとき、イレブン国軍は負け続けていた。
さらにナイン国側は救援を要請していたシックス国、セブン国、エイト国から救援が届き4ヶ国と対立していたのだがそれでもテン国は優位に渡り合っている状況だった。
テン国1国でトゥエルブ国以外と戦いさらに優勢だったのだ。
魔物の軍勢がよほど強力だったのだろう。
ミコトはまずはイレブン国を助けた。
天才的な戦略眼で魔物の部隊を攻め込ませる地域を見抜きそこにミコトが赴いて自ら魔法と剣で魔物部隊を壊滅させた。
イレブン国内に侵入していたテン国兵士を撤退させ、その勢いのまま追いすがりテン国内に侵入した。
全ての国の王都は国家横断道路から南に離れている。
整備される前から荒れてはいるが通行しやすい道路の近くに王都を立てて攻め込まれるより商都を作る方を選んだのだ。
その時もテン国の敗残兵は王都に逃げ込んだ。
ミコトはそのま国家横断道路を進みナイン国との戦いの場に駆けつけた。
イレブン国で同程度の敵に完勝したミコトが魔物の軍勢の後ろに隠れながら攻撃の機会をうかがっているテン国の兵士たちを背後から急襲したのだ、勝敗は明らかだった。
ミコトはテン国軍と魔物の軍勢を壊滅させ他の国とともにテン国の王都を取り囲んだ。
テン国は滅んだ。
どう考えてもミコトたちクロノス教のおかげである。
謝礼はしたいがどこまでしていいものか各国が悩んだ。
クロノス教にテン国の『王の器』とともに支配権を譲れと言われてもしかたのないところだろう。
しかしクロノス教に魔物の軍勢が加われば対抗できる国は無くなる。
その危険性を各国は考えていた。
しかしミコトの望んだ物は国ではなかった。
各国の王都にクロノス教の教会本部を建てることの許可を望んだ。
布教はするがもちろん各国の法に逆らうようなことはないことを約束として各国とも許可を出した。
もう一つの懸念の『王の器』の首輪だ。
これもミコトが天才だと言われる理由の1つの証明で『王の器』を分割した。
破損するどころか傷をつけることすら不可能と言われている『王の器』を首輪部分と6つの鎖部分に分けたのだ。
特殊魔法だと言われている。
さらにミコトは分割した鎖部分に本来なら首輪部分の機能である『隷属の首輪の魔石』を作る機能を分散させた。
6つに分散させたぶん魔物を隷属させるには6倍の魔石がいるようになり軍勢を作るのは難しくなったがそれは各国とも他国が作れないならと喜んだ。
さらに首輪の時より力が弱まったことにより隷属の首輪は人間にも使えるようになった。
それまでは人間に使うと人間の脳が耐えられずに死亡していたのである。
さらに条件をつけ、各国それぞれ隷属させるときの呪文を変えることができ、解放の仕方もそれぞれ別の設定ができるようにしたのもミコトだ。
ここまでしたのだ、各国の隷属の呪文、解放の仕方はクロノス教には教えることという要望に応えないわけにはいかなかった。
ここで断るとその国だけには隷属の首輪が与えられないことになるからだ。
こうして各国に隷属の首輪の鎖が与えられた。
テン国の王は処刑された。
王子や王の血筋を持つ者で戦争に関わった者は同じく処刑された。
その結果遠縁とされてはいるが先代の王の従兄弟の妻の甥というほぼ無関係の体が弱く戦争に参加できなかったポルフィという男が王になった。
これは他のどの国の者が王についても疑惑の種になるしミコトもクロノス教は権力を求めないことを明言していた結果である。
ただし王の下に各国がひとりずつテン国侯爵の地位をもらい王政に意見できる立場として送り込んでいるのでテン国はかなり厳しい立場に追い込まれた。
これは現在になっても変わっておらず発展を邪魔されテン国は貧困の国と呼ばれている。
『王の器』の首輪部分はテン国の『王の器』として受け継がれているがその効力はないものとされている。
これらのことがあり国家横断道路は戦争目的に使うことは禁止された。
それにともないシックス国では本来バラッドの町までだった国家横断道路を延長し王都まで延ばす工事を始めることになる。
ミコトはその後もトゥエルブ国にクロノス教の本部を構えたがトゥエルブ国政府に介入することもなく各国にできた教会に孤児院なども設立してクロノス教の布教に務めた。
それだけでなく独特な生活文化や食事文化なども開発した。
前者としては食事の前の「いただきます」と言う感謝の気持ちを唱える文化などは教会の教えとともに広く浸透したが家の中では靴を脱ぐ文化や毎日入浴する文化などは今では一部しか残っていない。
後者は柔らかいパンの製法は各国に広まったが魚の生食文化、ショーユなどの特殊調味料などは共に死者を出したこともありあまり広がっていないが美味だと言うことで細々と受け継がれている。
隷属の首輪について語られたのはこういうことだった。
ミコトというのはたぶん俺と同じで日本出身だろうということはわかった。
戦闘力が高いのも発明家なのも新しい文化を生みだのも日本出身で俺の『転移』のような能力をもらって食物などの作り方も知っていたのだろう。
俺の『転移』より並外れたチート能力だったようだ。
首輪については起源はわかったがけっきょくは王家ごとに使用方法が違うということだ。
クロノス教はこの世界でたぶん唯一と言っていい宗教だがミコトという人物がどういう意図をもって作ったのかはよくわからない。
全体的に悪い人じゃなさそうだがけっきょくは隷属の首輪を生み出している。
確認できることでもないのでそこは気にしないとしても結論は隷属の首輪から解放するための方法を探さなければいけないことに変わりはないようだ。
この先リヴディ王子はエイト国に帰る。
この先何か困ったことがあればできるだけのことはすると言ってくれた。
カインたちはまだ少しこちらに残る予定度だが父王が生きている間には帰りたいだろう。
今回の騒動で色々なことを考えた。
何よりも戦うときはもう少し防御を気にした方がいいだろう。
ドラゴンの皮膜で作った肌着もそろそろできるはずだ。
これがもう少し早ければ今回の騒動ももっと安全だったはず。
他にもいくつか考えたことがある。
カインたちのこともそうだ。
カインたちはこの先エイト国に帰って国を作るという戦いに赴く。
第2王子が失脚したからといって妨害や邪魔が全くないわけではないだろう。
友達として何か手伝ってやりたい気持ちもある。
ドラゴンの肌着や一緒に戦って役に立ちそうだと思った武器や防具もプレゼントしてみようと思う。
俺自身はこの先どうするかきちんと考えなければならない。
最大の目標はミリアのことだとしてもまずはマリンとリゼの犯罪奴隷からの解放だ。
クロノス教の上層部かシックス国の上位貴族に頼むしか今のところ道はない。
それを目指せばこの先の進路や生活も変わってしまうだろう。
時間がいくらでもあるわけではないが焦ってもいいことはない。
まずは毎日の自分の仕事をきっちりとやりながら自分でよく考えてこの先の行動を決めることにする。




