第12話 商人の護衛依頼
2日後、出発地点で待ち合わせをして商人から予定に少し変更があったことを知らされた。
変更になったのはまずは馬車。
馬は餌に細かな魔石を混ぜて与え力や体力を強くさせた特別製が2頭。
1度に大量の荷物を運べるのとスピードも速くなる。
引いている荷車も大きく6畳ほどの広さがある。
この特別製の馬は魔石を混ぜる量や期間の問題もあり気性が荒くなりやすく寿命を縮めることもあって1頭育てるのにかなりの金額がかかる。
それにより大きな商会でしか使われていないと聞く。
だがこの馬なら2泊3日の道程が1泊2日になるという。
もう1つの変更がそれで浮いた1日を使って少し寄り道するということだった。
バラッドの町を出て半日ほど行ってから街道を外れ、近くの村に1泊で仕入れに行く予定になった。
そこで仕入れる品物のために引いている荷台も大きくしたという。
街道から外れることにより魔物や山賊などに襲われるリスクは上がるがそれぐらいで依頼を受けるのをやめるほどではない。
街道から少々離れたぐらいではそこまで強い魔物が出る確率も少ないということもある。
何よりすでに出発当日だし少々の変更はあると聞いていたのだ。
俺たちはその変更を受け入れ、馬車に乗り込んだ。
馬車の中には商人以外にモースとランケルに劣らないほどの筋骨隆々の男が2人乗っていた。
直属の護衛だという。
2人とも毛髪はなく1人は背が高くてもう1人は低い。
かなり強そうでこの2人がいたら俺たちはいらないのではないかと思うが「2人よりは5人いた方が安全でしょう」との言葉に納得はする。
それと御者の1人、この7人が王都行きのメンバーだ。
馬車が出発する。
簡単な自己紹介などもなくモースとランケルの3人で荷台の隅にかたまっていた。
商人自身は獣人に対して拒否感はないが護衛の2人にはあるのかもしれない、あまりこちらと関わる気はなさそうだ。
それならそれでこちらもそのつもりでいたらいい。
魔物が現れた場合、山賊が現れた場合、一通りの対策を確認し合って時間を潰していた。
出発は朝だった。
そしてまだ太陽も昇りきらないうちに馬車は街道から外れた。
護衛が馬車の外に行き何やら作業をした後に方向を変えたようだ。
「道に障害物があった」との報告を商人から受けたが視界を『転移』したところ障害物というよりは草や岩で道を隠していた感じがする。
何より通った後その草や岩を戻していたのがその証拠だ。
モースとランケルはその作業を手伝うと言ったがこんなところで力を使わないで欲しいと拒否され、逆に働かなくて悪い気がするといった面持ちだ。
少し警戒した方がいいのかと考えながらそこから2時間ほど馬車に揺られ細くなる道を進みその町に着いた。
細い割にずっと馬車が通れる幅はある、慣れているのか心配するそぶりもなく馬車は進んだ。
その村はかなり小さな村で家も10軒ほどしかない。
その中に1つだけ2階建ての大きめの家がある、村長の家だろうか。
村全体でも数十人がすんでいるだけだろう、こういう村は珍しくはない。
馬車が入ると1人の老人が女性を伴ってやってきた。
知り合いなのだろう、商人と話を始める。
ついたのだからいつまでも馬車に乗っていることもない、馬車から降りるとその女性がやってきた。
30代ほどだろうか、柔らかな笑みを浮かべて話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。お疲れ様です」
「あ、どういたしまして。商人さんとは今回初めての仕事でしてこの村で仕入れをすること以外は何もわかってないのです。商人さんはこの村によく来られるのですか?」
「そうですね、こんな小さな村にまで立ち寄って売り買いしてくださる貴重な方でありがたく思っています、あ、こちらをどうぞ、
スピードが出る馬車は疲れるでしょう?」
そう言いながら持っていた水筒から木でできたコップに水を注ぎ俺たち3人に渡してくれた。
コップを受け取り水を飲み干す。
確かに振動で普段と違う疲れを感じてはいたのだ。
少し話が終わるまで待っていて欲しいと言われたのでその場に座り込む。
この村での護衛の準備も考えなければいけない、村での護衛と馬車での護衛はまた別なのだ。
向かいに座ったモースがあくびをしている。
馬車の揺れのせいもあったのか俺も眠たい、自分があくびをしたのはわかった。
ミリアがいた。
俺を抱きしめて横で眠っている。
幸せの時間だ。
だが何か違う、何だろう?
