表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5³㎤の転移無双  作者: 清白
第3章 ホワイトナイト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/50

第6話 隣の国での大作戦 後始末




 『転移』で昨夜野営をしたことになっている洞穴に移動した。

奥に設置していた魔石の周りについたところ入り口の方で第1王子のリブディ王子とダイスとハイスが荷物の整理をしていたところだった。

リブディ王子がカインを見つけて立ち上がる。


 「おぉ、カイン、大丈夫か?って、炎帝!?」


 この時間に戻ってくるのは予定の中でもかなり早いほうだ。

あの村の順番次第で数日かかることも考えていたのだから。

カインを見て何か報告か相談かとでも思ったところ、まさかそこに炎帝がおりさらに第2王子とタングスまでそろっているのは予想外だろう。


 カインが第2王子を前に連れ出して今日の顛末を報告する。

炎帝もタングスも縛られているがダイスとハイスは説明の間も警戒を怠らない。

報告で他の兵士300人を解放したこと、炎帝の助命、カインが現場でした判断を第1王子がどう受け止めるかは興味があった。


 カインが現場で判断したわけだが判断自体には後でこうしたらよかったなどといくらでも文句をつけることはできる。

何より元の世界でも自分に聞かずに勝手に判断したことに対して軽んじられたと思って文句を言う心の狭い上司も多かった。

今回は300名の兵士は捕らえていないし炎帝をポーションを使ってまで助命している。

文句をつけようと思えばいくらでも余地はあるのだ。


 だが第1王子はまずカインに「よくやった」とねぎらいの声をかけた。

カインも嬉しそうにそれを受けとった。

王宮なら正しいねぎらい方や言葉の受け取る姿勢などの礼儀があるのだろうがここではリヴディ王子がカインの肩を叩いてねぎらいカインも笑顔で返しただけだ。

いい兄弟なのだろうと思う。

同じ兄弟でありながら横で縛られている者もいる、第2王子のハイベルだ。

その横には責任者のタングスも。


 「ハイベル、いや、ハインベルド=デラグミス第2王子とタングス候に関しては私、リーヴディード=デラグミス第1王子が請け負おう。よくやった、アーカインド。ダイス、ハイス、2人は縛ったまま殺さないように扱ってくれ」


 リヴディ王子が周りに聞かせるように宣誓した。

そしてダイスとハイスが改めて2人を護送しやすいように縛り直しているときにリモに聞くとカインたちの今の呼び名は通称のようなものらしいことを知る。

リヴディ王子はリーヴディード=デラグミス。

カインはアーカインド=デラグミス。

そして第2王子は通称ハイベル、本名ハインベルド=デラグミスだそうだ。

考えれば王族が潜伏してるのに本名を使うわけがない。

第2王子は通称すらほぼ知らなかったのでどっちでもいいがカインの本名を知ったからにはそっちで呼んだ方がいいのだろうか?

考えているとニルに言われた。


 「私たちの国の正式な場所とかでない限り気にしなくていいよ、私たちだってカインって呼んでるんだから。本名で呼ばれた方が困るし今さらよね」


 それはそうだろう、潜入捜査みたいなことをしている国で本名を言う方が困るしニルとリモがカインと呼んでいるのだ。

そのあたりは考えないことにした。

ハインベルド第2王子とタングスが奥に連れて行かれたあとには炎帝が残った。

その前にリヴディ王子が立ち声をかける。


 「まさかお前が捕まるとはな、油断でもしたか?」


 「そうだな、確かに油断はしてた。だが油断してなくても結果は同じだったろうな」


 炎帝がチラリと俺の方を見た。


 「ほう、炎帝がそこまで言うか。それでどうする?このままでいるか?最期にあがくか?」


 「そうだな、あいつがいなければこの状態でも逃げられる確率は五分五分といったとこか、もしくはお前に攻撃を仕掛けてかばいに来た護衛の2人を殺したところで俺が討ち取られるといったところだろうな」


 右腕は無く左腕も動かせないように縛られた状態でそこまでできると言っている、縛り方などが甘かったのだろうか?

先に火傷を治したのは間違っていたのだろうか?

