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5³㎤の転移無双  作者: 清白
第3章 ホワイトナイト

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第1話 雨期



 日持ちのする食料の確保の依頼や雨対策の窓の補強の手伝いなどの依頼を受けているある日、ニルさんに声をかけられた。

例のイケメン冒険者たち『ホワイトナイト』の青髪のクール系美人の女性だ。

話がしたいと言われ依頼が終わった夕方にギルドから離れたお茶屋のようなところで待ち合わせる。

女性とこういう待ちあわせは元の世界も合わせて経験は0なわけだがもちろん変な誤解をしているわけはないのでドキドキもしない。

何しろいつも横にいる男性があんなイケメンでさらに当人もかなりの美人なのだ、俺が割り込んだりする想像すらしていなかった。


 実際のところもちろんそんな甘い話ではなく喫茶店に行くと『ホワイトナイト』の3人は全員揃っていた。

2人での話ですらなかった。

何でも俺に興味を持ったみたいで話を聞きたいからだそうだ。

俺の向かいにカイン、その右にニル、左にリモが座る。

3対1で座っても周りから見て違和感を感じないかもしれない。

最初に口を開いたのはカインだった。


 「ティル君だよね、Cランク昇格おめでとう!ちょっと話がしたいと思ってね」


 「えっと、何の話でしょう?」


 残念がっているわけじゃない。

1対1のつもりが相手が3だったので少し戸惑っているだけだ。

3人は顔を見合わせ、お互いにうなずいてから話を始める。


 「ティル君、キャロさんのことどう思ってる?」


 一瞬何を聞かれてるのかわからなかった。

だけどキャロさんのことはお互いの担当であることだし思ってるまま言っても大丈夫だろう。


 「キャロさんは僕の担当の受付嬢で孤児院出身で頑張ってる可愛い狼の獣人だと思ってますけど?」


 「うん、見ててそう思ったから声をかけさせて貰ったんだけど、ティル君は獣人差別はないと思っていいのかな?」


 「ないですよ。それは誓って言えます。むしろ皆さんが獣人差別のない国から来たと聞いたので興味があるぐらいです」


 「う~ん、僕たちの国も全くないわけじゃないんだけどね、この国よりはかなりマシかな。それと少なくとも僕たちにはないよ。キャロさんが僕たちよりティル君に心を許してそうで純粋にいい人なんだろうなと思ったのが声をかけた理由の1つなんだ。あのギルドで僕たちはちょっと浮いてるから仲良くなりたいのもあってね」


 浮いてるのはメサイアさんと揉めてて他の人族が話しかけにくかったのが主なことだ。


 「メサイアさんもいなくなったしこの先はマシになるんじゃないですか?」


 「そうだといいんだけどね、どうもキャロさんは僕と話すときは緊張してる感じでね。他の獣人の人たちとももっと仲良くなりたいんだけど」


 「あの、それは・・・また別の理由かと」


 横の2人を見てみると少しあきれた顔で頷いてるから実際のところをわかっているのだろう。

だがこの2人も自分たちが美人すぎて話しかけられにくいことをわかっているのかどうか。


 「えっと、僕も聞きたいことがあるんですけど?」


 「ん?僕ばかり聞くのも悪いから僕で答えられることなら何でも答えるけど?もちろん話せないことがあるのはお互い様だと思ってる」


 いくつか聞きたいことはある。

急ぎの事柄から聞いていくことにしよう。


 「まずは隷属の首輪のことなんです。犯罪奴隷の首輪をつけられたのを解放する方法、もしくは方法の知り方を知ってますか?貴族に頼む以外のことでお願いしたいんですけど」


 カインは少し困った顔になる。


 「あ~、絶対にないとは言えないかな。奴隷の管理、解放方法は国ごとに違うけど全ての国の犯罪奴隷を解放する方法がある、という噂は聞いたことがあるな。でも眉唾物で実際のところ僕も管理している貴族に解放してもらう以外のやり方は知らない。第一、簡単に知れては犯罪奴隷からの解放が容易になるってことだしね。何しろ隷属の首輪は神器である『王の器』の案件だ。わかる可能性があるとしたら大昔の資料がな、大きな図書館のさらに管理された場所とかになら方法を記された本とかがあるのかも知れないけど確証はないよ」


