エピソード6
列車はそんな彼らを乗せて東京から宇都宮を抜けて鬼怒川温泉駅へと快走した。
2時間ほどの列車移動を終えると鬼怒川温泉駅へと到着した。
流石に一大温泉地で到着した途端に観光温泉地にありがちな豪華なホテルが駅のホームからも垣間見えた。
しかも駅舎を出ると視線の先には屋根付きの無料足湯まであるのだ。
晃はカバンを肩にかけて身体を伸ばしながら
「おおお、やっぱり温泉駅だな」
と笑顔で告げた。
隣に立って柳原葵も頷きながら
「そうだな、温泉入ってサクッと帰りたいな」
と呟いた。
他の面々もそういう感じなのか身体を伸ばしたり
「温泉入って早く帰りたい」
などなどと普通の旅行なら言わない言葉をポロリポロリと零れていた。
流石に落ち着かない気持ちなのだろう。
自殺した女子生徒がいた頃の面々の総呼び出しの上に呼び出した人物が不明なのだ。
当たり前と言えば当たり前である。
きっと、誰の心の中にも『復讐者』に呼び出されているという予感があるのだ。
ただ。
と、晃はチラリと珍しそうにカバンを手に周囲を見回しているが一人戦々恐々としていない白羽根圭一を見た。
彼は至って冷静で平然としている。
確かに部外者なのだが、部外者と言えど差出人でないという保証はない。
晃は直ぐに柳原葵に目を向けると
「それで、ホテルは?」
と聞いた。
それに柳原葵は顔を動かして戸田恵美子を見た。
「戸田、ホテルはどこだ?」
そう聞いた。
彼女は首を振ると
「私の手紙には列車のチケットだけで他には何も入ってなかったから……私じゃないわ」
と告げた。
それに桐生順一が手を上げると
「ホテルのカギは俺の封筒の中に入っていたけど、ホテルに関しては何処か分からない」
と告げた。
村岡翔一の付き添いの例の白羽根圭一が
「すみませ~ん」
と声を晃たちにかけた。
桑田聖子や戸田恵美子も全員が顔を向けた。
それに村岡翔一の手紙を見せて
「ホテルの場所は村岡さんの封書の中に入っていましたので~」
と告げた。
桐生順一は指先を唇に当てて
「つまり、チケットは戸田。カギは俺。ホテルの場所は村岡ってことは当時の演劇部に詳しい奴が送ってきたってことか」
と呟いた。
晃は「なんで?」と柳原葵を見た。
柳原葵は頷くと
「ああ、戸田は部長だったし桐生と村岡は副部長だったからな。俺はそういうの嫌いだったから断った。演技に集中したかったからな」
と答えた。
「桑田も同じ」
そう言って柳原葵は
「それでどこなんだ?」
と聞いた。
ホテルの名前と住所はハガキのような固めの紙にプリンターで印字されていた。
晃は紙を見つめて
「グーグルさんで調べるしかなさそうだな」
と隣に立つ柳原葵に囁きかけた。
だが、白羽根圭一はその紙を手にして
「この住所、鬼怒川温泉駅からタクシーで向かった方が良いので人数的に分かれて向かった方がいいですねー」
と告げた。
「温泉郷から離れた山間にあるみたいなので」
それに対して全員が顔を見合わせた。
桑田聖子と戸田恵美子は視線を向けあって顔をしかめたモノの
「わかったわ」
「しょうがないわね、ここまで来たんだし」
と告げた。
村岡翔一も息を吐きだして
「しょうがないな」
とぼやいた。
既に場所を確認していたようである。
晃は小さく息を吐きだし
「やっぱり怪しいな」
と心で呟いた。
柳原葵も息を吐きだすと晃を見て
「悪いな」
と告げた。
晃は笑顔で
「いいさ、序だし乗りかかった船だからな」
と答えた。
こんなところで親友を置いて帰るわけにはいかない。
ぽつぽつと全員で歩きタクシー乗り場につくと桑田聖子が
「タクシー分かれるんでしょ? 恵美子は私と一緒する?」
と告げた。
戸田恵美子は頷いて
「そ、そうね」
と答えた。
村岡翔一はサーと見回して
「じゃあ、俺も一緒にするか」
と告げた。
晃はぎょっとすると
「ええ? そこはお連れさんと相談じゃないのか!?」
と思わず心で突っ込んだ。
彼からすれば「マジか」と言う気分である。
思わずチラリと柳原葵を見た。
柳原葵はあっさり
「俺はどうでも良いけど、晃と一緒な」
と告げた。
晃は少しほっとして「助かった」と思わず心で呟いた。
ここで村岡翔一と同じ態度をとられたら孤立感が半端ない。
それを見て白羽根圭一がにっこり笑うと
「じゃあ、俺は多田さんと柳原さんと、あ、桐生さんもこっちで如何ですか~?」
と告げた。
晃は思わず
「うおっ、仕切った!」
凄い心臓しているな
と心で突っ込んだ。
桐生順一は村岡翔一達の方へ向かいかけて足を止めると
「お、そっち?」
と聞いた。
それに白羽根圭一が笑顔で
「そうそう」
と答えた。
晃は同行者である村岡翔一と一緒のタクシーにしなかった白羽根圭一を訝しく思いつつ、停まっていたタクシーの後部座席に座った。
行先は白羽根圭一が助手席に座って運転手に説明した。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。