序章
「はぁ、仕事辞めたい。」
ため息をつき、遅めの昼休憩に入る。
山田 仁 38歳、既婚、子無し。
彼はスーパーで働いている。
デスクワークと違い、スーパーでの休憩時間はいつも不規則である。
ここ最近は寝不足のため昼食ではなく仮眠を取るうにしていた。
寝不足の理由は人手不足だ。
ここ数ヵ月間は、いつもに増して長時間労働が続き、まともな睡眠時間すら確保できないでいた。
しかも残業代は出ない、いわゆるブラック会社ってやつだ。
こんな状況のため「仕事辞めたい。」が口癖になっていた。
仕事だけではなくプライベートも最悪だ。
夫婦仲は冷め切っており、会話すらない。
なんかと改善したいとおもってはいるが、まともな休みも取れず帰りも深夜だ。
そしていつも思う、子供がいたらと・・・。
そんなことを考えながら机に伏せる。
「店長、ちょっといいッスか?」
やっと仮眠を取るれるとおもった矢先、バイトから声をかけられる。
「どうしたの?」
「一緒に来て欲しいんッスけど。」
正直行きたくない・・・このパターンは何かのトラブルだ。
「はいよ。」
無視もできないので、バイトの後をついて行く。
歩きなが状況を聞く。
どうやら万引きをしそうな夫婦がおり、怪しい動きで店内を物色しているという。
「アイツらです。」
商品棚の陰からバイトが指を差す。
そっとその先を覗いくと中年の男女の姿があった。
(確かに怪しい)
バイトの言うとおりだとおもい、しばらく様子をみることした。
男が商品を取り周囲をキョロキョロと見る、少し離れたところで女が男に合図を送っているが見えた。
(あれはやるな・・・このスーパーでの勤務歴は伊達じゃないぞ。)
山田は長年の経験からあの夫婦は万引きするだろうと確信する。
「ね!店長、あれは絶対にやるッスよね。」
「え?ああ、間違いないな。よく見つけた。」
そもそも、あの挙動不審な夫婦を見つけたのは山田ではなく、長年の経験なんてないバイトなのだ。
男がまた商品を手に取ると、その横で女が合図を出した。
次の瞬間、男がバックの中へと商品を入れる。
「店長!」
「うん。」
確実に捕まえるため、店の外に出た瞬間に声をかけることにした。
夫婦は他の商品もバックの中へ入れると、店内をグルっと一周し、レジを通らずに店の外へと出た。
(今だ!)
山田は声をかける。
「あのー、お客さん。」
万引き夫婦は振り返り山田を見る。
「げ!」
「やばい!」
夫婦は全力で逃走した。
山田が追いかけると男は、取った商品を投げつけてくる。
山田が怯んだ隙に夫婦は車に乗り込んだ。
そのまま車で逃走しようとしたので、山田は両手を大きく開いて車の前に立ち進路を塞ぐ。
夫婦は気が動転していたのか、アクセル全開で山田に向かってくる。
「うああああああ!」
山田は避けきれず、そのまま轢かれてしまった。




