第3話 院長
バーベキューをするのに準備をする。
マジックバッグにはドラゴンの他にも狩った魔物の肉が入っている。
熊の魔物、ウサギの魔物、蛇の魔物、違う肉なら別の気分で食べられるんじゃないかと倒した時に手に入れたものだ。
最初は違う気がしたが肉が続くと何を食べても同じ気がした。
あれもレインボーモスキートのせいだろうか、今は美味しそうに見える。
どうせなら美味しいものを食べてもらいたい。
ドラゴンの肉を食べやすい大きさに切り分ける。
子供たちが食べやすいように肉を串に刺していく。
建物の横で石を組み、網を乗せる。
火をおこして準備が終わると早速焼き始めた。
オリビアがテキパキと動いてくれて野菜も切ってくれている。
さすが世話をしたいからと孤児院に残るだけはあると思う。
隣に大きな屋敷があるので匂いなどは気にしなくてもいいのかと聞いてみたがどうやら長い間空き家のようで気にしなくていいようだ。
「あんなにお肉あるんだから野菜なんていらないのに」
そう言ってる子供もいるが俺は野菜も食べたい。
肉は嫌だという気持ちは無くなったが少し飽きているのには変わりがない。
どっちにしてもメインは肉だ。
次々と焼き始めてみんなが口に入れる。
「何これ?美味しい!」
「こんなに美味しいお肉初めて!」
今まで遠慮してか俺にあまり話してこなかった犬の獣人の男の子のアレックスと、ヒョウの獣人の女の子メアリーが声を上げたのは嬉しかった。
美味しい肉は正義だ。
メアリーは3歳ぐらいか8人の中で1番小さい。
もう1人、人族のディーネという女の子は俺がというか人見知りが激しいようで離れたところにいるがそれでも肉は食べてくれている。
リンを思い出して懐かしくなる。
「本当に美味しい、これ何の肉なの?」
オリビアにも評価が高かったようだ。
「何だったかな、ドラゴンだったかな」
そう言うと笑いが起こった。
「ドラゴンを狩れるわけないだろ」
「お姉ちゃんが美人だからって格好いいところ見せようとしたんじゃないの~」
口々に言われる、言っていいのかわからなかったので少しごまかした言い方をしたがやっぱりドラゴンを狩ったことは言わない方が正解のようだ。
「ドラゴン狩ったって言ったら格好いいじゃんか」
冗談めかして言っておく。
「狩れるわけないんだから嘘なのバレバレじゃん」
ルゼルに言われてみんなに笑われた。
食べるペースが落ち着いた頃には10㎏ほどの肉が無くなっていた。
みんなよく食べる。
寮のみんなもそうだった、獣人の食欲はすごいのかもしれない。
ペースは落ちてもまだ食べ続けていると、1人の背の低い長い白髪の老婆がやってきた。
「おやおや、何の騒ぎだい?いい匂いもして」
「院長!お帰りなさい」
「お婆ちゃん、お帰り~!」
オリビアと子供たちが出迎える。
「食料を買うのに金策に行ってたのに、どうしたんだい、この肉は?」
「この人が寄付してくれたんです」
オリビアに紹介される。
「ティルって言います、勝手に誘ってしまってすいません」
お礼のつもりだったのでこれでみんなが怒られたりしたら困る。
「あぁ、昨日拾った子だね。ん?あんたが?捨てられたんじゃなかったのかい?この肉はどうしたんだい?」
だいたいの説明をして改めてお礼を言った。
昨日寝ているときに俺を見ていたので知らないわけではなさそうだ。
一緒に食べませんかと誘うが興味は肉よりもマジックバッグのようだ。
「なるほどね、その巾着がマジックバッグってわけかい。その大きさにこれだけの量だとまだ知らないことがあるみたいだねえ」
巾着の入り口は小さいのでこれだけの大きさの肉を入れておけるはずがないことをすぐに指摘される。
「まぁいいよ、誰でも言いたくないこともあるだろうしね。私はいいから子供たちに食べさせてやっておくれ。オリビアにもね、その子もみんなに分けて普段あんまり食べてないからね」
そう言って自分はいいと言うあたりこの人も子供たちに分けているのだろう。
「まだまだありますしどうぞ食べてください、昨日助けていただいたお礼でもあるので」
「お婆ちゃん、俺たちもうお腹いっぱいだよ」
「お婆ちゃんも食べなよ~」
子供たちもそう言っている。
お互い助け合ってきたのだろう。
「この子たちがお腹いっぱいになるぐらい食べた上でまだ入っているってのかい、相当な容量だね。獣人たちが懐いているし、なるほどねえ、いいかもしれないね」
小さな声で言っている。
俺に言ったわけではないようだ。
「それじゃあせっかくだし、私もいただこうかね」
そう言って串を掴み肉を口に入れた。
「ほう、これはなかなかの・・・何の肉だい・・・って、これは、まさか・・・!?」
1口食べた院長が睨んでいる。
何かまずかったか、老人には脂がのりすぎていたか?