いつもの柔らかい感触がないのだ。
そういえばお酒の匂いもない。
変な意味じゃない、確認のために柔らかいものを触ってみよう、そう思うが手が動かない。
何か変だ・・・
ふと目覚めると目の前にはランケルの顔があった。
手足を縛られ地面に寝転がらせられている。
解かないと、と思ったが手が出ない、自分を見ると俺も同じ格好だった。
両手両足がそれぞれロープで縛られている。
どういうことだ?
『消去』でロープを切ることはたやすいが何が起こっているのかわからない。
周りを見ると三方は壁、残りの一方にドアがあるが閉まっている。
閉じ込められているのだろうか?
危険があればいつでもロープを切り『転移』で逃げ出せるように意識を保ちながら周囲を探る。
薄暗いところから地下だと仮定し、視覚を上方へ『転移』して探る。
正解だったようで5mほど上に商人たちがいるのが見えた。
その部屋にいるのは商人と先ほどの老人、そしてその前で足を縛られて床に座っている女性。
女性は人族で年齢は30を過ぎた頃だろうか、薄い茶色の長めの髪で美人なのだろうが痩せ型であまり綺麗ではないワンピースのようなものを身につけているだけ、生活状況がよくなかったように見える。
その女性に老人が魔石を近付けた。
「どうする?犯罪奴隷になるということでいいか?」
魔石を握りながら女性に問う。
どうやら魔石は隷属の首輪のようだ。
初めて見るが1㎝程度の大きさで色っぽい以外に変わったところはない、色が隷属の首輪の魔石だということだろうか?
その女性が震えながら頭を差し出した。
老人が魔石を女性の首に当てて呪文とともに魔力を流した。
その瞬間に魔石が溶けるように首に吸い込まれ首に刺青のように黒に染まる。
これで彼女は犯罪奴隷になった。
商人がさらに首に魔力を流したのは所有権のためだろう、そうしてからロープを切り女性の足が自由になる。
「これで、これで娘だけは許してもらえるんですよね?」
女性の言葉に娘がさらわれでもして脅されていたことがわかった。
その言葉に商人と老人はニヤニヤしている。
「おい、いいぞ!」
商人の言葉にドアが開き、女性と同じ髪の色をした10歳にもなっていないだろう少女と先ほど俺たちに水を飲ませた女性が入ってきた。
そしてその少女の首には黒い刺青のような跡が入っていた。
「いやぁっっ!!な、何で、私が犯罪奴隷になったら娘は許してくれるって言ったじゃないですか!」
「あぁ?母親が犯罪奴隷になって娘を1人だけ放り出したらかわいそうだろうが?生きていくこともできないなら奴隷になった方がましだろ?」
「そんな、約束が違う、私が借金奴隷じゃなくて犯罪奴隷になれば娘は奴隷にせずに解放して生活の面倒は見てくれると・・・」
「そう思ったんだがなぁ、子供の犯罪奴隷は数が少ないんだ。そういう趣味の変態貴族に高く売れるんだよ。お前より価値があるんだぞ?解放するなんてもったいないじゃないか」
「そ、そんなこと・・・お願いします、私は何でもしますから娘だけは許してください!」
「ははっ、馬鹿だな、お前は。お前がどんなに頑張っても娘よりは安いんだよ。娘よりは安いがせめてお前も少しでも高く売られてくれよ」
「せ、せめて娘と同じ人に・・・」
「知らねえよ、娘は裏の特別ルートで売るからな。お前はオークション行きだ。同じ人間に買われることはまあないだろうよ」
涙ぐんで立ったまま動けない娘を見る母親。
怒りの表情で立ち上がり老人に襲いかかる。
だがその瞬間老人が声をあげる。
「止まれ!」
その言葉と同時に母親の足は止まる。
「跪け」
その言葉で母親は跪く。
言いなりになるしかないのだ、犯罪奴隷のひどさを知る。
だがこのままでいいわけがない、なんとかして助けてやりたい。
「これで2匹、あとは獣人4匹か。今回はすくなかったな。地下の獣人2匹とガキ1匹を合わせて全部で9匹、Dランクの人数合わせだが数の内だろう。ギルドとは話がついてるんだろう?」
「ギルドでは消息不明になる予定です。私たちは王都へ向かう途中に魔物に襲われた。あの3人は逃げ出して森に逃げていったところまでは見た、となる予定です。逃げるような奴らを推薦したギルドの担当も獣人になってるので大丈夫です」
老人の言葉に商人が答える。