俺たちに緊張が走りダイスとハイスも炎帝を注視してカインたちも武器を構える。

国にケンカを売って負けて捕らえられたのだ、死刑か犯罪奴隷になるのはほぼ間違いない。

なら最期にあがいて死ぬというのもおかしくはないだろう。

俺も警戒していつでも『消去』で攻撃できるように心構えをする。


 「そう怖い顔するなよ、俺が何しようが止められるだろ?降伏する、すべて話すし抵抗する気持ちもない」


 縛った状態で小さく手を上げようとしたがあげられず肩をすくめながらそう言った。


 「それがどういうことからわかっているんだろうな?」


 「ああ、犯罪奴隷にしてもらっていい。ただしお前にではない、あいつ、いや、お前の弟王子にだな。お前にその度量があるか?」


 リヴディ王子は少し驚いた顔をしたがカインの顔を見てからうなずいた。


 「カイン、炎帝を預けてもいいか?」


 「え?炎帝を倒したのは僕じゃなくてティルなのですが?」


 「それもわかってのことなんだろ?」


 リヴディ王子が炎帝に声をかける。


 「そうだな、ティルというのか、そいつの下に入るのは実力的には文句はない。だが見たところ弟王子の手伝い的なポジションだろ?戦えばこの中で相手になるやつはいないだろうがそれだけだな。弟王子のほうが下について面白そうなことがありそうだ」


 俺に関してはその通りだ。

炎帝に奴隷になんかなってもらっても困るし何より俺の目標はミリアとの幸せな生活だ。

だけどこの言いようはカインにリヴディ王子に逆らうなら協力すると唆していると捉えられなくもない。


 「僕はリヴディ兄さんの対抗馬になったりするつもりはないぞ」


 当然カインはそう言う。


 「まぁ今はそうだろうな。だけど事情ってやつはどうなるのかわからないさ。どっちにしても兄王子についても順調すぎて面白くはないだろうしただの駒で終わるだろうよ。その坊やだったら戦いすらないかもしれん。その点弟王子なら本人が望んで反乱を起こさなくても兄王子の実行部隊あたりで楽しめたりすることもありそうだ。俺としては生きて少しでも楽しむためには選択肢が他にないっていうことだ」


 カインが少し不安そうに俺を見てからリヴディ王子を見た。


 「カインに仕えてもカインが俺に従ったら同じことかもしれんぞ?」


 「あぁ、それもわかってる。死刑よりマシなのと砦の300人ほどを助けてもらった恩もあるしな。直接の部下じゃないとしても何かあれば集まってくれたやつらだ、その礼の分ぐらいは働くさ」


