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作者: 八丈くるる


 年を重ねれば自然と大人になれるものだと思っていた。

 しかし現実はそんな簡単なものじゃなかったみたいだ。小さな頃に夢見た職にはつけなかったどころか、家の小さな部屋で一人眠るばかりの人間に成ってしまった。

 二十六歳の夏。今日もエアコンのかかった部屋でベットで寝転んでいる。

 随分クソッたれな人間に成れたものだ。

 仕事に出ている両親もまさかここまで何もしていないとは思っていないだろう。

 両親とは案外会話をする程度にはこじれた仲ではない。優しい、というか甘い人達だ。こんな人間無理矢理仕事を探させるでも、家を追い出すでも、家からいなくなるでもすればいいのに。自分でも思う。

 案外昼夜は逆転していない。

 朝起きて、両親に顔を見せ、リビングで適当にテレビを見て、両親が家を出たのを見計らって自室に戻りベッドに寝転ぶ。そうして今日みたいに無意味なことを考えるか、何も考えずぼうっとするか、眠るかする。昼飯は食わない。いつからか一日一食になった。昼からもずっとベッド。ただたまに部屋を何の意味もなくうろつく。

 異常者だ。ただの引きこもり無職でも何かしらはしているだろう。しかし自分はこんな、何もしてない一日ばかり過ごしている。

 たまに声を出す。

 会話の仕方を忘れるとか、そんな話じゃなく、ただ人の声を聞きたいから。

 自分が自分じゃないみたいだ。

 このクソ野郎を操作する何かになった気分だ。

 死んでもいいんじゃないか。

 そう思ったことはある。ただ、このクソ野郎でも死んでしまえば両親は悲しんでしまうだろう。そんな言い訳で、生きている。

 死にたくないだけだ。

 人間という生物としては欠陥があるくせに立派に生存本能は残っている。

 最後に笑ったのはいつか。

 今日だ。両親との会話で笑った。でも作り笑いだ。心の底から笑ったわけじゃない。そんな判断すらできない。

 自分が誰なのか分からない。

 名前は言える。

 性格は、好きな食べ物は、嫌いな食べ物は、色は、人は、匂いは、風景は、分からない。

 建前はある。

 ただ、建前と本音の区別が出来ない。

 自分を知らない。

 あまりにも不完全。人として成っていない。

 子供、にすらなれていない。


 なんで生きているのか分からない。



いつも通り。

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