何切れかゆっくりと味わって食べた上でジッと目を合わせて言われた。
「あんた、ティルって言ったね?何を企んでるんだい?」
企むと言われても困る。
「この町に来たばかりなので何もわからないから色々教えて貰いたいとは思ってましたが」
子供たちはお腹いっぱいになったのか腹ごなしに庭で追いかけっこなどをはじめている。
残っているのは俺と院長とオリビアだけだ。
子供たちがいなくなるのを待っていたのかもしれない。
「ふぅん、そうかい、こんなところでドラゴンの肉にありつけるなんて思ってもいなかったからねえ」
「ブフォッ!!」
オリビアが飲んでいた水を吐き出す。
バレたのか、食べてわかるなんて凄いな。
オリビアは本当にドラゴンだとは思ってもいなかったのだろう。
「手に入れたんですけど食べたら美味しかったので。どうせなら皆に食べて貰いたかったんです。あまり詳しくないんですけどやっぱりお高いんですか?」
「本気で価値もわかってないようだね・・・嘘でもなさそうだし。そうさね、この一切れで・・・オリビアぐらいなら買えるかねえ」
「ブフォッ!!・・・ゴホッ、ゴホッ・・・」
今度は俺が吐き出した。
オリビアの値段なんて想像もつかないが肉一切れで人間が買えると言うのだ。
「あの・・・人間が買えるなんて凄い値段なのはわかりますが正確にどれぐらいの値段かは全くわからないですが・・・」
「そうだね、奴隷になったら安くなるよ、人扱いじゃないからね。200~300万ゼゼぐらいかね。獣人なら半額、孤児とかならさらに割引ってとこかねえ」
「これ1口で・・・私が買える・・・」
オリビアが串に刺さった肉を見ている。
金額を知ったら味がわからなくなりそうだ。
だが、前世でいう2~300万円で人の命が買える。
この世界の命は安い。
いや、そうじゃない、元の世界でも少し前まで身売りや口減らしなどは行われていたし俺のいた時代でも子供が売られたりもしているというのは聞いたことがある。
どこでも同じだ、身分の低い人間の命は安いのだ。
俺も同じ、クソみたいな話だ。
「じゃあ、売ってお金で寄付した方がよかったですかね?」
「ほう、返せとは言わんのかねえ」
「言わないですよ、そんなこと」
「まあ、売ろうとしても売れんじゃろうがねえ」
「売れないんですか?」
どういう事だろう?