言葉の意味がすぐにわからなかったが俺たちはギルドに売られたようだ。
キャロははめられたのだろう。
「獣人は後でいいか、子供は先に少し躾けてやれ、この先お前らは犯罪奴隷になることを心に刻み込んでやれ」
「わかってます、その方が犯罪奴隷にしやすいんでしょう。死ぬ前に納得してほしいですね、死んだら売れません」
ニヤリと2人で笑う。
「今回の獣人狩りは不調だったな、使い潰す用の犯罪奴隷が欲しいと言ってる貴族はいくらでもいるんだ、もう獣人は全員奴隷にしてやればいいのにな」
「それだと獣人狩りもなくなりますし私たちの商売も成り立ちませんよ」
「それはこまるな。俺たちにだけ獣人を犯罪奴隷にする権利があればというところだな」
「犯罪奴隷にする権利はあっても私たちだけではないですからね、町中で獣人を見ると金に見えてさっさと捕まえてやりたくなりますよ」
最低な会話を聞いた。
こいつらは人間を捕まえて犯罪奴隷に堕としている奴隷商人だ。
人族相手でも無理矢理犯罪奴隷にしているようだ。
どう対応するのが1番いいのか考えるがそうそううまい考えは浮かばない。
どうやらギルドもグルなのだ、ここで殺して終わりではだめだろう。
考えがまとまらないうちに老人が母娘に奴隷の部屋に行けと命令し、少女を連れてきた女性に新しい魔石を3つ用意させた、隷属の首輪の魔石だろう。
この後おそらくここに来る。
急いで視界を移動させ、ほかの部屋を見る。
さっきの部屋には商人と老人、母娘と娘を連れてきた女。
その隣の部屋には直属の護衛だと言われてた男が2人。
村長のような老人が商人と繋がっていたのだ、この村の他の人間も敵だと思っていいだろう。
さて、どうする?
一応意見を聞きたくてランケルとモースを起こそうと小さな声で呼びかけてみるが一切起きる気配はないので俺の判断で動くしかない。
商人と老人を倒すことはたやすい。
来た瞬間に殺すこともできるだろう。
いや、ここにいたまま護衛も込みで『消去』で首をはねることさえできる。
犯罪奴隷にされそうになってるのだ、相手がこっちをそういう扱いするのなら殺されても文句はないだろう。
でも、まぁ殺すのは最終手段でいいだろう。
こっちの身が危なければそうしてもいいが今の時点では余裕があるしギルドとの関係など聞きたいこともある。
さっきの母娘も無理矢理された犯罪奴隷から解放してやりたい。
何か話が聞けるかと思いそのまま転がされた状態で視界だけを部屋を見渡せるように移動させる。
ドアが開いて入ってきたのは護衛の2人だった。
背の低い1人が近くに来て俺たちを見下ろし入り口の背の高い方に合図を送る。
「大丈夫ですよ、まだ寝てます」
高い方が部屋の外に声をかけた。
その声とともに老人が入ってくる。
「ないとは思うが一応確認せんとな、魔力が多いと睡眠魔法の効きが浅いこともあるからな」
「大丈夫です、転がしたときのままでロープをはずそうとした形跡もありません」
「おぅ、わかった。ただのガキってことだな。そんじゃあ起こして奴隷にするか」
「わざわざ起こさなくてもこのまま魔石を当てて犯罪奴隷にしたらダメなんですかい?」
「ん?知らねえのか?それだと上手くいかねえんだよ。意識を失ってるときの身体の魔力の流れがどうとかって話を聞いたことあるが首輪が刺青になる確率が下がるんだ。あとは犯罪奴隷になることを認めさせることも大事だな、教会の上の方の奴らなら関係なくできるがワシぐらいなら本人が抵抗してたら失敗する場合もあるんだよ。隷属の首輪も安いもんじゃないからな。起こして痛めつけてでも納得させた方が確実だし安くすむんだよ」
「なるほどねえ、そんじゃまあ、起こすとしますか。痛めつけられて死ぬ前にさっさと納得してくれたら楽なんですがね」
「そういう割には痛めつけるのが嬉しそうじゃねえか。死んだら金にならねえんだ、やり過ぎるなよ。じゃあ打ち合わせ通りの理由でな。ほら」
老人が小さな瓶に入った液体を背の高い方に渡す。
高い方はそばに来てその瓶を開け俺の口に入れた。
話の流れによるとたぶん睡眠の魔法から目覚めさせる道具だとは思うが確信はないので一応口の中に入ってくる液体を屋敷の外まで転移させておく。
「さっさと起きろよ」
そう言いながら腹を蹴られた。
即効性があるのか?
