エピソード4
息子の仇は取った。
そして自分のせいにはならない。
バレるはずがない。
分かるはずがない。
参内満男は早送りをして爆発する場面まで見ると息を吐きだしチラリと白羽根圭一を見た。
「ったく、こういうことだ」
そう言い鎌田義昭を見ると
「この映像データをいただきますか?」
と告げた。
鎌田義昭は笑むと
「はい、もちろんです」
と捜査協力者を装ったのである。
白羽根圭一は目を細めてムーと唇を窄めた。
不満と言う表情がありありであった。
が、同行していた米倉隆二は白羽根圭一の背中を軽くたたくと
「とりあえず彼女は先だ」
と言い
「それからだ」
と告げた。
白羽根圭一は小さく頷いて
「わかった」
と答え、鎌田義昭を見た。
鎌田義昭は動揺が顔に出ないように彼を見ると何も言わずにデータを入れたUSBを参内満男に渡して頭を下げた。
白羽根圭一は息を吐きだし参内満男と米倉隆二の後について管理室を出掛けて振り向くと
「おじさん、それでいいの? 同じ痛みを持つ人に罪を擦り付けちゃうんだ」
と告げて背を向けると部屋を出た。
鎌田義昭は目を見開くと息を飲み込んだ。
あの男は……息子を殺した。
憎んだ。
憎んだ。
憎んだ。
まして『冗談だといったんですよ』と言って罪にすら問われなかったのだ。
本当は違ったのだ。
鎌田義昭は戸上雄三が言った言葉を思い浮かべた。
『確かに俺は命令した。あのトレイにあの時間に爆弾を仕掛けるように言った!』
あの男は自殺した実行犯の男に命令していたんだ。
なのに、裁かれもせずにのうのうと生きてきたのだ。
だが、あの少女も自分と同じ被害者家族だ。
忘れていたがそうなのだ。
恐らく自分と同じ思いで3年を過ごして復讐しようとしたのだろう。
鎌田義昭は顔を伏せると
「だが……何であんな奴のために俺が逮捕されなきゃならないんだ」
と拳を握り締めて小さく呟いた。
……同じ痛みを持つ人に罪を擦り付けちゃうんだ……
鎌田義昭は脳内で響く白羽根圭一の言葉を振り切るように
「申し訳ないと思うが……だが」
と襟を緩めてポケットに手を入れると指先に当たったものを取り出した。
戸上雄三を殺した時に咄嗟に入れた暗号が書かれた紙だ。
恐らく状況的に彼女が置いたと思われるが……何故これを置いたのか。
それは分からない。
鎌田義昭は再びポケットに入れるとやってきたオーナーと話をして暫く休業してほしいということを承諾して帰宅の途についた。
外はすっかり日が暮れてホテルの周辺だけが明るく他は暗かった。
その中を足早に進みJR品川駅に着くと列車に乗り込んで人々が他愛無く談笑する姿に安堵の息を吐きだしながら独特の揺れに体を任せた。
列車を乗り換えて中野駅に着くころには完全な夜の様相になっており、鎌田義昭は人々に紛れてホームに降り、改札を抜けると一人で暮らしているマンションが見える駅のロータリーに立った。
息子が死んでから妻は心を病んだ。
息子は帰らないのに毎日毎日三人分の食事がテーブルに置かれた。
彼女は泣きながら
「ごめんなさい。ごめんなさい」
と言うが、次の日もやはり同じように食事を置くのだ。
それが辛かった。
それが苛立たしかった。
結局、妻に耐えられなくなって最後は『君は病気だ。もうやっていけない。離婚しよう』と告げた。
……同じ痛みを持つ人に罪を擦り付けちゃうんだ……
妻も同じ痛みを持っていた。
そして、自分は妻の精神的弱さのせいにして離婚した。
本当は。
本当は。
鎌田義昭は俯くと
「俺も気が狂いそうなほど……辛かった」
と呟いた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。