 「王都の図書館とかでしょうか?」


 「この国なら王都の図書館だろうけど現実的にこの国の図書館の禁書などを見ようと思っても無理だろうね。ティル君がこの国の有力な貴族になってからとかならいけるかもしれないけどそれなら貴族に頼む方法も取れるってことだよね」


 「そうですよね」


 この国の階級制度はひどいことこの上ない。

俺の立場で何かしようとすればすぐに立ちはだかってくる。

『王の器』というのは各国にひとつずつある国の成り立ちからの国宝だそうで例えばシックス国なら『王の器』は槍でありこれを持つ者が王になると言われている物だという。

特に隠しているわけでもなく持ち主の王の権威を深める物でもあるので広く周知されている。

ここの国の王は元SSSランクの冒険者で10傑でもあるので『王の器』を奪いに来た者を返り討ちにした話も有名だそうだ。


 『王の器』は各国にありその内のひとつがテン国の『王の器』である首輪。

隷属の首輪を作ることができるその『王の器』はテン国が滅んだ後他の国に分割されて各国で隷属の首輪が使われるようになった、との大昔の話である。

なので各国の首輪をまとめて外せるならそれ以前の話であり大昔の資料にしか載っていないだろうということだ。


 「現実的には隣の国の学校かな。シックス国、セブン国、エイト国の合同で運営されている学校。国家横断道路と同じで非戦闘地域だし大きな図書館もあって戦いが行われていないということは昔の本も失われていない。でも可能性があるってだけで目当てのものがあるかどうかはわからないし図書館の秘蔵の本などを見られる立場になる方法もわからない」


 学校、選択肢になかったのだが少し考えてもいいのかもしれない。

確か10歳以上なら入学できるはずだ。

全く手がかりがないのだからヒントでもあればとの気持ちだ。


 「次は僕だね。ティル君、かなり大きな容量のマジックバッグ持ってるんじゃない?」


 緊張が走った、なるべくばらさない方がいいと言われていたのだ。

だけどそんな俺の気持ちを見抜いたのか横からニルさんが補足してくれた。


 「もうしわけありません、この人直球なんです。奪おうとかそんなのじゃないのでご安心を。ただ私たちが求めている物なのです、もし持っているのでしたら手伝って欲しいことがあるのです。もちろん奪われないためのあらゆる対策は受け入れますし今すぐとかも言いません。ギルドからの指名依頼ということにしていただいてもいいです。ティル君が今CランクならBランクになるぐらいの報酬は払えると思います」


 報酬だけでランクが上がるわけじゃないがかなりの金額は出せると言うことだろう。

キャロが話していたがこの3人はかなり稼いでいるらしいのに節約もしておりお金にもしっかりしているそうだ。

それがさらに素敵、という話になっていたがそれを俺に言うのはコンプライアンス的にどうなのかという話だがもちろんそんな言葉はこの世界にはない。

だけど何をするのかわからないのにOKできるはずもない。


 「今は皆さんをいい人たちだと思ってます。キャロさんへの対応を見てても。でもそれが僕のマジックバッグが目的で偽っていたかどうかの判断ができないので今すぐに答えは出せません」


 「それは当たり前だね。でもそう言ったらマジックバッグを持ってることは確定になっちゃうよ?」


 「たぶん色々調べたんじゃないですか?ある程度確信されてると思ってます」


 「へぇ、ごめん、ちょっと見直したよ。あ、馬鹿にしてたんじゃないよ。ティル君は実際は14にもなってないだろ?それでそこまで頭が回るのかっていう単純な賞賛だよ」


 「ありがとうございます。あと3人は色々と隠してることがあるとも思ってますよ」


 「うん、正解。でもバレるのが嫌で隠してると言うよりは信用できるなら開示してもいいと思って今は隠してるだけ。あ、あと普通にしゃべらない?少なくとも礼儀正しい会話よりは友達になりたいと思ってるんだけど」


