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5³㎤の転移無双  作者: 清白
第3章 ホワイトナイト

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第5話 隣の国での大作戦




 朝の目覚めは良かった。

考えたら昨日は一日中歩き詰めだったのだ、疲れていたのだろう。

さすがに昨夜はトランプはしなかったが戦いになったときのために備えての確認だけはした。


 『ホワイトナイト』はカインが前衛で剣を使う。後衛でニルが補助魔法と回復魔法、リモがその前で弓と遠距離の攻撃魔法というのが基本の形だ。

リモの攻撃魔法の威力では強い敵が相手ではカインの攻撃の補助のような形になる。

そこに1人入るとなるとやはり前衛になるだろうか。


 上手くいってるパーティーに一人増えて連携が上手くいかずに弱くなってしまうこともよくある。

なのでできれば3人の戦いが基本でそれを邪魔しない立ち回りをするのが1番いいだろう。

基本はカインの右斜め後ろの位置にいる。

カインが撃ち漏らした敵を倒すのが基本だ。

横だとカインの邪魔になりそうだし真後ろだと後衛からの補助の邪魔になる。

疲れたら俺とカインが交代することになるが魔物相手ならまだしも今回の作戦ではもし戦闘になればそんなことを考えている暇はないかもしれない。


 今回ドラゴンの素材を元にした装備は間に合わなかった。

完成途中で何とか使えるような鱗を元にした盾などはあったのだが今回は動きやすさを優先していたので盾の出番はない。

そのかわりといってはなんだがシスターのオリビアにポーションを追加してもらった。

切断された手足でも切断面を合わせてかければ繋がるというハイポーションが10個、それを10倍に薄めた軽い傷なら治るポーションが50個、それに加えてその中間にあたる剣で貫通するほど刺されても身体の内部も治すことができるハイポーションを3倍に薄めたポーションも30個ほど追加した。

