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5³㎤の転移無双  作者: 清白
第1章 少年期

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第1話 異世界

 



 「う・・・ん・・・」


 なんだか息苦しい、顔を柔らかいものでおおわれているような。

できないわけではないが口も軽くふさがれているようで息がしにくい。


 (あれ・・・?まだ生きてる・・・?)


 目を開けたが目の前に何かがあってよくわからなかった。

何かにしがみつかれている感じ・・・そして少し酒臭い。

少し身動きするとそれが人だということが分かった、俺にしがみついて寝ているようだ。

上を向くと若い女の子・・・を見て飛び起きた。


 どうやら本当にしがみつかれていて動きにくく、息がしにくかったようだ。

その場に座り込みちらりと押しつけられていたこぼれそうな胸が視界に入り思わず目を背ける。

それと同時に周りも視界に入る。


 見回すが見覚えのない部屋だ。

6畳ぐらいの広さの部屋は床は板張りで、目に入るものは年季の入った箪笥と棚があるぐらい。

床にはペラペラの布団が敷いてあるのと同様にこれもまたペラペラのかけ布団もある。

今は俺に巻き付いているがたぶんかけてくれていたのだろう、それを女の子に胸を隠すように体にかけてやる。

何しろ麻っぽい生地の薄手のノースリーブのようなワンピースで寝ており今にもこぼれそうなのだ。

足には何かの骨でできたようなアンクレットがついているが他には何も身につけていないようだ。

こんな格好じゃあ寒くて仕方がないだろう・・・と思ったのだがそういえば寒くない、たしか真冬で雪も降っていた気がするのだが。


 布団をかけてやって改めて見てみると、まだ10代半ばほど、茶髪に整った顔は美少女と言っていいだろう。

そして頭にはやたらとリアルな猫耳がついている。

さっき嗅いだお酒の匂いも間違いなくこの少女からだ。

コスプレしてお酒を飲んで騒いでいたのだろうか?いわゆるパリピ?俺の人生で関わったことがない人種だ。

正直苦手だがあの状況から助かったのだ、この少女が俺が助かるのに関わっているのは間違いないだろう。

死ぬんだと思っていた、走馬灯のようなものまで見たのだがそれがまた恥ずかしい。


 それにしても状況が呑み込めない。

俺も同じような麻の服を着せられているが何か違和感がある・・・

腰を締めるベルト代わりの革紐には小さな巾着がついていた、まるで魔法の剣の鞘のようだ。

だが何も入っていないようで厚みはなく飾りのようなもののようだ。

(あ、魔法の剣、一緒に拾ってくれてたらいいんだけど)

そう思ったときに少女が寝返りをうった。

布団がはがれ、再び胸がこぼれ落ちそうになる。

思わず視線が行くが、もしかしたら命の恩人なのだ、そんな目で見るのはまずいだろう。

こんな人生なのでもうすぐ20になるというのに女性に対する耐性はほぼないのだ。

はがれた布団をかけなおす・・・いや、かけなおそうとしたところで少女が目を開けた。


 (これ、どう考えても布団ををはぎ取りうとしていると思われる状況じゃないのか・・・?)


 慌てて言い訳をしようとする。


 「あ、いや、これはその・・・布団が落ちてだな・・・」


 何を言っていいのかわからない、しどろもどろになってよけいに怪しいだろうと思うがどうしようもない。

誤解を解くにはどうしたら・・・必死になっているとその少女は抱き着いてきた。


 「よかった~、目、覚めたんだね~」


 再び2つの大きな柔らかいものに顔をうずめられながらその言葉を俺は聞いていた。


 そんな幸福な時間を1分間ほど味わっていると肩を持って離された。


 「体調はどう?大丈夫?熱はない?」


 顔を見られおでこに手を当てられる。


 「大丈夫・・・そうね?」


 確かに体に異常はなさそうに感じる。


 「うん・・・大丈夫、だと思う」


 自分の発した声に違和感を覚える、のどの調子が悪いのだろうか?


