第4話 クスターナ建国神話
※実際に伝承される文献を解読・解析し、当作品用に解釈・編纂したものです。
「クスターナ《王子に授乳せし大地》国建国神話」
(現在名 中国語:和田:ホータン 古代中国語:于闐:うてん チベット語:リユル(Li-yul))
Ⅰ:建国神話
遥かなる昔、迦葉佛出世の時代の頃の話です。
人民は厚く教法を信じたりしが、迦葉佛の教法衰滅と共にこの国の仏教も破壊されてしまいました…。
その後人々の為仙人が幾名か訪れるも、人民は彼ら仙人を軽蔑誹謗して聞く耳を持ちませんでした。
仙人たちは怒りてこの国を去りて他国へ趣いてしまいました…。
かくてこの地の人民は法を信ぜず皆迷信であると堕としめてしまいました。
その様を観て諸龍は怒りて雨を降らしこの国を全て湖水の底に沈めてしまいました…。
暫くして仏陀となる世尊が顕れます。
世尊は入滅に望む際、霊鷲山に在し真理を解き給い、三界の守護者、多聞天、夜叉、天龍等、刻の王族の王女達も教化し給い合わせて四十萬の衆生を引率し虚空を跳んでこの国の現在の初代王廟付近の湖畔に降り立ちます。
十方諸佛来集させこの国の加持を勧請しはじめます。
世尊は光明を放ち湖水を覆い湖辺に三百六十三種の蓮華を生じさせそれらより火焔を放たせます。
すべての火焔は集合し水上において三回廻轉して水中に没しました。
この刻世尊は舎利弗と毘沙門天に“沙山を切り崩しこの湖水を北の祇園河へ移し、水中の生き物に害与えることなく鎮護し境界を定めなさい”と告げました。
それぞれ錫杖の尖端と槍尖を以て沙山を二つに裂き、その破片は西に置き、生じた川に湖水をすべて流しました。この様にして最初の仏塔、二つに裂かれた山が角の様に観える処から牛角山と呼ばれし山、湖水の下よりここ、今はクスターナと呼ばれし大地が誕生しました。
この後七昼夜世尊は衆生利益を仏堂内にて祈願します。
弟子の阿難は世尊に問いかけました。
「世尊何の因縁に由りて彼の作法によってこの地の水を干上がらせたのでしょうか?」
「湖水の乾燥は入滅の光明を顕すなり、三度の廻轉は王城建立祈願なり、蓮華は修行僧の住居なり、光明水没は仏法湮滅させない為の祈願なり」
その様に応えられました。
そしてその様に実現されし後、三世を通じ行き給える得高き覚者の辺国と言われるに至るでありましょうと申されました。
そしてそのように実現される為世尊より諸の菩薩や多聞天とその眷属の夜叉達、龍王達がこの地の守護を任されました。
「世尊よ、この国で三宝が尊ばれなくなり、真理崇め信ずるイレンカ無きモノ増えし刻、私たちの威光とチカラ衰えモシリの鎮護敵わなくなります。我々の神威之力は、正法と、それにより治められしモシリ、そこに住まう緋徒と民のイノンノイタクのイレンカを受けモシリ=コロ=クル達が我々にチカラとして還元する事によって生まれるからです」
「衆生達よご安心なさい。先の祈願によりこのモシリの全ては清められました。もしも真理崇め信ずる心なきモノであろうとも、このモシリにて砂に触れ、育まれし食物を食べるだけで心穏やかで温和で愛情深く怒りや恨みも消失し清らかに変わり、真理を崇め悪行を絶ちます。これが先の祈願によるこのモシリの加護です」
これを聞きカムイ達は迷いなくこの地を守護する事になりました。
牛角山と呼ばれし彼の地にはこの様に往昔世尊が多くの衆生と共に住まい給いし由緒ある土地です。
そして現在に至るまで世尊の命を受け今尚八大菩薩、多聞天、天龍天女によって守護されています。
このご加護によりここクスターナで採れる玉は摩訶不思議なチカラを秘めると言い伝えられています。
Ⅱ:クスターナ王生誕神話
インドの偉大なるアショーカ王が今までの戦争による国域拡大の様を悔いて妻のアサンディミトラに勧められ真理崇め信ずるモノとなり、八万四千に及ぶ佛塔と僧院を建立したその刻まさにもう一人の妻パドマヴァティが懐妊したとの知らせを聞きました。
ある夜パドマーヴァティが沐浴をしていると、天上よりとあるモノがその美しさに見惚れていた所、偶然王妃は彼の端麗なる容姿を観てしまい、心にカーマの念を起こし話しかけた。
「端麗なる貴方様…如何なるお方なのでしょうか?」