「誰がこの肉をドラゴンの肉だって信じて買ってくれるのかねえ?私は数年前に1度食べただけで覚えてたが、食べた者もほとんどいないだろうしねえ」
「なるほど、信じてもらえなさそうですね」
「食べたことのある者もいるじゃろうが信用できる店を知っておるかねえ?食べたことがあると言う者にこれは違うと言われたらどうしようもないじゃろ?」
それはそうだ、初めて来た町で信用できる店など知らない。
「それにね、あんたのような子供が持ち込んだら入手先を問い詰められて、下手したら殺されることもあるだろうねえ」
「はい?殺されるんですか?」
何で肉を売ろうとしただけで殺されないといけないのか。
「まぁそれは最悪の店に持ち込んだときだけどねえ、だけどドラゴンの肉ともなればそれほどのものだということさ。売りたいのなら信用できる店を教えてやろうかい?私を信用できるならだけどねえ」
院長を信用しない訳ではないがふと気になったので聞いてみる。
「ちなみに売った肉はどうなるんですか?」
「そうだねえ、貴族の物になるか王家の物になるか、大きな商会に売ったらそうなるだろうねえ。希少な食品だ、身分の高い人との顔つなぎにはピッタリだからねえ」
ドラゴンの肉とはその希少さと美味しさが有名で、身分の上の者になるほど「死ぬまでに1度は食べたい」みたいな扱いになっているそうだ。
ドラゴンの肉を食べたことがある、というだけでそれを手に入れることができるというステータスもあり、一目置かれるらしい。
そんなくだらないことのために、と思ってしまう。
「じゃあいいです、自分で消費します。みんなも美味しいって言ってくれたしまたみんなで食べましょう」
「えっ?そんな、さすがにそれを知ったら食べられないわよ、私より高いのよ、食べたら私の値段も上がるのかしら?いや、でもなくなっちゃうんだし・・・」
串を持ったまま肉を見ていたオリビアが言った。
自分が買える値段の肉と聞いて動揺しているようだ、訳のわからない思考になっている。
「だって売るだけで危ないんだよ、食べた方がいいよ。貴族に売るつもりもないしね」
「ほう、貴族は嫌いかい?うまく立ち回れば貴族に顔を売ることもできるかもしれないよ?」
「大っ嫌いですね。ここに来る前に住んでいたところでも獣人がいたのですがひどい差別を受けていました。国主導で差別しているという話も聞きますから国も嫌いです」
「はっはっは、なるほどねえ。だけどね、思うのはいいけど町中とかで言うんじゃないよ。それだけで不敬罪で捕まっちまうからねえ」
「あ・・・はい、そうですね、ありがとうございます」
わかっているのだがつい言ってしまう。
院長のように言ってくれることには感謝しないといけない。
「ところで、さっき見たお前さんのマジックバッグ、容量はどうなってるんだい?それに取り出し方もおかしいねえ」
簡単に教えてはいけないのかも知れないがここの人は信用できる気がする。
ドラゴンの肉にしたってそこまで価値があると知らなかったのだ、いくらでもだまそうと思えばだませただろう。
俺もオリビアのことは言えないが嘘をつくより正直に話してみよう。
そう思い素直に答えた。
容量は500㎏ほど入る、出し入れは『転移』の魔法でしている、そんなことをだ。
「なるほどねえ、それでかい。500㎏なら5㎝クラスの魔石かないと作れないねえ、私も存在を数点しか知らないレベルだよ。なのに入り口の小ささ、もったいないはずなのにそんな使い方ができるなんてねえ」
5センチクラスの魔石、大型の魔物からなら取れた。
ライオンの魔物、サイの魔物など、それなりに森の奥に行かないと出会わない魔物だ。
数匹倒して魔石も持っているがかなり手に入れるのは難しいという。
『転移』で森の奥に万全の状態で入れるという有利さはあるがたぶん魔物相手では俺はかなり強い方だと思う。
実力のみで倒そうとしても無理だし敵を先に見つけて不意打ち、というスキル頼みの戦い方なので自慢できたものではないが。
せめて魔法の剣を使った形で大型の魔物も倒せるようになりたいものだ。
入り口の小さなマジックバッグとなると使い道は限られる。
一番の用途は水を持って行けることだが、水魔法の使い手を連れて行けばいい、ということだ。