 「昨日のことは覚えてる?熱を出して道端に倒れてて・・・あ、親は?」


 年下の女の子に親はいないの?って聞かれるなんてどれだけ頼りなく思われたのだろうか。

だけど熱を出して倒れてたところを救ってくれたのはこの少女だし、そうなら命の恩人だ、そんな文句を言うどころではない。

素直に親は昔に死んで1人で生活していることを伝える。


 「親はだいぶん前に事故で死んだ・・・」


 こう言うと同情や興味本位で色々聞かれることがあったりであまり言いたくなかったのだが返ってきた言葉はあっさりとしたものだった。


 「そっか、じゃあ今までどうやって生きてきたの?」


 親の死にに関してはそれ以上聞かれなかった。 


 「え・・・?あ、親せきの家に行かされて、そこで追い出されてからは施設で、そこも出てからは一人で何とか・・・」


 正直に答える、子ども扱いされている気もするが熱を出して倒れていたところを助けてもらったのだ、何も言えない。


 「盗みとか強盗とかしたりさせられたりした?」


 そんなことを言われ驚いたがそれはない、自分で決めたのだ。


 「それはしてない、親の教えで『自分に恥ずかしいことはするな』だから」


 母親のその言葉と父親の『自分で考える』そして魔法の剣、それだけは手放さなかったつもりだ。

魔法の剣は手放してしまったかもしれないが・・・他の人にとって価値のあるものとは思えない、後で倒れていた場所に戻って探しに行ってみよう。

そう考えた俺に少女が言った言葉はまたもやちょっと意味不明なものだった。


 「うん、いいご両親だったんだね。でもそれじゃあ親せきの家を追い出されたのも仕方がないかな。よし、じゃあここに住む?」


 親戚の家で盗みをしないと捨てられて当然?ここに住む?とっさに返事ができなかったがそこでドアをノックする音が聞こえた。


 「ミリア、起きた~?」


 そんな声が聞こえる、この少女の名前だろう、みりあ、か。


 「起きてるよ~」


 そう答えて立ち上がりドアに向かう。

その姿を見上げたら思ったより大きい、というかめちゃくちゃ大きい。

俺の身長が175㎝程だったが腰から胸のあたりほどしかないだろう。

おまけに尻尾もついている?スカートについているのか穴が開いているのかお尻のあたりから猫のしっぽが見える。

昨日のお酒の席でコスプレでもしてたのだろうか、ただやたらリアルでぴょこぴょこと動いている。

いやいや、それより大きさだ。



 (彼女が2mを優に越えている・・・?いや、違う、俺が小さい?)


 改めて自分の姿を見てみる。

手、小さい。

足、小さい。

服、ボロボロのシャツとパンツにズボンと腰の巾着。

パンツの中を見てみる、小さい・・・


 「あの子大丈夫だった?」


 「うん、大丈夫だったよ、いい子みたいだしやっぱりここに住ませようかなと思って」


 「ペットを飼いたいとか言ってたのがまさか人族の男の子になるとはね」


 「そんなんじゃないよ、いい子そうだし捨てられてかわいそうだし」


 「それを拾って住まわせるのが飼うってことなんじゃないの?」


 「あれ・・・?そうなる・・・のかな?」


 「で・・・名前は?」


 「あ、まだ聞いてないや」


 「名前も聞かずに決めたの?」


 「いいじゃん、今から聞くし」


 ペット感覚?少し気にはなったがこっちもそれどころではなかった。

どう考えても自分ではない。

鏡がないのでわからないがかなり背も縮んでいるというか体が違う。


 「お~い、君、何て名前?」


 そう言われても答えられなかった。


 「俺・・・誰?」


 


