エピソード1
光も射さない闇の中で白百合が揺れる。
まるで彷徨う魂のようにユラリユラリと揺れている。
ねぇ、政和…………ねぇ、政和…………。
いつも、そう告げる彼女の後の言葉が届くことはなかった。
この日までは、そうだった。
唐栗政和は区立第十三高校の校舎の片隅の花壇の上に花束を置いて両手を合わせた。
今年で32歳。
独身だ。
15年前に目の前の校舎からここへ飛び降りた恋人を忘れられず婚期を逃してしまったのだ。
政和は立ち上がると花壇の花の上に置いた百合を見つめ
「葉奈……俺はずっとお前が死んでしまった理由を探していた。俺のせいなのか? 何を苦しんでいたんだ? 俺お前のこと何もわかってやれてなかったって、ずっとそう考えていたけど……違ったんだな。お前、本当はあいつらに殺されたんだな」
と呟き、強く手を握りしめた。
15年経って初めて知った真実。
昨夜、高校の同窓会の幹事になってかつてのクラスメイトの花田浩司と打ち合わせをしていた時に、やつが笑いながら言っていたのだ。
華灯りという飲み屋の一角で酒を飲みながら話していた時のことだ。
2人とも仕事を終えて落ち合って酒を飲みながら暫くは会社の愚痴を言い合った。
そして、家族の愚痴になった。
花田浩司はほろ酔い気分で
「ったくなぁ、暫く結婚する気になれなかったから独身でいたらさぁ近所のおばさんの紹介で彼女と結婚したんだけど……ったく、会社で働く苦労が分からずに帰ったら、ほれ皿洗えとか、洗濯手伝えとかさぁ」
とぼやき
「こっちは仕事で疲れてるんだーつーの!」
とドンッとビールグラスを置きながら告げた。
政和も会社員だ。
彼の言いたいこともわかる。
政和もビールを飲みながら
「まあ、会社行ったら下から突き上げられて上からは抑えられて精神的に疲れるからな……かといって休むわけにもいかないし」
と告げた。
「まあ、俺は独身だから文句は言われないが、家事一般は自分がしないと誰もしてくれないけどな」
そう笑った。
花田浩司は意味深に政和を見て
「もしかして、お前も同じ穴のムジナだったか? 川波に惚れていたやつ多かったからなぁ。婚期遅れの奴多いみたいだからな」
と言い
「あいつもあの時に抵抗しなかったらなぁ、突き落としたりしなかったんだけどなぁ」
と呟いた。
……突き落としたりしなかった……
政和は酒を飲む手を止めて花田浩司を見た。
「え?」
ずっと。
ずっと。
川波葉奈が……恋人の彼女が自殺した理由を考えていた。
だけど。
だけど。
花田浩司はハッとすると罰が悪そうに笑って
「あー、なんてな」
と言い
「鈴木いただろ? 鈴木の親父が刑事でさぁ。鈴木が言ったんだぜ? そうそう、まだ高校生だったしな」
と告げた。
「もう時効だろ? 時効! 時効! みんな忘れているし証拠もないしさぁ~。あいつも抵抗して逃げるからはずみだったんだし」
政和はハハハと乾いた笑いを零して
「そうか……確かに……時効だな」
と返して、酒を入れたグラスを握りしめた。
彼女と自分が恋人同士だったことを知っている奴はほとんどいなかった。
それにもう15年も経ってしまった。
確かに証拠もない。
政和は花田浩司が酔いつぶれるのを見て
「だけど……知ってるか? 時効って決めごとはさぁ。どこかの誰かが決めたことでさ」
と横目で下ろしながら囁き
「俺の中にはないんだよ」
と目を細めた。
……ねぇ、政和……
いつも、いつも、彼女を失ってから思い出す彼女の姿。
彼女があの後になんて言ったのか。
あの言葉の後に続く言葉が自分の中に届くことはこれまでずっとなかった。
だけど今は届いている。
……復讐して……
きっと、そう言っている。
政和は肩を貸して花田浩司を起こしながら
「そう言っているんだよな、葉奈。復讐してほしいって言っているんだよな」
と心の中で呟いて
「しっかりしろよ、帰るぞ」
と笑みを浮かべた。
復讐をする。
その感情を押し殺して政和は表面上何もなかったかのように同窓会の準備を整えた。
同窓会会場の予約や案内状の送付は率先して行った。
それは全て花田浩司と鈴木翔の二人に復讐するための準備でもあったからである。
政和はそれらの準備を終えると花田浩司に電話を入れた。
復讐計画の大いなる一歩である。
「なあ、同窓会でサプライズイベントしないか?」