「…我は…クベーラ…であったモノ……ヴィシュラヴァスの息子の一柱、ヴァイシュラヴァナ…世尊の説法を良く聞きしモノ也。然るべき処へ向かう途中でありましたが…其方があまりに美しき故…つい見惚れて姿を顕してしまいました」
「…北を…守られているディーヴァさま…でございますね…。…お恥ずかしながらわたくし…その…御姿を一目拝見した途端…心奪われてしまいました…」
クベーラは少し困りながら申し訳なさそうな面持ちで応えた。
「さりとて其方は伴侶のある身…。そして我はクベーラを降ろされし身…。ならば…まさに今…其方に宿らんと欲するモノに…喪う前に我のチカラと祝福を与え…ケゥトゥムの子といたしましょう」
「…わたくしのイレンカ…受け入れて下さるのでしょうか…?」
「…カーマのラム…イレンカ重ね合わせれば成し得る…と言いたき処であるが未だ四大王衆天に属する身故…契り交わさぬと叶い難しなり…」
「…さすれば清め終えしこのケゥエ…貴方様のウコサムペ=ピリカのイレンカで満たして頂きたいと欲する次第でございます…!」
「…此度の契りは我がディーヴァ=シャクティ注がんが為の故…カムイ=トゥスと等しき尊き事なり…。我がチカラ…我がイレンカと共に其方へと…注ぎ込まんと欲す…」
クベーラはそこまで言うと天空よりパドマーヴァティの傍に降り立ちて優しく抱き寄せた…。
一神一女はヲモヒと共に重なり合い…彼女の胎内に宿りし嬰児へとその全てを注ぎこんだ…。
しばし後…無事にアショーカ王の子としてこの世に生まれし可憐なる赤子は…
クベーラ…ヴァイシュラヴァナの言う通りに彼の全て…その美貌も能力も余す事無く引き継いでいた。
アショーカ王は大いに喜び、彼ににダルマヴィヴァルダナという名がつけられました。あまりの隔絶した佇まい…特にこの世のモノならざる程の碧き美しき蓮華のような瞳に王は魅了されました。
そのあまりの美しさにその場の全てのモノにこのような目を見た事はあるか?と尋ねた所…
「山の王たるヒマラヤに住まいしクナーラ鳥の眼の如くでございます」
その言の葉を受け実際に確認してみた所まさに同様であったが為、この王子はクナーラと名付けられました。
しかし後に王は考えました。
あまりに尋常ならざるその美貌と才覚に魅了されつつも慄き…そして本当に自分の子なのか疑心暗鬼に駆られ…占師に尋ねる事にしました。
諸々の占師曰く…
「王の子であり神の子である。この王子善相にして能力廣大なり。これ尋常のモノに非ず、父王存命中の即位必定なり」と。
そのお告げに王は大いに悩み、迷いの末赤子のクナーラを手元から離すことを決意しました。
ただし母であるパドマーヴァティに同行は許しませんでした。
「心二つなくば余の元に残るが良い」
「母が子を想う気持ちに何の罪がありましょう」
しかし真理を信仰する以前の王の激しさを思い起こし、王子の命さえ無事ならば…とのヲモヒで王の元に残り王子と離れる事を決意しました。
かくてクナーラは母と離れ離れになり、ガンダーラにある都タクシャシラー管轄の遠く離れた二本の河流れる地にある牛角山にて乳母達に育てられる事になるも…一切の乳を受け付けず、乳母達は困り果てその旨を王妃に伝えました。
王妃は…胸中で真摯にクベーラに対し必死に祈りを捧げました。
すると牛角山の傍の仏塔の大地が大きく震え競り上がり…大きな乳房となり、王子はその大地より生じた乳房によって養育されていきました。この故事によりクナーラは後に“クスターナ”と呼ばれるようになり、この地も同様にクスターナと呼ばれるようになりました。
少し刻が経ちました。この時代に即位していた数多の子有す支那帝王は、己が安心して任せられる世継ぎが未だいない事を憂い、このモシリにおいては多聞天とも呼ばれしクベーラ神に祈願した所…声が降りてきました。
(…我の得相そのすべて受け継ぎし御子が遠く西域のオタ=ヌプカ=ケナスのナムワッカ=シリ流るる河の上流に遺棄されて住まうなり…)
声に従い使いを向かわせると…牛角山にて王子に授乳せし大地により育てられし御子が確かに乳母達と共に暮らしていました。
「遥か東の王の命で其方を養子として迎い入れる為参った。ご同行願えるであろうか?」
乳母達と共に引き取られたクナーラは帝王の養子となり王としての教育を受けながら暮らしました。