バレたらそのときのことだ、もう少し話を聞きたいので今起きた演技をする。
「おい、いつまで寝てんだ?護衛の仕事はどうした?お前が寝てる間に何が起こったか知ってんのか?」
「す、すいません、これはどういうことでしょう?」
「寝てるからわかんねえんだよ!お前が寝てる間に村が襲われて奴隷にするはずの3人が逃げてったんだよ。損害金払えんのか?」
「すいません、何が何だか」
どうやら俺たちのせいで奴隷3人に逃げられた、損害賠償のために俺たち3人に代わりの奴隷になれというストーリーだと推測する。
「さすがにそれで犯罪奴隷になれというのはひどくないですか?犯罪奴隷になったらどうやって解放されるんですか?」
「知らねえよ、犯罪奴隷逃がしたお前らの責任だろ?」
どうやら話が進まないようだ。
先ほどの母娘を解放してやりたくて犯罪奴隷の解放方法を聞きたかったのだが教えてくれる気はないらしい。
そこで老人が口を出す。
「あ~、もういい、なるって言うまで身体に教えてやれ。そのガキを奴隷にしたら残りの2匹はお前らが犯罪奴隷になるならガキは許してやるってことにしたらいい」
母娘にやったことと同じようにするのだろう。
それでまず弱そうな俺だけを起こしたのだ。
老人が魔石を握っている。
「死ぬ前に奴隷になった方が楽だぞ」
そう言って背の高い方の肩をポン叩く。
後は任せた、といったところだろう。
その瞬間高い方は床に倒れた。
高い方のかかとの健あたりを薄く消去して切断してやったのだ。
軽く肩を叩いただけで倒れ込む高い方に驚いた老人は「どうした?」などとわめいている。
その間に手足のロープを切断して立ち上がる。
「お前か?ガキが、何をした!?」
うずくまって足を押さえながらもそう叫び立ち上がろうとする高い方。
仕方がないのでもう片方の健も切る。
再び崩れ落ちる高い方を見て老人は逃げ出そうとドアに向かう。
もちろんそんなことを許してやるわけがない。
老人の片足の健も切り倒れたところを助けに向かおうとした低い方の足の健も切る。
この世界の医療技術は詳しくは知らないので元に戻るのかはわからない。
だが無理矢理犯罪奴隷に落とそうとしたのだからそれぐらい受け止めてもらおう。
それでも抵抗しようとする護衛2人と這って逃げようとする老人。
「死ぬ前に抵抗やめた方が楽だぞ、次は首だ」
さっきのお返しの一言で3人はおとなしくなった。
モースとランケルのロープを解く。
そのロープで護衛2人の手足を縛る。
俺が切った自分のロープの中から長いものを選び老人は手だけを縛った。
老人のポケットからさっきと同じ液体の入ったおそらく睡眠魔法を解除する瓶を見つけた。
それでまだ寝ている2人を起こすか悩んだがさすがに自分は飲みたくなくて捨てた物を2人に飲ませるのは気が引けたのでやめておいた。
縛って転がしてすぐには動けないし逃げることもできないだろうことを確認して部屋を出た。
やはり地下のようで階段がある。
片足を引きずる老人を連れて階段を上っていきドアを開けると商人がソファに座ってその横に女性が立っていた。
「早かったな、すぐ諦めたのか?少しは根性見せないと弱すぎる奴隷は安くなるからな」
そう言った商人の横に立つ女性が驚きの声を上げる。
「あっ!こいつまだ首輪してませんっ!」
「はっ!?何っ!?」
「あと2人なら下で転がってますけど同じように扱ってほしいですか?」
商人はともかく女性を痛めつけるのはなんとなく申し訳ない気分になる。
もっとも刃向かうのなら遠慮するつもりはなかったが。
お互いに視線を合わせ、老人が足から血を流してるのを見る2人。
逃げるか戦うか、どちらにも対応できるようにはしていたが思ったより商人は諦めが早かった。
「ふぅ、いや、逆らうのはやめておこう。あの2人がかなわんかったのなら私ではどうしようもない」
こうしてこの場を制圧した。
まずは2人を起こそうとしたのだが魔法で眠らせているので何もしなければ10時間は起きないという。
先ほどの瓶の液体はやはり睡眠の魔法を解除するものだそうで一応商人と老人に飲ませてから2人に使うことにした。
起きた2人に状況を説明する。
依頼自体が嘘だったことにガッカリするが今はそれが問題ではない。
下に転がしてる護衛2人をモースとランケルが抱えて1階に上り話し合うことになった。
俺の前に商人、老人、女性を並べて座らせその後ろに護衛の2人を縛ったまま座らせる。
さらに後ろのドアの前にモースが逃げないように見張りに立ち、部屋の隅には先ほどの母娘と母娘を守るようにランケルが立っている。
