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怪盗一面相  作者: 真山砂糖
2/11

2 黄金のマスク

森の中美術館へ行きます。

 森の中美術館は、県警から約35キロ離れた山の上にあった。

「小春ー、森の中美術館、遠いわねー。あっ、ヤバいー、スマホのバッテリーが5%ー」

「京子、いざという時のために、普段からちゃんと充電しとかなきゃ」

「うっかりしてただけよー。でさあ、黄金のマスクってどんなのかなー」

「尋ねてみたけど、文字通りだって言われたわ」

「ふーん」

 山道をひたすら走り続けると、開けた場所に出た。野球場がいくつも入るくらいの広大なスペースだった。そこの奥に、モダンな西洋風の白い建物があった。

「へー、いかにも美術館って感じがするわねー」

「臨時休館」の看板の横をすり抜けて、数台しか駐車車両が見当たらない広すぎる駐車場で、建物の前のスロープ近くに車を停めた。見た感じでは、横幅が30メートル、奥行が20メートルくらいの大きさの建物だった。スロープを上がって行くと、入り口横に「森の中美術館」と書かれた巨大なプレートが設置されていた。玄関扉の前にも「臨時休館」の看板が置かれていた。私たちに気づいて中から林さんが出てきた。

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 私たちは館内へ入った。天井が高く広々とした空間だった。森中さんも事務室から出てきた。

「こんにちはー、磯田京子です。美術館って、広くて綺麗で空気が新鮮って感じですねー」

「館長の森中です。刑事さん、あまり美術館に行かれるようなタイプじゃありませんね」

「はい、ギャルですからー」

 京子は自慢の茶髪のロングヘアーをかきあげながら言った。

「美術館には、俺みたいなダンディーな男こそがふさわしいんだよ」

「あっそー」

 森中さんと林さんは、二人のやり取りを苦笑しながら見ていた。

「さっそくですが、黄金のマスクを見せてもらえますか?」

「はい、ではこちらへどうぞ」

 林さんは私たちを案内した。


 建物右側の通路を抜けると、壁一面に絵画が飾られた大きな部屋があり、そこの左の通路をまっすぐ行くと、右斜奥にずれた通路があり、そこを通って、内装が赤一色の部屋に出た。建物のちょうど右奥にあたる部屋だ。部屋の入り口の横には「宝の間」という表示があった。三人の職員が部屋の前で警備に当たっていた。その部屋の真ん中にガラスケースを載せた台座が設置されていて、そのガラスケースの中に、人間の肩から上を模した彫像が置かれており、その彫像にマスクがつけられていたのだ。金色のマスクが。

「……お?」

 係長はすごく静かに驚いた。私と京子はただ黙っていた。

 私と京子と係長は、じっとその黄金のマスクを驚きとともに見つめていた。なぜなら、マスクだったからだ。おそらく多くの人は、美術館に展示されている黄金のマスクと聞けば、太古の人々が祭祀に用いるために身につけた青銅製の金色の仮面を想像するかもしれない、あるいは、人間の頭部をすっぽりと覆う鉄仮面のようなものを想像するかもしれない。だがしかし、この時私たちの目の前に展示されていたものの形状は、マスクだったのだ。普段、風邪を引いた時につけるあのマスクの形状だったのだ。そのマスクが金色だったのだ。

「おやおや、作品の素晴らしさに魅了されましたか。かの天才芸術家、丘元次郎の作品です」

 後ろから森中さんが声をかけてきた。

「あ、いや、想像の斜め上をいくマスクでしたので……」

 係長は精一杯のお世辞で返した。

「あ、え、マ、マスクですね。黄金の……」

 私も精一杯の返事をした。

「えーーーーー、マスクって、このマスクー!」

 京子はギャル語で驚いた。

「京子、ちょっと、失礼でしょ」

「私はー、てっきりー、悪役レスラーが被る覆面みたいなのと思ってましたー」

「えっ、そっち!?」

 森中さんも林さんも困ったような顔で驚いていた。

「おやおや、そちらのマスクを想像されましたか」

「はい、ギャルですからー」

 意味不明な返答だった。

「で、こちらの黄金のマスクが、えーと、先週の月曜から展示されているということですね」

「ええ、はい。『黄金のマスク展』と題しまして、先週月曜から、来月の中頃までの6週間の展示になっております」

「……黄金のマスク展……」

「このマスクは金製ですか?」

「はい。メッキではなくて、純金製です」

「そりゃ、狙われるわな」

「守りがいがあるわよねー」

 私にはそのマスクの芸術的な価値は全く理解できなかったが、純金であると聞いて、身震いがしてきた。


黄金のマスクでしたね。

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