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迷探偵  作者: 如月いさみ
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エピソード6

 桐生順一もそれを感じているようで警戒心の強い表情で水が滴る前髪を上げて

「でも外には怪しいものはなかったから明日の朝に歩いて下山は大丈夫だと思う」

 と告げた。

「俺はちょっとこれだけ濡れたから風呂に入りたいけど他に誰か入りたい人は?」


 晃は首を振った。

 風呂には入りたいけど、気分的にそういう気分ではない。


 柳原葵も小さく

「あ、俺も今はそういう気分じゃないし」

 と答えた。

「でも白羽根さんは入った方が良いと思うけど、ずぶ濡れだし」


 村岡翔一も苦笑しつつ

「そうだな。俺も今日はやめておく。温泉の湯でもな」

 と告げた。


 桑田聖子は顔を伏せたまま

「……」

 と首を振って意思表示をした。


 白羽根圭一は笑むと

「じゃあ、一緒にはいりましょうか~」

 と告げた。


 桐生順一は踵を返すと

「じゃあ、着替えを取ってくる」

 と慌てて階段を上っていった。


 白羽根圭一は「あ」と言いかけて息を吐きだし

「……じゃあ、俺も」

 と102号室へと入っていった。


 桐生順一はカバンを手に戻り

「一階で寝泊まりするならと思って持ってきておいた」

 と告げた。


 晃は柳原葵を見た。


 村岡翔一は肩を竦めると

「あ、俺はそこだからな」

 と告げた。


 晃と柳原葵は立ち上がり

「じゃあ、俺たちも取りに行くか?」

 と告げた。


 それに桑田聖子が顔を上げると

「わ、私も行くわ。カバンを取りに行くわ」

 と告げた。


 晃は驚いて彼女を見た。

 

 その時、102号室から白羽根圭一が着替えを手に姿を見せた。

「あれ?どうかしましたか~?」

 そう呼びかけた。


 晃は彼を見ると

「俺たちもこのリビングで一晩過ごすならカバンを持ってきておこうと思って取りに行くところです」

 と桐生順一が持ってきたカバンを一瞥して告げた。


 白羽根圭一はチラリとそのカバンを見て直ぐに晃へ視線を戻すと

「3人で?」

 と聞いた。


 それに晃は頷いた。

「ええ、俺と葵と桑田さんの3人で行きます」

 そう答えた。


 彼は腕を組むと

「……それぞれの部屋も3人で行ってください。そして3人で戻ってきてください」

 と告げた。


 晃は頷いて

「わかりました」

 と答えた。


 何だろう。

 一か所に彼は自分たちを集めようとしている。

 本当に集まっていれば大丈夫なのだろうか?


 犯人はもしかしたら演劇部全員を殺そうと考えているのかもしれないのだ。

 何かもやもやする。


 晃は柳原葵と桑田聖子と連れ立って2階へと上がった。


 廊下には戸田恵美子がそのまま倒れている状態で扉もあの時のまま開いた状態であった。

 慌てて晃は3人で部屋に入りカバンを持つと部屋を出て直ぐに桑田聖子の204号室へと向かった。

 が、彼女はカバンの上の白い何かを見ると突然戸を閉めて

「私、行かない! ここで籠ってる!! おやつ持ってきてるし……水もあるから大丈夫!」

 と叫んでカギをかけた。


 晃は目を見開くと柳原葵と顔を見合わせた。

「マジか!!」

「えええ!!!」


 まさかである。

 

 互いに顔を見合わせると息を吐きだして晃は

「誰か呼んでくる」

 と告げた。


 そして、晃は階段の上から下に向かって

「桑田さんが部屋に籠るって言ってて!!」

 と叫んだ。


 叫びに濡れたままの白羽根圭一が姿を見せた。

「……困ったな」

 そう呟いて戸を叩いた。

「一人だからと言って安全だというわけじゃないですよ! 今は何もかもが危険なんです! 犯人が用意した舞台に俺たちはいるんです!」


 そうだ。

 だが、こうやって誘導している可能性もある。


 晃はそれに目を細めると

「でも部屋に籠ったままカギを閉めているし誰も近付かなければ大丈夫じゃないんですか?」

 と告げた。

「俺だってカギを閉めて葵と2人だけの方が安全な気がするし」


 そうだ。

 葵は大丈夫だ。


 2人だけで鍵を閉めている方が信用できない人たちと下でいるより安全な気がする。

 考えればこの人の言葉の誘導で1階に集まろうとしているんだ。


 もしかして。

 もしかしたら。


 彼が犯人かも知れないのだ。

 そのために1階に集めようとしているのかもしれないのだ。


 晃は柳原葵を見た。

 柳原葵は頷いて

「俺たち、夕食したらやっぱり部屋で鍵を閉めて寝ます」

 と告げた。


 白羽根圭一は少し考えると

「……わかりました。とりあえず下に降りてきて夕食だけは取ってもらうようにしてください。それと『誰が』来ても絶対に開けないようにしてください」

 あと自分たちが持ち込んだもの以外に口にしないでください

「まあ、一応ですけど」

 と告げた。


桑田聖子も戸の向こうから

「私も絶対に誰が来ても開けないわ! 下の方が危ないもの!」

 食べ物は私のおやつだし

 と訴えた。


 白羽根圭一は晃と柳原葵を見て

「仕方ないので」

 と言うと1階へと3人で戻った。


 風呂へ入りかけていた桐生順一が3人を見ると

「どうだった?」

 と聞いた。


 白羽根圭一は困ったように

「桑田さんは部屋へ籠るそうです」

 俺たちは風呂に入って服を着替えたほうがいいですね

「風邪ひくと大変なので」

 と答え、風呂の中へと入っていった。


 夜の6時頃になると全員が昼抜きだったので空腹であった。

 しかし準備されていた肉と野菜を最初は誰もが顔を見合わせて手を付けなかった。


 晃もお腹は空いていたが迷っていた。

 戸田恵美子は本当に殺されてしまったのだ。

 もしも、もしも毒が入っていたらと思うとそうそう気軽に口に運べなかったのである。


 それは柳原葵も一緒で村岡翔一も桐生順一もそれぞれ顔を見合わせている状態であった。


 晃は白羽根圭一をチラリチラリと見た。

 そう彼が犯人でこの肉に毒を仕込んでいたら……そう思うと空腹で食欲が押し上げてくるが口に運べない。


「白羽根さんが食べたら俺も食べよう」

 晃はそう心で呟いた。


瞬間に最初に焼肉を口に運んだのは白羽根圭一であった。

「大丈夫みたいですよ、多田さんも俺ばかり見ていないで安心して食べてください」


 ……。

 ……。


 見透かされていた。と晃はスーと見回してきた白羽根圭一に罰が悪そうに視線を下げた。

 その後、直ぐに桐生順一も肉を食べ、漸く全員が肉を食べ始めた。


 降っていた雨も止んだようで雨音は聞こえなくなっていた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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