第6話 解体場
解体場は孤児院から歩いて10分もかからないところにあった。
薬草などの採取物や依頼達成報告などはギルドに直接持って行く、ここは魔物を持ち込む専用だ。
ギルド長派の解体係はギルド本部で採取物の点検をしている。
臭い、汚い、キツい、の魔物の解体は獣人がしろと言うことだろう。
キャロさんの口調から諦めと腹立ちが混じっているように思えた。
解体場の裏は森に入る道になっている。
森に入りやすい場所が踏み固められて道になっただけの場所はいくらでもあるのだがさすがに解体場へは多くの冒険者が通るとあってそれなりに広く長く続いている。
この時間だと冒険者たちはまだ今日の分の納品はしていないだろう。
さっきのイケメンたち3人は帰ってきていたが他に冒険者らしい集団は見なかった。
大きな体育館のような解体場の入り口の受付に女性が座っており、その奥にはゴツい男性が4~5人、上半身裸で何やら会話をしている。
男性は全員獣人のようで獣の耳が見える。
受付も帽子を被っているが少しはみ出した羊のような耳が見えるのでこちらも獣人だろう。
解体場で間違いないようだ。
受付の前に立つと向こうから声をかけられる。
「いらっしゃいませ、どんなご用件でしょう?」
後ろのゴツい獣人がこっちを睨むように見る。
彼らが目を光らせていたら下手なことはできなさそうだ、もしかするとわざとかもしれない。
別に何かするわけでもないので素直に用件を言う。
「今日ギルドで冒険者登録をしたティルといいます。こちらで解体してくれるということなので見ておこうと思って来ました」
すると横から熊の獣人だろう大きな男が口を挟む。
顔に傷があり白い髭がモジャモジャと生えていかにも屈強な大男といった感じだ。
「坊や、初日にここに覗きに来るなんて将来大物だな!今日ってこたあまだFランクだろう?それとも見習いか?」
嫌な言い方ではない、坊やと呼ばれるのも見かけでは仕方がないだろう。
「あ、はい。Fランクです。ここで依頼以外の魔物の解体もしてくれると聞いたもので」
「何だ?魔物でも手に入れたか?リスか?ハムスターか?ウサギ・・・はまだ無理だろう?飽きたからいらねえけどな」
少し馬鹿にしたように熊の獣人の横の虎の獣人がさらに口を挟んだ。
魔の森の外縁部のリスやハムスターなどの小動物は育ちきらなくて魔石も小さいままなことが多い。
その育ちきらない魔物を飼って持ってくる新人の冒険者がそこそこいるらしいのだ。
虫の魔物と同じでその小さな魔石でも使い捨ての小さな魔法などは使えるようになるので子供の小遣い稼ぎ程度にはなる。
要するにその程度だろうと言われたわけだ。
言い返したくなったがその前に受付の人が遮った。
「もう、ベルーガさん、新人を脅かせないでください!魔物になりきれてなくても魔石を持ってたら凶暴さはあるんです、放っておいて子供とかがケガするより倒してもらった方がいいに決まってます!」
かばってくれているようだがその程度しか倒せないだろうと思われているのは変わりないようだ。
まあそれはしかたがない、さらにこっちに向かって話を続けた。
「ティルさんでしたよね?依頼達成で持ってきた魔物以外ももちろん受け付けています。魔物によって解体金額は変わりますし大物ほど高くなりますがそれ以上に大物ほど買取額が高くなりますので赤字になると言うことはありません。ただ、先ほど言ったリスやハムスターですと最低金額と買取額とでほぼ同額になりますのでご自分で解体に挑戦した方がいいと思います。最初は怖くても慣れたらコツはわかってきますよ?」
今になって気付いた、マジックバッグを持っていると思われていないのだ。
そりゃあ小さな魔物を服の中にでも入れているのだろうと思われるだろう。
説明は聞きたいので少し質問する。
「どんな魔物だと高いんですか?ウサギの魔物は40000ゼゼだと聞きました。イノシシの魔物とかだと?牛やワニの魔物とかは高いんですか?」
「イノシシの魔物だと10万ゼゼが基本ですね、もちろん状態にもよりますが。討伐依頼は証明部位を持って帰ると達成になるのです、牛やワニの魔物だとここから丸2日は森の奥に行かなければ出会えません。そこから魔物ごと持ち帰るのは困難なのです。大概の冒険者は証明部位と自分で魔石だけ取り出しその場で持ち帰れる分だけ持って帰ってきますので丸ごとというのはなかなかないですね。もし持ち込んでくれたら高額査定致しますよ」
考えてみればその通りだろう、何百キロの魔物を持ち帰るのは難しい。
マジックバッグが存在しているといってもランクの低い冒険者が手に入れられる値段ではない。
帰りにも魔物が出て戦うことももちろんあるのだ。
「だからよう、俺らはウサギやイノシシには飽きてんだよ!ブタすらたまにしか入ってこねえ!たまには丸ごと牛の魔物でも持ってこいってんだ!」