政和の言葉に花田浩司の第一声は
「え?」
という驚きの声であった。
政和は得意先回りの駐車場で携帯を耳に当てて
「俺は鈴木とは高校時代から付き合いなかったけど、あいつ確か軽音で曲作ってたとか聞いたことあってさ。どうだろ? お前は鈴木とかと付き合いが長いから頼めるかなぁと思ったんだけどダメか?」
と聞いた。
心臓がバクバク言っている。
だが、復讐計画をここから始めるのだ。
失敗するわけにはいかない。
政和は更に
「だってさ、ただ挨拶して歓談じゃ芸がないだろ?」
と笑いながら告げた。
同窓会の式次第の中でちょっとしたサプライズイベントの話を持ち掛けたのだ。
そうしないと場が盛り上がらないかも知れないという理由をつけてである。
花田浩司の沈黙は長かった。
だが案内状の送付や会場の設定は全て政和がしていたので無下にはできない状況だと判断したように花田浩司は「う~ん」と言うと
「鈴木のなぁ」
と呟いた。
政和は笑って
「もうやってないのか?」
と卒業アルバムを開けながら告げた。
奴がどれくらいの技量かなんか興味もないし知りもしないが……だが、使える情報は使う。
政和は口元だけに笑みを作り、目を細めながら
「どうだろ? やっぱり盛り上がるのにサプライズ必要だと思うんだ。ああ、もちろん機材の準備は俺がするからさ」
と押した。
花田浩司は息を吐きだすと
「わかった、聞いてから連絡する」
と答えた。
政和は口の端を上げて
「……準備もあるから早く返事くれよ。ああ、それからこれはサプライズだから誰にも言わないようにな。鈴木にも言っておいてくれよな」
と告げた。
そう、準備があるんだ。
お前たち二人をあの世に送る準備がな。
それは胸に秘めて政和は携帯を切った。
25歳くらいまでは両親も見合い話を持ってきて懸命に結婚を進めたが何時まで経っても結婚しない俺に両親は結局諦めて結婚の話を持ってくることも無くなり、2年前に事故で亡くなった。
当時、両親と共に住んでいた姉夫婦がそのまま実家に住み居心地が悪くなって家を出てワンルームマンションで今は一人暮らしをしている。
姉自身は誕生日や事あるごとに気を使って手紙と共にモノを送ってくれている優しい人だし、先日も珍しく手紙はなかったものの飲み物を送ってくれた。
だが、戻る気にはなれなかったのだ。
義兄と折りが悪いというのもあったし、30にもなる男が姉夫婦と暮らすというのに抵抗もあったからだ。
政和は窓際に置いている机の椅子に座り窓の外の夜景を見つめた。
東京の夜の光景は眠る時刻を感じさせない明るさがある。
それでも人々は眠っているのだろう。
政和は両手を組み合わせて握ると
「……なのに、俺は……眠れないんだよな。あの日から葉奈、お前の顔がちらついて寝れないんだ。苦しかったんだな? 悲しかったんだな? 俺、ずっと気付かなくてさぁ……お前の無念に気づかなくてさぁ。お前殺してのうのうと笑って生きてる奴らと笑ってたんだ。お前、怒ってるよな。当たり前だな」
と苦く笑って俯いた。
あの話を聞いてから胸の奥底がドロドロと濁った血のような憤怒が渦巻いて突き上げて爆発しそうになる。
人を殺して置いて……結婚して笑って……平気で暮らしていたんだ。
政和はくぐもった嗚咽を漏らしながら
「ごめんなぁ、葉奈……ごめんなぁ」
と言うとそのまま顔を伏せて目を閉じた。
復讐するから。
復讐するから。
気付かなかった俺を許してくれ。
政和はそう心で告げた。
花田浩司からの連絡は一週間ほどしてからであった。
それでも同窓会の日を考えればそれほど遅くはなかった。
返事があったのは政和が車で営業に回っている最中で、政和は駐車場に車を止めると着信に出た。
「悪い、いま営業に出ていて……それでどうだった?」
そう聞いた。
花田浩司は笑いながら
「ああ、俺も同じだ。最も俺は内勤だからな。休憩室からだ」
と言い
「鈴木はOKだって言ってた。それから機材は持っていくってさ。使い慣れたものが良いっていってたからな」
と告げた。
政和は一瞬戸惑いながら
「そ、そうか」
と言い、慌ただしく視線を動かした。
計画では機材を見せるという理由で呼び出し殺すつもりだったからである。
だが、このままでは計画が狂う。
どうする?
どうする?
