エピソード4
「これで、終わる」
鎌田義昭はそう呟くと蝋燭に火をつけて管理室へと戻った。
心臓がバクバクと言っている。
どれくらいの爆発かわからない。
死ぬかもしれない。
鎌田義昭は写真を出すと笑みを浮かべた。
「……それでもいいか」
彼はそう呟いて俯いた。
その時、音が響いて身体を震わせた。
火災報知器が反応してけたたましいベルの音が響き鎌田義昭は消防へと電話を入れたのである。
爆弾の威力は思った以上に強くはなかった。
ただあの男がいた部屋は無残な状態となっていたのである。
鎌田義昭は消火が終わると駆け付けた鑑識が室内を調べている中で警察から事情聴取を受けた。
彼は運ばれている戸上雄三を横目に
「それがこちらも防犯カメラを見ているだけで詳しくは」
と告げた。
部屋の中はまだきな臭くホテルの周囲には野次馬も多い、ラブホテルを経営している会社の取締役も駆けつけてきていた。
そこに年若い青年ときりっとした男性が運ばれていく戸上雄三に両手を合わせて対面し、その後に部屋の中を見回した。
後から現れた男性は二人を見ると
「おわっ……米倉警部」
と言うと青年の方を睨み
「また来ているのか」
とぼやいた。
青年はニコッと笑うと
「俺、もう犯人分かった」
とさっぱりと告げた。
鎌田義昭は一瞬ドキッとしたものの
「あ、あの……実は」
と言葉を紡いだ。
「実はこの部屋から若い女性が先に一人出ているんですが防犯カメラに写っていて」
それに後から現れた男性は警察手帳を見せ
「ご協力ありがとうございます」
と言い
「防犯カメラ映像を見せてもらえますか?」
と告げた。
手帳には『参内満男』と書かれている。
もう一人の男性も手帳を出して
「俺も同行するか」
と参内満男を見た。
こちらの男の手帳には『米倉隆二』と書かれていた。
青年は「ふ~ん」と言うと
「でもオジサンが犯人なんだよなぁ。どうして戸上雄三産を殺したの?」
と鎌田義昭を見た。
鎌田義昭は目を見開き
「え?」
と青年を凝視した。
戸上雄三を見て、部屋を見て回っただけで……何がわかったんだ?
そう鎌田義昭は心音をドックンと高鳴らせると
「いや、私は……していませんよ。というかする理由もありませんし」
とハハハと乾いた笑いを零した。
参内満男は青年をチョップすると
「本当に、お前は……短絡的で……少しは考えろ」
と言い
「迷探偵は口出しするな」
とビシッと怒った。
鎌田義昭は硬直しそうな表情を何とか堪えて
「……名探偵……ですか」
とチラリと白羽根と呼ばれた青年を横目で見た。
白羽根圭一はまんざらでもないように
「だから、褒めなくてもちゃんと教えてるじゃないですか」
と答えた。
が、参内満男は息を吐きだして
「褒めてねぇって」
とぼやき
「放置だ放置」
と鎌田義昭の方を見ると
「防犯カメラの映像はどちらで?」
と告げた。
それに鎌田義昭は慌てて
「あ、こちらです」
と三人を連れて鑑識や消防が火元の状況などを調べている中を管理室へと案内した。
防犯カメラにはあの少女との映像だけが映っている。
己の映像は映っていない。
だから。
だから。
きっとバレるはずがない。
まして、爆弾は彼女が持ち込んだものなのだ。
彼女自身が言い逃れはできないだろう。
鎌田義昭は心の中でそう呟きながら管理室のコンソールから問題の防犯カメラの映像を呼び出すと再生した。
戸上雄三と少女がチェックインをして駐車場に車を止め、部屋へ向かうところが映っている。
15分後に彼女だけが出てきて去っていくところもきっちり映り込んでいた。
その後は爆発するまで何も映ってはいない。
廊下の姿がまるで静止画のように映っているだけである。
鎌田義昭は心の中でヒタリと汗を浮かべながら口元に小さく笑みを作った。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。