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5³㎤の転移無双  作者: 清白
第2章 冒険者

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第10話 Fランク冒険者




 薬草採取などの採取依頼を5件、掃除や引っ越しの手伝い、荷物運びなどの雑用依頼を5件。

Fランク冒険者がEランク冒険者に昇格するための条件だ。

基本の採取の仕方と最低限の依頼者とのコミュニケーション能力をはかるためにあるという。


 採取依頼は薬草を5㎏で1件、薬草以外のものが入っていたら未達成になる。

これは将来冒険中に自分で薬草を使ったりするときに間違わないようにする目利きの訓練も兼ねている。


 雑用依頼は依頼者ときちんとコミュニケーションがとれるかどうか、最低限の体力や実行力をはかる。

なので依頼をこなしても依頼人と喧嘩したり成果に依頼人が納得しなかったりしたら達成のサインをもらえないこともある。


 建前としてはそうなのだが、いくらあっても足りない薬草をギルドが手に入れること、割に合わない値段の雑用依頼をこなし町の人に冒険者ギルドの有用性を見せることが本当の目的だと言われている。


 本当の理由が何であれ昇格の条件なのだからこなさないわけにはいかない。

要するに技術もいらない安い労働力の何でも屋、それがFランクの仕事だった。


 前の世界では人とのコミュニケーションは苦手だったがこっちに来て少しはマシになったと思っている。

それでも見知らぬ人と関わるのはまだ緊張する。

この先誰とも関わらない生活をする気はないのだ、そう考えると俺には必要な依頼かもしれない。


 採取依頼は難しくなかった、5㎏探すのはそこそこ苦労したがそれでも毎日1件の依頼はこなせた。

初日は1本別の草が混じっていたが気をつければ防げるものだし、その1本を除けても5㎏あったので5日で採取依頼を終えることができた。

ちなみに1件で1食のお金ぐらいにしかならないが、毎日30㎏ぐらいを採取すれば何とか2食食べて安いが屋根のある場所で寝られるらしい。

冒険者を続ける最低限のラインだそうだ。


 1日休んで雑用依頼に行った。

先に採取依頼をこなしたのは知らない人と関わるのを避けていたのかもしれない。

行ったのはキャロに紹介された家の前の溝掃除、キャロにも「ティルなら大丈夫だと思うよ」との言葉をもらって緊張しながら行った。


 結果は思ったよりもすんなりと達成できた。

気のいいおばさんが途中で飲み物や果物まで出してくれたのだ。

汗をかいたが気持ちのいい労働、といった感じであっさりと依頼達成のサインを貰えた。

「ありがとうね」と喜んでくれ貰うのはこちらとしても嬉しいものだ。


 その後、荷物運び、ペットの散歩、塀の修理の手伝い、と1日1件のペースで依頼をこなした。

皆が好意的に迎えてくれ、仕事が終わると「ありがとう」との言葉もくれた。

コミュニケーション能力は自分でも昔より少しは成長できたな、と思った。


 次の日のFランク最後の仕事は大きな屋敷の草むしりだった。

貴族ではないが商売を当てて金を持ち、商売は息子に譲って隠居している老人が依頼者だ。

俺の他にも2人の獣人が一緒に依頼を受けていた。

牛の獣人と馬の獣人、獣人なのでキャロの担当だし、何度かギルドで顔を見たことがある。

その2人と仕事先に向かう途中で出会ったので少し話をしながら屋敷に向かった。


 牛の獣人はモースという名で短髪巨漢の大男だ。

筋骨隆々で力もありそうだ。

馬の獣人はランケル。

こちらも大柄で筋骨隆々、モースさんと違って背中まで繋がるたてがみのような毛が特徴的だ。

2人とも優しそうな目をしており俺にもフランクに声をかけてきてくれる。

俺が今日で最後のFランクの依頼だと言ったらおめでとうと言ってくれた2人はまだ何度か依頼をこなさなければいけないそうだ。

2人とも力が自慢だそうで早く魔物と戦って稼ぎたい、そんな話も聞いたりする。

少しの会話でそれなりには仲良くなった。

立場は同じFランク冒険者だが2人の方がもちろん年上だし先輩だ。


 「初パーティーだな」


 そう言って笑いながら屋敷に入るがもちろん個々の仕事だ。

Fランクで連携が必要なパーティーを組むような依頼などない。

俺たちは雇い主に言われてそれぞれの持ち場で草むしりを始めた。

俺は屋敷の表側、2人は裏側の担当で別れたので仕事中は1人だ。


 ここでも依頼主は優しかった。

背は低いが少し太って白髪、長めの髭も全てが白くなっていて杖を持っている、優しいおじいさんといった感じだ。

何でも息子が王都に商売の拠点を移したので孫たちと一緒に王都に引っ越した。

その孫にあまり会えないので寂しい、俺と年齢も近いらしく孫に重ねて見ているようだ。

昼にはパンとスープを出してくれおじいさんと食べた。

あの2人は休憩の時間が違うそうで一緒には食べなかった。

さらに昼からの作業中にはおやつにリンゴのような果物まで出してくれた。


 日が暮れる前に自分の担当の草むしりを終え、「ありがとう、助かったよ」と依頼達成のサインを貰う。

これでFランクも卒業だ。

屋敷から出たところでふと気になった。

あの獣人2人と仕事中は一度も会ってない、まだ仕事をしているのだろうか?