戸惑う政和に花田浩司は何も知らず
「ああ、ただな」
と言うと
「エレキギターのアンプを繋いだり準備をしたいから同窓会が始まる前に行きたいっていう話なんだが」
と告げた。
政和はハッとすると安堵して
「ああ、じゃあ……前日にホテルに部屋を一つ取っておく。俺は10時くらいからしか空いてないから10時に高校の校門前で待ち合わせするっていうのはどうだ? 悪いが俺は会社終わりの直行だからお前車を出してくれないか? それで前日に打ち合わせと準備をしよう」
と告げた。
「くれぐれも誰にもいうなよ! サプライズで驚かさすのが良いんだからな」
そう釘を刺した。
花田浩司は「わかった、わかった」と答えた。
政和は携帯を切ると息を吐きだすと天を仰いだ。
「葉奈、守ってくれ」
そう呟いて携帯を強く握りしめて、復讐を誓った日からつけたミサンガを見た。
彼女がお揃いで作ってくれた唯一二人の関係を示すものだ。
『これがね、切れると願いが叶うのよ』
2人の願いだよ
政和は笑むと
「そうだな、今はもう俺だけの願いになってしまったけど、お前の無念を晴らすからな」
とミサンガにキスを落とした。
政和は車から降りると己を落ち着かせるように一度だけ深呼吸をして足を踏み出した。
日差しは明るく注ぎ東京の街の光景はいつもと変わらず慌ただしく人々が行き交う姿があった。
あんなに疑いもなく受け答えをする花田浩司を殺そうと思うのは実際に迷いがないわけではない。
だが。
だが。
『あいつもあの時に抵抗しなかったらなぁ、突き落としたりしなかったんだけどなぁ』
その言葉が許せなかった。
迷いと肯定と。
政和はその狭間で足を進めた。
成功するように。
失敗するように。
そう祈りながら。
二週間後の同窓会の前日の夜に政和は時計を見ると息を飲み込んだ。
2人には10時に区立十三高校の校門前で待つように言っておいたのだ。
政和は10時を示す会社の時計を見て残業している同僚の一人を見ると
「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ」
と声をかけた。
同僚はハッと時計を見ると
「おお、もうこんな時間か。お疲れさん」
と言い、パソコンの上で指を動かし続けた。
政和は笑みを浮かべると手を挙げて立ち去り二本のペットボトルを袋に入れて列車に乗り込んでかつて通った区立第十三高校へと向かった。
ジワリと手に汗が滲む。
復讐を実行するのだ。
小さく身体が勝手に震える。
だが、もう引くことはできない。
政和は駅を出ると闇が降る中でぽつりぽつりと道路を照らす街灯の下を急ぎながら高校の校門前に着くと止まっている車に固唾を飲み込んで運転手側の窓を叩いた。
そして、花田浩司が窓を開けると
「待たせて悪いな、運転変わるからこれ飲んでゆっくりしてくれ。待たせたお詫びだ」
と笑みを浮かべて告げた。
花田浩司は運転席を降りると
「ぶつけるなよ」
と言いながら政和が蓋を開けて渡すペットボトルを手に取った。
政和は後ろで座って手を振っている鈴木翔にもキャップを開けて
「待たせて悪かったな。これでも抜け出してきたんだ」
許してくれ、と言外に言いながら肩を竦めて笑った。
2人は笑いながら後部座席に座りペットボトルのジュースを飲んだ。
政和も自分の分のジュースを飲み、座席を調整してルームミラーを合わせてアクセルを踏んだ。
後ろでは二人が暫くのあいだ雑談をしている声が響いていた。
明るい声が響く。
まさか。
そう、まさか。
政和が2人に殺意を持っているとは思ってもいないのだ。
政和は運転しながら静寂が広がるとルームミラーに映る二人が眠る姿を確認し、笑みを消し去り闇の中を一度自宅へと戻り遺書を持ち出すと、近くの人が寄り付かない河川敷へと向かった。
時間との勝負なのだ。
政和は河川敷で車を止めると花田浩司の服を脱がせて身体を縛り、外から見えないように床に寝かせるとホテルへと向かった。
そして、帽子をかぶりグラサンをしながら『花田浩司』としてチェックインをしたのである。
政和は部屋に入ると息を飲み込み
「ここからが……勝負だ」
と呟き、すぐさま部屋を出ると駐車場へ戻り眠っている鈴木翔を背負うとエレベーターへと向かった。
部屋に運んで実行すれば第一段階は終わる。
地下の駐車場からエレベーターに乗り込み息を吸い込んで吐き出した。
エレベーターの中は薄暗く、5のボタンを押すと軽く上昇の重力がかかった。
静寂の中で鈴木翔の寝息だけが耳元に響き、政和は僅かに顔を顰めた。
迷いが……胸の中を過る。
だが、もう戻れない。
いや、戻らない。
長いような。
短いような。
そんな時間が過ぎるとエレベーターは5階に止まり、政和はエレベーターを降りた。
通路には幸い誰の姿もなく静寂を保っていた。
ラッキーである。
政和は安堵の息を吐きだしながら508号室の扉を開けると中へと足を踏み入れた。
508号室は一般客室である。
どこにでもある極々普通のホテルの部屋だ。
なのに。
政和は小さく「暑い」と呟き、よたよたとベッドに向かうと、鈴木翔をその上に下ろした。
流石に男を一人背負ったせいなのだろう。
政和は汗を拭い、急に聞こえ始めた激しい心音に強く拳を握りしめた。
「煩い」
恐ろしいのか。
だが、こいつは父親の力を借りて葉奈を殺しておきながら知らぬふりを通して笑って生きてきたのだ。
許せるわけがない。
「そうだろ? 葉奈」
政和は僅かに微笑みあの日から見続けている彼女の幻影を思い浮かべた。
……政和、ねぇ、政和……
……復讐して……
そう言っているのだ。
きっとそう言っているのだ。
眠っている鈴木翔を政和は見下ろして指先を伸ばした。
安心しきって眠っている姿が胸を軋ませる。
だが。
だが。
……ねぇ、政和……
……復讐して……
政和は唇を噛み締め
「葉奈がそう言っているんだ。葉奈を殺しておきながらのうのうと生きて笑っているお前たちを許せないって……言っているんだ」
と震える指先で鈴木翔の首元を掴んだ。
首筋に回す指先に力を込めるごとに目の前が滲んでいく。
後悔か?