 「よし、わかった。カイン、今までの意見もふまえてどうする?」


 カインは目を閉じて少し考えているようだがすぐに目を開けた。


 「わかりました、リヴディ兄さんに反抗したりするつもりはありませんが炎帝の身柄はお預かりいたします」


 決意を込めた表情だ。

こうして炎帝はカインの奴隷になった。


 「そうかしこまらなくていいぞ、奴隷にしたら何か起きればカインの責任が問われることになるが最初に命令を与えておけばいいだけだ。」


 犯罪奴隷にして最初に例えば『法律を破るな』と命令しておけばいいのだそうだ。

もっとも本人が法律を知っていることが条件になるが。

本人がこれは法律に違反すると思うようなことは自然と行動の選択肢に入れないようになるのだ。

後から例えば『金を盗んでこい』という命令をするとそれは有効になる。

矛盾のある命令は後に命令した方に従うのだ。

ただしこれは犯罪奴隷の所有者本人がした場合に限る。

犯罪奴隷に『法律を守れ』『Aの命令に従え』と2つの命令をしたとする。

その後Aが『金を盗んでこい』と言ってもその命令は無効になる。

その前の所有者の『法律を守れ』という命令が優先されるのだ。


 そしてカインが所有者になるならもちろんエイト国の隷属の首輪を使うことになる。

エイト国の隷属の首輪なら王族であるリヴディ王子やカインなら将来的に犯罪奴隷からの解放はしやすくなる。

何か功績を立てたり難解な問題を解決させて犯罪奴隷からの解放というのはたまにあることらしい。

そして炎帝ほどの実力があればその功績もたてやすくなる。

ならば安全な所にいるより犯罪奴隷になって危険な任務につく方がよほどいいだろう。

一般的な犯罪奴隷なら鉱山送りなどもあるが炎帝ほどの実力がある人間を使い捨てにするにはもったいないと思うのも当然だ。

そのあたりまで考えて炎帝は死刑になるなら犯罪奴隷になると言っているのだ。


 「それなのですが、とりあえずはリヴディ兄さんに炎帝を預けてもいいですか?」


 カインの言葉にリヴディ王子の顔は少し曇った。


 「それでもいいがどういうことだ?自信がないか?」


 「いえ、今炎帝を手元に置いても何もさせることはありません。それなら残してきた300人の兵士も雇って炎帝の元で部隊として国に仕えさせた方がいいかと思ったのです」


 「ほう、なるほどな・・・」 


 リヴディ王子が少し考えて炎帝に聞いた。


 「残ってる兵士はどうすると思う?犯罪奴隷に落ちたお前の部下になると思うか?」


 犯罪奴隷のさらに下の立場になるのだ、嫌だという兵士も多いだろう。


 「う~ん、さすがに多くて3分の1ってところじゃないかな、俺について行きたくないやつもいるだろうし国に仕えるのが元々嫌な奴もいる。今回のことで虐げられたりするかとの予想などもあればより下がるだろうな」


 「では、今回のことはここだけの話で部下に限っては不問とする。さらに部隊が何か功績を立てれば炎帝の犯罪奴隷からの条件付きでの解放、その後炎帝が犯罪奴隷から解放されてもやる気があるのなら部隊の存続、それらも合わせればどうだ?」


 「さすがにそこまですればついてきた方がいいと思う奴らも増えるだろうがいいのか?」


 「今はとにかく人材は欲しい。父王が倒れる時期によってはナイン国との争いがどうなるかわからん。あと犯罪奴隷からの解放と言ってもいきなり完全に自由にさせるわけにはいかないぞ」


 「それはわかってる。そうだな、そこまでしてくれるのなら少し頑張ってみるか。なら早く戻らないと兵士たちが残っているかどうかもあるな」


 「その前に隷属の首輪だ。このまま兵士の前に出すのはさすがに無理だぞ」


 「ははっ、わかってるよ。じゃあさっさとしてくれ」


 ハイスが持っていたマジックバッグから魔石が出された。

それをカインに渡しカインが炎帝の首に当てる。

ハイスは元神官で今はリヴディ王子に仕えている。

神官としても上の方だったのでこの形でいきなりカイン所有の犯罪奴隷にできるそうだ。

ハイスのように隷属の首輪を使える元神官を多くの貴族が雇いその中には悪用している貴族や神官もいる。

マリンやリゼに首輪をつけたのもそういった類いだろう。

後でもう少し詳しく話を聞いてみたい。


 そんなことを考えている間に犯罪奴隷の契約が終わる。

炎帝の首には黒い刺青が入りカインの所有物となった。

カインが炎帝にエイト国の法律を守ること、リヴディ王子に従うこと、ここにいる者を傷つけないことを命令する。


 ここでここにいる者と条件をつけたのにも訳がある。

鉱山に行くような犯罪奴隷には『人を傷つけるな』などと命令することがある。

そうなると知らない者や悪意のある者に暴力を振るわれても死んでも逆らえないのだ。

鉱山での事故よりも他者からの暴力が犯罪奴隷の死因としては多いのはこれが理由だ。

さらに食料を与えず死ぬまで働かせる、命より採掘を優先させるなどの使い捨てのように使用する者を合わせれば死ななくてもいいのに死んだ犯罪奴隷の割合は激増する。

もちろん獣人狩りをするような貴族は最初から使い潰すつもりなのだからさらにたちが悪い。

このようなことがあるという意味では犯罪奴隷と一口に言っても全てが同じではないかも知れない。


 奴隷契約も終わり今後の予定についてはリヴディ王子もいろいろと考えているようだ。

ハイベル王子にタングス候、炎帝までも捕らえて炎の杖も手中に入れるという今の状況はリヴディ王子にしても可能性はかなり低いだろうけど全てが上手くいった場合として考えてはいたが現実味はない話のはずだったそうだ。