 「わかりまし、あ、いや、わかった。みんなと仲良くなりたいのなら明日孤児院でバーベキューするけどくる?キャロさんの他にも解体場の人とか他の冒険者の人とかも来るけど。あ、今回は副ギルド長も来るかも」


 今は定期的に孤児院でバーベキューをしている。

元の世界のことを考えるとこんなにしょっちゅう人を集めてバーベキューをするなんて考えられない出来事だ。

だが娯楽の少ないこの世界でさらに孤児院では楽しみが少ないのだ。

何かしたいことがあるかと聞いたらお肉が食べたいと返ってくる。

それならしないわけにはいかない。


 「それ、俺たちも行っていいの?」


 「そんなかしこまったパーティーとかじゃないから気にしなくていいよ。夕方から始まっていつ来てもいつ帰ってもいいし」


 始まりと終わりの時間が決まってたら来にくい、早く帰りたいと思ったりもするのだ。

なのでそういうスタイルにしている。


 「じゃあ行かせてもらおうかな。魔物の肉を持って行ったらいいかな?」


 「肉は食べきれないほどあるのでできれば違う方がいいな。大人たちはお酒だったら喜ぶと思うよ」


 「えっと、孤児院でバーベキューってボランティアの炊き出しみたいなものじゃないの?」


 「え?あ、違う違う。俺が今は孤児院の隣に住んでて、そこに住むまでにお世話になってたんだ。それのつながりで今も定期的にバーベキューしてるだけだよ。今回はそろそろ雨期だからその前に集まって騒ごうぜってだけ」


