第7話 バーベキュー 前編
肉は持ってきてくれるということなのでそれまでに子供たちと準備をする。
石で囲いを作って火をおこす。
串焼きにする場所と網で焼くの場所、鉄板もあってもいい。
少したつと解体場の若い獣人4人と受付の女性が肉を届けに来てくれた。
それぞれが持っているバッグの中から数十キロの肉が出てくる。
全部がマジックバッグなのだが容量はそれぐらいでも珍しく、ギルドの解体場だからこそこれだけ所有できていると聞きやはり自分の大容量のマジックバッグのことは言いふらさない方がいいと思いを新たにする。
それでも出てきたホーンブルの肉は大量にあり、1頭目を捌いて幾つかの部位を持ってきてくれたようだ。
受付の女性はシャーリー、4人はそれぞれマックス、サージャン、ジール、ヴィクト。
名前を覚えるのは苦手だけどできるだけ忘れないようにしよう。
若手が運ぶ役目を言いつけられたのは皆解体をしたがったからで彼らもやってみたかったと愚痴を言っていた。
他にも頼むと思うからと言うと全員の目が輝いて、是非お願いします、と頼み込まれた。
肉の塊から切り出し串に刺して準備をする。
子供たちと作業をした。
50キロ分ぐらい用意して残りを孤児院のマジックバッグに寄付する。
それでも入りきらなかった分は俺のマジックバッグに戻した。
準備が終わる頃、親方達が仕事を終えて集まってきた。
院長が親方の前に出てくる。
「久しぶりだねえ、まさか孤児院にタダ飯たかりに来たんじゃないだろうねえ?」
「そんなことしたら後々何言われるかわかんねえじゃねえか!ちゃんと持ってきてるよ。さすがに肉は余るほどあるだろうから持ってきてねえが目的はこっちだろ?」
そう言って親方がマジックバッグから瓶をテーブルに出していく。
本当にマジックバッグは珍しいのかと思ったが考えれば作れる人がここにいるのだ。
そしてその瓶はすべてお酒のよう、どこの世界にもお酒好きは多い。
すぐにキャロさんもやってきた、子供達が駆け寄って行く。
ここ出身だそうなので子供達にとってはお姉さんみたいなものなのだろう。
「ティルさん、ありがとうございます。今日会ったばかりなのに」
「いえいえ、ここの子供たちとはキャロさんの方が長いですし俺の方が居候なんですから」
こっちの世界では向こうからグイグイ来るような人が多いがこういう一歩引いての会話は久しぶりな気がする。
リンもこんな感じになるのだろうか?
俺もコミュニケーションが上手い方じゃないというか下手なので話をするのに頑張らないといけないかもしれない。
嫌なわけではない、会話を振るのが苦手なのだ。
「何よそよそしいんだ、お前ら。担当と冒険者だろ?」
親方に2人とも頭を捕まれてガシガシとされる。
「がさつな人はこれだから・・・」
さすがに慣れているキャロさんがあきれたように言って俺と目を合わせお互いに笑う。
どうやら上手くやっていけそうな気がするがこういうとき親方のような人はさすがだなあと思う。
その後シャーリーさんもここ出身だと聞く。
シャーリーさんはキャロさんにとってのお姉さん、今の子供達の立場になるそうだ。
いくつ上なのかは教えてくれなかった。
親方に魔物の解体の話を聞いたり、その親方に振り回される話をシャーリーさんから聞いたり、子供たちと遊んだりしながら楽しく過ごしてふと離れた場所でベンチのように使っている横になった丸太に腰を下ろす。
座る部分を削っていてそれなりに座り心地は悪くない。
こんなに楽しいのは久しぶりだ。
そこにキャロさんがやってきて右横に座る。
「ありがとうね、美味しいよ」
にっこり笑うキャロさん、可愛い人だな、と思う。
もちろん何かしようなどという気もないしする度胸もない。
俺にも聞きたいこともあったし2人で少し話し合った。
キャロさんはここを巣立ってキチンと働いており子供達の憧れのような存在だ。
14歳になってここを巣立っても多くは冒険者になるぐらいしか道はない。
なかなか就職というわけにはいかないのだ。
例えば商家で働きたいとなると学校で学んだ者の方が優先される。
軍に入りたいと言えば入れるだろうがもちろん昇進などはない一番下っ端の立場でいつ死ぬかもわからない立場のまま、獣人なら特にだ。
犯罪組織に入るぐらいなら戻ってこいと院長は言っているらしいが戻ってくるものはほぼいない、プライドもあるだろうし大人になって出て行ったのに無駄飯を喰らい今の子供達から食べ物を奪いたくないのだ。
どの道を選んでも死んだり行方不明、もしくは奴隷落ちという道に進んでしまう可能性は高い。
