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迷探偵  作者: 如月いさみ
33/39

エピソード6





……晃




…………晃



「………………晃!!」


 晃はうっすらと目を開けると両親と心配そうに覗く柳原葵を見た。

「……お母さんに……父さんに……葵?」

 名を呼び、ハッとすると

「俺、生きてる?」

 と呟いた。


 柳原葵は晃の手を握ると

「ああ、あの後すぐに救急車が来て助かったんだ」

 と後ろで心配そうに見ている白羽根圭一を見た。


 村岡翔一も安堵の息を吐きだしながら立っていた。

 桑田聖子も泣きながら立っていた。


 晃は彼らを見た。

 そうだ、桐生順一に刺された時に3人が駆け付けてくれたのだ。


 晃は白羽根圭一を見ると

「俺、白羽根さんが犯人だと思ってた」

 と告げた。


 それに柳原葵も村岡翔一も苦笑を零した。


 白羽根圭一は苦笑しながら

「あ、俺は犯人じゃなくて名探偵なんで……お見知りおきを」

 と告げた。


 晃は目を見開いた。

「め、い、た、んてい?」


 いや、自分で名探偵っていうかな?

 でも、犯人が分かっていたようだけど。


 白羽根圭一は頷いて

「目星はついていたんだけど……本当に桐生順一さんが犯人だと確信を持つまでに時間がかかってしまって貴方に怪我をさせてしまって」

と告げた。


 晃は首を振り

「でも、何時頃から気付いていたんですか? 俺は全然気づかなかった」

 と聞いた。


 白羽根圭一は冷静に

「違和感を覚えたのは戸田さんのことがあって直ぐに彼が電話を探しに行った時からです」

 と答えた。


 電話を探しに行った時から?

 って、それって最初の最初では。


 晃は息を飲み込んだ。


 白羽根圭一は晃を見ると

「戸田さんが亡くなった部屋は桐生順一さんの部屋だった。普通なら彼が犯人から狙われていると思って怖くて動けないはずだ。なのに彼は直ぐに平気で一人で電話を探しに行った。それに違和感を覚えたんだ。それにあらゆる準備ができるのはカギを送られてきたと言って最初からカギを持っていた彼だけだと気付いたからね。さすがに地図だけでは中に入れないからな」

 と告げた。


 冷静に考えればその通りである。


 晃は息を吐きだした。

「でも桑田さん……ご飯も食べずに返事もしなかったし……」

 と聞いた。


 それに桑田聖子が頷いて

「私、101号室に入った時に村岡くんから『白羽根の言う通りにするように』って言われていたから」

 人が来ても開けないようにって

「それに部屋のモノを口にしないようにって言っていたから」

 そうしたの

 と告げた。


 白羽根圭一が笑みを浮かべて

「桐生順一は部屋に籠らせようとしていたし、カバンを取りに2階に1人で上がった時に何か細工している心配があったからね」

 用心に越したことはないからね

「警察の話では彼女の部屋に置かれていた水から毒が検出されたと言っていたから……注意しておいて良かったと思ってる」

 と答えた。


 晃は目を見開いて息を飲み込んだ。

 自分はそれが全て怪しいと思い込んで桐生順一の手の平で転がされていたのだ。


 白羽根圭一は晃を見つめ

「案の定、彼女のカバンの上に『俺はお前たちの中にいる』というカードが置かれていたからね。彼の中では部屋が指定通りにならないことも想定していたと思う。考えれば自分たちに復讐を考えているかもしれない相手から呼び出されたなら部屋割りとかは反発したくなるだろう? そうなったから理由をつけて雨の中に出て服を1人で取りに行く理由を作ったんだと思う」

と告げた。


 晃は白羽根圭一を見ると

「本当の探偵だ」

 と心で突っ込んで。

「すみません、疑ってしまって」

 と呟いた。


 それに白羽根圭一は首を振ると

「いや、俺も結局のところ被害者を出してしまった」

 と視線を伏せた。


 柳原葵は苦く笑むと

「白羽根さんも晃も悪くない。あいつらの役が変更になった時に俺はちゃんと訴えて先生から事情を聞くべきだった。だったらこんなことまでにはならなかった」

 と告げた。


 晃はそっと柳原葵の手を握った。

「でも葵はちゃんと桐生に言ったじゃないか……これから向き合っていくしかないだろ? 俺もいるから頑張ろ」


 柳原葵は静かに頷いた。

村岡翔一は黙って二人を見つめていた。


 一つの過ちが負の連鎖となって大きな悲劇へとつながっていく。

 どこかで一歩踏み込めれば止まっていたのかもしれないのに。


 だが現実は悲劇が目の前に現れてからしか分からないものなのだ。

 だからこそ次からは止めるために一歩を踏み出す勇気を持たなければならない。


 二度と過たないように。


 白羽根圭一と村岡翔一と桑田聖子は立ち去り、晃は柳原葵の手を握りしめ笑みを浮かべるとゆっくりと目を閉じた。


 桑田聖子は病院を出て直ぐ足を止めると入口に立っている女性に目を向け

「あ、由子さんだわ」

 心配してきてくれたみたい

「村岡くん、挨拶しておく?」

 と聞いた。


 白羽根圭一は黙って村岡翔一を見た。


 村岡翔一は首を振ると

「いや、今はやめておく」

 と答えた。


 桑田聖子は笑むと

「そう、わかったわ。じゃあね」

 白羽根さんもさようなら

 と言うと手を上げて立ち去った。


 白羽根圭一は手を振って見送り、村岡翔一に視線を移して

「村岡……桐生と同じで犯罪は何れ自分の首を絞めることになる」

 人が完全犯罪出来ないことこそ俺はこの世界が与えた救済のクモの糸だと思っている

 と告げた。

「必ずボロは出る」


 村岡翔一は振り返り白羽根圭一を見るとにっこり笑って

「白羽根、俺、お前の突拍子もなく鋭いところすっげー好き」

 その考え方もな

「本当にぐちゃぐちゃに踏みにじって引き寄せたくなる」

 と言うと、駐車場を見て停まってくる車を見て

「じゃあ、今回はありがとうな。助かった」

また明日……大学で

 と足を踏み出した。


 白羽根圭一は村岡翔一の背中を暫く見つめ、やがて車の隣で立って待っている米倉隆二を見ると足を踏み出した。


彼の前に立つと

「あれだけ証拠が出れば警察でも問題ないよな」

 と告げた。


 米倉隆二は頷くと

「ああ、参内がいま鑑識班とロッジに詰めてる」

 と答えた。

「指紋もカードや矢を放つ細工に残っていたところを見ると復讐した後はどうにでもなれと思っていたのかもしれないな」


 白羽根圭一は「だろうね」と言い

「でも、彼はきっとこれからもっと苦しむことになるだろうね」

 結局は九条美姫の死も全ては彼自身の『利己主義』と九条美姫の『わがまま』から始まったことなんだから

 と告げた。


 二人の頭上には昨日と違って青い空が広がっていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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