 「へぇ、楽しそうだね。明日絶対に行かせてもらうよ。確かにそろそろだもんね、明日に雨が降り始めてもおかしくない。ギルドも森の奥まで入る依頼は出さない時期だもんね」


 この3人もこの地域の雨期は初めてらしく一応食料などは用意してるがどんなものかわからないらしい。

俺もよくわかってないのだが外に出られないと聞いてベンと用意していたのだ。

家から出られないのなら家の中でできる遊びをすればいい。


 フランクなカインに比べて女性ふたりはあまり喋らないし上品な女性なのはわかるけど嫌みとかはなく思ったよりいい感じの3人だった。

明日は昼間は雨期の準備の依頼をこなして夕方から孤児院でということで今日は解散した。






 「ん~、今夜にでも降ってきそうだねえ」


 バーベキューの準備を終え子供たちが我先にと食べ始めているところで院長が空を見上げてつぶやいた。


 「わかるものなんですか?」


 子供たちの皿に焼けた肉を入れながら聞いてみる。


 「雲の動きと空気の匂い、長年の経験ってやつかねえ、さすがに当日になったらわかるもんさねえ」


 「そういうもんなんですね、あっ、こら!それはディーネの分!ルゼルのは入れただろ、まだまだおかわりもあるから他の子のを取らないの!」


 ルゼルは見つかった!といった感じで笑ってディーネに肉を返す。

本気で取りたい訳じゃないのはわかってる、いっばいあるからそういう冗談ができるようになったのだ。

何しろ行き倒れの俺に食料を分けてくれた子供たちだし、食料が少ないときはお互いを気にかけてお腹いっぱい食べることに罪悪感すら覚えていたようなのだ。

こういう冗談ができることになっただけでもよかったと思う。


 俺自身も他人と話すのは得意じゃなかったのだが純粋になついてくれているのがわかる子供たちと過ごしているとこの場の一員になれたことにうれしさも感じる。

そこにライムが寄ってきた。

空いたお皿にお肉を追加してやろうと入れていると首からかけているものに気がついた。


 「ティルお兄ちゃん、見て!お兄ちゃんにもらったやつ」


 ライムの首にはドラゴンの爪の欠片に人を通したネックレスがかかっていた。

解体職人たちにわたす道具を作るときに最初に大まかに切断した時に出た欠片で直径1㎝ほどのでこぼことした球形だ。

ここまでいびつだとさすがにドラゴンの骨だとは一目見ただけではわからない。

だが鑑定して売ったら数ヶ月は食べられるぐらいの値段になる。

けっきょく孤児院のみんなに魔物の骨でお守りだと渡したのだ。

実際に長く持っていると魔力が少し上がるらしいのだが検証まではしていない。


 ライムはそれをもらったときに俺に細い穴を開けてほしいと言った。

そこに自分で糸を通し首にかけられるようにしたのだ。

そしてそれを見せに来た。


 「へぇ、上手に作ってるね」


 「いいでしょ、ここにいるときだけだからね」


 ネックレスが価値があるからではない。

孤児院の子供が装飾品などをつけていると安物だろうが馬鹿にして取り上げたりするようなやつがいる。

特に獣人にはそういう嫌がらせが多いので外で装飾品などをつけることはない。

だが今日みたいな心を許せる知り合いばかりのときはオシャレをしたいのだろう。

俺自身には全くわからない感情なのだが5歳といっても女性なのだと感心する。


 今いるのは孤児院のメンバーだけだ、ギルドのメンバーは仕事が終わってから来る予定、モースとランケルは雨期の準備を終えてなくこれるかどうかわからないそう。

この間に子供たちはお腹いっぱいにしてその後遊び回ってる子供たちを見ながら大人たちがそれを見ながらお酒を飲み肉を食べるというのがいつもの過ごし方になっていた。

もちろん大人たちには自分で肉は焼いてもらう。


 俺は肉を焼くだけだがタレはマリンさんのお手製が3種類あるし切っただけではないサラダやサンドイッチ、デザートのプリンにゼリーなども子供に人気だ。

さらに大人たちが来たら肉とは別におつまみに一品料理なども出てくる。

皆が楽しみにするほどマリンさんの料理は評判だ。

リゼもよく手伝ってはいるが子供たちと一緒に肉を食べてデザートを食べると遊びたい気持ちが勝っているようだ。


 子供たちがお腹いっぱいになった者も出てきた頃にまずホワイトナイトの3人がやってきた。


 「お言葉に甘えてお邪魔させてもらいに来たよ」


 その登場だけでシスターのオリビアだけじゃなくなんと子供たちも目を釘付けにしているのだからすごいものだ。


 「王子様だ」などとつぶやいている子もいる。

女性2人は慣れているようで、やれやれといった感じだが小さな男の子がチラチラ見ているのには気がついていないらしい。

院長にお酒を渡して俺に誘われたと挨拶をしているがよほどいいお酒だったのか院長も機嫌がいい。


 その後キャロや解体場のメンバーも増え、ドノバンたちはすでに屋敷の中で食べ始めている。

最初はホワイトナイトたちに驚いていたが徐々に仲良くなっているようだ。

キャロは俺の横に来て「ずっと見てたいぐらい」と言うのでカインを呼んでやったら最初は緊張で会話にならなかった。

仕事だと何とかなるもののこういう場でだと緊張するようだ。

ニルとリモの口添えもあり何とか普通に話せるようになる頃には周りのみんなもお酒が回り盛り上がってきていた。