それとも復讐できる喜びからか?
政和は顔を伏せて
「きっと……だろうなぁ」
と呟き、鈴木翔の呼吸が止まると指をゆっくりと放してベッドから降り立ちフラリとその場から離れた。
だがこれで終わりではない。
終わりなのではないのだ。
政和は深呼吸を何度か繰り返して再び帽子とグラサンをかけると部屋を出た。
が、506号室の前を通った瞬間に扉が開き、一人の青年が姿を見せた。
政和は咄嗟に帽子のツバを下げて俯いた。
なんて偶然だ。
だが、変な行動は怪しまれる。
政和は青年と共にエレベーターに乗り込み、B1のボタンを押した。
青年は政和をチラリと見たものの1のボタンを押すと階数表示に視線を移した。
行きとは違う静寂が広がり、政和は心で舌打ちしつつもジッと沈黙を守り青年が降りるのを待った。
気付くな。
何も気づくな。
例え他人でもできるだけ接触は避けるべきなのだ。
ヒタリと頬を伝う汗を感じながらも硬直したように動けなかった。
が、青年は1階に着くと降り際に「おさきー」と言ってエレベーターを出た。
政和は戸が閉まると同時に大きく安堵の息を吐きだし、車に戻って寝転がしている花田浩司を一瞥して
「次は……花田だ」
と言うと直ぐに車を出して急いで先ほどの河川敷へと向かった。
闇が支配する河川敷。
周囲の家の明かりも土手で遮られて河原の方には届かない。
政和は服を着替えて眠っている花田浩司を背負うと草を踏みしめて土手を降りて河原の近くに寝かせると服を着せた。
全ての罪を花田浩司が被るのだ。
「全て、お前のせいになる……15年前の罪の代わりにお前がこの罪を背負うんだ」
政和は呟き花田浩司に睡眠薬と青酸カリを入れたカプセルを飲ませた。
15年。
ずっと。
ずっと。
彼女の姿の面影を胸に描いてきた。
……ねぇ、政和……
今も目を閉じると彼女が瞼の裏に立って自分を見て唇を動かしている。
政和は草を踏みしめながら土手を登ると運転席に遺書を置いて小さく
「……終わった。葉奈……終わった」
と呟いた。
復讐をした。
彼女を殺した癖にのうのうと生きていた男たちに復讐をしたのだ。
政和は静かに笑むと
「これで漸く眠ることができる」
と呟いて、月が輝く夜の道を自宅に向かって足を進めた。
夜が明けると政和は固唾を飲み込んで家を出た。
花田浩司の睡眠薬とカプセルから青酸カリが彼を殺すまでの時間を考えると早く鈴木翔の遺体を発見させる必要があったのだ。
政和は自分の車でホテルへ向かい駐車場に入れるとフロントへと急いだ。
フロントには若い女性と壮年の男性が立っており、政和は若い女性に
「今日、第四会場で区立十三高校の3年A組の同窓会を申し込んだ唐栗政和ですけど昨夜、花田浩司という同級生が先にチェックインしたと聞いたんですがされていますでしょうか?」
と聞いた。
それにフロントの女性は笑顔で
「少々お待ちください」
と言うとパソコンを触り
「はい、昨日の10時過ぎごろにチェックインをされています」
と告げた。
政和は笑顔で
「じゃあ呼び出してもらえますか? 打ち合わせがあるので」
と告げた。
女性は笑顔で「かしこまりました」と答え内線をいれた。
政和は響く心音を懸命に抑えながら彼女を見つめた。
早く。
早く。
遺体を発見させなければ。
花田浩司が死ぬ前に発見させて警察を動かさなければならないのだ。
政和は思わず両手に拳を作った。
その隣に一つの影が立つと
「あのー」
と壮年のフロント係に声をかけた。
政和は声に顔を向けて目を見開いた。
「あ……」
青年は政和を見ると
「ん?」
と不思議そうに眼を向けた。
昨夜の青年だ。
政和は声を出しかけて辛うじてこらえた。
そう自分は……昨夜は花田浩司だったのだ。
唐栗政和ではなかったのだ。
政和は誤魔化すように電話をしている女性に
「あ、の……すみませんが……同窓会の打ち合わせをしないといけないので早くお願いします」
と告げた。
女性は戸惑いながら
「申し訳ございません。お客様が応答に出られなくて」
と告げた。
政和はため息を零すと携帯を取り出して電話をかけた。
隣で立っている青年の視線を感じる。
気になって仕方がない。
昨夜に続いて今朝も会うなんて……最悪である。
政和は息を吐きだすとボタンを押して呼び出しを止め
「すみませんが、部屋を教えてもらえますか? あ、一緒に行っていただいて声をかけてもらえると助かりますけど」
と告げた。