袋の大きさとマジックバッグを作る苦労は変わらないそうで、それなら入り口の大きな袋をマジックバッグにするのが当然だろう。
なのでこの小さな巾着に5㎝クラスの魔石でマジックバッグにするなんてことは普通ならあり得ないという。
だけどこれは元々持っていたもので、魔法の剣の鞘、みたいなもの、愛着もわいているし俺が使うには目立たないしこの方がいいだろう。
5㎝クラスの魔石を手に入れるのは難しいがたまに上級貴族や大商人が持っているのを見かけるという。
これが10㎝クラスになると世界で10個も確認されていない。
1度10㎝クラスでマジックバッグを作った国があった。
5トンほど入るものができた。
袋の入り口が直径1mほど、破れたらだめになるので厚みもそれなりに。
そのマジックバッグに武器や防具を入れて戦争中の隣国に攻め入った。
だが運んでいる最中に敵の炎の魔法使いに燃やされて無くなったという。
その炎の魔法使いがこの世界の10傑と言われている強者うちの一人、『炎帝』と呼ばれる者だった。
この炎帝が別の10㎝クラスの魔石の所持者で自分の魔法を強化していると言われている。
このことがあってから10㎝クラスの魔石なら魔法使いを強化した方がいいと言われるようになった。
そんな話を院長に聞いている。
「マジックバッグを作るのにはね、少し特殊な過程がいるんだよ。魔石でマジックバッグを作る前に元の袋に時空間魔法の属性を付与しなくてはならない、それには半分の大きさの魔石が必要なんだよねえ。10㎝クラスの魔石でマジックバッグを作るなら別に5㎝クラスの魔石がいる。あまり効率がよくないのさ」
「へぇ~、なるほど、詳しいですね」
それぐらいの魔石ならあるし戦争をするわけでもない。
マジックバッグが別に作れるのなら作ってほしいな。
時空間魔法の使い手でスキル『マジックバッグ作成』を持っている人にしか作れない。
貴重だと言うぐらいだからそのへんにいるわけではないだろう。
そんなことを考えていたら院長がにやっと笑って言う。
「『転移』なんていう珍しい魔法をバラしてドラゴンの肉を惜しげも無く振る舞い、獣人のために怒ることができる。そんな馬鹿な人間に少しでも協力してやりたくなってねえ。私は空間魔法の使い手で特殊魔法『マジックバッグ』を使えるんだよねえ。マジックバッグの使い勝手の良さも知ってるだろ?他にも作って欲しかったら魔石を持ってきたら作ってやるけどねえ、どうだい?」
そういえばオリビアが院長は稀少な特殊魔法の使い手だと言っていた、このことだったのか。
「マジックバッグの使い勝手はみんな知ってるんだけどねえ。大きな魔石が2個いるからなかなか作れるような奴はいないんだよ。ドラゴンの肉を持ってこれるならそれなりの強さはあるんだろう?どうやって手に入れたのか知らないが手に入れられるだけで有望ってもんさね。欲しくなったら言ってきな」
そう言ってくれるがそのまま甘えていいのだろうか?
何か裏があったりしないのだろうか?
この世界、そこまで甘くないことは今までの経験で知っている。
「そんな重要なことそんなに簡単に俺に言っていいんですか?」
「あっはっは、不思議かい?実はそこのオリビア、聖の魔法の使い手なのは聞いたんだろ?聖の魔法の使い手は話をしていると相手の嘘がなんとなくわかるんだよ。聖の魔法のことも聖水を作れることも聞いたんだろ?それがこっちが信用する理由だね。もっともさっき言った理由も嘘じゃないけどねえ」
なるほど、そういうものか。
オリビアも簡単に俺に内緒だと言いながら秘密を話すので大丈夫かと思ってたのだがそんな理由があったとは。
そう言われたら俺もこの町で信用できる人間なんていないのだ。
それなら俺を信用してくれる人を俺も信用しよう。
何でも院長は違う国で冒険者をしていたという。
特殊魔法『マジックバッグ作成』のことは内緒にしていたのだが国にバレてしまい強引な国からの勧誘がしつこく、断っていると命も危険なことになってきた。
そこで冒険者を引退して逃げるように国をでたという。
この国で冒険者時代の知人に頼まれてたまにマジックバッグを作って生活費の足しにしている。
その知人が窓口になってくれて他にスキルはバラしていないそうだ。
