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5³㎤の転移無双  作者: 清白
第2章 冒険者

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第13話 冒険者の生活




 夜中のうちに村にいた他の村人も襲撃して縛り上げる。

村と言うよりは廃墟になった村を人身売買の組織が使っていたという感じだった。

商人と護衛たち、最初からこの村にいた者と合わせて全員で12名。

それらを縛り上げて馬車に乗せる。

奴隷を乗せるための馬車なのでもちろん乗り心地は最悪で広さも十分ではないだろうが自業自得といえるだろう。


 隷属の首輪をつけられた母娘と捕まっていた獣人のうちの1人が一緒に町に向かっている。

他の獣人3名は解放したことのお礼は言われたがこのまま町に行っても獣人が悪いことになりかねないこととそう遠く離れたところで捕まったわけではないことを理由に同行は断られた。

俺もこの国の制度を見てきてそうならないと言い切れはしなかったので3人は見かけなかったことにする。


 1人残ったのが狼の獣人のロウ。

銀色の髪で色黒、俺より年下っぽい男の子だ。

住んでいた村から半ば家出のように出たところ捕まったそうで住んでた村の場所もわからなければ行く当てもないということで同行することになった。


 村に戻ってギルドに直接行くわけにはいかない。

ギルドと組んではいるのだろうがどこまでが敵なのかわからないのだ。

村から少し離れたところで待機し、キャロを通して副ギルド長に話を通してもらう。

キャロは驚いて申し訳ないと謝ってくれたが元々は俺のためにしてくれたことだし特に責める気はない。

初めて会った副ギルド長は柔らかな物腰のいかにも仕事のできる感じの男性だったが詳しく事情を話すと険しい顔になった。


 「うちのギルドが申し訳ない、ティル君のことは話には聞いていたがここまで直接的に動くと思っていなかった。彼らを引き渡してもらえればできる限りのことはするがギルド内ではギルド長派の力が強すぎるのだ。どこまでできるかは確約ができない」


 ギルド長まで罪を及ばせるのは難しいだろうということ。

捕まえた者たちは隷属の首輪の不正使用で罰を与えることはできる。

ギルドとどこまで組んでいたのかの解明が難航しそうだということ。


 自分で尋問して事実を吐き出させても俺の訴えを信じてくれる人がいなければ意味はない。

もちろんこの国でのそういう戦い方などわからない。

このままギルド長におとしいれられて全てを俺のせいにされる、そんな危険もまだあるのだが副ギルド長にどんなことをしてでもそれはさせないと言ってくれたのでそれは信用する。