敵が兵士ということもあって受ける被害を想定してのことでカインたちにもそれぞれ数個ずつ渡している。

カインたちが驚くのだからオリビアの能力はかなり高いのだろう。

ニルも聖属性魔法が得意だが作れるのは10倍に薄めたポーションのレベルが精一杯だそうだがその分補助魔法が得意だそうだ。

オリビアは補助魔法は使えないのでポーション作成に特化しているのかもしれない。


 一応は戦闘隊形の確認をしたが今回は見つかったら炎帝プラス300人の兵士だ、そうなった場合はすぐに逃げる予定になっている。

他の細かい打ち合わせも終えて野営をしたはずの場所に戻り隠した『転移』の魔石があることを確認して改めて村に向かった。


 村が大きくて旅人が多いようなところなら紛れ込むつもりだったがそうではなさそうなので村が見える森の中で待機する。ここから砦に向かう人間を見張る。

毎日砦へと食料やら他の物資やらを運んでいることは確認されている。

ただそれが朝なのか昼なのか夕方なのかがランダムなのだ。

たぶん他の2つの村とで時間を変えているのだと思う。


 相手は最長1年間生産性のない砦の中に引きこもるのだ、食料の確保や運搬には気を遣っている。

物資の受け取りも毎回違った場所で待ち伏せなどを警戒していることがわかる。

運搬人も砦には入れない。

砦から外れたところで受け渡しは行われる。

馬2頭に食料などを乗せた荷台を引かせる。

2人が馬に乗り3人が左右と後ろを警護する形だ。

なので馬といっても走るわけではなく人間の歩くスピードでだ。

取引場所まで来ると10人ほどの砦の兵士に馬ごと荷台を渡す。

馬を引いて砦まで戻り荷を下ろすと今度は馬を返しに戻ってくる。

このときも警護はいる。

緊張した面持ちとかではなく楽しそうにしているそうだ。


 1回1時間ほどの取引だがこれを3つの村でランダムに1日1回行っている。

その度に10人ほどの人数がいる。

めんどくさそうな気もするが兵たちは嫌そうではない。

人数に余裕があるのだろう。

むしろ暇なのかもしれないというのがこっちの見解だ。

いくら高い報酬をもらっているとはいえ1年間砦に引きこもるのだ、ストレスもたまるはず。

なので大事な仕事だとはわかっていても砦の外に出るようなことは楽しいのだろう。

暇を持て余しているのならもし何か物事が起こったら嬉々として対応に当たるかもしれない。

時間を持て余してる精鋭の兵士相手だ、バレないことを心がけるしかないだろう。


 作戦としては村から出る一行を待ち後をつける。

すぐに平原に入るのでそこからはインビジブルモンキーの毛皮を被ってだ。

毛皮を被ると向こうからは透明に見えるのだが実は中からは外が見えない。

透明になるというより周りの風景と同化すると言った方が正しいだろう。

なので目のあたりに覗き穴がある。

もちろんそのまま開けていれば前から見られたらこっちの目だけ見浮いてえるので不自然になる。

インビジブルモンキーは目も同じように透明化できるのでいいのだろうが俺たちはさすがにそんなことはできない。

なので上からひさしのように毛皮で覆うようにできている。

当然視界は上が見にくくなり無理して上を見ることになれば目が相手からも見えてしまうことになるだろう。


 相手の足下だけを見て尾行していたら危険に対応できないかもしれない。

そこで俺の視界の転移で自分の上から見ながらの行動になる。

これで危険は数段低くなった、自分でも役に立ったなとは思う。

俺が先頭に立ち一行を尾行して俺の足下を見ながら3人がついてくる。

他にもうひとつ思いついたことがあった。

1㎝級の小さな魔石に『転移』の属性を付与する。

その魔石を耳の近くにつけてもらう、これはリモが持っていたイヤリングを昨日加工してもらってつけられるようになった。

石の代わりに外した宝石の値段は聞けなかったけど話ができると言ったらリモは躊躇なく外していた。

これでこっちで話しかけると相手に声が聞こえるのだ。

相手側が話をするには口から耳への距離の分心持ち大きめの声になるところが改良の余地だが思いついたところだったので簡易な電話のように使えるようにするのは今後の課題だ。

いざというときに逃げる判断をするのはカインだ、大声で「待避」と叫べば4人が集まって俺の『転移』で逃げる手はずになっている。


 

 