「と言っても年に1、2回程度だけどねえ。2㎝クラス以下のマジックバッグは容量が少なすぎて役に立たないからねえ」
魔石の大きさによって容量が跳ね上がる。
1㎝クラスの魔石なら容量は1㎏ほどにしかならないそうだ。
2㎝クラスで5㎏ほどでなんとか用途によっては使える、実用的なのは3㎝クラスからだという。
「ありがとうございます。俺もここの皆さんを信用します。マジックバッグなんですが、この巾着の容量を増やすとかはできるのですか?」
「その巾着かい?ちょっと見せてみな。属性はついてるから魔石は1つでいいが、それ以上にするとなると10㎝クラスの魔石とかになるから現実味はないけどねえ」
そう言って巾着を調べてくれている。
少しの間観察して、顔を上げた。
「これはなかなかの物だねえ、容量の他に時間停止もついてるね。10㎝クラス以上の代物だよ、これを元にして性能を上げるとなったら20㎝クラス以上の魔石がいるね。さすがにちょっと無理だろうねえ」
20㎝以上、今持っている中で1番大きい魔石はドラゴンの魔石の30㎝クラスだ。
「それ以上の魔石を持ってきたらいけますか?」
「そりゃあできるが・・・まさか持ってたりしないだろう?」
「えっと、あるんです、ちょっと待っててもらえますか?」
そう言って『転移』で『別荘』に行く。
信用すると決めたので目の前でと堂々と。
『別荘』でドラゴンの魔石の他にも大きめの魔石をいくつか持っていく。
戻ってくると院長は驚いていた。
「『転移』で自分まで転移できるのかい?そこまでの使い手はなかなかいないよ」
「もちろん魔石のおかげですけどね。俺の元々の『転移』ではほんの少しの範囲を転移させられるだけですから」
そう言って持ってきた魔石を院長の前に出す。
ドラゴンの30㎝クラス、後は10㎝クラスと5㎝クラスが4個ずつ。
「なっ・・・これ1つでも希少だというのに何じゃ、この量は!おまけにこの30㎝クラス、こんなもの初めて見たよ・・・驚くよりあきれるねえ」
「マジックバッグは容量が大きいほど便利ですよね、なので一番大きい物を持ってきました」
「こんな物どこで・・・と問いただしたいがこういうものは聞いたらだめなものだしねえ、実際に目の前にあるっていう事実だけでいいかねえ。本当にいいんだね?このでかいのを売ったら町ごと買えるぐらいの値段になるけどねえ」
「別に町は欲しくないのでいいです。マジックバッグの容量が増えた方が嬉しいです」
「こんな物で作ったことがないのでどうなるかわからないがやってみるかねえ」
今ここでしてくれるそうだ。
巾着の上に30㎝の魔石を置く。
院長が魔力を注ぎ込む。
1分ほどもすると院長の額から汗が落ちてくる。
「ちょっと・・・不味いかもねえ、想像以上の魔力が必要みたいだねえ・・・私の魔力では足りないみたいだねえ・・・」
「院長!手を離して!」
オリビアが叫ぶ。
体の中の魔力が無くなったら命に関わる。
「それがねえ・・・魔力が体の奥から吸い込まれていって、離れられないみたいだねえ・・・すまないねえ、ティル」
魔石が魔力を吸い取る。
いきなりの事態に何をしていいのかわからない。
魔力が足りない、手を動かせない、院長を魔石から離さないと危ない。
「魔石を壊します!」
手を上げて『消去』で魔石を切ろうとする。
「だめじゃ!こんなことでこの30㎝クラスを無駄にできん!」
「それでも院長の体の方が大事です!」
「ティルくんお願い!何とかして魔石のお金は返すから院長を助けて!」
「馬鹿言うでない!到底払えるわけないしこの魔石の貴重さをわかってないのかね!」
「だって、だって・・・ティルくん・・・」
オリビアがこっちを見て目で語りかけてくる。
もちろん俺も魔石より院長の方が大事だ。
「あ・・・!」
あることを思いついて上げた手を院長に向ける。
「ティルくん、何を・・・?どうして手が院長に向かってるの?」
「ああ、いいさねえ。魔石を壊すより私の手を切るなりした方がマシさねえ」
「嘘、ティルくん、そんなこと・・・」
「違いますよ!そんな怖いことしないですって!」
「じゃあ何をするつもりさねえ・・・ん?」
「どうですか?体調は?」
「魔力が入ってくるさねえ・・・これなら何とかなるさねえ。ちょっと集中するよ」
