第2話 寮での暮らし
その後いろいろと話を聞いたり色々と見てみると地球じゃないことを納得するしかないようだ。
大がかりなドッキリ、とかも考えたが何より俺にはそんな友達がいなかったし、この体は嘘じゃない。
洗面所で鏡を見せてもらうとまさに5歳ぐらいの黒髪黒眼の少年がいた。
昔の姿とは違いそれなりに整っていると言ってもいいのだろうが誰もが認めるイケメンというほどでもない、さらにはこの世界の美醜の基準がわからないので気にしないでおく。
納得はしたが理解はできないまま食堂で食後のお茶を飲んでいた。
「ねぇねぇ、ミリアは何で人族を拾おうと思ったの~?」
本人の前でする話題じゃないと思うがガーベラがミリアに聞いている。
「え~、本当にたまたまだよ。ペットは飼いたいなと思ってたし」
ライラは小さな爬虫類のようなペットを飼っているという。
ガーベラはハムスターのような小動物だという。
食費もあるので普通はそういう小さめのペットが多いらしい、それがまさかの人族だ、それで聞いているのだろう。
ペットを飼いたくて俺を拾ったというのはもう受け入れるしかないようだ。
「ティルがかっこよくなりそうって思ったんじゃないの?」
ライラの言葉に少しドキッとするがすぐに否定される。
「それはないかな、人族だしね」
「「だよね~」」
人族と獣人は仲が悪い、というより一方的に獣人が差別されているらしいことが会話の端々からわかる。
獣人を見たことすらない俺としては嫌う理由もないのだがそれならよけいに俺を拾った理由がわからない。
何より人ではなく人族、人だと獣人も含まれるので区別しているようだ。
「熱出して倒れてたからね。さすがにこんな小さな子をあのままにしておくのはねぇ」
「獣人差別するようならすぐにでも追い出してたけどね」
「そうそう、それがあんなにテクニシャンだとは」
そう言ってまた笑う。
仕事は娼館のようなものらしい。
俺が子供だからだろう、詳しくは言わないがお酒を一緒に飲んで選んで貰う、というようなことを言っている。
前世の記憶だとそういう仕事はけっこうお金も貰えるはずだったが三人とも身なりがいいとはいえない。
「そんな大変な仕事だったらお金も一杯稼いでるんじゃないの?」
純粋な疑問だったのだが三人とも困った顔をする。
まあいいか、といったようにライラが説明してくれる。
「そうねー、残念ながら獣人にそこまでお金払う人はいないの。隠しても仕方ないしお金持ってると思われてミリアにおねだりされても困るから言っておくわね。みんな色々理由があって借金して働いてるからお金はないわよ」
「あ、おねだりしたい訳じゃなくて・・・俺の面倒みてくれたりするなんてお金は大丈夫なのかなって思って、俺は何も持ってないし」
「期待してないわよ、贅沢させてあげられないけどご飯わけてあげるぐらいはできるから安心して」
屋根があってご飯も食べられるありがたさは充分にわかっている。
ペットを飼うというのも寂しいからだというのも聞いたことがある。
「あ、だけど王都の凄いところだと一日で100万ゼゼってところもあるらしいわよー」
ライラが口を挟む。
「100万って・・・私が買えちゃうんじゃないの?」
そんなことを言っているが3人は特に悲壮な感じもない。
嘆いているだけじゃどうにもならないしご飯も食べられないことがわかっているのだろう。
実際に聞いたところ、仕事があるだけマシと言えるそうだ。
周りには仕事にあぶれたり家もない人が多く住んでいるそうでいわゆるスラム街というようなところだという。
何とか自分の食費ぐらいは稼げるようになりたいがなかなか難しいのだろうか。
さすがにペットとして寂しさを紛らわせると言う名目でずっと世話になるのは気が引ける。