そこへ一人の男性が降りてくると青年に声をかけた。
「白羽根、待たせたな。意外と時間通りに来たじゃないか」
白羽根と言う青年は頷いて
「ああ、仕事だからね」
と言い、政和を見つめ
「何か事件の匂いがする」
と告げた。
男性は政和と困ったようにフロントから出てきた女性を見て警察手帳を見せると
「あの、何かありましたか?」
と聞いた。
政和はそれを見るとギョッと目を見開いた。
警察の人間。
手帳には警視庁捜査一課第一係『米倉隆二』と書かれている。
正真正銘の刑事である。
女性は戸惑いながら
「実は昨夜から泊られている花田浩司様が電話で呼び出しても応答に出られなくて」
と告げた。
米倉隆二はそれに
「じゃあ、我々もご一緒します」
と告げ、青年に視線を向けると
「あ、彼は白羽根圭一と言う名前で怪しいものではありません」
と告げた。
昨夜のあの行動を警察官と警察関係者らしい人物に見られていたのだ。
まさか、気づかれたりはしないだろうか?
政和は拳を強く握って息を整えた。
昨日は完ぺきだったはずである。
服装も。
顔も見えないようにしていたのだ。
大丈夫。
問題ない。
政和はそう心で唱えながらフロントの女性の案内で5階の508号室へと米倉隆二と白羽根圭一と共に向かった。
エレベーターに乗ると白羽根圭一が政和に声をかけた。
「あの、花田浩司さんとはどういう関係で?」
政和はそれに己を落ち着かせながら
「ああ、彼とは今年同窓会の幹事の番が一緒になったんです」
と答えた。
「今日、10時から開始でその前に打ち合わせをしたいっていうから」
白羽根圭一は「ふむふむ」と頷いて
「同窓会って中学のですか? 高校のですか? 大学ですか?」
と聞いた。
政和は心の中で「あまり質問しないでくれ」と思いながら
「高校です。区立十三高校の3年A組で3年おきにしていて今年は5回目で」
と告げた。
白羽根圭一は「15年前かー」と呟き、少し何かを考えたように視線を動かしていた。
その時、エレベーターの扉が開き、スタッフの女性が
「こちらの508号室です」
と歩き出した。
白羽根圭一は506号室の前を行きながら
「あ、昨日の帽子をかぶった人の部屋だ。もしかして帰りに一緒にエレベーター乗った人かも」
と告げた。
政和はドキリとしたものの
「へー、そうなんですか」
と答えた。
米倉隆二は思い出したように
「ああ、そういえば人影が通ったな」
と呟いた。
女性はノックをして
「お客様、ご気分とか悪くございませんか? お客様お知り合いの方が訪ねておられます」
というと
「失礼いたします」
とマスターキーで扉を開けて中へ入り、ベッドで倒れている人影に目を見開いた。
悲鳴が一瞬響き渡った。
すぐさま米倉隆二が彼女と政和に
「中へ入らないでください!」
と言うと白羽根圭一と共に倒れている人物の側に行き呼吸と脈拍を確認した。
政和は足を止めつつ
「彼じゃない……」
と告げた。
「は、花田じゃない!」
そう叫んだのである。
そう、花田浩司は犯人役なのだ。
違うことを早く知ってもらわないと彼が自殺する意味がなくなる。
つまり、自分の犯行がばれる可能性がある。
それに白羽根圭一は慌てて戻り
「え? 違うって?」
と聞いた。
政和は固唾を飲みながら
「花田は今日の同窓会に知り合いにサプライズイベントをしてもらうって言っていたから……もしかしたら……」
と足を進めて倒れている人物の顔を見ると
「す、ずき……かも……鈴木翔……二人は高校時代によく一緒にいたから鈴木に頼んだのかも」
と呟き
「でも……なんで花田が鈴木を?」
と顔をしかめながら告げた。
一世一代の大勝負。
ここで演技を失敗するわけにはいかない。
だが。
だが。
まさか最初から刑事と警察関係者が同行するとは思ってもいなかった。
政和は心の中で
「葉奈……頼む。守ってくれ」
と呟いた。
お前を殺した奴らに復讐をするんだ。
守ってくれ。
米倉隆二は携帯で救急と警視庁捜査一課第一係へ連絡を入れ報告をした。
白羽根圭一はハッと目を見開くと
「つまり、花田と言う人物が鈴木と言う彼をここへ呼び出し……殺して逃亡した! 犯人は花田だ!」
とビシッと指をさして告げた。
「名探偵といわれの高い俺が言うんだ間違いないな」
政和は思わず「ええ!?」と心で叫んだ。
「あ……いや……あの」
確かにそう仕組んだ。
そうなるように仕組んだんだが。
政和はあまりに軽率で即決でしかも間違いの答えを出している白羽根圭一という名探偵を見つめた。