一応その想定を基本とするが細かい現実との差異をすり合わせて今後の予定を立て直す。


 まずは何よりの差異である炎帝がカインの奴隷になったことから手をつける。

ダイスとハイス、ハイベル王子とタングス候は洞窟に残り残りは砦へと『転移』した。

兵士たちは1年間ここに住むことになっていたので荷物も多く状況の変化にもついて行けずにまだほとんどの者が砦に残っていた。

俺たちの姿を見てやはり何か罰があるのか?と緊張が走るのがわかる。


 そこに炎帝を前に出して今の状況を演説する。

炎帝はカインに下って犯罪奴隷になった。

自ら負けを認めて。

そしてカインのためにエイト国で部隊を作り責任者になることになったのでその部隊に入りたい者を募集すると告げる。

今日のことはタングス候が兵士たちを騙していたことになりさらに炎帝が犯罪奴隷に志願したことで兵士たちにまでは責任を負わせないことになったとも。

ざわざわとする中で改めて兵士になるつもりがある者を募集した。


 思った以上の兵士が志願した。

兵士たちはここにいるのは1年間の予定だったのですぐに何らかの予定や仕事はないこと。

エイト国にケンカを売ったことの責任を見逃してもらっていたことを正式に免除されたことなどの理由もある。 

だが何より炎帝が前に出てカインに従うとカインに対して膝をついたときにカインが炎帝の切れた右腕を出して元の位置に合わせハイポーションをかけて治したことが大きかった。

カインが砦に転移してきたときに「悪いけど使っていいか?」とボソッと俺に聞いたので「カインにあげたものだから好きにしていいよ」と答えたのだ。

カインはさらに「すぐには無理だが国に戻って近いうちに炎の杖も炎帝に返す」と宣言した。

そのことによって炎帝はカインには逆らえないが今まで通りの強さは損なわれないことになる。


 炎帝の腕が治った瞬間に歓声が上がりそれを合図のようにして部隊に入ることを希望する者たちが増えた。

最終的には総勢307名中212名が炎帝の部下として部隊に入ることになりその中にザイートの姿もあった。

残りは国に仕えたくない者、家族がこの国やシックス国にいたりでエイト国に移動したくない者、少数ながら犯罪を犯して逃亡中という者もいたのだが国をまたぐような犯罪者ではないことと今の状況でこの国に正式に関わることはないということで見逃すことになった。


 全員を『転移』で送るわけにはいかないので数名ずつの班に分けて食料を持たせエイト国を目指してもらうこととなる。

カインの部下になるので旅費はカインもちなのだがその金を持って何人かはそのまま逃げるかもしれないが気にしないことにしているようだ。

何しろついてこない者たちにも同じ額を与えているので嘘をつく必要もない。

この行為はカインの優しさか甘さか、などと漫画に出てくる偉そうな実力者の目線で見ていたのだがお金をもらった兵士たちが感謝して「ついては行けないがカイン様の敵にならないことを誓います」などと言っているのを聞くとただの上に立つ者の度量だったんだなと自分の小ささを痛感させられた。