どうするにしてもこの世界の状況も今の自分のことさえ何もわかってないのだ、少しの間はこの世界の情報を集めることにしよう。
「それに、ティルが格好よくなってさらにお金持ちになって将来私を迎えに来てくれるかもしれないじゃない?」
「え~、ティルが~?でもそうなったら私も迎えに来て~」
「あ、私も。期待してないけどね~」
そう言ってまた笑う。
半分以上、いやほとんど冗談なのだろうが少しの期待というか願望込みで本音もあるのだろう。
生きていくのが第一だとしても喜んでやっている仕事じゃない。
悲しんでも仕方がないと言うだけだ。
「あんたたちはいつも楽しそうだね~」
そう言って台所に入ってきたのは熊の獣人と狐の獣人だ。
2人ともミリアたちより年上だろう、20歳前後だと思われる。
「あ、その子が昨日ミリアが拾ってきた子かい?結局どうするんだい?」
「ここに住むよ。名前はティル、ライラの見立てで5歳なのもわかったの。記憶が曖昧だけど親戚の家から逃げてきたみたい」
パンツの中を覗いて年齢を決められるのも納得しないがあまり年齢を気にしてないみたいなので文句を言っても仕方がない。
それよりここで世話になるのなら挨拶をした方がいいだろう。
「ティル、この人たちはニーサさんとオルミエーデさん、私たちより少し早く働き始めた先輩だけど年上で2人とも子供もいるんだよ」
先にミリアに紹介された、俺も立ち上がり挨拶する。
年齢などは聞かない方がいいのだろうか?
とりあえずは失礼のないようにしておきたい。
俺は席を立って挨拶をした。
「ティルです、行くところがないのでミリアさんの言葉に甘えることになりました。迷惑かけないようにしますのでどうかよろしくお願いします」
「え~、ティル、私たちとは態度違うじゃない」
ライラに言われるが3人の先輩というのに礼儀もなしじゃだめだろう。
「あっはっは、そんなに気を使わなくていいよ!3人よりしっかりしてそうじゃないか、ミリアが決めたのなら文句はないよ。私たちもティルと同じ年の子供いるから仲良くやってあげておくれ」
熊の獣人のニーサさんがそう言ったとき、後ろから走ってくる音がした。
「あ、誰かいる、誰だお前?」
熊の獣人の男の子、ニーサさんの子供だろう。
その後ろに隠れるようにいるのは狐の耳が見えているのでオルミエーデさんの子供だと思う。
「リンはベイルと違って人見知りだからねえ。仲良くなるのに少し時間がかかるかもしれないけどよろしくね」
オルミエーデさんにそう言われたので間違いないだろう。
二人の名前はベイルとリン。
「ベイルにリンだね、俺はティル、ここに住むことになったからよろしくね」
前世で友達がいなかったからこういう関係は苦手なのだが前世での常識は通用しない。
他人とのコミュニケーションも勉強が必要だ。
それならこの年齢からというのはよかったのかもしれない。
なにしろ学校に行って勉強してたらいいという世界ではなさそうだ。
「ティルだな、俺がベイルだ。お前人族だろ?リンに何かしたら許さないからな」
いきなりそう言われるがリンと言う狐の獣人を守りたいのだろう。
陰で悪口を言われるよりはよっぽどいい。
「もちろん、何かするつもりはないけど俺は記憶が曖昧らしくてわからないことだらけなんだよ。色々教えてくれると助かるな。知らないからもし俺が2人に嫌なことをしたら教えてほしい、二度としないようにするから」
こっちの常識がないのだ、知らないうちに傷つけたりしていると困る。
大人たちでは言いにくいことでも子供なら嫌だと言えるかもしれない、という計算もある。
仲良くなれるに越したことはない。