 一行が村を出たのは昼過ぎだった。

運が悪ければこの村の順番が来るまで数日待つつもりだったが初日でいけた。

馬が荷台を引き砦方面を目指す。

砦方面以外は馬と荷台が通れる道などないので間違いはない。

それを確認して見つからないように後を追う。

すぐに平原に出るのでここからはインビジブルモンキーの毛皮を被る。

毛皮の外側ににヒモやベルトなどをつけるとそれが見えてしまうので頭から足先まで被れる着ぐるみのような形になっている。

真夏とかではなくてよかった。

平原なのでそこまで近づかなくても見失うことはない、馬のスピードはゆっくりで追いつけない心配もなかった。


 馬と荷台は砦の兵士との取引場所につく。

兵士たちと何を持ってきてくれたんだ?などと雑談が続く。

饅頭のようなものを兵士に渡して兵士はお金を握らせる。

砦と村の取引ではなくたいしたことではないがお互いに現場の実行役の役得みたいなものだろう。

10分ほどの雑談で10名の兵士は馬を引いて砦に向かった。

村人は馬が戻ってくるのをその場で待っている。

俺たちは砦の兵士の後をつけた。


 砦までは15分ぐらいでついた。

この道は砦の西側の門についた、これは予定通りだ。

門には4人の門番がいて荷物を待っている。

到着すると馬を引いた兵士が門番にさっきもらった饅頭を渡す。

ワイロとかではなくお裾分けのような感じはする。


 「この村の饅頭美味いよな、役得だぜ」

 「俺は北の煎餅のほうが好みだな 」

 「いや、南の果物もなかなかだ」

 「なんにしろここには何もないんだ、ささやかな楽しみさ」

 「あと半年ぐらいだよな、あれだけの報酬が出るんだから文句はないがやることないのは辛いよなあ」

 「やってるのは訓練ぐらいだからな、訓練増やしてもらったらどうだ?炎帝様に頼み込んでさ」

 「それは嫌だって、炎帝様の特訓になんてついて行けるわけねぇだろ」

 「違いない、まぁあと半年だ。そうしたら思いっきり飲んで食って抱いて・・・」

 「金がないとそんなことできねえもんな」

 「「「ハハハハハッ!!」」」


 そんな雑談を横目に門から中に入る。

1人の門番がこっちを向いたので少し焦るが顔を戻して雑談に戻ったのでホッとした。

門からはいって3mほどの場所で一度立ち止まる。

被っている毛皮の後ろがつままれている感覚はある。

摘まんでいるのはニル、その後ろにリモ、カインと続いているはずだ。

こうしないとお互いが見えないのではぐれたりぶつかって毛皮が落ちたりしたらまずいのだ。


 改めて見ると今いる場所は50m四方ほどの広場。

砦本体の建物は入り口から50mほどの先にある。

その広場では帯剣した兵士たちがまばらに座り込んだり談笑したりしている、全部で50人ぐらいだろうか。

この兵士たちに触れないように広場を通過して建物に入ることが最初の目標になりそうだ。


 後ろを見るとまだ門は開いたままで荷物の乗った荷台を馬から外している。

前を向いて足を進める。

インビジブルモンキーの毛皮が透明なままの速度はふだん普通に歩くときの半分ぐらいの速度まで。

その速度で歩く練習はしてきたので今度はお互いぶつからないように慎重にさらに速度を落としての前進になるが姿は見えようがないだろう。


 ゆっくりと進み門から10mほどのところまで来たときに笛の音が鳴った。

俺は緊張して立ち止まった。

その音が鳴り響くとまばらにいた兵士たちがテキパキと動いて整列する。

もう少し先にいたら誰かとぶつかっていただろう。


 位置としては門から10mに俺たち、そこから20m先ぐらいから二手に分かれた兵士たち、その後ろに砦の入り口になる。

二手に分かれた兵士たちは8人横並びが3列でさらに後ろに1人、その固まりが左右に間を5mほど開けて並んでいる。

その5mの間を抜けたら砦の入り口にたどり着くのだがいくら見えないと言ってもそこを通っていいのかどうかためらうところだ。


 後ろの門が閉まった。

馬も荷台も入っていない。

これはおかしい、バレたのか?逃げた方がいいのか?

「カイン、どうする?」

小声で聞いてみる。

大きな声を出してもすぐに『転移』できるように魔石を準備する。

しかし返事は来ない。


 「カインがおらん!」


 リモの声だ。

いないというのは掴んでいるはずの手の感触がないということだろう。

我ながら情けないがすぐに判断できなかった。

退却の判断はカインがすることになっておりカインがいない状況の想定はしていなかった。

退却したらカインはどこにいてどうなるのか?