それをたまたま空きが出たとはいえキャロさんは冒険者ギルドという公的機関に就職した。
シャーリーさんもそうなのだが今の子供達とは孤児院にいた時期はかぶっていないので今の子供達にはキャロさんが憧れなのだ。
そんな将来をもう少しなんとかならないかとも思うがそんなうまい話を俺がすぐに考えつくぐらいなら他の誰かが思いついているだろう。
特に獣人の差別は何とかしたいがより根深い感じだ。
その流れで例の3人組の話になった。
「そう言えば他にも獣人に差別意識のない人間の担当冒険者がいると聞きましたけど、俺と入れ違いに来た3人のことですか?」
「あ、聞きましたか?そうですよ、私の人間の担当はティルさん含めてその4人だけです。今までひとりもいなかったのですけどね」
「めちゃくちゃ格好いい男の人と美女2人のパーティーでしたよね?」
「ですよね。初めて見たとき見とれちゃいましたよ」
「でもよくあのギルド長の娘のお嬢様受付嬢が自分の担当にしなかったですね?」
「ああ、『お嬢様』ね、もちろん最初は自分の担当にしようとしましたよ、他国の認証ですがBランクですしね」
どうやらあだ名がお嬢様のようだ、もっとも取り巻きが呼ぶ『お嬢様』ではなく皮肉交じりの『お嬢様』のようだが。
「それがどうしてキャロさんの担当に?」
「最初に登録に来たときにね・・・」
お酒も入ってるからかたいしたことないからか、すんなりといきさつを教えてくれた。
どうやらお嬢様は3人で来たのにイケメン、名前はカイン、だけを自分の担当にして他の自分の担当の冒険者と組ませようとしたのだ。
女性2人はいらない、それが嫌なら獣人の担当にする、と言い放ったらしい。
申請の時にBランクとの申告がなく、新人だと思ったようだ。
女性2人、ニルとリモという名前、はお嬢様より綺麗だからいらないと言ったんだろうとの噂が流れているらしい。
だけどカインの「じゃあその方の担当でお願いします」の一言でキャロさんの担当に決まったという。
お嬢様は私の担当じゃないと稼げないとかまともな依頼を受けられないとか脅したようだが逆効果で絶対にお嬢様の担当にはならないと言い放ったという。
見た目だけでなく中身もイケメンのようだ。
新しい土地に来て新人として始めたかったようだが受付嬢に1%の報酬が入ることとキャロさんの現状を知り元Bランクだと明かした。
他国で違う名前で活動するので新人からになるのだが名前を明かして認められれば同じランクから始められる。
だが最初に明かさなかったことでCランクからということになったのだが依頼板に残っている難しい依頼を幾つかこなして再びBランクに上がった。
お嬢様はBランクと知ってかなり腹を立てていたようだが違う国のBランクということは違う国でそれなりに認められているということ、美味しい依頼を回すことはないが放置することに決めたようだ。
ここ以外で父親の威光は完全ではないことを知っているのだろう。
俺がキャロさんの担当になったのも担当の冒険者が死んだりすると1%の報酬から減額されるからという理由でもあったそうだ。
実際の年齢は14にもなっていなそうで、強そうでもない、すぐ死ぬか逃げ出すと思われたと思う、と言いにくそうに言われた。
そう思われるのは別にいいのだが少し気になったことがあった。
「パーティーから1人だけ引き抜いて他のパーティーと組ませる、なんていう権限がギルドにあるんですか?」
勝手に誰かと組まされるなんて嫌だ。
「ないですよ!もちろん」
ないそうなのは良かったが話は続く。
「組んだら合うんじゃないか、と思って紹介することはありますけど、決めるのはもちろん冒険者です。そういうのも担当冒険者を知っている担当制のメリットのはずですから。でもそれは新人を過ぎても足踏みしてるような人ぐらいにしかしません。ベテランにそんなこと言えるはずもないですし、逆に新しく来た冒険者が誰と組んだらいいかなんてわかるはずないですからね。それに勝手に組まされた人と命懸けで冒険なんてできないでしょう?しかも組んでいるパーティーを解散させるなんてあり得ません!」
一気にまくし立てた、言ってることはもちろん正しい。
「じゃあ、何で・・・?」
「イケメンが欲しくて自分より美人な女性はいらなかったんじゃないですか?3人を初心者だと思ったから組んだばかりのパーティーなら離しやすいと思ったのでしょうね。お互いもっとベテランと組んだ方がいい、ちょうどいい人がいるからって感じで。カインさんは自分の手下のような冒険者と、ニルさんとリモさんは綺麗な冒険者ならぜひ組みたいっていう冒険者ならいくらでもいますからね。あの人ならひどいことする冒険者にあの2人と組ませてもおかしくないぐらいですよ!そうならなくて良かったです!」