護衛の2人を縛ったままにしておくのはどうにかして母娘に飛びかかったりしたら危害を加えることができるかもしれないということでだ。
「じゃあまずは現状を。依頼主の商人はギルドと結託して僕たちを犯罪奴隷に落とそうとした、そこの母娘も騙して犯罪奴隷にした、他にも捕まえてる獣人がいる。そこの村長と女性も共犯、これでいいですか?」
「なっ、なんでそこまで・・・」
『視界の転移』で見たことは内緒だがここでダラダラ話をするのはよくない。
他に捕らえている獣人がいるということは他にも仲間がいるということだ。
「他の仲間を先に捕らえてもいいですけど確保しておくのがめんどくさいので数人以外は動かなくしないといけないですね。もしそのお仲間が助けに来るのを期待してるのならそうしますけど?ちなみにあなたは動かなくなる方の人になることになります。この護衛2人は相手にもなりせんでしたけどそれより強くて救助の可能性があるのならそっちに賭けてもいいですよ。今誰かか飛び込んできてあなたたちを助けようとするなら問答無用であなたたちを処分します。僕がそれをできることはわかりますよね」
ゆっくりと諭すように話す。
よほどのことがない限り殺すつもりはないがここで躊躇してモースやランケル、母娘にも犠牲が出たりしたら後で後悔するのはわかっている。
もちろん殺人なんてしたことはないからそうなるかもしれないというだけで実際自分でもビビっているのがわかる。
もちろんできるだけ表には出さない。
「あぁ、ちなみに今この家の周りとかにあなたたちの仲間はいますか?言いたくないなら別にいいですが異常を感じてここに入ってきたりしたらまずあなたたちを攻撃することになりますよ。目的もわからないんだ、様子を見に来てドアを開けただけでも攻撃します」
それで商人が答えた。
連絡係が2人表にいる。
全員を犯罪奴隷にしたらその後のことを任せる人間だ。
問題なく全員を犯罪奴隷にすることができればひとまとめにして明日の朝にでも出発する予定になっていた。
老人が女性に指示してまだ時間がかかりそうだから今日は帰っていいと伝えてもらう。
たまにそういうこともあるので疑われることは少ないとのこと。
母娘と俺は簡単に落とせるから今日は早いかもと予想されていたようでその予想が外れたぐらいには思うかもしれないそうだ。
不審がられて助けに来たら攻撃するだけなのでそこまで気にしても仕方がない。
一応女性がその説明をするとき『視界の転移』で見ていたが怪しいところはなかった。
話し合い、というか商人たちの思惑を聞いた。
商人は強引にでもつれてきた獣人をメインに犯罪奴隷に落として稼いでいる。
老人は元神官で犯罪奴隷にする呪文を使え商人と組んでいる。
この村は元々は廃村で無理矢理犯罪奴隷にするための拠点みたいなもの。
女や外にいる者たち、下で転がっている護衛もこいつらの部下だ。
狙う相手は旅の馬車や小さな村から少数で出てくる獣人たちを山賊を装って襲ったり少しの借金を返せないほどにまで増やしその対価として奴隷に落としたりと様々な方法はある。
例えばここにいる母娘は食堂を経営していた父親が徴兵され戦争で亡くなったので困窮し、生活のためにお金を借りた。
何とか食堂を続けるも父親が戦争で行方不明になったことを知る。
戦争での行方不明はほぼ戦死者で死体が手元にないだけのこと。
客が減り借金を返せなくなったので店を売ることを決意するが思った以上の安値でしか売れない。
母親が借金奴隷になるだけでは返すのに時間がかかりすぎるということで娘共々借金奴隷にという話になる。
決まった頃には2人でもいつ返せるかわからない金額になっており娘を助けたいなら母に犯罪奴隷になれば娘は許すと持ちかける。
娘にはこのままでは数十年借金奴隷のままだ、娘が犯罪奴隷になれば母親は解放し娘も貴族などの金持ちのところで過ごさせてやると持ちかける。
こうしてお互いがお互いのことを思い2人とも犯罪奴隷になったのだ。
こういう事例はいくらでもある。
だから許せるかと言ったら別の話だ。
母娘は話を聞いてうつむいたまま涙を流している。
「どこまでお前が関係してるんだ?」
そう商人に問う。
「どこまで、とは?」
「簡単に聞いた話だけでも不自然なところが多い。相場より低い店舗の価格、不自然なほど増える借金の額。2人を騙して犯罪奴隷に落としただけとは思えないんだけど?」
腹が立って敬語じゃなくなってきてる。
第一こいつらに敬語を使う価値はないんじゃないか?