 部屋に入ってきたもう1人の女の子。

この子も頭に耳をつけている、どうやら狐の耳のようだ、もちろん尻尾もある。

2人でコスプレが趣味なのだろうか、俺の前に2人が座る。

そして昨日の俺を拾った時の状況を教えてもらう。


 どうやらここはあるお店の寮らしい。

仕事終わりに3人で帰っている最中、倒れている俺を見つけた。

普段なら放置しておくのだがいい感じに酔っぱらってペットを飼いたいと話していたミリア、この部屋の女の子が連れて帰ると言い張った。

熱もありそうだしとりあえず連れて帰り、布団に寝かせてからは知らないというが・・・本当にペット替わりかよ!と心の中で突っ込む。

それにどう見ても14~5ぐらいの少女だが寮に入って働いているとは・・・


 そんな時に俺のお腹が鳴る。

それを聞いて朝ご飯を食べながらにしようと一緒に部屋を出た。


 食堂・・・というよりテーブルを置いている台所という感じだが俺にもスープを出してくれた。

くず野菜を使ったスープのようでお世辞にもおいしいとは言えないが空腹の胃には染み込む。

おかわりもさせてくれたので2杯食べさせてもらった。

その間にもう1人、今度は犬っぽい耳と尻尾を付けた女の子が来て俺の横に座った。

どうやら職場でも仲のいい3人のようだ。


 助けてくれた女の子はミリア、キツネのコスプレはガーベラ、犬はライラと自己紹介され、4人で話をする。

ミリアが俺に聞いてくる。


 「えっと、名前も覚えてないんだよね?年とかも覚えたないのかな?」


 「今年で20歳になるから19、のはずなんだけど・・・」


 そう答える俺だがこの外見で信じてもらえないのはわかっている。

ガーベラが当然のごとく聞き直す。


 「19歳?絶対嘘だ、5歳ぐらいだよね?」


 「そうね、これで19歳って信じるほうがおかしいわよ」


 ライラももちろんそんな感じだ。


 「自分でもわからないけど・・・こんな姿じゃなかったんだよ、3人はいくつぐらいなの?」


 「3人とも14だよ、君が私たちより4歳も上だなんて信じられるわけないよね?年は覚えてるけど名前は忘れたっていうこと?」


 ミリアの問いに答える。


 「えっと・・・名前は覚えてる、だけどその時の姿じゃないんだよ、今の自分の姿が見覚えなくて、俺は誰だろうって・・・」


 「記憶喪失・・・?にしてはおかしいのかな?記憶がおかしくなってるとか・・・?」


 「そんなわけないじゃん、夢でも見たんじゃないの」


 「そうそう、5歳ぐらいの子供がそんなに詳しく覚えてるわけないわよね」


 ミリアが信じようとしてくれるが他の2人はやっぱり信じない。


 「いや、本当なんだって、もうすぐ20歳になるはずで・・・」


 そういう俺に、隣のライラが顔を近づけてきた。

思わず上半身をのけぞらせる。

それでもおかまいなしに肩から胸、腹と身体を触られる。

 

 「えっ?何!?」


 「身体を調べたらだいたいの年齢がわかるよね?ほら、脱いでみてよ」


 「なんでだよ!脱がないよ!」 


 「何を恥ずかしがってんのよ、こっちは男の裸ぐらい見慣れてるんだから何とも思わないわよ」


 「見慣れてるって・・・何でだよ!」


 「私たちの仕事だからね。3人ともそうだよ。私たちそういうお店で働いてるからね、いっぱい見てるよ」


 「え・・・?だって15歳って・・・」


 「うん、15だからもう大人だからね。ちゃんと働いてるのよ。20歳だったら私たちのお店に来る?」

 

 「え・・・?大人・・・?」


 「大人でしょ、14歳過ぎたら越えてるんだから。キミ達みたいな人族だったらまだ学校にでも行けたりするかもしれないけど、私たちみたいな獣人は働かないと生きていけないからね」


 少し声にとげがある。

それよりも、だ。


 「獣人・・・?」


 「気付かないわけないでしょ、耳も尻尾も隠してないのに。獣人はやっぱり嫌いなの?」


 ライラの声がきつくなり始めたところにミリアが口をはさむ。


 「ライラ、人族がみんなお金持ちじゃないのは知ってるでしょ?この町で倒れているぐらいなんだからこの子はお金持ちの子供とかじゃないと思うけど・・・獣人に対する気持ちは聞きたいけども・・・」


