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迷探偵  作者: 如月いさみ
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本編 宝石

 夏は唇を噛み締めると手紙で包丁を包み、外へと出た。

 手紙に書いていることが本当なら車が裏手にあるのだ。


 木々は強さを増した風に大きく揺れギギギという音とザワザワという葉擦れの音を広げている。


 太陽の光も消え去り薄暗い闇が広がっている。


 怖い。

 怖い。

 逃げてしまいたくなる。


 でも。

 でも。

 今は逃げれない。


 夏はどこにこんな行動をとれる自分がいるのかと思いながら、道路と反対側のロッジの横手に回り車を見つけると目を細めた。


 運転席に座って動かない女性がいる。

 彼女が親友を追い詰めたのだ。

 無理やり薬漬けにして……こんなバカなことをさせたのだ。


 夏は息を飲み込むと

「美鈴の手紙本当なんだ」

 と呟き、迷ったものの意を決すると手紙に包んでいた包丁を見つめた。


 強い風が木々を揺らし、黒い雲が足早に空を流れていく。

 もうすぐ雨が降るだろう。


 夏は心を決めて戸口の指紋をハンカチでふき取り車に戻ると手紙を大切にカバンに入れてエンジンをかけて走らせた。

 先ほど来た道を戻るのではなくそのまま蛇行した山道の登坂を進み、ぽつぽつと降り出し始めた雨の中を前へ前へと進み、やがてアスファルトの道と交差するとそこから自宅へと戻った。


 ざぁざぁと雨は降る。

 先ほど抜けてきた山にも雨が激しく降り注ぎ、木々のギシギシと言う音が響いた。


 夏は泣きながら車を走らせて家に戻ると驚いて「あれ? 今日は泊まりじゃなかったの?」と言う母親に笑みを見せた。


「うん、それが雨が降ってきたから戻ってきた」

 一応電話で連絡しておいた

 そう答えて、足早に自室へと戻った。


 カバンから着替えなどを出してタンスに直し机の引き出しに手紙を入れた。

 正しかったのか。

 間違っていたのか。


 夏には分からなかった。

 けれど、悲しい親友の手紙を見て衝動的にやってしまった。


 夏は窓の向こうにシトシトと降る雨を見つめ

「全部、この雨で流れてしまえばいい」

 と呟き、息を吐きだした。


 親友の死を何時誰が見つけるのだろう?

 ほとんど車が通らない山の中のロッジ。


 もしもずっとあのままだったらどうしよう。

 

 夏はそんなことをフッと考えながら落ちていく銀の雫をただ言葉もなく見つめ続けていた。

 彼女が立ち去り、丸一日近く経って雨が止むとロッジの管理者が訪れて慌てて警察へと連絡を入れたのである。


 本来なら緑に囲まれて静寂を保つはずの山間のロッジは警察車両などが乗り入れていつになく騒がしくざわつくことになった。


 その中を少し遅れて一台の車がレンガ造りのバーベキューコンロの前に止まり、そこから2人の人物が降り立った。


 警視庁刑事部捜査一課第一係の米倉隆二と彼のお抱え探偵である白羽根圭一であった。

 2人は既に規制線が張られたロッジに足を向けた。

 が、米倉隆二は足を止めて顔を道路とは反対側のロッジの奥側に向け

「報告では奥に車があってそこに凶器を持って『自殺』した女性の遺体がある」

 と告げた。


 白羽根圭一は頷くと

「ん、じゃあ……そっちに先に行く」

 と歩き出した。

「序に関係者の情報を貰える?」


 米倉隆二は足を踏み出しながら

「亡くなったのはロッジのリビングダイニングで死んでいた福山美鈴と塩沼由子。そして、凶器を持って自殺したとみている川口亜美の3人だ」

 3人は雑貨などの輸入をしているマイチャーム輸入雑貨株式会社に勤めていた

「ただ先月にも会社の事務の女性が自宅で自殺を図っているな」

 と告げた。


 白羽根圭一は車の前に立ち手袋をすると遺体を見て

「その自殺……本当に自殺?」

 と聞いた。


 米倉隆二も手袋をして反対の助手席に回って戸を開けながら

「ああ、それは間違いない」

 明確な理由はご両親にも分からないという話だ

「ただ会社のことで思い悩んでいる節はあったらしい」

 と告げた。


 白羽根圭一は目を細めて

「なるほどー」

 と答え、置かれていた包丁と川口亜美の赤く染まる胸元を見て

「そう言えば、静かだけど参内さん来てるの?」

 いつも俺を褒めちぎってくれるけど声が聞こえないな

 と告げた。


 ……。

 ……。

 褒めちぎっているとは思わないが、と米倉隆二は思いながら

「ああ、先に来ている」

 今はロッジの中を調べている

 と告げた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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