そんなことに気を遣うよりも自分のことを考えようと言うことで商人たちを引き渡して俺としてはことは終わったことにした。


 母娘は住んでいた村にはもう帰るところはない。

商人の財産から騙し取られた分とそれなりの慰謝料としての金額を受け取ったが今さら店舗を買い戻しても元々が母娘でたち行かなくなってたのだからそこに戻っても先はない。

何より首には隷属の首輪が残ったままだ。


 そういうことで母娘は俺の家で働くことになった。

食堂をしていただけあって料理はできるし家の中のこともできる。

母親の方は他のことも手伝うと言ってくれたが俺としては料理をメインにしてくれた方が助かる。

俺の家にいれば隷属の首輪のことも気にしなくてもいいだろう。

そう提案をしてみると是非お願いしますと言われた。

犯罪奴隷になった立場で普通の働き口などないし現実は俺の奴隷という立場なので普通に生きていけるだけでありがたいそうだ。

庭にある使用人用の家に母娘で住んでもらうことにした。


 ロウは孤児院に預けることも考えたが本人がもうそんな年齢ではないと自立したがっている。

追い出されても森の中で狩りをしながら生きていくことぐらいはできるそうだ。

元々そういう種族らしい。

だけどそれは村にいるときの暮らしとそう変わらないのでできれば町で暮らしたい。

戦闘ができるということで町に向かう途中で少し立ち会ってみたがそれなりに戦える。

対人より狩りの方が得意らしいが魔法無しだと俺よりもかなり強い。

少なくとも自分の身は守れるのならと家の警備、特に母娘の護衛に雇うことにした。


 3人は地下の解体に驚いていたがすぐに慣れ、それぞれの仕事を果たしてくれている。

母親の方はマリン、娘はリゼという名で娘までは働かなくてもいいと言ってるのだが家の中を掃除してくれたりしている。

マリンさんはさすがに食堂をしていただけあって料理が上手い。

できるだけ早く奴隷から解放してやりたいがその後も働いて欲しいぐらいだ。


 この事件から1ヶ月がたち、例の商人たちは隷属の首輪の不正使用と誘拐で処罰され、ギルド長の娘も解雇になった。

副ギルド長がかなり頑張ってくれたようだ。

ギルド長までの責任は問えなかったがギルドの上の方からも圧力がかかったようで娘をかばうには証拠がそろいすぎていたらしい。

そこであっさり娘を切るところが今まで悪事を働いても逃げ延びてきた手腕だろうか?

