本編 宝石
参内満男は川口亜美のマンションに向かいながら携帯に出ると
「米倉警部、何かわかりましたか?」
と聞いた。
米倉隆二は頷くと
「ああ、どうやら塩沼由子も麻薬の売買をしていたみたいだな」
と言い
「こっちに鑑識を向かわせてくれ」
ブツとか海外とやり取りをしているメールとか色々出てきた
「それから福山美鈴のところへ向かうから彼女の携帯も持たせてくれ」
と告げた。
参内満男は頷くと
「わかりました」
携帯は鑑識が持っているのでもって向かわせます
と答えた。
米倉隆二は鑑識班と一課の刑事が来るまで待つと宝石の袋と交換に携帯を受け取り白羽根圭一に渡した。
白羽根圭一は携帯を手にすると
「先に携帯会社へ行ってもらえるかな?」
と告げた。
米倉隆二は頷いて
「通話記録か」
彼女と関係のある第三者だな
と告げた。
白羽根圭一は頷いた。
二人はマンションを出ると福山美鈴が契約している携帯会社へと向かった。
そこで通話記録を調べてから彼女の自宅へと向かった。
彼女の既に連絡が言っており、両親の嘆きは大きかった。
米倉隆二も白羽根圭一も福山美鈴が犯人だと思っているが、それを伝えることはできなかった。
ただ、白羽根圭一は2階建ての1階にあるリビングで福山美鈴の母親と対面し
「お辛いときに申し訳ないんですが、美鈴さんが落ち込まれていた事とはありませんか?」
仕事関係などで
と聞いた。
福山美鈴が覚悟の殺人と自殺をしたとすればその理由があるはずなのである。
それに母親は泣きながら
「そうですわね、やはり少し前に同僚の友人が自殺したというのはかなり堪えていたようですわ」
と告げた。
「私のせいだとか……言ってましたけど、でも、娘はいじめをしたりするような子ではなかったのでそんなことはないと励ましておりましたの」
米倉隆二はメモを取りながら、沈黙を守った。
白羽根圭一は「そう言えば」と言うと
「ご友人に夏さんと言う方……おられたと思うんですが」
と告げた。
「仲がかなり良かったんでしょうか?」
彼女は静かに笑むと
「ああ、夏ちゃんですね……加納夏ちゃんです」
それはもう幼稚園から大学までずっと仲良くしていましたからね
「でも会社に入ってから音信不通になったみたいで夏ちゃんもこちらに遊びに来なくなりましたわ」
夏ちゃんが何か?
と聞いた。
白羽根圭一は首を振ると
「いえ、電話連絡はされていたみたいなので、かなり仲が良いのかなぁと気になったもので」
と告げた。
彼女は頷いて
「ええ、美鈴が一番信頼している親友でしたわ」
と答えた。
米倉隆二は白羽根圭一を横目で見た。
つまり、夏ちゃんと言われる加納夏がその第三者だと白羽根圭一が思っていることを理解したのである。
2人は母親にお悔やみの言葉を告げて福山家を出た。
白羽根圭一は米倉隆二を見ると
「あ、ちょっと話をしておきたい人がいるんだけど」
と告げた。
米倉隆二は頷いて
「どこまで送れば良い?」
と聞いた。
白羽根圭一は助手席に座りながら
「赤坂の方で」
と告げた。
そして、赤坂で白羽根圭一は降りると
「どうせ、参内さんと連絡とるんでしょ? よろしく」
と言い高層マンションに向かって歩き出した。
米倉隆二はそれを見送り携帯を手にすると参内満男に連絡を入れた。
参内満男は川口亜美のマンションを調べ終えて車に乗り込みながら着信を取り
「米倉警部、そちらは?」
と聞いた。
米倉隆二はそれに
「福山美鈴の母親の聞き取りも終えた」
話をしたいが
「どこへ向かえばいいんだ?」
と聞いた。
それに参内満男は周囲を見回して
「あー、では上野公園で落ち合いましょう」
と答えた。
米倉隆二は「了解」と答えるとアクセルを踏んで車を走らせた。
上野公園の不忍池の一角で米倉隆二は参内満男と落ち合うと塩沼由子がヤクの売人で不正に入手した宝石を海外のブローカーに売っていたことを告げた。
参内満男も川口亜美がやはりヤクの売人でマンションからブツが出たことを報告したのである。
そして、彼は
「ただ、表沙汰になっている雰囲気はありませんでしたね」
かといって会社でトラブルが起きている雰囲気もなかったみたいです
と付け加え
「今日、ヘアーサロンに予約も入れていたようですし」
と告げた。
つまり自殺する様子がなかったということである。
米倉隆二は「予約を入れておいて自殺は薄いな」と言うと福山美鈴の携帯電話の履歴を渡した。
「2年間ずっと音沙汰がなかったこの加納夏は事件当日の2時に一度だけ電話をしてきている」
福山美鈴の母親に関係を聞いたら幼稚園から会社に入るまでの大親友だったらしい
「一番信頼のできる親友だということだ」
それに参内満男は携帯電話の履歴を手に息を吐きだして
「なるほど、タイミング……ですね」
と言い
「しかし、彼女がそこにいたという物証がないのが」
と告げた。
米倉隆二は笑むと
「あのロッジに行くには車しかない」
それを調べてくれ
と言い
「ただ、車が向かった形跡が見つかっても言い逃れされる可能性がある」
その時は
と告げた。
それに参内満男は「わかりました」と答え手を振りながら
「その言葉はもし親友のためを思って彼女が手を貸していたとしたら……確かに落とす言葉になるかもしれないが」
しかし出来る人なのに迷探偵に振り回されて平気なんだろうか
とぼやいた。
空を見上げると雨がポツリポツリと降り始め、暫くすると本格的に雨が降り注ぎ始めた。
加納夏は自室の窓からその様相を見つめ、手の中の親友の遺書を両手で包み込んだ。
ニュースが流れていたので、彼女たちの遺体は見つかったのだろう。
ただ、親友の葬儀の連絡はまだなかった。
彼女は息を吐きだして
「……したことに後悔はしてない」
でも美鈴、貴女を救えなかったことは後悔してる
と告げた。
指紋も拭き取った。
きっとバレたりしていないだろう。
加納夏はそう心で呟いた。
その時、母親の声が響いた。
「夏―、お客さんよ」
彼女は一瞬息を飲み込んで部屋を出ると階段を下りて玄関の前に立ち男性を見た。
「あの……」
そう言った彼女に母親が
「あら? 美鈴ちゃんを通じた友達だって聞いたんだけど」
と告げた。
一瞬、足元から冷気が立ち上って凍り付きそうになった。
『美鈴ちゃんを通じた友達』
いまこの時点でその言葉を聞くことがどういうことか何となく予感が走ったからである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。