戸惑っていると俺たちのいる一帯で風が巻き起こり砂埃が舞い上がる。

風の魔法だろうがダメージはない、毛皮が捲れないように内側から引っ張るように押さえるが後ろの状況を見て相手の意図がわかった。

ニルとリモの毛皮に砂がついており浮いたように見えていた、毛皮のラインに沿って。

当然俺の毛皮も同じことになっているはずだ。

バレてる、そう気付いたのは3人とも同時だった。


 動きづらい毛皮を脱ぎ捨てる。

もちろん毛皮は『転移』で俺のマジックバッグに戻す。

俺たちが急に現れたように見えるはずだがわかっていたのだろう、もちろん相手に驚きはない。

周りを見ると敵は目の前にいるだけだ、門や塀の上から囲まれて弓や魔法を撃たれそうならこの場ですぐに『転移』で逃げるしかなかった。

これは相手が気付かなかったわけではなく単に退路を断てばいいという判断だろう。

何しろカインがいなくなって3人対約50人、しかも相手には炎帝も控えているのだ。


 敵の後ろの砦から背の高い男が出てきた、

長い杖を持っているので彼が炎帝だろうか。

炎帝の横には高そうな身なりのヒゲをピンと立たせた小男がいた。

リモが「大きい方が炎帝、小さい方がタングスや」と小声で教えてくれる。

さらにその後ろから後ろ手に縛られたカインが兵士に連れられてきた。


 「カイン!!」


 ニルが声を上げる。

カインの首にタングスの持った剣の先が当てられた。


 「逃げろっ!」


 耳につけた魔石からカインの声がする。

後ろの2人を見ると横に首を振る、目には強い力が宿っておりカインを置いて逃げるつもりは一切なさそうだ。


 「でもさすがにやばいかも、ティルは逃げていいよ」


 「そやな、これ以上付き合うことないわ」


 そう言われるがここで1人で逃げて3人が死んだりしたらこの先逃げたことを後悔する人生しか残らない。


 「いや、付き合うよ」


 その言葉に2人が小さく「ゴメンね」と言ったのが聞こえた。


 「逃げれるわけないだろ、門は開かないぞ!?来るのはわかってたんだ、暇つぶしの役にぐらい立ってくれよ?第1部隊、行ってみろっ!」


 「はっ!!」


 口を揃えて剣を立てたこっちから見て右の部隊が前に進んだ。

1列目の8人が扇形に広がりこちらに向かってくる。

さすがに普通に対処するのはこれは無理だ、死ぬぐらいなら能力がバレるほうがマシだろう。


 マジックバッグから剣を出して両手に持つ。

剣の刃に『消去』をまとう。

練習していたやつだ、これで当たるだけで何でも切れる。

2人を後ろに下げて俺が前に出る。

端から頼むと指示を出して。


 相手は弓などは使うつもりはなさそうだった。

本当に暇つぶしのつもりなのだろう。

真ん中の2人が俺に斬りかかる。

端の2人が大きく回り後ろの2人を襲うつもりのようだ。

リモが弓を引き右から来た兵士に矢を飛ばしさらに左にも飛ばす。

矢は盾で受けられたが立ち止まり一気に走ってくることはやめたようだ。

俺に斬りかかってきた2人の剣をこっちの剣で受けると相手の剣が切断される。

俺からしたら当然なのだが相手は戸惑った。

そこで2人の足元を斬る。

相手が弱いのではなく当たれば切られるというこんな戦い方に慣れているはずがないのが原因だろう。

俺も二刀流など得意なわけではなく切れる頻度を多くしたいだけなのだ。

2人がこけたところをさらに前に出て今度はこっちが斬りかかる。盾で受ければ盾ごと斬り、剣で受けても剣ごと斬る。

精鋭とは聞いていたがそこまで圧倒的に強いというわけではなさそう。

むしろたぶん1対1だと普通に勝てそうだ。

2人を倒してさらに4人の足を斬り倒したところでニルが右側の兵士の右太ももあたりを矢で貫通させる転ばせる。

残りは左の端の1人。


 「なんだそれは、おい!!大丈夫なんだろうな!?」


 タングスが叫ぶ。

その方向を見ると炎帝が杖を右手で持ち高くかざしていた。

その先に炎が集まってきて直径50㎝ぐらいになっておりさらに大きくなるようだ。

俺のあり得ない攻撃の通り方を見てさっさと殺すとこにしたのだと思う。

しかし門から砦まで50m、中央より門よりにいるとは言ってもこの広場の中で俺の『転移』が届かない場所はない。


 『転移』の範囲はほぼ自由に動かせるようになっているのだ。

近距離なら魔石もいらない。

半径50㎝ほどの入り口と出口の2つに『転移』の範囲を分ける。

薄くてもいいので容量は余裕だ。

その入り口側自体を動かして対象をくぐらせれば半径50m以内なら出口から対象が出てくるので転移させ放題だ。

まずはカインを『転移』でニルとリモの場所に『転移』させる。

さらに炎帝の杖を俺の手に『転移』させる。

一応半径は小さくしたがもちろん杖を握っているので杖には炎帝の右腕の肘から先がついていたが俺が杖を手にした時点で地面に落ちる。


 「グァァァァァッ!なっ、なにがっ?」


 いきなり杖と右腕がなくなった炎帝か叫ぶ。

制御できなくなった炎の塊が炎帝に落ちる。