何の気なしに裏に回ると2人はまだ草むしりをしていた。

そしてその様子を見て驚いた。


 見たところ俺の持ち場の5倍ほどの広さがある。

腰をかがめて草をむしっている2人の横に立ったさっきの依頼主が怒鳴りながら杖で2人を叩き、怒鳴りつけていた。


 「役に立たん獣人どもじゃな!もっとテキパキ動かんか!」

 「そんな働きぶりで依頼達成のサインを貰えると思っとるのか!」

 「まったく、獣人が来たら臭くてかなわん!」


 そんな侮辱的な言葉を浴びせながら草をむしってかがんでいる背中を杖で打つのだ。

先ほどまでの俺に対してた人間とは思えない、人相まで変わって見える。

優しいおじいさんといった印象だったのが今では偏屈な老人にしか見えない。

思わず一言言ってやりたくなり中に入ろうとしたところ、モースさんがこちらに向かって老人に見えないように腹の前で手をこっちにかざす。

「来るな」の意のようだ。


 「わかりました!申し訳ありません!しっかりやります、大丈夫です!」


 老人がビクッと体を震わせた。

いきなり大声を出されて驚いたところを見ると今まではそうではなかったのだろう。

ということはその言葉は俺に向けてだ。

止めてほしくないのか、どうしたらいいのか迷ってしまう。


 「こら!急に大声を出すな!この獣風情が!」


 そう言って老人はさらに杖でモースを打つ。


 「さっさと働け!まったく、力と大声しか能のない獣人が!」


 「はい、すぐに!」


 ランケルさんも俺に気付いたのだろう、チラッとこっちを見て答えた。

俺の5倍ほどの土地、2人なので1人の負担は2.5倍、むしっていない部分はまだ1割ほど残っている。

それでも俺に比べて倍以上の仕事量だろう、たぶん昼も休憩もなしで働かされているのだ。


 「早くするんだぞ!日没まで、次に来るまでに終わってなかったらサインはやらんからな!」


 そう怒鳴って老人は屋敷に入っていった。

それを見て俺は2人に近付いた。


 「あれはひどいですよね、俺も手伝います」


 隣に並ぼうとしたところ、モースさんに止められた。


 「まさかとは思ったがさっきはやっぱり止めようとしてくれたのか?」


 「はい、あまりにもひどい仕打ちなので一言言ってやりたくて」


 「そんなことしてもさらに俺たちが文句言われるだけだ、手伝いもいらねえよ」


 「そうだな、これで人族に手伝わせたなんてところ見られたら間違いなく未達成にされるだろうからな。だから向こうに行っとけ」


 「でも、俺も一緒に受けた依頼なのに、俺だけ・・・」


 そう言いかけたがモースさんに諭される。


 「気持ちは嬉しいが未達成にされる方が困るからな。これはマジだ、手伝わなくていい」


 あの老人の言い分だとそうされてもおかしくない。

無理して手伝っても迷惑をかけるだけだ。

どう考えてもこのペースでは日没までに終わらせるのは無理だと思ったが2人は諦めてないようだ。

「わかりました」といって手伝うのをやめる。

2人の目標は達成のサインなのだ。


 「悪いな、さ、さっさと終わらすか。いつ戻ってくるかわからねえ」


 「そうだな、未達成にするためにわざと早く戻ってくることもあり得そうだからな」


 俺は屋敷の外に出て草むしりを再開する2人を見ていた。

みるみるうちに草むしりの速度が上がる。

力を入れて抜くところを力を入れなくてもスルスルと抜けているようで2人も驚いていた。

2人がこっちを見たので手を振った。


 俺がしたのだ。

雑草の下5㎝程を厚みを薄くして消去した。

なので雑草は根が張ってないのだ、簡単に抜けるに決まっている。

苦笑いをしたようだが2人はそのまま草むしりを再開し、瞬く間に全てを終えた。


 老人の俺に対する態度と2人に対する態度を比べて考える。

俺のコミュニケーション能力が上がって気に入られたのではない。

元々の俺はあちら側だった。

理不尽な扱いをされる側。

