表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷探偵  作者: 如月いさみ
8/39

エピソード4

この世界は矛盾だらけだと思っていた。

 

 鎌田義昭は一枚の写真を見ていた。

 写真には笑顔でピースをする自分と息子が映っていた。

 

 息子は3年前に死んだ。

 文京の複合施設の男子トイレ爆破事件に巻き込まれて死んだ。

 

 15歳だった。

 

 犯人は自殺した。

 唆した男は無罪だった。

 

 戸上雄三と言う男だ。

 

 何故?

 何故?

 戸上雄三が『俺はちゃんと冗談だと言いました』と言ったら許されたのだ。

 

 鎌田義昭は写真をポケットに入れると、目の前に並ぶ防犯カメラの映像を眺めながら息を吐きだした。

「だからと言って何もできない」

 

 そう呟き、見ていた防犯カメラの一つを見て目を見開いた。

 それは女子高生らしい少女と一人の男性が歩いている画面であった。

 

 鎌田義昭には二人とも見覚えのある人物であった。

「あれは……」

 腰を浮かして息を飲み込んだ。

 

 まるで時が止まったように彼はピクリとも動かなかった。

 15分ほどして少女だけが急ぎ足で部屋から出てきた。

 

 そして、そのままこのラブホテルを出て行ったのだ。

 

 鎌田義昭は視線をせわしく動かしてどうしようか迷った。

 少女は3年前に息子が死んだと同じように爆発に巻き込まれて亡くなった男性の妹だった。

 

 同行していた男は鎌田義昭がずっと胸の中でモヤモヤと憤りを感じていた戸上雄三だった。

 何をしたか……自ずと想像できた。

 

 だが。

 だが。

 あんな少女が?

 

 まさか。

 まさか。

 自分が想像しているようなことをするだろうか。

 

 鎌田義昭は暫く悩んだものの急ぎ足で管理室を出た。

 この仕事を始めて1年だ。

 どうすれば防犯カメラに映らないようにできるか分かっている。

 

 鎌田義昭はカメラを避けながら少女と戸上雄三が入った部屋に足を踏み入れた。

 

 中で戸上雄三が手足を縛られて眠っていた。

 彼の前には一枚の紙が置かれていた。

 

 鎌田義昭は紙を手にすると

「暗号? 何故こんなものを?」

 と呟き少し考えた。

 

 そして、紙の前に置かれたカバンを開けて目を見開いた。

 爆弾であった。

 

 タイマーは65を過ぎたところである。

「まさか」

 

 鎌田義昭は紙をポケットに入れて後退った。

 が、心がざわめいた。

 ここで自分が恨みを晴らしても……すべての罪は彼女が背負う。

 

 そうだ。

 そうなんだ。

 

 鎌田義昭は息を飲み込んで警棒を手に一歩二歩と足を踏み出した。

 その時、戸上雄三はうめき声をあげて薄目を開けたのである。

 

 後ろで両手を縛られ、両足も縛られて動けない状態であった。

「な! なんだお前は!!」

 

 鎌田義昭は震えながら

「お、お前がくだらないことをあの男に言ったせいで俺の息子は15歳で死んだんだ!!」

 と叫んだ。

「お前のせいだ!!」

 

 戸上雄三はハッとして蒼褪めると

「ち、ちが! 確かに俺は命令した。あのトレイにあの時間に爆弾を仕掛けるように言った! だがそれはお前の息子を殺すためじゃない!」

 と首を振って訴えた。

 

 鎌田義昭は目を見開くと

「え?」

 と声をこぼした。

 

 爆破事件を唆したのは冗談だと警察に言ったはずじゃないのか?

 だが。

 だが。

 意味が分からなかった。

 

 鎌田義昭は警棒を手に

「どういうことだ? お前は警察には冗談だといったじゃないか」

 と聞いた。

 

 戸上雄三はそれに視線を動かして

「そ、れは……いや……待ってくれ! それは……あいつが全部言うといったから……そうだ! あの野郎が友人とやらに唆されて警察に言うなんて馬鹿なことをほざいたからだ」

 と慌てて言い繕い始めた。

 

 ああ、そうなんだ。

 そう言うことなんだ。


 鎌田義昭の中に確信が生まれた。

 きっとこいつは爆弾を仕掛けるように本当は命令をしたんだ、と。

 

 息子が死んだのはやはりこいつのせいなのだ。

 こいつのせいで息子は死んだのだ。

 

 鎌田義昭は警棒を振り上げると「貴様が!!」と怒鳴ると何かを言っている戸上雄三の頭に振り下ろした。

 

 何故。

 何故。

 こんな男のウソを警察はあっさり信じたのだ。

 

 鎌田義昭は気が済むまで何度も何度も警棒を振り下ろした後にチラリとカバンの中の爆弾を見て目を細めた。

 

 爆弾のタイマーが0を示したまま止まっていたのである。

 鎌田義昭は冷静になると慌てて爆弾を恐る恐る触り全く爆発する気配がないことに気づいた。

 

 つまり失敗作なのだ。

 

 だが、爆発しなければ……自分のしたことがばれる。

 鎌田義昭はちらりと戸上雄三を見て顔を背けると踵を返して部屋を出た。

 

 他の客の残りの時間を確認し新しい客が入らないように営業終了時と同じように駐車場へ入るバーを上がらなくした。

 そして、客が全員出ていくと近くの100円均一の店へ行って蝋燭を買い、ホテルへと慌てて戻ると車のオイルにタオルを湿らせて爆弾への導火線にした。

 


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