米倉隆二は腕を組むと
「なるほどな。そう考えるのが妥当だろう」
と告げた。
政和は蒼褪めながら
「ほ、本当に大丈夫なのか? この刑事と探偵」
と思わず心で突っ込んだ。
米倉隆二は政和を見ると
「申し訳ないが事情聴取で詳しくお聞きしたい」
と言い、驚きながら立っているフロントの女性を見ると
「貴方には昨夜のチェックイン時から今までの防犯カメラの映像の準備をお願いする」
と告げた。
その時、救急隊員と鑑識と刑事が数名到着して姿を見せた。
刑事の一人が中に入ると白羽根圭一を見るなり
「げげっ!迷探偵の白羽根圭一!!」
と叫んだ。
政和は驚いて
「え!? 名探偵?」
と白羽根圭一を見た。
白羽根圭一は笑むと
「参内さん、褒めないでくださいよ~」
と軽く頭を搔いた。
それに参内満男は呆れたように
「褒めてない!」
と言い
「出ていけ! とにかく部屋から出ろ!」
と手を払った。
白羽根圭一はそれに咳払いをすると
「あー、そんなこと言っていいんですか? 俺、犯人分かっちゃったんですよ?」
と告げた。
そして、フフッと笑むと
「犯人は」
と告げた。
政和は息を吸い込んだ。
「先はあっさり花田だといったがフェイクで……まさか……名探偵と言うし」
まさか。
まさか。
白羽根圭一を凝視した。
せっかく作ったアリバイが意味のないものになるかもしれない。
そう考えて拳を作った。
葉奈。
葉奈。
「どうか、俺を守ってくれ」
政和がそう心で呟いた時、白羽根圭一は自信満々に
「昨夜来た花田さんだ! 早く見つけて逮捕しないとな!」
とビシッと指を立てて告げた。
……。
……。
同じ答えだった。
政和は一瞬息を止めて白羽根圭一を見た。
白羽根圭一は笑顔で
「花田浩司さんはチェックインをしたんですよね? 昨夜に花田浩司さんが泊っているはずだった。なのに、鈴木と言う人物が殺されている」
と腕を組みながら言い
「つまり花田浩司さんが彼を連れ込んで殺して逃亡した。これしかない!」
と告げた。
「ですよね? 唐栗さん!」
政和は息を飲み込んで
「あ……はぁ……」
と思わず答えた。
自分が作った筋書き通りの結論と推理だったからである。
参内満男は息を吐きだし、政和を見ると
「すみません、少し詳しくお話をお聞きしても?」
と手帳を出しながら近づいた。
政和は頷いて
「は、はい」
と言いハッとすると時計を見て
「あ、すみません。その前に同窓会に参加する高校の同級生が集まってきているので事情を説明しないと」
と告げた。
参内満男は頷くと
「ちょうど良い、皆さんからも話を聞きたいと思うので」
と告げた。
白羽根圭一は慌てて
「花田さんを早く確保しないと!」
と言い
「それから俺も話を」
と足を踏み出しかけて、参内満男に
「お前は混乱させるから必要ない! 花田の行方は追う!」
とビシッと告げられて足を止めたのである。
参内満男は米倉隆二を見ると
「ったく、米倉警部がこんな迷探偵に肩入れする理由がわからないですよ! 何度間違えた推理で現場を混乱させているか」
と怒りながら、警察官に花田浩司の捜索を指示し政和と共に部屋を出た。
米倉隆二はカクンと俯く彼の横に立つと
「まあまあ……お前は居なくても事件は決着する」
と慰め
「お前以外の誰かがするんだけどな」
と心で突っ込んだ。
白羽根圭一は笑顔で
「そうだな、俺は安楽椅子もいける」
とウンウンと頷いた。
そして
「よし、じゃあ。行こう」
と足を踏み出した。
米倉隆二は肩を竦め
「どこへだ?」
と聞いた。
白羽根圭一はにっこり笑うと
「警察庁の資料室。15年前に十三高校で女子生徒の飛び降り自殺があっただろ? あの変な自殺の調書……登場人物と遺留物が共通しているんだ」
と言い、指を折りながら
「花田、鈴木って名前だろ。そしてミサンガ。同じものを『昨日の花田浩司』がつけていた」
と米倉隆二を見て
「今日は唐栗政和って名前だったけどね……裏どりをしないとなんだろ?」
と答えた。
政和は参内満男と共に同窓会の会場・第四会場へと向かった。
既に20名から集まっておりワイワイと話をしていた。
政和はそれを暗い瞳で見つめ心の中で笑いを零していた。
今はまだ誰も知らないのだ。
あの二人の命がもうないことを。
そして、あの二人が15年前に何をしたのかを。
だが全てが明らかになる。
政和が行くと男性が顔を向けて
「唐栗? 幹事だろ? 花田は?」