娘のメサイアはギルドをやめることになって俺たちに腹は立てているだろうが生活に問題はない。

ギルド長の伝手で何かしらの仕事はできるだろうしギルド長を長年続けているのだから町の中でもお金持ちの部類だ。

人を陥れる計画を立ててた割に甘い判決と言っていいと思う。

ただ1つ良かったことはギルドの内部がギルド長派ばかりだったことが問題視され、何人かが新しく入れ替わって過ごしやすくなったことだろう。


 こうして少しはマシな日常に戻り毎日依頼を受けている。

ちなみに俺はCランクに上がった。

モースとランケルも一緒にだ。

依頼ではなかったが悪質な奴隷商人を捕まえたこと、あとギルドの中に共謀者がいたことの口止めの意味合いもあると副ギルド長に教えられた。

要するにこれ以上この件で騒ぎ立てるなと言うことだ。


 目標のBランクまであと1つだがなるべく早く解決したい目標もできた。

もちろんマリンさんとリゼの犯罪奴隷からの解雇だ。

貴族に頼む以外の方法を探すのだが町の図書館やギルドで資料などを読んでも解決方法はヒントすら得られない。

王都で大きな図書館にでも行こうかと考えている。


 他にも話が進んだことはある。

親方に紹介してもらった武器や武具の加工屋に会った。

ドラゴンの素材の武器や防具を作れるという時点で探すのが難しいのだが親方に紹介してもらった人物は思った以上に気が合った。

何でも元は国のお抱えの加工屋だったのが貴族と揉めてやめたそうだ。

ドノバンというずんぐりむっくりの小さな男で一緒に貴族から逃げてきた4人とともに今はスラム街でこっそりと隠れて過ごしている。

お金はまだ蓄えがあるそうだが仕事がしたくて仕方がないというときに声をかけたのでドノバンも最初から乗り気だったことも大きいだろう。

もちろん貴族に喧嘩を売るような人だから俺のことが気に入らなければ話は流れていたと思う。


 まず最初に作ってもらうことにしたのはドラゴンの皮膜を使った軽量の防具だ。

何よりも戦闘になったときの基本の防御力の低さが気になっていたからだ。

ドノバンの見立てではかなり高性能の物ができると太鼓判を押してくれたので期待して待つことにする。


 加工するには加工場が必要ということで屋敷の地下の4分の1ほどを衝立で囲い加工場にした。

ドノバンたちにとっては揉めた貴族から隠れることもできるので喜んでくれた。

あまり町に出たくないというので住居として庭の家を提供した。

仮にも男5人で住むので1人1部屋のほうがいいかと思ったのだが5人で1部屋でもいいぐらいだと言う。

さすがにそれは、ということで5人で家族で住む用の家に住むことになった。

庭の家から屋敷の地下に通うだけなら貴族に見つかることはほぼないだろう。


 それでも同じ家でいいのかと心配したのだが5人全員がほとんど仕事場にこもり寝るのも仕事場で、食事は1階に来るがそれも忘れているようなことも多いという生活だった。

家に帰るのは行き詰まって気分転換したいときや一段落ついてまとめて寝たいときぐらいで5人で1部屋でもそう変わらなかったのではないかと思われる。

休憩を取ってくれと言ってもドラゴンの素材を手にして休憩時間がもったいない、素材から離れる方が落ち着かないと反論されたらどうしようもない。

ブラック企業にはしたくないのだがせめてもの福利厚生としてマリンさんに食事を時々差し入れしてもらおう。

体力回復のポーションも考えたのだがそんな物を与えるとさらに睡眠時間を削りそうなのでやめておいた。


 ドノバンたち5人の中に1人異質な人物がいる。

ベンという人族だ。

他の4人が武器や防具の加工を得意としているのに対してベンは様々な道具を作ることを得意としていた。

ドラゴンの素材を加工するための道具を最初に作ったのはベンだし、解体場のみんなのドラゴンの解体道具をさらに磨き上げて使いやすくして解体場のみんなが歓声を上げたのもベンの仕業だ。