それから5分ほど、俺とオリビアが黙って見ていると院長の手が下がった。
「ふぅ・・・何とか成功したよ」
「ティルくん、何がどうなってるの・・・?」
「その子はね、私に魔力を渡したんだよ」
「魔力を渡す?そんなことできるんですか?」
「普通はできないさねえ。だけどこの子は自分の魔力を『転移』で私に移したのさねえ。全く、そんなことよく考えついたもんさねえ」
院長の言ったとおり魔力を転移させた。
できるかどうかはわからなかったしぶっつけ本番だったが何とかうまくいったようだ。
属性のついたバッグなら容量を決める魔石の魔力を使って、合成するきっかけ程度の魔力だけでマジックバッグを作れるらしい。
以前10㎝クラスの魔石でマジックバッグを作ったときも余裕だったそうだ。
何でもマジックバッグにするために最後の一押しの魔力かいるという。
例えば坂道の上に丸い岩がある。
下に落とせば成功。
それを押すための力が最後の一押しだ。
押しさせすれば後は転がって下までつく。
「1㎏の岩なら簡単に押せるじゃろう、30㎏でも押して転がすぐらいはできるさねえ。30㎏が10㎝クラスの魔石だとすると今回は1000㎏の岩だった、ってところかねえ。100㎏でも押せる魔力はあるつもりだったけど全然だったねえ」
魔石は大きくなるごとに魔力も跳ね上がる。
10㎝クラスと30㎝クラスでは全くの別物だったみたいだ。
「30㎝クラスは格が違ったねえ。他の魔石もマジックバッグにするんなら続けてするつもりだったけどちょっと無理そうだから魔力が回復してからでいいかい?」
「もちろんです、手間がかからないなら作ってもらえたらと思ったのですがいいのですか?」
「惜しげも無くこんな大量、マジックバッグにするというのも『マジックバッグ』の使い手としたら嬉しいしねえ。30㎝クラスなんて国に渡したら武器にするに決まってるからねえ」
「ティルくんは魔力切れは大丈夫なの?」
オリビアの言葉に体を動かしてみるが変わったところは無い。
「大丈夫みたいだよ」
「全く、私の総量の10倍近い魔力を渡したというのにねえ。なんて魔力量だい。たまにいるんだよ、この世界で10傑とか言われてる奴らは全員そんな感じって言うしねえ」
10傑、以前にも何度か耳にしたことがあるこの世界の強さでは最高峰と言われているSSSランクの10人。
「私が見たのは『炎帝』って呼ばれてる男だったさねえ。直径50㎝ほどの炎の塊を次々と放って。あれが相手ならどうしようも無いだろうさねえ。普通の人間なら1つ作り出す魔力も無いからねえ」
離れた所から炎を撃たれ、気付かなければ即死だ。
そんな相手と戦うなんて考えたくも無い。
と言うか俺とは住む世界の違う話だ、俺の目標はBランクの冒険者で一人前になることだ。
SSSランクなんて関わるはずがない。
「まぁ、これで容量は格段に増えたはずさねえ。私も初めてなんで容量の想像もつかないけどねえ。自分で検証することさねえ」
「わかりました、ありがとうございます」
残りの魔石も渡し、後日作ってもらうことになった。
まず付与する鞄すらいまはもっていない。
作り終えるまで、というか魔力がきっちりと回復するまで1週間かかる。
俺が無理矢理魔力を転移したので多分回復が遅いだろうとのことだ。
その間はここに泊めてくれるという。
俺も行くところもないし助かる。
1週間の間にこの町のことも教えてくれるというので甘えることにした。
お礼にと手持ちの肉を寄付したがドラゴンの肉は断られた。
これがあることがバレたらどんなトラブルに巻き込まれるかわからないと言うのが理由らしい。
院長があのスキルだし他の肉は院長のマジックバッグに隠して保存しておく。
そうやって隠しておけるのにドラゴンの肉はいらないと言うのだからよっぽどなのかもしれない。
こうして何とか町にたどり着いて泊まるところも決まった。
明日はオリビアが町を案内してくれると言うし楽しみだ。
寝かせられていた部屋をそのまま俺が使っていいというのでその部屋に寝転がる。
久しぶりに警戒せずに眠れる。
昨日は寝落ちしたのでそこまでの意識は無かったのだ。
改めて、2度と森の中であんな野営はしない、と心に誓って眠りに落ちた。




