表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷探偵  作者: 如月いさみ
11/39

エピソード4

 朝のニュース番組ではホテルの一室から黒い煙が立ち昇っていく様子を映しながら『ラブホテルで爆破事件 男性が一人犠牲』というテロップが流れていた。


 画面には部屋の状況や爆発物のあった場所などを描いた図を写してアナウンサーが「現在警察は重要参考人Aさん(17)を取り調べている最中です」と告げている。

 

 真実は。

 いや、事実は。

 彼女が犯人ではない。

 

 自分がこの手で殺したのだ。

 息子を殺した男を殺したのだ。

 仇をとったのだ。


 だが。

『同じ痛みを持つ人に罪を擦り付けちゃうんだ』

 その言葉が脳内を駆け巡っている。

 鎌田義昭は顔を顰めてテレビのスイッチを切り持って帰ってしまった暗号の紙を見た。

 

 それは不思議な図であった。

 

 十字に二段のトランプカードが描かれていた。

 外側は裏。

 内側は表。

 そして、中央に将棋の絵が描かれていたのである。

 

 ただ鎌田義昭はそれを見つめて首を傾げた。

 内側のトランプカードが全て同じスペードのAであった。

 

 現実的にはあり得ない。

 同じカードはジョーカー以外ないのだ。

 だが、絵には4枚同じカードが描かれているのだ。

 

 そして、将棋の絵も変わっていた。

 ハートのKを中心に左斜め上から歩が二つ並びその横が銀金、ハートのKの横は金角、そして王将の下が桂その横が香とハートのKを取り囲んだ形となっていた。

 

 鎌田義昭は暫く見つめ

「このハートのKが王将だったら」

 と呟いた。

 

 彼は紙と警棒をテーブルに置くと

「これの意味が解ったら、彼女を救ってやらないと俺は妻の時と同じ過ちを繰り返すことになる」

 と呟き、窓の外の夜景を見つめた。

 

 彼女を犯人にしたままではダメだと。

 もう逃げて自分だけ救われようとしてはダメだと理解したのである。

 

 自分のしたことに責任を持たなければ……ただの卑怯者でしかない。

 あの男と同じだと。

 

 鎌田義昭はその日は家の中を整理した。

 当分帰ってくることができないだろうと分かっていたからである。

 

 怒りに任せて戸上雄三を殺してしまった。

 頭では分かっているのだ。

 どんな理由があろうと……人を殺してはならない。

 

 だが。

 だが。

 息子を死なせた男がそんなことすら忘れたように笑って生きているのが許せなかったのだ。

 いや、裁かれもせずに上手く立ち回ってのうのうと生きているのが許せなかったのだ。

 

 鎌田義昭は綺麗に息子や妻との写真を拭き終えると

「だが、罪は罪だ。俺はあいつのようになってはならない」

 と呟き、窓の外を見つめた。

 

 穏やかな日差しが降り注ぐ、不思議なほど落ち着いた日であった。

 

 翌日、白靄がかかる早朝に家を出るとまだ太陽が登り切らない町の中をJR中野駅に向かって足を進めた。

 

 早朝であったが東京の街は相変わらず何処かせわしない空気を漂わせ何処からかサイレンの音が響いていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