と聞いた。
それに参内満男が手帳を出すと
「実は先ほど鈴木翔さんの遺体がこのホテルで見つかり事情を聞いている最中なので皆さんにもお話を」
と告げた。
それに全員が驚いて顔を見合わせた。
政和は頷いて
「花田が泊っているはずだったんだが花田はいなくて……鈴木が……俺……どうしようかと……」
と告げた。
周囲では人が集まり雑然としていた。
参内満男は息を吐きだすと同窓会に出ている人々に
「壁沿いに並んでください! お話を聞きたいと思うので」
と呼びかけた。
警察官は彼らを壁へと誘い並ばせた。
政和もかつてのクラスメイトに交じって壁へと並んだ。
話はした。
花田がサプライズイベントを用意しているということで今日自分が早くに来たという話だ。
昨夜の防犯カメラには花田の服を着た人物が映っている。
花田と判断されるだろう。
今も花田はその服を着て死ぬのを待っているのだ
青酸カリが命を奪うその時を眠りながら……。
政和は口元を歪めて
「きっとうまくいく」
と心で呟いた。
15年。
何も知らずに彼女の自殺の理由を考えていた。
だが。
彼女はあの二人に殺されていたのだ。
彼女の未来を奪っておきながら……のうのうと笑って……結婚までして生きてきたのだ。
許せるわけがない。
だが、もうこれで終わりだ。
政和はフフッと小さく笑みを作った。
そこへ刑事が慌てて走ってきたのである。
「防犯カメラの映像を手に入れました。米倉警部が指示をしていたそうです」
参内満男は刑事を見ると
「本当にあの人できる人なのに……何であんなできない探偵に力入れるかな」
とぼやいた。
そして、一通り高校時代の話と今日のことも聞き、防犯カメラの映像を確認しにフロントへと向かった。
そこに『花田浩司』と名乗る帽子にサングラスで顔が分からない男性の姿が映っていた。
参内満男はそれを見ると隣で立っていた刑事に
「こいつが花田浩司……か。だが」
と呟いた。
刑事はそれに
「一応、家族に連絡を入れて確認をしてもらうようにしております」
と告げた。
参内は頷き
「問題は当人が何処にいるか、だな」
と呟いた。
「手配はかけているな?」
刑事は頷いた。
参内満男は画像を見ながら腕を組み
「話で出てきたのは15年前の在校中に同じクラスの女子生徒が自殺した話だったな」
と呟いた。
女子生徒の名前は川波葉奈。
校舎の屋上から飛び降りて自殺。
かなり美人で人気があったので全員の記憶に残っていたらしい。
参内満男はそれに
「だが、自殺だからな。繋がっているとは限らない」
と言い
「とりあえず殺された鈴木翔と花田浩司の身辺を洗うのが先だな」
と呟いた。
「花田浩司が鈴木翔を殺す理由がわかるかもしれない」
……もしくは……
そう呟き目を細めた。
政和はホテルの中でかつてのクラスメイト達と共に待機させられながら人々が口々に話をしているのを耳に両手を組み合わせていた。
川波葉奈が自殺をした当初もこういう感じであった。
それも二か月もしない内に誰も何も話さなくなった。
まるで彼女が最初からいなかったかのように極々普通の教室の風景となったのだ。
ただ。
政和の心の中だけ取り残されたように彼女の残像がずっと浮かんでいた。
……ねぇ、政和……
見つめる瞳。
言葉を紡ぐ唇。
政和はハハと小さく笑うと目を細めた。
「これで漸く寝れる」
そう呟いた時、警察官と参内満男が姿を見せると
「とりあえず、ご帰宅いただいて大丈夫です」
と告げた。
「ただ、何かあればご連絡させていただきたいので連絡先をお願いいたします」
一人一人住所と電話番号をメモに記載してバラバラとホテルを去った。
流石に同窓会どころではない。
政和もメモに書いて頭を下げると足を踏み出しかけて参内満男に呼び止められた。
「あ、すみませんが、唐栗さんは今日と明日とは出来るだけご自宅にいていただきようにお願いします。第一発見者なので」
政和は笑むと
「わかりました」
と答え帰宅の途についた。
空は青く晴れ渡り輝く陽光が地上に降り注いでいた。
東京の街は誰かが死んでも相変わらず活気があって大半の人がいつもと変わらない日常を送っている。
政和は自宅マンションに戻ると冷蔵庫に入れていたペットボトルを出してコップに注いで一気に飲み干した。
苦味が口の中に広がる。
息苦しさに政和は崩れるようにベッドに体を投げ出して
「ああ……葉奈……漸く……俺も……寝れるのか」
と呟くとそのまま目を閉じた。