先ほどのベルーガと呼ばれた虎の獣人が愚痴る。
「逆に王都ならマジックバッグ持ちの冒険者が持ち込んだりするらしいがな、Bランク上位で小さいのを持ってるぐらいだろうからここじゃ無理だろうなあ、牛の魔物か、久しぶりに解体してみてえなあ」
「もう!親方は食べたいだけでしょう!」
「それもあるな、冒険者に戻してもほとんど腐らせちまうから肉はほとんど買取になるからな、ここじゃあギルド特製の冷蔵魔法庫で日持ちするからなあ、肉屋への売値で自分たちで買うのは役得ってやつだろ?」
どうやら白いヒゲの熊男はこの解体場の親方のようだ。
役得って言っているがまともな方だと思う。
解体中にいくらでもごまかせそうなものだがそれはしないと言ってるのだ。
「ちゃんと自分で買うんですね」
つい言ってしまったがすぐさまベルーガと呼ばれた虎の獣人に反論された。
「当たり前だろ?おい、坊ちゃんよ、俺らがごまかすとでも思ってるのか?おう?俺たちには職人のプライドってもんがあんだぜ?」
これは俺が悪かった、プライドを持ってる仕事を疑われたら腹が立つに決まっている。
「すいませんでした、屋台でお釣りをごまかすような人が多かったもので疑う癖がついてたのかもしれません」
そう、この世界の最初の買い物の時からそういうものだと思って気をつけてきたのだ。
もちろんそうではない人たちもいるのだ。
「おっ、偉いな、坊や。ビビってるわけでもなさそうだが素直に謝れるのはいいことだ。ベルーガも大人げねえぞ、子供なんだからそういう目にもあってきたんだろうが」
「それはそうですが・・・」
親方がベルーガさんの文句を止めてくれた。
悪いのはこちらだし、この人たちはいい人そうだ。
どうせお金にしないといけないのなら信用してもいいのかもしれない。
「じゃあ牛の魔物持ってくるので解体してもらえますか?お詫びにその日食べる分は買取にしませんのでみんなで食べませんか?」
一瞬の静寂の後笑い声が起こった。
その笑い声で解体場の中にいた他の獣人も出てきて集まってくる。
全部で12人、全員が獣人のようだ。
「どうしたんですかい?楽しそうっすね?」
カバの獣人が親方に話しかける。
「ああ、何でもこの坊やが失言のお詫びに牛の魔物解体させてくれる上に俺たちに肉を奢ってくれるらしいぜ」
「よかったじゃないっすか、牛の魔物奢ってくれる冒険者なんてなかなかいやしませんぜ」
「問題は坊やなら牛の胃袋に丸ごと入っててもおかしくないぐらいの大きさだってことだな」
再び笑いが巻き起こる。
「もう、ごめんなさいね、いつか牛の魔物狩れるぐらい強くなるわよね。そのときはごちそうになるわ」
受付の人もそう言うが笑いをこらえているのがわかる。
「いいですよ、じゃあこれ、お願いしますね。美味しいところを食べましょうよ」
そう言って目の前にマジックバッグから牛の魔物を取り出す。
全長5mは越えているだろう。
「「「「「なっ・・・ホ、ホーンブル・・・」」」」」
全員の動きが止まる。
我ながらドヤ顔だったとは思う。
ホーンブルというのは魔物の名前だろう、魔物は角があるからかホーンとついてれば大概魔物だ。
さらに驚かせてやろうとあと2頭取り出したのはやり過ぎだったかもしれない。
もちろん『別荘』に保管してた魔物をマジックバッグに移してたのでそれを取り出したのだ。
ざわざわとしだしたが親方がにやりと笑った。
「俺らの負けのようだな、笑ってすまなかった。坊や・・いや、ティルだな。お詫びに解体料はサービスするよ」
「あ、いえ、お詫びのお詫びって訳がわからなくなりますよ。ちゃんと引いてください」
「いいってことよ、これを解体できるってだけで喜ぶような奴らばかりだからな」
「ありがとうございます。1頭分は肉でください。2頭は買取でお願いします」
「1頭分ってどうやって持って帰ろうって・・・ってマジックバッグか、そりゃあ持って帰れるわな。わかった、腕によりをかけて解体してやるよ」
「お願いしますね。あと生意気な感じのことをしてすいませんでした」
持ってるのに言わなくて馬鹿にしたような感じに思われても困る。
「こっちがあり得ないと思って笑ったんだから気にするこっちゃねえよ。冒険者はそれぐらいじゃねえとな!3時間ほどでできるが今日取りに来るか?」
「はい、じゃあその頃に取りに来ます」
「買取分は明日にでもギルドに行けば受け取れるようにしとくからな。受付の担当は誰だ?」
「あ、キャロさんです。お願いします」
「キャロかよ、ティルが獣人に偏見持ってないのがわかって嬉しいよ。お前も違う国から来たのか?」
「いえ、この国です、メダグリアってところです。そこで獣人の人たちに助けられて生きてきましたので。それよりお前もってことは?」