そう言って握手を求めた、握手の習慣はあるのかな?と手を出してから思ったが握り返してきたのであるのだろう。
「あらあら、さすが子供同士は仲良くなるのが早いのね」
ライラがニヤニヤしながら俺に言う。
子供同士、をわざわざ付けて言うのはからかっているのだろう。
「いいだろ、仲良くなりたいんだから」
そう言うと大人たちがニコニコと笑っていた。
リンは恥ずかしそうにベイルの後ろに隠れたままだがいきなり仲良くなれるタイプじゃないのはわかる。
すぐに慣れないとは思うけど危害を加えるつもりはないからよろしくね、と挨拶はしておく。
「あぁ、本当に獣人だからって差別するような子じゃないのはわかってよかったよ」
そんな声が後ろから聞こえた。
みんなが笑っていたのはまだその不安があって、握手したときに解消されたのかもしれないな、と思った。
「ここに住むんだから簡単に案内してあげな」
ニーサさんがベイルにそう言っておれは寮の中を案内してもらうことになった。
「ついてこいよ」と言うベイルの左に並んで歩き始めるとリンは俺とは逆のベイルの右側についた。
ついてきてくれるだけいい方なのだろうと思う。
台所兼食堂は建物の一番奥にある。
案内と言ってもそんなに広いわけではないし、俺を子供たちに案内しろと言ったのは大人の話から遠ざけたかったのもあるはずだ。
僕の前では優しそうな感じだったが今頃は本音で俺の話をしているだろう。
悪い印象ではないと思うのだが人族への嫌悪感も大きいようなのでこればかりは祈るしかない。
となるとこの2人と仲良くなるのはここにいられるかどうかの判断材料の1つとなるかもしれない、仲良くしておくにこしたことはないだろう。
台所を出ると両側に5つずつドアが並んでいる。
ミリアの部屋ももちろんベイルの部屋もリンの部屋もあり、前を通るたびにここだと教えてくれる。
ほかの女の人のことも教わりながら歩く。
台所にいた5人以外にもあと5人の働いている女性と1人の子供がいると教えてくれた。
その先には玄関がありそれで案内は終わった。
だがそのまま建物を回り込んで裏に回る。
どうやら食堂の裏口から出たところのようだ。
20メートルも行くと柵があり、その先は森になっている。
その幅20メートルの空き地の森側の端に長さ1メートルほどの丸太を横に置き、座る部分を削ったような椅子があってベイルはそこに座った。
リンはベイルの横に座ったので俺はベイルの前に切り株のようなものに座る。
こっちも座りやすく削った跡があるので椅子として使っているのだろう。
ここでこの寮のルールなどを色々と教えてもらう。
もう1人の子供というのが9歳のウサギの獣人、何とこの寮の食事係だという。
と言ってもほぼ毎日パンと野菜のスープ、朝早くに起きて作ってくれたのをそれぞれが食べたいときに食べるというシステムのようだ。
この2人はその手伝いと後片付けが役目だという。
働いている女性たちは昼前に起きて食事をし、夕方に出勤して夜中に帰ってくる。
残ったスープで子供たち3人は夜ご飯というわけだ。
1日2食でほぼ毎日同じ、かなりきついと思うのだがご飯が食べられるというだけで嬉しいという。
母親たちとも昼から夕方までのふれあいだけ、最もこの2人はどちらかの部屋で話し込んで気がついたら一緒に寝てることも多いらしいが。
「森で何かを狩ったり採取したりしたら駄目なの?」
すぐ裏が森なのだ、食べられるものを自給自足した方がいいんじゃないかと思う。
「森にはその柵が見えるところまでしか入ったら駄目なんだ、魔物が出るから。すぐに逃げられるところまでって言われてる、そこでたまに獲れる獲物は食べてるぜ」
魔物、ファンタジーの世界ではお約束だが本当にいるのだろうか?