今は獣人という括りがあっち側なだけでたまたま俺がそこに入っていなかっただけだ。


 積極的にいじめには荷担しないが関わり合いたくないとばかりに助けることもしない、見ているだけの傍観者。

前の世界でもよくいた人たちだ。

彼らははどちらかというといじめられてる俺を嫌そうに見ていた。

『俺の目の前でいじめられるなよ、それを見るのも不快だ』そう言っているようだった。

目の前じゃなければ気にしないのだろう。

いじめられるのはもちろん嫌だが、その傍観者たちも同じぐらい嫌だった。

このまま帰ったらその立場になりそうな気がしたのだ。


 ここで助けることで再びあっち側の立場になるかもしれない。

だけど『自分に恥ずかしいことはするな』だ。

俺にできることはあの老人に見つからずに手助けすることだ、バレてあの2人が未達成になったら申し訳ないが謝るしかない。

だけどこのまま何もしなくても日が暮れるまでに全てを終わらせるのは無理だとも思う。


 危惧した通り、そう時間のたたないうちにまた老人がやってきた。

終わった草むしりを見て驚いていたがすぐにまた罵声を浴びせ始めた。


 「こんなに早くできるのならさっきまではサボってたんだな!」

 「力だけが取り柄の小狡い奴らだ!」

 「そんな奴らにサインなどしてやると思ってるのか?」


 そんな老人を見て、こういう人間は相手が何をしても文句をつけるのだと確信する。

それなら手伝って2人が楽になった分マシというものだ。

それでもサインを貰えないのはあんまりだ。

2人は黙っている、諦めの表情にも見える。

そこで俺は屋敷に入っていった。


 「あ、おじいさん。今日はありがとうございました」


 俺を見るとさっきとは一変して柔和な顔になる。

俺を孫と重ねているのだろう。


 「どうした?ギルドに達成の報告をしにいかんのか?」


 「行こうと思ったのですがその2人にここまで連れてきてもらったので道がわからないんです、もう終わったかなと思いまして。すごいですね、俺より遙かに広い場所を1日で終わらせるなんて。ギルドにも報告しておきます」


 「んっ?あ、あぁ、これは、違うん、じゃ」


 「こんなに結果に差があって同じ依頼達成で報酬も同じなんてこっちが申し訳ないですね。おじいさん、あまり役に立たなくてすいませんでした」


 「いや、そんなことないぞ、お前さんはよくやってくれた、こいつらは」


 「おふたりとも達成のサインはもらいましたか?貰ったら一緒に報告に行ってくださいませんか?」


 食い気味に俺より仕事をしたことを伝える。

2人が顔を見合わせて老人に頭を下げた。


 「「何とか仕事を終えられました、よろしくお願いします」」


 そう言って依頼書を出す。

老人は苦々しい表情でそこにサインをした。


 そのサインを受け取って3人で屋敷を出るとお互いを見合わせてニヤッと笑う。

2人が俺に向かって手を上げたので、少し照れながらハイタッチをした。

こういうことには慣れてないのだ。


 ギルドに向かう途中に何度もお礼を言われた。

何でも獣人だと依頼10回に1回程しか依頼達成のサインを貰えないらしい。

考えたら俺より先輩でギルドにもよくいるのにFランクのままなのはそういう理由だろう。


 雑用依頼はFランクかEランクで稼げなくてその日に食べるものもないというような冒険者が受ける安い報酬のものだ。

町の人としても安い値段でめんどくさい雑用が済むならと依頼をする。

達成できなかったらさらに報酬は安くなり依頼する側も払う金額は少なくですむ。

もちろん普段は今日みたいな理不尽なことはない、ただし人族に限る、という訳らしい。


 獣人にどんな理不尽な行為をしてもギルドも文句を言わない。

そうなったらさらに安い金額で雑用依頼を頼める。

人族がこんな理不尽な仕打ちを受けたとギルドに報告するとギルドから問い合わせが入り調べもするが、獣人が報告しても調べもせずにサインを貰えなかった仕事ぶりが悪いと言われ終わりなのだ。