おとなしそうだと思ったがなかなかお嬢様には言いたいことがあるようだ。
そりゃあもちろんだろう、あんな差別の仕方をされていい気になるわけがない。
「あのお嬢様も美人ですのにね」
文句を言ってる相手を褒めるのはまずかったかな、とも思ったが気にしなかったようだ。
「美人だとは思うけどあの2人に比べたら・・・ねえ?」
「そうそう、品と言うか優雅さと言うか、そういうものが欠けてるわね」
シャーリーさんが来てキャロさんの逆、俺の左側に腰をかけ口を挟んできた。
手に持った皿の上にはたっぷりの肉で口にも頬張っている。
「よくその口で品とか優雅さとか言いましたね」
キャロさんも思わず口に出していた。
「まあまあ、私たちはそっち方面を目指してないから」
そう言いながらお酒を飲みキャロさんのコップにも注ぐ。
「で、ティルはお嬢様を気に入ったの?美人は好きなの?」
やっぱり目の前で褒めたのは失敗だったかもしれない、ジトッとした目で2人に見つめられる。
そりゃあ美人が好きか嫌いかで言ったら好きに決まっているがあのお嬢様は別口だろう。
「俺は女性に慣れてないですし、あの人を気に入るとかはないですよ。それにお二人も美人だと思いますよ」
「そんな取って付けたように言われてもねえ」
「そうそう、やっぱり人族のほうがいいんでしょうしねえ」
頑張って褒めてみたのだが無駄だったようだ。
こういうとき上手く言うことができたらいいのだが俺には無理っぽい。
2人とも酔ってきたのか口調も砕けてきている。
人族かどうかとかは俺には関係ないし正直に言ってみた。
「人族とかは関係ないですよ、俺には心に決めた女性がいますしその人は獣人です」
「え?ティルくんそんな人いるの?」
「どんな人?何の獣人?」
「えっ、あ、その・・・俺がそう思ってるだけでして、あ、ちょっと親方と話をしてきますので・・・」
めちゃくちゃ食いつかれた。
この場から離れようと立ち上がったのだが両横から2人に肩を掴まれ座らされた。
「逃げないのー、さ、お姉さんにその話を詳しく話してみなさい」
「そうそう、逃げられると思わないでね、ティルくん」
2人がニヤニヤと嬉しそうに笑っている。
キャロさんはいつの間にかティルさんがティルくんになっていた。
たぶん普段は受付なのでさん付けなのだが実は年下なのはわかっているのだろう、酔って本性が出てきたのだろうか?
そこに話を聞きつけたのかシスターのオリビアさんも加わって俺の前に座る。
だけど女性側の意見も聞いてみたいところなので少し話し他したのだが根掘り葉掘り質問されてほとんど全部ミリアのことを話してしまった。
「ふ~ん、難しいわねえ。確かにミリアさんがその状況なら結婚どころか付き合うのもティルくんのお荷物になるって思うわよね」
キャロさんがそう言う。
「うんうん、年上の獣人好きというティル君の性癖はわかったけど難しいところねえ」
シャーリーさんに言われた、ひどい言われようなのはわかる。
別に性癖な訳じゃない、ミリアが好きなだけだ。
だけど女性と恋愛話なんてする経験が乏しいので次々と来る質問と感想を聞くだけで言い返すことすらできない。
「でも、話を聞いた限りだとティルくんってけっこう強いのね、このお肉を狩ってきたことにも驚いたけど」
魔物を狩って肉を手に入れてたことなども話したのでキャロさんにそう言われた。
「そりゃあ強いでしょ、ドラゴンの肉を手に入れられるぐらいだ・・・し・・・?」
「「ドラゴンの肉!?手に入れたの!?」」
キャロさんとシャーリーさんが大声で叫ぶ。
その声が周りにも聞こえたのか解体場の男の人たちもこっちを一斉に見る。
「「「「「ドラゴンの肉!?」」」」」
周りがざわつき出す、ドラゴンの肉を手に入れたのか?どうやって?冗談だろ?そんな言葉から1度は食べてみたい、解体してみたい、そんな話も聞こえる。
そして俺に真偽をただすような目をみんなが向ける。
「あー、まったく、馬鹿だねえ。内緒って言ったのにねえ」
院長がやってきてオリビアさんを咎める。
「ごめんなさい、つい・・・」
「普通の人間に言うのもダメだけどこいつらは特にねえ、珍しい魔物と聞くと解体したがるからねえ。ドラゴンなんてきいたらこうなっちまうよ」
周りの男たちが寄ってきている。
「ごめんなさい・・・」