森で迷子にならないように女性たちが子供に言い聞かせていると言うこともあり得る。
前世でも水遊びしたらカッパが来るとか言って近寄らせないようにしていた。
「魔物っているの?見たことある?」
そう聞いてみた、どう答えるのかと思ったが答えは簡単だった。
「魔物は怖いんだぞ、めちゃくちゃ強いんだ、そして美味い」
「うまい?」
上手い?美味い?すぐには判断がつかなかった。
「あぁ、ちょっと前に弱った魔物がここに入り込んできたことがあるんだけど、みんなでやっつけて食ったんだよ。めちゃくちゃ美味かった」
「魔物・・・美味しい」
リンが話した、最初の一言目がそれだというのもどうかと思うが話してくれたのは嬉しい。
「何で魔物ってわかるの?普通の動物じゃないって」
「ティルは本当に何も知らないんだな、魔物は角が生えてる。それに動物の魔物は大きいんだ。例えばウサギに見えても角が生えてたらそれは魔物だ、強さも全然違う。魔物では弱いって言われてるウサギの魔物でも俺たちだとこっちが死ぬんだぜ。それに魔物からは魔石が獲れるんだ」
これはほぼ間違いなく魔物がいそうだ、前世と同じなら確かにウサギに殺されることはないだろうし、魔石という物があるのなら間違いないだろう。
そんな話をしていると一人の女の子が現れた、亜麻色の髪からウサギの耳が見える、もう1人の子供だろう。
「ミー姉、こいつティルだって、ミリアのとこに住むんだってさ」
「人族!?」
その子が身構える。
表情には嫌悪感が浮かんでいる。
よっぽど嫌な思いをしているのだろう。
「ティルです、人族に対して嫌な思いしているのは知ってますが僕にそんなつもりはないです、仲良くしてもらえたら嬉しいです」
「ティル、なんか大人っぽいぞ、そんな話し方して」
まさかのこんなところで大人扱いだ。
「人族のこと嫌いなのに最初から年下に偉そうに言われたら嫌じゃないか?」
「俺には普通じゃん、あ、ミリアたちにも普通だったぞ」
あの3人の前では最初はこっちが年上のつもりで接してたからそのままになった。
向こうも嫌そうじゃなかったし。
ベイルには・・・さすがに5歳の子供に敬語もおかしいだろう。
このミー姉と呼ばれた子にもそうなのだが身構えられるとこっちも壁ができてしまう。
ここですぐ仲良くなれるようなトークができるほどの技術なんてもちろんない。
「うーん、本当だな、でもそんなもんじゃないのか?」
「全然わかんねえよ!」
そんな話をしてると「クスッ」と笑うのが見えた。
「ごめんね、もう仲良くなったんだね、ベイルとそんなに仲良くできるなら私たちにひどいことしないってわかるわ。私はミーティア、2人にはミー姉って呼ばれてるからそれでいいわよ。よろしくね」
「あ、よろしくお願いします」
「普通でいいわよ、この寮の中じゃみんな敬語なんて使わないし」
そう言われて少し考えるがその方が仲良くなれる気もする。
周りに普通に話して1人だけ敬語と言うのもおかしいしな。
あぁ、この2人の親にも敬語で話してた、あの2人は前世の俺よりも年上っぽかったしなあ。
後でどうしたらいいかミリアにでも聞いてみよう。
「わかった、ミー姉!」
最初から嫌われてるという状況は回避したし当分の間一緒にいることになりそうだ、仲良くなれるにこしたことはない。
何より前世の周りの人間に比べるとこっちで出会った獣人の方がよっぽど仲良くなれそうだ。
ミー姉が俺の左側に切り株の椅子を置いて座る。
「それにしてもティルって全然人間らしくないよな?魔法とか使えないのか?」
聞き捨てならない言葉を聞いた。
「魔法?魔法なんてあるの?」
「本当に何も知らないんだな、獣人には使えるやつはほとんどいないけど人間にはけっこういるぜ。強力な魔法を使えたら魔法で魔物を狩ったりするんだ」
「もっとも魔法も使えない獣人のくせに、みたいに言って火の魔法を面白半分で撃ってくるような人間もいるけどね」