「そ、それは・・・」
「うん、まあ、証拠もいらないけど今の状況わかってるよね。表向きがどうあれ俺を納得させない限り取り繕っても無駄だよ。えっと、娘の方が高く売れる、だっけ?騙して犯罪奴隷に落とした相手に言うことじゃないよね。すでに売る相手の心当たりはあるってわけだ」
「は、はい。そ、それは」
どう乗り切るか考えているのだろうがこの母娘を助けることは決めている。
少なくとも騙して契約したのには違いない。
「まさか父親が徴兵されたことや行方不明になったことにも関係してたりするのかな?」
「そっ、それは、その、ぐ、偶然というか」
商人の額から血が垂れる。
その血が目に入ったところで自分でも気付いたようだ。
そんな格好はしなくてもいいのだがその傷に向かって俺は指をさす。
その行動によって額から血が流れたように。
これで商人は完全に陥落した。
徴兵は偶然だが母娘だけになった家族はちょうどいい狙い目になるようだ。
戦死した後遺体が戻れば国から少しの報奨金は出るのだが行方不明ではでない、逃亡を防ぐためだというができるだけ金を出したくないというのが国の本音だろう。
借金をさせること、利子をごまかして高く設定しておくこと、娘にも母のためという名の自己犠牲の心理に追いやること。
何より父親が軍に入ってからの兵務期間を長くするように掛け合ったこと。
父親が生きているかどうかもわからない、母娘と店舗の権利を手に入れたら数年後に父親が帰ってきても探しようがないのだ。
これらのことを告白する。
こいつ殺してもいいんじゃね?と思うが殺さない約束で話させているのでここで約束を破ったらこいつらと同じになるだろう。
何より今の話を聞いて「じゃあパパは生きてるかもしれないの?」と物事のいいところを探せる娘の前で殺したくはない。
「とりあえずこの2人の犯罪奴隷は無効だよな。解除してもらえるかな」
当然の要求だったのだが老人は承諾しない。
「そ、そのぉ・・・」
などと言いよどむ。
「この期に及んでまだ犯罪奴隷にしようとしてんの?」
少しイラッとして口調が強くなってしまう。
「契約はできるんですが解約はできないんですっ、う、嘘じゃないです」
理由を聞くと借金奴隷の場合はお金の問題だから簡単に解放できる。
犯罪奴隷の場合は魔力を混ぜて契約しておりほぼ死刑のようなものなので解放方法を知っている者は限られているという。
危険な犯罪奴隷を簡単に解放できないように国に決められた犯罪奴隷の解放方法を管理する者がいるらしい。
それは商人たちでは話もできないほどの上位貴族か教会のトップレベルにしか伝えられていないという。
噂では解放方法が他にもあるらしいが内容は全くわからないらしい。
そんな取り返しのつかないものを騙してこんなに簡単に使うことに怒りを覚える。
元々犯罪奴隷にする首輪の魔石は裁判所のようなところでしか使われていないらしい。
だがそこから貴族に回ってさらにこういう手合いに売られて裏で出回っているという。
「私は所有権を手放しますので所有者になって普段通りに過ごさせるのが1番の解決法だと思います」
商人の提案だがモースやランケルに聞いてもそれ以上の答えが出てくるわけもない。
正直に答えていいと指示して母娘にも直接聞くが娘は母の判断に従うと言い母は娘と一緒にいれるほうがいいのでお願いしたいと頭を下げる。
モースとランケルは獣人が人族の奴隷を連れてたらどんな批判を浴びるかわからないとのことで俺しかいないようだ。
こうして俺は奴隷を所有することになった。
こいつらでも知らない貴族などに会えるわけもないのでそのほかの方法をできるだけ早く見つけてやりたいと思う。