「まあ、どこぞの貴族とかの前で言うよりはマシだけどねえ、すまないね、ティル、こっちが内緒にしなって言っておきながらねえ」
「ごめんなさい、ティルくん」
オリビアさんがすまなさそうに頭を下げる。
「いえ、大丈夫ですよ。ドラゴンのことは内緒だと言われていたので言うかどうか悩んでいたのです。元々素材のことや武器、防具のことを相談したかったのでこれで堂々と聞けますよ」
ドラゴンの素材だけがあっても肉を食べる以外に使いようがないのだ、武器や防具にできるならしたいと思っている。
「何だ?聞きたいことがあるなら何でも聞けよ。そのかわりドラゴンの話も聞かせてくれよ」
親方が前のめりで聞いてくる。
「装備、特に防具が欲しかったんですよ、何も持ってないもので。どんな素材がいいか聞こうかと思ってたんですけどバレたのならドラゴンの素材で防具作ったりできないですかね?」
「ティル、お前・・・ドラゴンの素材で装備品って、それなりの量がいるんだぞ、一部にドラゴンの素材を使うだけの装備もあるがそれでも貴重品だ。肉じゃなくて骨や爪まで持ってるのか?」
周りがまたざわざわし始める。
「たしかエイト国の国宝にドラゴンの盾があったよな?」
「10傑のひとり、SSSランクの剣聖がドラゴンの剣を持ってると聞いたぞ」
「勇者とか言ってたやつがドラゴンの鎧持ってなかったか?」
「馬鹿、あれは偽物だよ」
自分たちが作るわけではないが素材を扱っているので腕のいい鍛冶屋と繋がっているし興味もあるのだろう、もっともそう考えたから聞きたかったのだ。
「ティルは何が欲しいんだ?」
親方に聞かれた、欲しいものは決まっている。
「動きやすい、普段に着るような防具ですね。でも作れる人がいるなら盾とか鎧も欲しいですがまずはそっちです」
「動きやすい、か、まあそうだろうな」
兵士が白兵戦をするわけではない、森の中をあるきまわるのだ。
鎧を着て盾を持ってなど動き回れるはずがない。
「で、ティルはどの部位を持ってるんだ?鱗とかだと盾にしやすいし骨の一部分でも鎧に組み込んだりはできるが、動きやすいのがいいのなら皮膜などがベストだがさすがのドラゴンも皮膜は数十年で劣化するから骨より手に入れにくいからな」
死んでからも数十年劣化しないのが凄い。
骨などはもっと長い間そのままの強度だそうだ。
「え~っと、一匹丸ごと、足は少し食べましたけどまだほとんど残ってるので使いやすい部位を言っていただけたら」
「はぁ!?」
目を丸くして驚いている。
「まてまて、どこかで鱗を拾ったとかじゃないのか?それだけでもドラゴンの生息域まで冒険した証と見つけた幸運とで尊敬されるレベルなんだぞ?」
貴重なのは聞いていたが思ったよりもさらに数段貴重なようだ、倒したとかはダメなのだろうか?
ちょっとごまかしておいた方がいいのかもしれない。
「あの、とにかく一匹分あります、どうせなら食べながら話しますか?」
マジックバッグから一口大に切ったものを取り出して串に刺し焼き始める。
何だかやばいことのようなので口止め料も兼ねておこう。
「お前、この一口のためならいくらでも金を出すっていう貴族もいるって言うのに・・・」
「でも、見てわかりますぜ、普段扱ってる魔物とは違う数段上の肉っすよ」
「匂いもすげえ美味そうだ、ドラゴンの肉なんて食ったことねえから比べられねえけどこの肉が最上級なのはわかりますぜ」
さすがに普段肉を見ているだけにドラゴンの肉を見たことなくても違いがわかるのだろう。
「話を聞きましたけどどっちにしろこの肉は内緒にしておくつもりです。量はあるので食べないと損ですよ」
「・・・まあそうだな、これだけの量があると聞いたら貴族どころか国にも目をつけられるだろうな」
「そんなことになったら困るので内緒でお願いしますよ、その分お腹いっぱい食べてくださいね」
お互いを見回す男たち。
あまり高価なものを奢られるのははばかられるのかもしれない。
親方がこっちを見ているので「お願いします」といった感じで目配せを送る。
「まぁ、ここまできて遠慮してもな。せっかくだ、みんなありがたく頂こうぜ。そのかわりこのことは内密だということ、それにティルに装備に関する情報を提供すること、対価としてはそれぐらいしかしてやれねえがいいか?」
苦笑しながら周りの男たちに言ってくれたので目配せは通じたようだ。
「もちろんです、こっちからお願いしたいぐらいです。皆さんどうぞ食べてください」
肉の焼ける匂いに抵抗できないのもあったのか、みんながドラゴンの肉に手を伸ばし始めた。