炎にまかれた炎帝が暴れるところを兵士が助けようと駆け寄る。

混乱しているところを3人の元まで戻り『消去』でカインの縛られたロープを切る。

さらにタングスをこちらに『転移』させて取り押さえた。


 すんなりいったが俺としても必死だ。

今までこういう場面に陥ったことはなく実行力の不足さを思い知る。

だがなんとかうまくいったようだ。

カインはさすがと言うべきだろう、すぐに状況を理解してタングスの首に剣を当てている。


 「動くな!!」


 カインの声で兵士たちの動きが止まる。


 「お前たちの企みはこれで終わりだ。捕らえている男を連れてこい」


 兵士たちからどよめきが起こる。

立場上の上司のタングスと部隊上の上司の炎帝の2人ともが指示を出せない状況なのだ。

それを理解したのかカインがタングスの首に当てた剣を少し動かし首筋を撫でると一筋の血が流れてきた。


 「連れてくるように言え、死にたいのなら別だがな」


 タングスはいきなりの状況変化に何が起こっているのかわかってなかったようだったが首筋が切れた痛みでやっと理解したように慌てて兵士に指示を出す。


 「ザ、ザイート、や、やつを連れてこい!」


 ザイートと呼ばれたのはさっきカインの首に剣を当ててた人物のようだ、今は炎を消し止めて倒れたままの炎帝の横にいるがその指示で砦の中に入っていった。

ここにいるのは約50人、砦の中にはまだこの5倍の兵士がいるはずだ。


 砦と炎帝と第2王子が揃っていたおかげで成功の可能性もあったのでここまで本気で対処していたが元々この計画はかなりの無理があるのだ。


 他国の第2王子と結託して『王の証』を奪い取り国ごと支配する。

タングスの目的はそこにある。

王になるのは第2王子、武力は炎帝、裏で計画を練るのはタングス。

うまく行けばセブン国の貴族でありエイト国の王を裏から操る、そんな立場になる。

第2王子の結婚相手に自分の娘でも選ばせればこの先も盤石になるだろう。

しかしそれは周りにバレたらセブン国への裏切りでありエイト国の第2王子以外への対立の意思だ。

炎帝は裏の意図まで知って協力しているのかもしれない、しかし住んでいる国を裏切って他国に攻撃を仕掛ける、そんな事態を末端の兵士までに知らせているとは思えなかった。

おそらく兵士たちはかなりの高給で雇い1年の縛りで炎帝の指揮下に入るように言っているのだろう。

ただし炎帝からしても裏切られないためにもそれなりの武力を持ち最低限の信用はおける者を雇っていると思われる。

単独行動を好む炎帝だが今までも兵を雇って指揮をしたことはあるのでおそらくそのときに炎帝が見込んだ兵士たちだろう。



 カインと第1王子が諸々の状況から導き出した答えがそうだった。

兵士に全てを伝えてその兵士が裏切ればそこでセブン国にも居場所はなくなる。

エイト国へ個人の判断で戦争を仕掛けているのと同じだからだ。

なので今の状況、タングスと炎帝が指揮を取れなくなれば代わりになる者はほぼいない。

最終目的がわかっていないのに判断ができないからだ。


 言われるままにザイートと呼ばれた兵士が1人の男を目の前まで連れてきた。

寝ていたのか髪はボサボサで腹は出て王子らしい服は着ているがリヴディ王子やカインに比べれば品格というものがなかった。


 「ハイベル兄さん、これで終わりだ」


 第2王子はがっくりと首を落とした。


 タングスは解放するわけにはいかない。

炎帝は重傷、俺に足を切られたりニルの矢で負傷した兵士もいる。

砦の中には戦ってもいない兵士も相当数いて騒動を聞いて続々と出てくるのだが最初に見るのが炎帝の状態であり俺たちにやられたと聞いて戦意はなさそうに見える。

炎帝1人でこの砦の人間全員を倒せるというのは皆わかっておりその炎帝が瀕死の状態でこっちは無傷なのだ。

おまけにボスのタングスが人質になっている。

カインがタングスに言いこの場のリーダーを呼ぶように言うと第2王子を連れてきたザイートが前に出て膝を折った。


 「タングス様と炎帝様が指揮できない今、私が代理の立場になると思いますがおふたりほどの政略への理解もなければ戦闘の指揮の能力もありません。反抗の意思はありませんので指示していただければいかようにもいたします。できればタングス様と炎帝様の命を助けていただければと思います」


 トップには立てないが実行力はあるのだろうか、あとタングスが信頼を寄せているのは実直さもあるのかもしれない。


 「タングスは我が国を支配しようと策を巡らせた。もし策がうまくいけば我が国はタングスの操るままになっていただろう。タングスが何を言ってお前たちを率いていたのかは知らないが戦争を起こしたかったのか?」


 「い、いえ、それは・・・」


 「そうだな、タングスは無理だ。我が国に戦争を仕掛けてここで許せば我が国が侮られる。セブン国に責任を求めて家族諸共犯罪人として裁いてもらうのが通常の対応だろう。しかしザイート、お前が知っているこの顛末のすべてを話すならタングスだけの責任としてもいい」