「ああ、半年前ぐらいから男1人と女2人のパーティーがキャロの担当になってな、獣人とは平等の関係の国から来たって言ってたんだ。しかもBランクだぜ?」
イケメンたちのことだろう。
Bランク、俺の目標にすでになっているのか。
それと獣人と平等の関係の国、そんな国があるのだ、少し話を聞いてみたいが相手にしてくれるかどうか。
少し考え込んでいたら親方が小声で話す。
「それよりティル、キャロの担当でマジックバッグ持ち、もしかしてあのババアの関係者か?」
「えっと・・・ババアっていうのが孤児院の院長のことでしたらその通りですけど」
本人にババアなんて言えるわけがないので少し言いよどむ。
「やっぱりか!」
「あ、そう言っても少し前に孤児院の前で行き倒れたところを助けて貰ったんですよ。しかも今居候させて貰ってるんです。このお肉もみんなで食べようと思いまして」
「なるほどなあ、でもマジックバッグを作ってもらえるってことはよっぽどティルを気に入ったんだな。よし、じゃあできたら孤児院に届けてやるよ」
「いいんですか?」
「おう、すぐそこだしな」
「じゃあ孤児院で皆さんも食べて行きますか?そういう約束でしたし」
「笑っちまっただけにそれは悪いよ」
「いいですよ、解体も無料にしてくれたんですし、1頭分あるんですよ?いくらでも食べてください」
「親方・・・」
遠慮しようとするところを周りの人たちの今にもよだれが垂れそうな顔で遠慮はやめたようだ。
「じゃあ悪いがごちそうになるよ。お前らもきっちりと仕事しろよ!」
「「「「へい!!」」」」
皆が口々に笑ったことを謝って、すげえな、ごちになるぜ、解体は任せとけ、と声をかけてくる。
肉が食えると言う喜びもあるだろう。
楽しそうな雰囲気でよかった。
そのとき少し思い当たることを聞いてみた。
「皆さんを夕食に勝手に呼ぶのって院長からしたらどうなんでしょうか?」
考えたら俺は居候なのだ。
そのくせ大勢の客を呼ぶなど前世では嫌がられても仕方がない行為だろう。
「ん?肉は孤児院の奴らにもやるんだろ?肉の寄付を大量にする奴を嫌がらないだろう」
そう言われたが一応許可は取っておこう。
「あと、ちょっと聞きたいことがあるんですが・・・」
「ん?そのマジックバッグに入ってる他の魔物のことか?」
「何でわかったんですか?その通りです!」
いつまでも居候でいるわけにはいかない。
1人で暮らして行くための最初の家賃や生活用具を揃えるためのお金を魔物を売ってお金にしようとしたのだ。
値段の相場や他の魔物の値段などを聞きたかったのだ。
それを当てられて驚いた。
「そりゃあな、牛の魔物の話をしていて都合よくそれが3頭っておかしいだろ?他にも持ってるんじゃないかと思ってな」
確かにあのとき他の魔物の話をしていてそれを持っていればそれを出した。
たまたま牛の魔物の話だっただけだ。
「そうなんです、孤児院でいつまでもお世話になるわけにはいかないので最初の生活費を換金したくて査定して貰おうと思ってました」
「ん?それだけなのか?ならホーンブル2頭売っただけで数年は生活できると思うぞ?」
「え?そんなにですか?」
「おう、ホーンブルはなかなか手に入らないし味がいいので肉屋にも高値で売れる。まあまた後で教えてやるよ、俺もホーンブルは久しぶりで解体したいからな」
そう言うと親方は解体するために現場に向かった。
後に残されたのは俺と受付の人。
「じゃあ夜に待ってますね」
そう言ってその場から立ち去ろうとしたら驚かれた。
「え?私もいいんですか?」
「嫌なら無理にとは言いませんけど全員のつもりでしたのでよければどうぞ」
皆と仲が良さそうだったから嫌じゃないと勝手に思っていた。
パワハラとかの言葉はなさそうな世界だし仕事場の食事会に無理に引っ張り出すことはない。
「私は解体係じゃなくて査定係なので解体のお手伝いもできないですし別かなと・・・」
「そんなことないですよ、遠慮なくどうぞ」
「ありがとうございます!まさか人生の中でホーンブルの食べ放題を味わえる日が来るとは・・・感激です!」
「量はかなりあるはずなんでどうぞ、楽しんでくれたら嬉しいです」
かわいい顔をしてどうやらなかなかの食いしん坊のようだ。
獣人と言っても元々の動物の種族の好みとは関係ないのだろうか?
お礼として近場の薬草の群生地を教えてくれた。
そこで薬草を採取してギルドに戻ると最初の採取依頼達成になった。
キャロさんも喜んでくれ、この後の孤児院での食事会・・・というほどのものではない、バーベキューに誘ったら来てくれるそうだ。
そのまま孤児院に戻って院長に親方のことや夜のバーベキューのことを話したら「今度誘うときは良い酒持って来いって言っといておくれ」との言葉で許可をくれたので開催は決定した。