その日の夕方に河川敷の草むらの中で死んでいる花田浩司が見つかった。
青酸カリによる中毒死である。
防犯カメラに映っていた服を着て、近くに止められていた車の中から遺書が見つかった。
家族の話では彼は同じ服を着て車で出かけていたそうである。
遺書には15年前に鈴木翔と自分の二人で川波葉奈を学校の屋上へ連れて行き抵抗する彼女を屋上から突き落として殺したが自殺と処理されたこと、そして、それをネタに鈴木翔に脅されていたという内容が書かれていた。
参内満男は車に持たれながらそれを見て
「……ワープロ打ち……か。しかも……」
と呟いた。
そこに米倉隆二が姿を見せると
「ワープロ打ちの遺書なんて……他殺のにおいがプンプンって感じだと思っているんだろう。それに座席とミラーの位置……花田浩司の体格に合ってないか」
と告げた。
参内満男は息を吐きだすと
「ええ。それにホテルの防犯カメラの映像も気になっていますしね」
と答えた。
米倉隆二は河川敷に沈む夕日を見ながら
「『花田浩司』と本名でチェックインしておきながら帽子をかぶってサングラスで顔を隠している……ってことだろ?」
と告げた。
参内満男は腰に手をやると
「そこまで分かっていて……何をしていたんですか?」
と告げた。
ふっと米倉隆二は笑むと
「それと……もう一つのキーワードはミサンガだ」
と告げて
「15年前の自殺の調書だ。よく読め」
と手渡して
「それから学校の近隣に15年前から住んでいた人たちに聞き込みをしていた」
と返した。
参内満男は目を見日開いた。
米倉隆二は彼がそれをパラパラとめくるのを横目に
「調書を作った担当刑事……鈴木大和警部は鈴木翔の父親だ。そして自殺の目撃者は花田浩司」
と言い
「聞き込んだ家の住人の一人が聞きに来た刑事に『女の子が追いかけられているように見えた』と言ったんだがそれ以降全く音沙汰がなかったといっていた。どうなったのか気にはなかったが追及するものでもないと思って放置したそうだ」
と告げた。
参内満男は蒼褪めると
「まさか」
と呟いた。
米倉隆二は足を踏み出すと
「どうするかは、君の警察官としての心に託すよ」
と言い
「ただ人として唐栗政和の気持ちは俺には分かる。愛する人大切な人を無残に殺され隠蔽されて許せるわけがない。だが彼は間違えたんだ」
と目を細めて
「法の下で鈴木大和と鈴木翔と花田浩司を裁くべきだった。二人は彼女を殺したことを後悔することもなく死んだんだからな」
と告げた。
「本当の復讐は彼女を殺したことを心底後悔させることだと俺は思っている。彼女の気持ちは分からないが俺だったら……罪を白日に曝して後は幸せに生きてほしいと思う」
ミサンガで愛を誓いあうくらいの仲なら……きっと。
参内満男は去っていく米倉隆二を敬礼して見送ると鈴木大和を緊急逮捕し、その後に唐栗政和の元へと向かった。
だが、唐栗政和はベッドの上で息を引き取っていたのである。
彼の口にした飲み物からテトロドトキシンという毒物が検出されたのである。
服毒自殺と判断された。
漸く、眠ることができたのだろう。
その手首にはミサンガが切れて落ちていた。
参内満男は彼を前にすると
「俺は君を掴まえたかった」
と告げた。
そして視線を伏せると
「警察官として謝罪をして君に聞きたかった。本当に川波葉奈は君に二人を殺してほしいと願っていたのかどうかと。罪は……罪だ。だがそれは綺麗ごとだ。ある意味冷酷な言葉だ。それでも君のしたことも許されることじゃない。罪を償って……それでも生きてほしかった。幸せになってそのミサンガを切ってほしかった」
と呟いた。
その報告を聞き米倉隆二は
「そうか」
と呟いた。
白羽根圭一は視線を参内満男に向けて
「え?」
と驚いた後に
「本当にこれで事件が終わったのかな? 終わってない気がするけど」
と呟いた。
そうだろう。
と、参内満男は息を吐き出し
「わかっている。15年前の件もちゃんとする」
と答え立ち去った。
鈴木大和は抵抗するわけでもなく虚ろに脱力して全てを自白し刑に服することになった。
15年を経て巡り巡って過去の罪が復讐を成し遂げたのだと、彼は考えたのだろう。
鈴木大和が取り調べの最後に呟いたのは「全ての罪は俺にあります。息子と彼らを殺したのは俺です」と言う言葉であった。
あの時に警察官である己の保身を考えて隠ぺいをしなければこの事件は起きなかったのだ。
そう告げたのである。