 「あ、そうだ、こういうものを作ってきたんだけど」


 マジックバッグから取り出したものを見せる。

トランプだ。

例のベンとの共同制作で試行錯誤の結果がこれだった。

この世界にプラスチックはないが同じような材質を作る魔物がいた。

森の浅いところにいるカエルの魔物でポイズンフロッグという名前。

名前の通り毒を吐くのだが身に危険が迫るとがまの油のように体に汗をかき皮膚を固めるのだ。

その汗が白いプラスチックのようなものになる。

危機が去ると自力で割って逃げ出すのだが割れたプラスチックのようなものは粉々になりそのうち土に帰る。

なのでポイズンフロッグを捕まえ、汗をかくときに平らな床に汗を落とすと平べったいプラスチックができる。

それを切断してトランプを作ったのだ。


 2組作ったうち1組を出してみる。

マークは何でもよかったのだが一応元の世界と同じだ。

絵札には絵は描いてなくて数字とマークだけなのとジョーカーには簡易的なドラゴンの絵を描いてある。

子供たちがわらわらと集まって来た。

ルールはわかりやすいババ抜きにした、神経衰弱にしようかとも思ったのだが年齢で勝つ者が決まってしまいそうなのでとりあえずはやめた。

大人も興味がありそうなのはこの世界に娯楽が少ないからだろう。

子供たちにルールを教えて離れたところから見ているとニルとリモが近寄ってきた。


 「面白いですね、あれはティルさんが考え出したのですか?」


 カインは仲良くなりたいからとタメ口になったが相変わらず2人の女性は言葉を崩さない。


 「はい、ちょっと思いついたので作ってみたのですけど思ったよりうまくいったみたいです」


 「いや、あれはすごいと思いますよ。子供にもできる簡単なルールのゲームって言ってましたけど他にも考えてるのですか?」


 「そうですね、いくつか考えてます。興味があるならやってみますか?後で教えますよ」


 「「ぜひお願いしたいです」」


 2人がハモった。

カードゲームとかが好きなのかもしれない。

そこに話をしていた3人、カインとオリビアとキャロが入ってくる。


 「ティル!なんだ、この2人に手を出してるのか?」


 「え~?ティル君、ミリアさんはいいの~?」


 「浮気者だぁ~」


 カインはそうでもないのだがキャロとオリビアはかなり酔ってるみたいだ。

キャロはいつものことなのだがカインと話をするのに緊張していつも以上に飲み過ぎているようだ。

オリビアもいつもより上機嫌っぽいのはいつもより飲んでいるからで理由はキャロと一緒なのかもしれない。

イケメンっていうのはすごいなあと感心する。

ここで話を聞きつけたニルとリモもミリアの話に食いついてくる。

他人の恋愛話で盛り上がるのも娯楽が少ないからだろうか。


 トランプのことを忘れたかのように質問攻めにされているとポツポツと雨が降り出してきた。


 「お~い、そろそろ片付けはじめなねぇ~」


 院長の言葉に雨期の雨の激しさを知っている皆はドタバタと片付け始める。

何人かは家に帰っていったが残っている者もいる。

なんと雨期の間に地下で解体を進めるのだそうだ。

帰ったのは結婚している者たちなのだが作業をする独身組を羨ましがっているのもどうなのだろう。

さすがにドラゴンのことはカインたちには言ってないのでいないところでしか話をしていない。


 「嫌ぁっ!!」


 ほとんどの片づけを終えた頃叫び声がした。

ライムだ。

なんとライムは30㎝ほど浮いている上に体は動けないようで足と手をジタバタさせている。

首にかけているネックレスがひとりでに動いて外れる。

その瞬間にライムは地面に投げ出された。


 俺とオリビアが慌ててかけよる。

ネックレスは浮いたまま遠ざかると同時にネックレスを持った大きな猿のような物体が見え始めた。


 「インビジブルモンキー!!」


 カインが叫ぶ。

あの猿の名前のようだ。


 「私のっ!返して!嫌だぁ!」


 ライムの泣き叫ぶ声の方に反応する。


 「オリビア!これライムに!取り返してくる!」


 マジックバッグから取り出したポーションをオリビアに渡す。

オリビアに作ってもらったものだがケガを治すのなら早いほうがいい。

そして猿を追いかける。


 「俺たちも行く!」


 カインたち『ホワイトナイト』の3人も走り出していた。


 「もう数時間もしたら雨で危なくなるよ!無理せずに帰っておいでね!」


 院長の言葉を背中に受ける。

猿たちは姿を見せた状態で走り去っていく、それを4人で追いかける。

猿たちもちょうど4匹、体は大柄で2mぐらいありそうだが猿だけあって動きも速い。

当然なのだろうが孤児院を出ると住み家の魔の森に向かって逃げていく。

森に入られるとより逃げられやすくなりそうなのでまとめて『切断』で足下を切ろうかとも思ったがそれでも狙いをつけにくい。

森に入るまでに何とか1匹だけでも、と思ったとたん狙っていた猿の姿が消えた。

その消えた場所まで走って俺たち4人もそこで止まる。


 「インビジブルモンキーは走ってる時は姿が見えるけどゆっくり動いてるときは保護色で見えなくなります、だからこの場所からは走ってじゃなく歩いてると思うので気をつけてください」