ミー姉が思い出すように話す、されたことがあるのだろう。
でも魔法か、使えたら楽しそうだ。
「人間だったら誰でも使えるの?」
「全員じゃないけど小さな火の魔法ぐらいなら半分ぐらいは使えるんじゃないか」
「どうやって使うんだろう?」
「知らねえよ、俺たちは使えねえもん。俺たちに撃ったりしないだろうな?」
「撃たないよ、もし強い魔法を使えたら魔物も狩れるのかなと思ってさ、そうしたら肉も食べれるだろ」
「本当だ!ティル、使えないのか?」
「お肉・・・食べたい」
「だからそれを聞いてるんじゃないか、魔法があること自体今知ったのに」
何も知らない同士で話してても何も進まない。
堂々巡りになるところにミー姉が話し出す。
「私、少し知ってる。ちょっと待ってて」
そう言って寮に戻り、戻ってきたときには直径1㎝ほどの石を持っていた。
「これ、魔石って言うの。前の魔物を倒したときに獲れた物。ママがお客さんに火の属性をつけてもらったって言ってたの。簡単に火が使えて便利だったけど魔石の魔力が切れたからもう使えなくなったって」
魔石と呼ばれた物は前世で言うビー玉みたいだった、色はうっすらと赤い透明で綺麗だ。
「元々透明だったけど属性をつけてもらったら赤になったの。使うにつれて魔力が無くなって色が薄くなっていったわ。属性をつけるのはそんなに大変じゃないみたいだけど魔力を補充するのは魔力がいるみたいで気軽に頼めないんだって、特に私たちみたいな獣人は」
こんなところでも獣人に不利なことがある。
でも魔力が空になると死ぬこともあると言うのなら気軽に頼めないのは仕方がないのか。
魔力というものがわからないので補充のしかたすらわからないがミー姉が言うには両手で握ってお祈りするような感じだったという。
ダメ元で試してみようということになった。
魔石を受け取り両手で挟み指を組んで顔の前に持ってくる。
魔力が何かわからないが体の中にあるのだろうか、体の中にある物を魔石に移動させるイメージ。
前世でもカメハ○波を撃ちたくて手の平に気を集めようとしてみたことがあるがそんな感じだ。
実際に少し体が熱くなる感じもするし熱い物が手の平に集まる感じもする。
でもカメハ○波の時もそんな感じしたよな・・・と懐かしく思い出す。
ふと横を見るとリンの尻尾がピョコピョコと動いているのがわかる、あまり話さないが警戒は解いてもらいだしたのかと思うと嬉しくなった。
「あれ?」
つい声が出た。
手の平の中の魔石の感覚がなくなったのだ。
「どうした?」
ベイルの声とともに手の平をゆっくりと広げる。
・・・そこには魔石はなかった。
「ティル、どこにやったんだよ!」
「わ、わかんないよ、気がついたらなくなってたんだ」
物がなくなる、こういう場合の今までの経験が頭をよぎって頬が引きつるのがわかる。
体がこわばる。
俺はここでも・・・
「あれ売れるって言ってたのに無くしたらヤバいぞ、俺たち怒られるぞ、どうする?」
「ママに・・・怒られる」
「持ってきたのは私だからあなたたちは心配しないで、それより周り探してみて」
「おぅ!ミー姉のせいじゃないよ。みんなでしたんだ。ティルも探せよ、ミリアも怒ったら怖いぞ、俺も怒られてるから助けてやれねぇぞ」
「怒られるの嫌・・・探す」
焦ったが周りを探すとリンの後ろに魔石は落ちていた。
「あったぞ!よかった!これで怒られずにすむし・・・赤くなってる、これは魔法成功したのか?」
「あった・・・よかった」
「よかった、魔法が使えるかはわからないけど魔力の補充ができたのだから魔力はあると思うわよ」
「ティル、すげー!やったな」
3人の言葉にほっとするとともに俺はめちゃくちゃ嬉しくなっていた。
前世で同じようなことがあったときは全部俺のせいにされた。
俺が無くした、俺が悪い、責任取れ。
