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遠い日の飛行船  作者: 清松
-序章-
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出会い

挿絵(By みてみん)




衝撃、歓喜、高揚、そしてほんの少しの恐怖感。

父の手をしっかりと掴んだまま、首がちぎれんばかりに見上げたその視線の先に、それは浮かんでいた。

春琉(はる)、あれは飛行船って言うんだよ。珍しいなぁ。こんな所で見られるとは」

父が教えてくれた。


自宅前にある小さな空き地で父とキャッチボールをしていた、土曜日の午後。空の上に突如現れた謎の物体は、小1だった私の心を思いっきり鷲掴みにした。

青空に浮かぶ白い楕円形の大きな風船のようなそれには、青い色でアルファベットが書かれているのが見える。

風船の下に付いた、小さな箱型のもの。あそこにパイロットが乗っているのだと父が言っていた。


飛行船は真上に近い空で、まるで静止しているかのように見えた。

「もしかすると、春琉やお父さんに気づいているのかもしれないね」

父が笑顔で言う。

そんなわけはないだろうと思った。あんな高い所から、地上にいる人が見えるはずがない。

でも、もしもそれが本当だったら、どんなにすごい事だろう……


飛行船はやがてゆっくりと旋回し、私達の頭上から離れていった。




飛行機ともヘリコプターとも違う、その不思議な飛行物体の存在を初めて知ったのがこの時だった。はち切れそうに膨らんだ横長の風船が空に浮かんでいる姿を見ているだけで、何故だか心がワクワクさせられた。

あの乗り物は、一体どこへ行くんだろう。

「お父さん。私、また飛行船に会いたい!」

溢れ出した思いを口に出すと、父は大きく頷いた。

「春琉がそう願っていれば、いつか必ずまた会えるよ」

父の言葉が、小さな胸の中に温かくじわりと広がっていく。また必ず会えるんだ。まっすぐに、そう信じて。



じゃあ、お父さん、また一緒に飛行船を見に行こう! 絶対だよ――

わかった、約束しよう。春琉が大きくなったら、一緒に飛行船を見に行こう――


父の差し出してくれた小指に、自分の小指を絡めた。

その大きな手から伝わる温もりに、この約束はいつか必ず果たされるのだという頼もしさを感じた事を覚えている。




遠い日の飛行船は、私にとって、全ての始まりだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] あきサマの活動報告からきました。 これから始まる物語、ゆっくりになると思いますが、楽しませていただきます。 [気になる点] 昔…どれくらい前になるのでしょうね。 アサヒスーパードラ○の…
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