 ニルの言葉になるほどとうなずく。

インビジブルモンキーは魔の森の外縁部に住んでいる猿の魔物。

このあたりに住んでいるので力などは強くはないが今のような特殊能力を持っている。

ゆっくり移動してると魔力も手伝って肉眼ではほぼ見つけることはできない。

走るときだけ毛皮の保護色の変更が間に合わないのか視認することができるようになる。

死んだ後ですら魔力の残っているうちは保護色は継続するので死体を見つけることすら難しい。


 雨が降ってくる中周りを注意して見ながら森の奥に進む。

俺も『視界の転移』で探しながら歩いている。

5分ほどたったとき、30mほど先に枝に捕まるインビジブルモンキーが見えた。

また追いかけっこのようだ。


 森の中だが『ホワイトナイト』の3人の進行速度は驚くほど速い。

カインが先頭を走り木や岩などがあれば指示を出して後ろを走る2人が避けつつ走る。

2番目のニルは周りの他の危険な魔物などに注意を払いながらカインのすぐ後ろを走り体力回復のポーションを準備している。

最後尾のリモは遠目でインビジブルモンキーたちの大まかな動向を見てカインに指示を出している。

俺はそのさらに後ろからついて行っているだけだ。

「体力が持たなければ待っててください、帰りに助けに寄ります」

ニルにそう言われている。

正直自らの体力だけではついて行けない。

なので少し遅れたりしたときにこっそりと『転移』で追いついたりしているのだ。


 インビジブルモンキーも体力が多い方ではなさそうだ。

見えないという特性で逃げ回るのが基本なのだろう。

それでも森に住んでいるのだから人間に追いつかれるなんてことは普通はないはずだった。

それでも引き離せない俺たちに焦ったのか体力が無くなってきたのか消えている時間が多くなってきた。

雨はさらに強くなってきてより視界は悪くなる。

だがリモの観察力は凄く、インビジブルモンキー自身は見えなくても折れた枝や木を踏んだ跡などを頼りになんとなくいる方角がわかり追いかけ続けられるのだ。


 森に入って2時間がたった。

雨がかなりひどくなり数m先も見えなくなってきた。

さすがにこれ以上は無理そうだ。

最後に見かけた場所に4人で立ち止まる。


 「残念だけどこれ以上は無理そうですね」


 「あの女の子には申し訳ないですがこれ以上は私たちも危ないかもしれないですね。というより思った以上の雨ですでに危ないかもしれません」


 「あ、あげたものならまた作れるから大丈夫ですよ。そんなにたいした物じゃないですし。諦めて戻りましょうか」


 「そうだな、インビジブルモンキーが手に入るかもと思って深追いしすぎた。ちょっとまずいかもな」


 すでにシャワーを浴びているような雨が降っている。


 「どこかで雨宿りした方がいいかもしれませんね」


 リモの提案だがその雨宿りをする場所がない。

少し離れた斜面を泥水が濁流のように流れていく。

本気でまずいかもしれない。


 「少し待ってください」


 慌てて『視界の転移』で周りを見渡す。

今いる場所から10mほど先に大きな洞穴のような場所があった。


 「こっちに雨宿りできそうなところがあります、いきましょう!」


 なぜわかるのかの説明をするよりとにかく避難しなければまずいという状況で3人とも信じてくれた。

当然そこには洞穴はあり4人が中に入る。

かなり巨大な洞穴で入り口は縦横1mほどだが奥は広がっており高さも横幅も10m近いぐらいの大きさだ。

奥に何か魔物が潜んでいたら危ないのでカインと俺とで見に行くが奥行きは50mも無かった。

だが奥には動物の骨などがあったので何があるのかわからないが気をつけなければならない。


 「確かここの雨期って3~7日続くって言ってましたよね、この状況で7日は少しまずいですね」


 ニルの言葉にリモも頷く。


 「服が濡れて体力が落ちている上に食料は持ってませんからね。カイン様だけでも何とかならないかと」


 「いやいや、俺だけって、みんなで助かろうよ。ティルもいるんだからさ」


 「あっ、申し訳ありません、ティルさんは犠牲になっていいってことじゃないんです」


 この3人の関係性はなんとなくわかる。