 そのベンにいくつかのアイデアを話したところできそうだと興味を持ってくれたのがいくつかあった。

特に複数の魔石を使う道具のバランスを取ったり組み込んだりするのが抜群に上手だった。

水の魔石と火の魔石を組み合わせてホースや細かい穴を開けた出口を作ってできたシャワー。

転移の魔石と水の魔石を組み込んで作った風呂場やトイレなどの排水システム。

トイレではさらに水の魔石と風の魔石を使って細いノズルまで作ってもらったウォシュレット。

色々と試行錯誤してくれている。


 魔石を使う物だけではなく子供たちのためにブランコや鉄棒を提案してみるとその日にできあがった。

トランプなどを作りたいが素材となるプラスチックがないので試行錯誤して色々作っている。


 俺もベンに簡単な加工を教わってドラゴンの爪で孤児院の子供たちにお守りのような物を作った。

お守りと言っても解体工具を作ったときに出たドラゴンの爪の欠片をいびつながら楕円形にしたものでパッと見ただけではドラゴンの爪とはわからない。

だけどこの先いざという時があればわかるところで売れば数ヶ月は食いつなげるだろうということでだ。

もちろんそのときに売れるようなわかってくれる店があるかどうかはわからないが持っていて損はないだろう。


 「ドラゴンのアクセサリーをまさか孤児院の子供が持ってるとは思わないでしょうね」


 ベンは笑いながらそう言った。

しかも素人の手作り感満載なのだ、さすがにもう少し技術を身につけてから作った方がいいかとも思ったがベンにまた言われた。


 「あまりできがよすぎると目を引いて他人に奪われるからその方がいいんじゃないですか?」


 その言葉でそのまま渡すことにする。

ドラゴン製の製品には魔力が残っているのでこんな小さな欠片でも少しは魔力回復効果があるかもしれないとのことだ。


 こうしてドノバンたちに加工を任せていたのだが1つだけ予定外だったことがある。

何度かの作り直しを終えてウォシュレットが出来上がったというので製品をもらったのだ。

これで『別荘』がさらに快適になると嬉しくて屋敷で見ているとさっそく使ってみたくなった。

取り付けてみようと『転移』をしたところリゼに見つかったのだ。


「見た?」


 そう聞いてみると頷いた。

少し悩んだがもちろん俺が周りを見ずに『転移』を使ったのが悪いのと下手にごまかすより本当のことを言って黙っててもらった方がいいかなと判断した。


 「俺の特殊魔法なんだよ。あまり人に知られたくないからできれば内緒にしておいてほしいんだけどいいかな?」


 そう言ってみるとリゼは笑って言った。


  「命令したらいいのに」


 自分が奴隷になっていることをわかっているのだろう。

そんな言葉が出ることがかわいそうでなるべく早く解放してやりたいと改めて思う。


 「リゼもママも奴隷じゃないから絶対に命令はしないよ。できるだけ早く解放してあげるからね」


 頭をなでながら言ってやるとさらに笑った。

どうせばれたのなら連れて行ってもいいか、という思いと俺にとっては快適だけどこの世界の人にとってはどうなんだろう?という思いでリゼを『別荘』に連れて行ってみた。


 さすが屋敷の家事を手伝ってくれてるだけはあり色々と興味を持ったみたいだ。

ただ家電には魔石が使われてることを知り便利さより高価さに遠慮している気がする。

気にしないで使えるようにたまに連れてきてもいいかもしれない。

リゼはそれよりも本にも興味を持っていた。

本はこの世界ではそれなりに高価な物なので目にするのは少ないかもしれない。

まだ簡単な単語ぐらいしかわからないようだが挿絵を見ながら楽しそうにページをめくっている。

読んでいる最中にホットチョコレートを入れてあげた時が1番幸せそうな顔をしていたのはやはり子供だからだろうがそれが自然でかわいいと思う。


 その後もリゼをたまに『別荘』に連れてきた。

最初の緊張は消えたようで新しい道具が増えると使い方を知りたがるし好奇心は旺盛のようで部屋の道具は一通り使えるようになっていた。

さらに挿絵と簡単な単語だけでは物足りないのか文字や計算も覚えたがった。

笑顔も増えて楽しそうにしていると俺も幸せな気分になる。

父親になったらこういう気持ちなのかな、などと想像したが実際には1つ下なだけなのだ。


 そんな生活を過ごして思った以上に毎日が充実している。

ベンの道具は発想とバランスが大切なので思ったより早く色々と出来上がるがドノバンたちの武器や防具はそうそう簡単に出来上がるものではない。

それでも試作品もできてくるし新しいアイデアも出てきて話し合う。

鱗で作る盾、骨で作る剣、健を使った弓、など色々と話しているだけで楽しいものだ。


 そんな毎日だが最近はもうすぐ来るであろう雨季への対策に周りもバタバタし始めた。

ここの町に来たときにも聞いたがこの辺りは雨季の雨の量が凄いらしい。

だいたいの期間はわかっているが正確にはわからず毎年3~7日は外に出られないような雨が続くらしい。

なのでそろそろだと思うと皆食料を買い込み家にこもる準備をするのだ。


 自分の家はさすがに元貴族が住んでいただけあって地下にも水は流れてこないようになっている。

食料もマジックバッグに入れておけば腐ることもないのでそこまで焦らなくてもいい。

長ければ1週間は外に出られない日々が続くのでその前に1度みんなで集まって騒ごうかという話になっていてバーベキューが予定されている。

孤児院の子供たちだけでなくギルドの解体場の大人たちもお酒を飲む口実ができて楽しみにしているようだ。

口実がなくても毎日飲んでいるのは知っているがこういうのはまた別らしい。

俺もあまり気を遣わなくていい人たちとのバーベキューは楽しいのでその気持ちはわかるようにはなってきているつもりだ。

もっとも貴族から隠れているドノバンたちは参加はするが庭には出てこないで屋敷の中で楽しむそうだ。


 ここにミリアがいたらもっと楽しいだろうな、と思いながらも冷やかされ続けそうな気もする。

ここのみんなにミリアがいてミー姉がいてベイルにリン。

皆に会いたいと思うがまだまだ一人前にもなっていない。

どうやらそんなことを考えていたら食事の手が止まっていたようでマリンさんに「大丈夫ですか?」と心配された。

「大丈夫大丈夫」と答えマリンさんの横でご飯を食べているリゼにバーベキューで食べたいものがあるか聞く。

美味しいお肉だとのことなので一緒に串に刺して準備をする約束をした。


 早くふたりの隷属の首輪も外してやりたい。

やりたいことはいっぱいだがひとつずつこなしていくことにしよう。




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