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迷探偵  作者: 如月いさみ
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エピソード3

 何時も優しくて可愛がってくれた兄が好きだった。

 大好きだった。


 本当に。

 本当に大切な人だったのだ。

 

 中島皆実は男の腕に抱き着きながら

「そうなの。私ね、実はブラコンだったんだよ」

 とケタケタと笑って告げた。

 

 男は目がパッチリとした可愛らしい女子高校生に鼻の下を伸ばしながら

「へー、それで今まで彼氏歴がなかったのか」

 と言い、駐車場に止めていた車の戸を開けた。

 

 中島皆実は助手席に座りシートベルトをするとフロントガラスに浮かぶ紅い紅い夕刻の空を見上げた。

 

 立ち並ぶビルから見える四角い夕空。

 その色が周囲の全てを染めている。

 

 彼女は運転席に座った男を見るとにっこり笑って

「そうなの、それでいい人いないかなぁってマッチングアプリで探していたんですー。あ、戸上さん。お願いしまーす」

 と告げた。

 

 戸上雄三は彼女の笑顔に笑顔で返し、ギアを入れるとアクセルを踏んだ。

 

 彼はハンドルを切りながら駐車場から車を出すと少し広い道路をネオンが明るい繁華街に向かって走らせた。

 

 中島皆実は微笑みながら膝の上に乗せている両手をギュっと握りしめ

「お兄ちゃん……私を守ってね」

 と心で呟いた。

 

 兄が好きだった。

 3歳上の兄は優しくていつも自分を可愛がってくれた。

 

 父の期待も大きかった。

 母の期待も大きかった。

 

 なのに。

 なのに。

 

 中島皆実は戸上雄三を横目に

「……3年前に死んだの。くだらない男たちの言い合いから起きた爆破事件で」

 と小さく独り言のように呟いた。

 

 戸上雄三は一瞬何を言われたかわからず前を見つめたまま

「皆実ちゃん、何か言ったー?」

 と聞いた。

 

 中島皆実は首を振ると

「ううん。ちょっとドキドキしてるだけでーす」

 とにっこり笑った。

 

 戸上雄三は微笑むと一軒の派手なラブホテルの中に車を入れながら

「いやになった?」

 と聞いた。

 

 彼女は笑って

「私、戸上さん信じてるから大丈夫―」

 と明るく答えた。

 

 戸上雄三はアハハと笑って車でチェックインをすると指定の場所に車を入れてホテルの中へと入っていった。

 

 車に乗ったままチェックインをしてそのまま誰にも会わずに部屋へと移動できる近代的なラブホテルである。

 もちろん、防犯カメラが設置されており常時スタッフが監視しているのだが、客からは分からないようになっている。

 

 中島皆実は戸上雄三の後ろについてエレベーターで3階まで上がると部屋へと入った。

 

 ミラーボールが天井で回り綺麗なベッドが中央にドーンとあった。

 中島皆実は一瞬「すごっ」と心で思いつつも、先に戸上雄三が入ると覚悟を決めて足を踏み入れた。

 

 そして少々の緊張感を伴いながらカバンを入口近くに置いて、部屋の隅にあった冷蔵庫を開けた。

 中には水のペットボトルが二本、缶ビールが二本、他にもジュースが数本あった。

 

 彼女はそれを見て

「戸上さん、ビール飲みませんかー?」

 と聞いた。

 

 戸上雄三はそれに

「あ、ああ。良いね。悪くないね」

 と告げた。

 

 中島皆実はポケットに手を入れて直ぐに缶を開けるとビールを戸上雄三に渡した。

「どうぞ」

 

 そして、自分は水のペットボトルを手に

「いっただきまーす」

 とごくごくと飲んだ。

 それを見た戸上雄三もビールをごくごくと飲んだ。

 

 彼女は息を吐きだすと着ていた服の前ボタンをはずし始めた。

「初めてなので優しくしてくださいね」

 誘うような艶を含んだ瞳で戸上雄三を見て口角を上げた。

 

 戸上雄三は微笑んで彼女の肩を掴むと唇を重ねた。

「もちろん」

 

 彼女は微笑んで

「戸上さん」

 とベッドへと移動して縁に座った。

 

 戸上雄三は目を擦りながら目を細め

「んー」

 と小さく呟き、何度か瞬きすると彼女の肩にもたれるように前のめりに倒れた。

 

 中島皆実は先ほどまでの笑顔を消し去ると急いで浴室へ行くとタオルを手に戻り、戸上雄三の足と手を括り、カバンを彼の前に持ってくると一枚の紙と置いた。


 憎しみが込み上がる。

 ずっと。

 ずっと。

 心の中に秘めていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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