それでも獣人でも可、という雑用依頼自体が多い訳ではないのでそういう依頼人の依頼でも受けるしかない。

たまに知らなかった依頼人や獣人でも気にしないという依頼人に当たってサインを貰えることもあるというレベルだそうだ。

ギルドもサインをしない依頼人も獣人だからいいだろうという暗黙の了解なのだ。


 周りから理不尽に扱われることの辛さは前の世界で散々知っている。

それを思い出したこともあり、思わず涙を流してしまった。


 「何でティルが泣いてんだよ」


 2人にそうからかわれたが涙はすぐに止まらなかった。

差別があるのは知っていた。

もちろん嫌だったしミリアのこともありどうにかならないかとも思っていた。

だけどこの国の獣人差別はあまりにも酷すぎる。

ミリアと再開したらこの国を出る、ということも選択肢に入れた方がいいだろう。

そのためにも今は冒険者を頑張らなくてはならない。

ランクを上げ、情報を集め、経験を得る。

そうしないと他のどの国に行けばいいのかさえ今の俺にはわからなかった。


 この2人は今回は依頼達成のサインを貰えたがまだEランクに昇格はできない。

今回も貰えなさそうだったところを貰えたのは俺のおかげだと言われ、ギルドに報告したあとお礼とEランクへの昇格のお祝いにおごってやると言われて3人で飲みに行った。

もっとも俺はお酒は飲まないので食べるだけだが。


 少しお酒が入ってきたときに恐る恐る聞いてみた。

俺も人族なので一緒に働くのは嫌じゃないのかと。

あんな仕打ちを受けているのだ、人族というだけで嫌っても仕方がない。

答えは「そういう獣人もいる」だった。

人族というだけで嫌って関わろうとしない獣人だ。

だけど全体として人族のほうが多いので関わらないわけにはいかない。

関わりたくないなら山奥に獣人の仲間だけでひっそりと暮らすか獣人だけのコミュニティに行くかスラムに潜伏でもしてできるだけ関わらないようにするかしかないということだ。


 前者は実際にそういう暮らしをしている者たちはいる。

後者は獣人の犯罪組織として存在しているが町中で生きていくのに人族と全く付き合わないというのは無理なようだ。

そんな犯罪組織に入っていいように使われたあげく実際は犯罪組織の上層部が人族と繋がっており使い潰されただけ、などの話は掃いて捨てるほどある。


 獣人にも悪い奴はいるし人族にもいい奴はいる、2人の結論はそうだった。

獣人、人族、と分けるのではなく個人を見た方がいいという意見だ。

今回の俺のことを聞くと最初に話した会話が元だそうだ。

 

 「初パーティーだな」と言われたときの反応。

「そうですね、俺も初めてです」などとありふれた返事をした覚えはある。

だがそのありふれた会話を笑顔でする人族自体が少ないそうだ。

嫌そうにするぐらいならまだしも露骨に「獣人とパーティーなど組むわけがないだろ」といきなり罵るような人族もいるという。

個人を見るつもりではいるが結局仲良くなれる人族はかなり少ないそうだ。


 「だからな、逆にティルみたいな人族に出会うと種族別で決めつけたらいけないなって再確認できるんだ」


 そう言ってランケルさんに頭をクシャクシャとなでられる。

続けてモースにも言われた。


 「おまけに草むしりを手伝ってくれただろ?火魔法ぐらいなら見せる奴も多いんだけどな。特殊魔法はあまり人前で見せない、それだけでアドバンテージになるし知られたら対策をとられる。何をしたかわかんねえがあれは特殊魔法だろ?」


 「特殊魔法になるんですかね?もうひとつ魔法のことはわかってなくて。でもそうかもしれないですね。俺にしてもあまり周りに知られたくないし今回は使ってもあの依頼者にはバレないと思ったんですよ」


 「俺たちもティルがしたんだろうなとは思ったけど何をしてくれたのかわかんないからな。でも助かったよ、あれがなければまた依頼達成のサインをもらえなかっただろうからな」


 今回も昼過ぎの果物どころか昼食の時間もなかったようだ。

休憩しようと思えばサボってたらサインしないと言い出す。

獣人だからとそういう扱いをする人族は多い、聞くだけで腹が立つ話だ。


 「10回に1回ぐらいしかサインを貰えないから本当に助かったんだ。だから今日の支払いは任せてくれよ」


 モースさんにそう言われる。

Fランクの依頼が未達成だと報酬は安いところからさらに割り引かれる。

もちろんこれは雑用依頼だけのこと、普通の依頼では依頼未達成はギルドの評判も落ちるがFランク冒険者は見習いだということで失敗も許す代わりに報酬も安いし失敗してもギルドには責任はない。