その中で長子等と共に遊戯しながら。十二歳になりし刻、兄弟間でもめ事を起こしてしましました。
理由は“オマエは帝の子じゃない”と言われた事でした。
クナーラは心中穏やかではなくなり様々なモノに確認しますが…返ってきたのは…“其の如し”でした…。
クナーラは直接帝に尋ねます。
「我が最初に生まれし故国は何處ぞ? 何卒其処に住まう事許し給えよ」
帝は応えます。
「汝朕が子なり故、国即ちこの地なり」と。
心安かるべしと慰諭せられしも納得せず帝の話を聞き入れるはずもありませんでした。
その様を見て帝は観念し、今はクスターナと呼ばれしクナーラに王の心得をすべて授けました。その後彼は一万の兵を引率し西域へと向かい遂に黒玉河沿いの集落に辿り着きます。
そこには仏塔と思しき建物と大地より出現せし乳房と呼ばれるモノがありました。
「…! ここは…? そう…ここだ…この地こそ余の生まれ育ちし地なり! よってここに余のモシリ興すなり!」
刻同じくしてアショーカ王の大臣耶舎が一族七千名を引率して新たなる国を探し探求していた果てにこの地…于闐…クスターナに流れるもう一つの河、ユルン・カッシュ…大国・漢の言い方ですと“白玉河”に辿り着きます。
ここにて耶舎は近辺を散策していたクスターナ配下の金箔造商と銅造商と出逢います。素性を訪ねると二人はここ白玉河と対を為すもう一方の黒玉河に御座すモシリ追われしクスターナ王子の事情を物語りました。
そこで耶舎はカラ・カッシュへ使者を派して後に談合し、王子にここにて王と成るべしと伝え自分は臣下となりこのクスターナに田園を開き国と成さんが為協力する事になり、クスターナ達も一族と共に白玉河上流に住む事にしました。
ある刻に王と大臣が互いの土地について意見を違え争わん刻、多聞天が吉祥天母と共に虚空より顕れ和解させて下さりました。
「愛しき我がケゥトゥムの子今はクスターナよ、其れ即ち誤解なり。故、大臣と手を取り、このモシリを共に育み歩まんと我は欲す」
こうしてクスターナは大臣耶舎と共に十九歳で王として即位しここに国を興しました。
祖王クスターナにちなみ、代々の王は皆自身の事を“ヴァイシュラヴァナの末裔”と名乗っています。その縁によってか代々の王は皆輝く根源の力を使いこなすモノとなっています。
用語説明ですm(__)m
・クベーラ:財宝守護の神、ヴィシュラヴァスの子ヴァイシュラヴァナ(音訳=毘沙門天:びしゃもんてん)=良く説法を聞くモノ=多聞天…吉祥天が妹もしくは妻とされている辺りもしかして…はまた別の機会にm(__)m
・教法衰滅:教えが廃れてしまう事
・軽蔑誹謗:軽んじてさげすみ悪口を言い正しい教えにたてつく事
・教化:教えを諭し信仰させる事
・往昔:過ぎ去った昔、いにしえ
・ディーヴァ=シャクティ:神威之力=カムイ=マェ(としました)
・カムイ=トゥス:神威降臨儀=神おろしの儀
・慰諭:なぐさめさとされること
※参考文献
・于闐國史 著者 寺本婉雅 出版社 丁子屋書店 ; 刊行年 大正10年(国立図書館より)
https://dl.ndl.go.jp/pid/1921064
・クナーラ物語 和訳 定 方 晟
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F8214670&contentNo=1
・クナーラ物語(その二) 引田 弘 道
https://agu.repo.nii.ac.jp/record/833/files/%E4%BA%BA%E9%96%93%E6%96%87%E5%8C%96%20%E7%AC%AC21%E8%99%9F-178-151.pdf
・ゴシュリガ山の予言 大乗経 五梵山の予言 翻訳 ダルマチャクラ翻訳委員会 (84000人の後援と監督の下翻訳)
https://84000-co.translate.goog/translation/toh357?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc#UT22084-076-011-10/%5Bdata-glossary-id%3D%22UT22084-076-011-178%22%5D