ひどいときなどは物がなくなってから呼ばれて俺が無くしたことにされたこともある。
そして施設の院長も学校の先生も言いつけた者の言葉のままに俺を責め、理由を言っても言い訳をするなと怒鳴られた。
ミー姉は私が持ってきたとかばってくれたしベイルもみんな怒られると言った、リンでさえ自分が怒られることを考えた。
みんなで怒られるとは思っても俺のせいにしようとは言わなかったのだ。
魔石が無くなったとわかった時点でまたここでも俺のせいにされて捨てられるかも、と思った。
だがこの3人は今日会ったばかりの俺にそんなことはしなかったのだ。
前世のことを考えるよりここで新しい人生を過ごした方がいいのかもしれない、そう思い始めていた。
「ありがとう、魔力を使ったら疲れるって聞くけど大丈夫?」
ミー姉の言葉で我に返って体の調子を考えてみるがなんともない。
そのことを伝えると「よかった」と言ってくれる。
「あれ?ティル泣いてんじゃね?」
頬を伝う一筋の感触に自分でも今気付いた。
「あら、そんなに怒られるのがこわかったの?」
もちろん怒られるのが怖かったんじゃない
「いや、そんなんじゃないって」
慌てて手のひらで涙をぬぐう。
しかし後から後から涙があふれてくる。
「ふふっ、また弟が増えたみたい。お姉ちゃんに任せてくれたら大丈夫だよ」
9歳の女の子に弟と言われる情けなさはあったが涙が止まらない俺は言い訳のしようがなかった。
ベイルとリンにも笑われながら涙をぬぐう俺の口元はずっとにやけており、笑いながら涙を流す俺は3人に笑われたが全く嫌な気持ちにはならなかった。
その後は入っていいと言われているほぼ安全な近場での薬草や山菜採集をしたり井戸から水を汲んだりしていた。
たまに蟻や蝶などを見ているのは虫の魔物もいるからだという。
普通の蟻などよりは大きいが魔石自体は小さすぎて高価なものではない。
だけど火の属性をつければマッチのような使い捨ての魔石としては使える。
まとめると安い値段だが買ってくれるのだ。
森の奥に行くともっと大きな虫の魔物もいるし動物の魔物と違って特殊能力を持つ虫が多いという噂もあるらしい。
基本は森の奥に行けば行くほど魔物も強くなって魔石も大きくなるという。
ドラゴンなどもいるのだろうか?少し興味を持ったが今はそれどころじゃない。
採取する物の見分け方を教えてもらいながらベイルと歩く、薬草や山菜と言ってもほんの近場だけでしょっちゅう探しているのだ、そんなにあるわけではない。
それに特に仕事というわけでもなくたまには母親たちも混ざりしゃべりながら楽しくという感じだ。
これも親子の触れ合いみたいなものなのだろう。
ベイルと離れてひとりで探しているとミリアがくっついてきて「みんなと仲良くなれそう?」と聞くのでうなずいたら嬉しそうにしてた。
心配してくれていたのだろう。
3人が俺を見てクスッと笑ったのはさっき泣いたのを思い出したのだろう。
さらにそのことを黙っていてくれるという子供だけの秘密みたいなことになっている。
連帯感が強まって仲良くなれるなら笑われるぐらいいい、と心の中で言い訳をしておいた。
魔石についても聞いてみた。
驚かれたが獣人だからだろうかあまり魔力のことはわからないそうだ。
俺が人間で魔力を持っている、ということがわかったというだけだ。
夕方彼女たちの出勤を見送ると簡単に寮の片付けをして夕食を取る。
毎日こんな感じの暮らしだそうだ。
食事が終わるとベイルとリンはベイルの部屋でまだ遊ぶそうだ。
ミー姉は自分の部屋に戻った。
2人に誘われたが今日は少し疲れたからと断った。
友達にはなりたいがやっぱり一人の時間も欲しい、常に人といられるほどまだ人間関係になれていなかった。
前世に比べると不便なところはあるが楽しくなるかもしれない。
部屋に戻ってそう考えていた。
そして誘いを断ったもう一つの理由、確かめたいことがあったのだ。