 そう言ってこっちを見る。


 「君が獣人とは話したくもない、触れたくもないっていうんならこのまま出て行ってもいいわよ、私たちもそういう扱いに慣れてるし」


 混乱して何が何かわからない。


 「獣人って・・・?え?耳?尻尾?アクセサリーじゃないの?」


 「見たことない・・・はずないわよね?」


 「いや・・・ない・・・本物なの?その耳と尻尾・・・」


 「何かごまかそうとしてるんじゃないの、この子・・・獣人見たことないっておかしいわよ。貴族だって奴隷として見てるでしょうに」


 「奴隷って・・・え・・・?あの・・・触ってみてもいい・・・?」


 つい言ってしまった、女の子に触っていいか聞くなんてもしかしたら嫌がられるかもしれない。


 「あはは、ライラは疑ってるみたいだから私ならいいわよ~」


 ミリアがそう言って俺の横に来る。

猫耳はぴくぴくと動いている。

そっと触ってみると作り物じゃない温かさが伝わってきて、動いているのもわかる。

これがもふもふというものか、触るだけで幸福感が高まり気持ちいい。

耳をわしゃわしゃとし、尻尾も撫で、その感触を堪能する・・・


 「へえ・・・ほぅ・・・ふうん・・・」


 「あ・・・あの・・・ちょっと恥ずかしいんだけど・・・」


 その言葉に慌てて手を引っ込める。


 「ご、ごめん、あまりにも触り心地が気持ちよくて」


 「まぁ・・・いいけど・・・」


 毛並みを直しながら照れたように赤くなってる。


 「あははは、本気っぽいよ、これで獣人が嫌いなんてことないでしょ」


 ガーベラの笑い声にライラも笑う。


 「ふふ・・・そうね、獣人を嫌っている人間の中には視界に入るのもいやだっていうやつもいるぐらいなのに、あんなにうっとりしながら触られたらねぇ」


 「ホント、大人になったらテクニシャンになるんじゃないの?ミリアも気持ちよさそうだったし」


 俺のせいでからかわれているのかミリアも少し恥ずかしそうだ。


 「もう・・・君のせいで・・・で、名前は思い出したの?」


 「いや、この姿の名前は全然・・・」


 「ここに住むっていうのはOK?」


 正直混乱が収まらない。

漫画などで読んだ転生って奴だろうか?と考えるがまだ信用できない。

だけど獣人がいる時点でここは日本じゃないだろう、追い出されたら行くところがなさそうだ。

転生だとしても神様にも会った覚えはない、助けてもらわなければ生きていけなさそうなのでここは甘えよう。


 「ペット・・・ってのが納得いかないけど・・・お世話になりたいです」


 「わがまま言わない、本当に19歳ならそういうお店のお姉さんの寮に住めるなんて最高の幸せでしょ?19歳だったら、だけど」


 19歳といっても女性には全くと言っていいほど慣れていない、妹は亡くなったときは2歳だったし、施設や学校に話をするような女友達はいなかった。

こんなに俺に自然に話をしてくれる女性、そういうお店かどうかは置いておいて、それだけで嬉しい。

あ、いや、ペットになれて嬉しいっていう意味か?だけど俺にそういう趣味はない・・・はず。

言葉に詰まる俺にミリアが続ける。


 「君はティル。名付け親は私。名前なかったら不便なので拾った私がつけることにします」


 いきなり名前を付けられた。


 「え・・・?えぇぇ!?」


 「いいでしょ、ずっと温めてきた名前なんだから。どう?2人は?」


 「いいんじゃない?」


 「私もいいと思うわよ」


 俺じゃなくてほかの2人に聞いている。


 「ここに住むんだから君・・・いや、ティルには拒否権はありません。わかった?」


 ごり押しだがとりあえず今の状況がわからない。

この先もどうなるかわからないがここは助けてもらったのだし、日本人らしい名前で目立つのも嫌なので受け入れよう。


 「わかった・・・」


 「それで、だ」


 ライラがまた目の前に来た。

いきなり女性に目の前に来られたらどうしても戸惑ってしまう。

再び手が伸びてきたのでまた肩などを触られるのかと思ったが今回は違った。

慣れた手つきで一瞬でズボンの革のベルトをほどきズボンとパンツを同時に引っ張られた。

さらに覗き込むライラの手から慌ててズボンとパンツを握りしめて元に戻す。


 「なっ、何すんだよっ!?」


 ベルトの紐を結び直しながら抗議するがライラはニヤッと笑いながら言った。


 「わかりました、ティルくんは5歳です」


 その言葉にミリアとガーベラもキャッキャと笑い声を上げる。

股間を見て年齢を決められるというのは納得がいかないのだが反論できる雰囲気でもない。

悪い人たちじゃないのはわかるのだが女の人のこういうノリにはなかなかついて行けない。

大人だといいながら大変な仕事をしてるけど明るさを失わずに楽しそうに笑う。

からかわれているだけなのだろうが嫌みはない、無視や嫌がらせをされるよりはよっぽどマシだ。

どうなるにしろ当分はここで生活するしかなさそうなのでその間はこういう扱いなんだろうなと覚悟を決める。


 こうして俺のティルとしての新しい人生ががはじまった。



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