 砦での後始末はザイートをリーダーとして任せ、順にエイト国へと向かってもらうことにする。

俺たちはそうゆっくりとしている暇もない。

俺とカイン、リモ、ニル、リヴディ王子にダイスとハイス、ハイベル王子とタングス、炎帝を『転移』で隠れ家まで移動する。

ハイベル王子とタングス候の処遇はリヴディ王子次第だ。

炎帝はリヴディ王子についてエイト国で部下たちを待つことになる。


 カインたちはこのままエイト国に帰るわけではない、ギルドへの報告や後片付けをした後になるだろう。

王と言っても父親なのだ、最期は看取りたいと思うのが心情だ、雑用などで手伝えることがあるなら手伝ってやりたい。


 シックス国にはカインたち3人と共に『転移』で俺の屋敷に直接帰ってきた。

すごく久しぶりの感じがするが10日ぶりぐらいだろうか。

毎日『転移』で帰ることもできるのだが遠出したときに毎日帰っていると寮を出たのに毎日帰ってベイルにあきれられたことを思い出すのかもしれない。


 『転移』の魔石が置いてある部屋には誰も入れないように鍵をかけている。

日付の変わりそうな時間のためマリンやリゼ

は庭の使用人の家で寝ているはず。

地下の解体場にはさらに新しく解体してもらっている部位はあるので誰かいるかもしれないが3階までは上がってこない。

とりあえずは俺の部屋に入り4人で今後のことを話し合っているうちに疲れていたのだろう、全員が寝てしまった。


 次の日、3人が屋敷のから出て行くと帰ってきたことを知ったマリンが朝食を準備してくれた。

部屋で食べたいと言うとリゼが持ってきてくれる。

タマゴサンドとトマトとレタスのサラダ、温かいカフェオレを並べてこっちを見るのでお礼を言って褒めると嬉しそうに部屋を出て行った。

たまにこういうことがありリゼと話が弾んだりもすることもあるのだが今日はすぐに戻ったところを見るとたぶんマリンが邪魔をしないようになどと言い聞かせていると思う。

その辺りはさすがだなと思い一晩寝て頭がすっきりしたところでサンドイッチを頬張りながら色々と考えた。


 この町に来て10カ月ほど、シックス国の寮を出て1年ぐらいになる。

11歳の誕生日はもうすぐだ。

ミリアを迎えに行く予定の14歳まであと3年ほど。

この町で活躍するBランク冒険者には近いうちにでもなれそうだ。

素材を売ったお金もあるが冒険者の稼ぎだけでもすでに生活はできる。

ミリアを呼んでも生活に困ることはないだろう。

だけど一生これでいいのかとのモヤモヤとした思いが積み重なる。

好きな人とのスローライフに憧れていたのだがカインやリヴディ王子を見ているとこういう人たちが大人なのかなと思う。


 多分この世界で俺は強いほうだ。

対魔物だけではなく対人だろうが不意打ちで一刀両断が可能だからだ。

この世界でもかなりの上位の炎帝がこの世界最高峰と言われるドラゴンの素材が由来の杖を使って射程は俺と同じぐらいの50mほどだそうで威力を出すならさらに射程は落ちるらしい。

直径5mの火の玉を50mほど飛ばせようがあれだけ発動するのがわかれば対処はできる。

実際に対処もできたし不意打ちでなくとも対峙した時点で負けることはないと思う。


 もっとも俺の『消去』が効かない、魔法自体が通用しない、無効化できる、などの相手もいるかもしれない。

その場合はいきなり窮地に陥る。

防御力がかなり低いのだ。

常にドラゴンの素材の防具を着けているわけにはいかない。

『消去』の薄い膜を身体の周りに展開すれば対峙した相手の攻撃はほぼ防げるが不意打ちなどには対応できないのだ。

強いことは強いが自分で無敵だなどと思い上がっていてはいけないと改めて思う。


 こんなことを考えてしまうのも昨日のカインたちとの会話が発端だ。

カインたちは1ヶ月ほどこの国にとどまってから自分の国に戻る。

そしてリヴディ王子が王になった後は王弟として王の手助けをする予定だ。

自分の責任から逃げずに成長していくのは格好いいと思う。

ひるがえって自分を見れば偶然手に入れたチート能力でお金を稼いでダラダラと過ごしているだけに思えてしまうのだ。


 こんなにモヤモヤとしてしまうのはギルド長の娘が失脚したときにギルド長自体はそのままだったことやモースやランケルたち獣人の扱いがあまり変わっていないこともある。

失敗した者を切り捨てるだけで世の中は変わらないのだ。

リヴディ王子はタングス候を処分すると聞いた。

エイト国からセブン国にタングス候がこういう理由でケンカを売ってきたがこれは国としての考え方か?と問いただすつもりだが国としては知らなかったとタングス候を差し出すだろう。

これも実際にセブン国が関わっているのかはわからないがタングス候は国に切り捨てられる。

失敗したからだ。

そしてタングス候の領地は他の貴族のものになり何も変わらず進んでいくのだ。


 だからどうしたらいい?と自分に問いかけても答えは出ない。

今住んでいるこの国のことも何もわかっていないからだ。

モヤモヤする気持ちを追い出すように自分で両頬を叩く。

先のことより今しなくてはいけないことはあるのだ。

マリンとリゼの犯罪奴隷からの解放だ。


 食べ終えた食器を片付けに来たリゼの首についている黒色の刺青。

犯罪奴隷の証。

痛々しいそれをどうにかするのが今の俺のすること。

うだうだと思い悩んでいるよりできることをする方が建設的なのは間違いないだろう。


 悩んでもしかたがないが考えることはやめない。

『自分で考える』『自分に恥ずかしいことはしない』親からもらった言葉は大事にしたい。

自分で考えるためには判断材料がいる。

そのための経験値が俺には圧倒的に足りない。

知識と経験を蓄えて正しい情報を元に自分で考えてこそ後悔しない判断ができるのだ。

ミリアを迎えに行くまでには少しでも成長していたいと思う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