おそらくカインは立場が上の人間で2人は従者みたいなものだと思う。

普段は対等な関係を築いているがこういう危機にはカインを助ける立場なのだろう。

俺は正直に言って危機は感じていなかった。

『転移』で帰ることはできる。

だがその魔法はまだ見せたくない。

カインがそれなりの地位にあるというのならよりそう思う。


 「こちらこそ申し訳ありません。たぶん俺があげたあのネックレスが魔物の物が素材なので魔力を帯びていたのでしょう。巻き込んでしまいました」


 「そんなのはいいって!ティルの責任じゃないし俺たちも正直に言うとインビジブルモンキーの毛皮が欲しいって欲もあった。過去のことより今の状態を何とかしなきゃな」


 「それはその通りです。責任を押しつけ合っても解決しませんし、ティルさんの責任だと思ってません」


 「そうですね、ここでティルさんに責任をなすりつけるようなら冒険者になってはいけないと思います」


 優しい言葉をかけてくれるが俺も含めて全員ずぶ濡れだ。

気温も下がるだろうから何とかしなくてはまずいのはわかる。

こういうとき、元の世界では全て俺のせいになった。

そうじゃないと言ってくれるだけで涙が出そうになる。


 服が濡れたままだとまずいのでとりあえず脱いで火をおこして乾かそう、という話になった。

火は魔法でおこせるが燃やすものがない。

洞穴は入り口に向かって下り坂になっているようで水が貯まりはしないが数日燃やせるようなものも落ちてなさそうだ。


 悩んだ。

3日なら何とか生き延びることぐらいはできるかもしれない。

だけど2度と魔の森で野営はしないと誓ったのだ。

ここで座り込んで雨がやむのを待つ。

それはあの頃を思い出して絶対に拒否したい。

この場を乗り切る方法は『転移』の他にももうひとつある。

『転移』がバレるのとどっちがいいのか判断はできないがそっちにすることに決めた。


 「あ、ちょっと待って、話があるんだけど」


 服を脱ごうとしている3人を止める。

こんな状況だからって解決策があるのに服を脱ぐのを待っているのは心苦しいと言うかだめだろう。


 「どうした?恥ずかしいとか言ってる場合じゃないぞ。服着てたら体温が下がってまずいからティルも脱げよ」


 「あ、嫌、その、この状況を改善する方法があります」


 「改善?何かできるのですか?」


 「マジックバッグ持ってることは知ってますよね?」


 「あ、おう、何かいいもの入ってるのか?火を燃やし続ける物とか食料ならありがたいが」


 「食料が少ないのでしたら少しでもカイン様に分けていただければ助かります」


 「なあ、リモ、だから俺はお前らを犠牲にしてまで助かる気はねえんだって」


 「だけどカイン様、今の状況は思っている以上に危険です」


 「ニル、だけどさ」


 「待ってください!皆さん大丈夫です。助かります。ただ1つだけ、誰にもこのことを言わないで欲しいだけなんです」


 「ん?あぁ、そんなことは当たり前だろ」


 「それで助かるのなら制約魔法で他言無用の制約をしてもいいです」


 そんな魔法があるのは初耳だがそこまではいい。

3人は信用できるししたいと思っている。


 「そこまではいいです、ただ準備をしたいので少しだけでいいです、洞穴から出てほしいです」


 「お、わかった。すぐでいいのか?」


 この土砂降りの中、3人とも洞穴から出る。

もちろん俺もだ。

そしてマジックバッグから例の『別荘』を洞穴の中に取り出した。

洞穴いっぱいに『別荘』は出現した。

感覚では奥行きは余裕があるが幅は洞穴より少し大きいので洞穴自体を広げてしまっていると思う。

『別荘』も洞穴も入り口は重なっていたのでちょうどいい、洞穴の入り口を広げずにすんだ。

別荘に再度4人で入る。

『ホワイトナイト』の3人は口を開けて驚いている。


 「何だ、これ」

 「こんなマジックバッグに入るの?」

 「なんっ、やっ・・・」


 女性たちの敬語が崩れるほど驚いてるのがわかった。

中に入って下の階に進み説明をする。

昔に比べるとかなり居住性はよくなっているのだ。





 

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