 「だ、駄目じゃ!騙されるな、何とかしろ!この私を助けろっ!!」


 「まだ言うか。この状況でそんな行動を起こしたら即首をはねるだけだぞ」


 首筋に剣を当てられた状態でも自分が死なないためにならあがけるようだ。

さっき逆の立場でカインを助けた身としては何とかする魔法がないとも限らないので警戒はしておく。


 「タングス様、奥方様やお子様方、タングス領を潰さないためには・・・」


 「うるさいっ!私が死んだらそんなものに意味はないっ!領地に家人、家族もつけてやるから私を解放しろっ!何とかしろザイートっ!!」


 ザイートの決心が定まったのはこの台詞だったのかもしれない。


 「私の知る限りのことはお話いたします。なので他のご家族様や領地のことは何とぞ、私の知る限りタングス様の単独犯でありますので」


 「ザイートの話の裏がとれて本当に関わっていないことがわかればできる限りのことはする」


 カインに言えるのはここまでなのはわかる。

無条件で許せるわけではない。

こう言っておいてザイートが話せばザイートの話を嘘だと断じてセブン国に訴えることもできるのだ。

だけどザイートはその確認も取らなかった。

とっても意味はないというよりカインを信用できると判断したのだろう。

確かに今のカインはいつものイケメンなだけではなく信用できる格のようなものが備わっているように見える。


 「炎帝の様子はどうだ?連れてこい」


 カインが離れた場所で倒れている炎帝を近くの兵士たちに運ばせる。

その間にタングスを縛り上げた。

炎帝は頭から自らの炎弾を受けて上半身が燃えていた。

撃たれたのではなく被ったようなものなのでその分はマシなのだろうが何とか火を消してはいたが右腕は無く火傷も酷い、このままだと死ぬだろうことは間違いない。


 「炎帝の性格からしてこちらに協力することはないだろうが炎帝側の情報も欲しい。この兵士たちの中で今回だけではない炎帝の部下はいるか?」


 「タングス様が炎帝様と協力して私に準備を命じて私が雇った者たちです、直接の部下はいないです。ですが炎帝様が何かするときに人がいるとなるとよくこの者たちに声をかけます。彼らの処分はどうなりますか?」


 予想通りではある。

炎帝は基本単独行動を好む、自身が強いし複数の相手をすることもできるのでその方が楽なのだろう。

今回は人質を取るのと長期戦なので見張り役や食料調達役などが必須になったのだと思われる。

とにかくここの兵士たちは少なくとも炎帝と行動を共にすることが何度もあり炎帝側の人間と言っていいだろう。

この者たちの処分についてカインが少し悩んだ後にザイートにこの中の責任者のような立場の者を連れてくるように言った。

呼ばれてきたのは3人の男たちでどうやら砦の中は3部隊に別れて見張りと砦内の仕事と休憩を回しておりそのそれぞれの部隊長であった。


 ここにいる300人を拘束してもそんな時間はもったいないしその間に逃げられるか不意に襲われる危険性が高い。

奥の兵士が砦の壁に上って矢でも射かけられたら形勢は逆転してもおかしくはない。

そうなっても対処することはできるし最悪タングスを連れて『転移』すればいいのだ。

だがそうしないためにもあまり追い詰めない方がいいだろう。

そのあたりの状況も含めてカインがザイートとその3人に告げた。


 今回は解放するが次はないこと。

怪我をした兵士と炎帝は死なないようには助けるが炎帝を逃がそうとしたり取り返そうとした時点で解放は無効として炎帝と共に処罰すること。

これらを伝えると部隊長の3人はホッとしたようだ。


 ケガ人に前に来てもらう。

カインは自分の懐からポーションを取り出し兵士に渡した。

俺が渡したハイポーションを薄めた物だろう。

ポーションは切り傷や火傷などの外傷によく効く。

ケガをした兵士たちの傷はきれいに治った。


 「炎帝にもポーションを使うがそのままついてきてもらう。お前たちのこの先は好きにしてくれてかまわないが次に敵対したときは2度と許すことはないことだけ覚えていてくれたらいい」


 カインは炎帝の足と手を縛った、治してすぐに襲われたらたまらないからだろう。

手については少し興味はあったがカインは残りのポーションを炎帝にかけた。

1分ほどで火傷で爛れていた上半身の皮膚が再生し始める。

ハイポーションだがさすがに薄めた物では完全には治らないが命の危険は去ったと言えるだろう。


 「う、あ・・・?治っ、た?」


 縛られたまま炎帝の意識が戻った。

だが右腕はないままだ。

兵士たちはどよめいている、ただのポーションではここまでは治らない、ハイポーション薄めてはいるが10倍に薄めた物が普通のポーションだとすればこるは3倍に薄めた大けがをしたときの緊急用の物だ。



 「では退却だ」


 カインが手を上げた。

それが合図だ、すでに準備はできている。

カインが立ったまま手を上げ、リモが縛り上げたタングスと第2王子の横で見張りニルは縛られた炎帝を監視してザイートは跪いたまま、その横で俺はしゃがんだ体勢でいる。

そのまま約束の洞窟に『転移』した。


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