冒険者は経験を、依頼者は雑用を安い料金で、ギルドは依頼手数料と全員が得をする制度というのが表向きだ。

だが結局は獣人を昇格させずに安くこき使うための制度になっている。

人族にこのような理不尽なことをしたら問題になるが獣人にはならないというところから間違っている。

どこまでも腐っているが獣人にしても他に仕事がない者も多く従うしかないのだ。


 さすがに遠慮したが結局は押し切られてごちそうになった。

さらにお酒を追加する2人。

そんなときに仕事を終えたキャロが通りかかった。


 「あ、ティルくん。これでEランクだね。モースさんもランケルさんもあと少しですよね。Eランクになったら皆さんに合った依頼を探しますから頑張りましょうね」


 Eランク以上はギルドの評価もあるのでさすがにここまで露骨な嫌がらせはない。

獣人のFランク冒険者への嫌がらせというこの国独特の習慣のようなもの。

なので早くEランクになれるようにFランクの獣人は少々の嫌がらせぐらいには耐えてしまうのだ。


 「ティルくん、今日はそっちに寄るね、院長に話があるの。ティルくんにもね」


 「話ですか?」


 「うん、あ、また一緒に寝る?」


 「やめてくださいよ、もう布団に勝手に入ってこないでくださいね」


 「え?喜んでくれないの?アハハ、またあとでね」


 そう言って去って行ったキャロさんから二人に視線を戻すとランケルさんがこっちを見る目が怖い。


 「おい、また一緒に寝る?って、何だ・・・?」


 「あ、それはキャロさんが昨日酔っぱらいすぎて部屋を間違って・・・」

 

 「酔って間違ってだぁ!?ティル、俺はお前と親友になれるかも知れないと考えていた。だがどうやら違ったようだ、お前は敵だ!」


 「待ってくださいよ!違いますって!」


 慌てて前のバーベキューのことを説明する。

昔過ごしてた部屋だから間違ったこととか、他にも解体場の人たち含め大勢で飲んでたこととか。

一応納得はしてくれたようだがまだ一緒に寝たのは気になるようだ。


 「ランケルさんはキャロさんのことが好きなんですか?」


 「なっ!俺はただ、獣人で頑張ってるキャロちゃんを応援したいと・・・!」


 「そうなんだよね。だからただの嫉妬だから気にしなくていいぜ」


 モースさんの暴露にランケルはうつむく。


 「僕は大丈夫ですよ?キャロさんにも言いましたけど他に好きな人がいます。キャロさんもそれがわかった上でからかってるんですよ」


 「ん?そうなのか?まあそれならいいんだが・・・一応納得はしておくよ」


 「それよりティル、解体場の人たちともう仲良くなったんだな?」


 少し落ち込み始めたランケルさんを無視してモースさんが話題を変える。


 「あ、そうなんです。親方たちみんないい人で」


 「あぁ、親方たちか。そりゃあそうだよな、ギルド長派の解体場の奴らがあの孤児院に行く訳ねえか。俺らも親方には世話になってるぜ」


 「そのためにも早くEランクに上がらなきゃな」


 ランケルさんも機嫌を直して新たに誓う。

その後もダラダラととりとめのない話などをして解散した。

何より驚いたのは2人がまだ17歳だということだ。

獣人は体の成長が早いらしい。

それなら15歳のキャロさんを好きでもおかしくない。

ロリコンの疑いを持ったのは伝えなくてよかった。


 孤児院に帰りながら考えた。

俺はこれでFランクを卒業して明日からはEランクの冒険者だ。

モースさんとランケルさんともEランクになったら一緒に依頼受けようぜ、たまには本当にパーティーを組もうぜ、みたいな話もした。

2人とは今日が初対面だ。

それでも一緒に仕事をして話をして食事をして笑い合う。

こうやって友達はできていくのだろうか?


 この世界に来て知り合いになって友達になった人も多い。

だけどミリアたちは俺が拾われて出会った。

ここの孤児院の人たちもここにたまたま行き倒れたから出会った。

ギルドの人たちとは仕事として出会った。

知り合うために理由がありどちらかというと友達になってもらったという感じがする。


 だけどモースさんとランケルさんは自分が選択して出会い一緒に飲みに行くことも話をすることもお互いに決めた。

初めて自力で友達を作れた気がして少し嬉しくなった。




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